第25話 命を賭した決戦
SIGN 二章 - SeVeN's DoA -
第25話 命を賭した決戦
「やばくないか…あれ」
片桐達は目の前の強大かつ禍々しい霊気を見て震えが起きていた。
「僕らが行っても足を引っ張るだけかもしれないが…。
助けに行こう」
「そうね…。あれは一人でどうこう出来る相手じゃないわ!
行くわよ彰人!」
「おう!」
聖才雅と不破まりあ、彰人の三人は暴君目掛けて駆け出した!
「お、おい待てお前ら!!」
片桐の静止も聞かず飛び込んでいく三人!
「はぁあああッ!!」
聖才雅と不破彰人の二人は同時に霊気の波動を放った!
エネルギー波のように暴君目掛けて飛んでいく波動!
「…」
バシュッ!
直撃…否!
暴君を包み込む禍々しい霊気の前にかき消された!
「馬鹿な!」
「嘘でしょ!!?」
シュッ!
「お前ら後ろだ!!」
和馬の叫びに聖才雅と不破彰人は同時振り返った!
目の前には暴君の姿が!
先ほどと打って変わって、笑みはなく、冷たい表情をしている。
バギッ!!
一瞬にして二人の体は地面に埋まった!
物凄い力で地面にねじ込んだのだ!
「き、貴様ぁああッ!!」
怒りをあらわに全力で暴君を蹴り上げるまりあ!
しかし蹴りは軽々と受け止められている。
「く…」
「…」
パンッ!!
拳ではなく平手打ち!
まりあの体は宙を舞い、雑木林に吹っ飛んでいった。
一瞬にして3人がやられた。
一撃のもとに…!
「てめぇの相手は俺だろうがッ!!」
和馬の全力にして怒りの拳!
だが、それすらも暴君の前にはただのパンチとなんら変わりはない。
軽々と受け止めて見せた。
「それで全力ですか?
だとしたら期待はずれですね…」
ギュッ!!
暴君は受け止めた拳を握りつぶすほどの力で握った!
「ぎゃああ!!」
「はぁッ!!」
バシッ!!
暴君は何者かに蹴散らされ吹き飛んでいった!
「大丈夫!?和馬にぃ!!」
「はぁ…はぁ……由良葉…助かった!」
「なかなかいい蹴りだったよ?」
「…ダメージはなしか…。
華奢なくせになんてパワーだ…。おい由良葉!」
「…」
ドサッ!
由良葉が急に倒れた。
「おい!?」
「僕がただ蹴飛ばされたと思ったんですか?
飛ばされぎわに手刀を軽く叩いておきました」
暴君はこちらに向かいながら解説をした。
「ち…!片桐ッ!」
「!…」
片桐をじっと見る和馬。
和馬は何かを感じ取ったのか急に駆け出した。
「逃げるのですか…!そうはさせませんよ!」
「そうは問屋がおろさんぜ!」
追おうとする暴君、行かせまいと立ちはだかる和馬!
「ち……まぁこの際雑魚には興味ありません…。
あなたを潰します…そして白壁を神那のようにする…それが僕の仕事だ」
「させるかよ!!」
ダダッ!!
再び打ち合いが始まるが、勝敗はこの時点で決していた。
明らかに暴君のほうが格上である。
攻撃がまるで通用していない!
「畜生ッ!!」
「もう十分に楽しみました!
終わりです!!」
ドッガーーーーン!!!
空中から勢い良く地面に叩きつけられた和馬。
コンクリートの地面が見事に抉れている。
「あれで死なないなんて…やはりあなたは想像以上だ」
「…ちくしょう……こんなところで終わるのかよ…ッ」
「名を聞きましょう…」
暴君は地に降りると、ゆっくり和馬に近づいて質問した。
「お前に名乗る名なんてねぇよ……殺るんならさっさと殺るんだな……」
「そうですか…残念です」
暴君が倒れる和馬にとどめを刺そうと、手刀を構えた、その時だった!
「!」
ボゥッ!
ドッガーーーン!
白い炎が暴君目掛けて飛んできた。
暴君はすぐにそれを察知すると、上空に跳んで避けた。
「…なんだ?」
「由良葉か…助かったぜ……」
そういうと和馬は気を失った。
「少年の様子が先ほどとは違う…」
「…ふむ。人間とは思えぬ敏捷さじゃな。
久々に全力で戦えるか」
由良葉の体には二つの魂が宿っている。
一つは由良葉本人の魂。
そしてもう一つは精霊化しつつある狐の魂。
今はその狐の魂が表に現れている状態。
名は銀…白狐の銀。
「では参るぞ…」
ビュッ!!
物凄い速さで上空に飛び上がった!
暴君のさらに上を行く高さだ!
「なに!?」
「はぁッ!!」
ドッガーーーン!!
オーバーヘッドキックのような態勢で由良葉は暴君を蹴り落した!
素早く反応し、頭上で腕をクロスさせ、ガードの態勢をとった暴君も流石と言える。
暴君は態勢を崩さず着地した!
コンクリートの道路が着地と同時に割れた!
「くぅ…!
(なんという重みだ…手が痺れた!)」
「ふむ…アレを受け止めるか…。
なかなかのものだな…だがこれならどうじゃ?」
由良葉の両腕に白い炎が猛っている!
「はぁああッ!!」
炎弾の乱舞!!
物凄い速さで炎の弾を打ち出し続ける由良葉!
暴君はかわすだけで精一杯のようだ!
「!」
ドガンッ!!
死角からの一発をついに食らった暴君!
「ふふふ!手は緩めんぞ!!はぁああああッ!!」
ドガガガガガーーーーン!!
炎の乱打が暴君を包み込む!
「…さて…本番はこれからかな?」
「…す…ろす………殺すッ!!」
今までの穏やかな表情とは打って変わって、物凄い形相で由良葉を睨みつけている!
どうやら狂気化したようだ!
「ふん、これで面白くなるわ!」
ヒュッ!
ドガッ!!
暴君の華奢な両腕が地面に突き刺さった!
「があああッ!!」
「なんと!?」
暴君は突き刺した両腕で地面を思い切りひっぺがした!
地面が波打つように上空目指してはがれていく!
地面に立っていた由良葉は態勢を崩した。
「はっぁあああッ!!」
「!」
ドッガーン!!
由良葉は顔面を全力で打ち抜かれた!
雑木林の方向へ猛スピードで飛んでいく由良葉!
「くく…!」
それを追って走りだす暴君!
―――
――
片桐は走っていた。
和馬のあの目は…増援要請の意味だと汲み取ったのだ。
「出ろ…出ろッ!」
『もしもし!』
片桐は優に電話した。
「優か!今何処だ!?」
『もうすぐ白壁につくわ!片桐先輩は今何処なんですか!?』
「今ヤバイことになっててな…問題は白壁じゃなくて社ヶ崎ってとこなんだ。
とりあえず今白壁高校に向かってるから、そこで落ち合うぞ!」
『わかったわ』
電話を切って、全力で駆け出す片桐…間に合うのか!?
―――
――
「優さん、片桐さんはなんて?」
「なんだかよくわからないけど、ヤバイ事態らしいわ…!
急ぐわよ!天城君!」
優と勇のコンビは白壁へ向かって走り出した!
―――
――
「く…なかなか重い一撃だったな…」
「はぁッ!はぁッ!!」
息も荒々しく、暴君は追ってきた。
「まるで獣…力は上がったかもしれんが、動きが直線的すぎるな…」
バシッ!
突進してくる暴君を足をひっかけて、転ばせた!
「がっ!」
「ふん!愚か者め!狂気などに飲み込まれおってからに」
ガシッ!!
由良葉は暴君の首根っこを掴むと、一気に持ち上げた。
自分よりも身長の高い男を軽々しく持ち上げる!
ジタバタともがく、暴君!
「ふん…苦しいか?……今楽にしてやる」
ドスッ!!
由良葉の手刀が暴君の腹を貫いた!
「が…がは…ッ…」
「ふん…人とはなんと脆弱な生き物か」
暴君の血が由良葉の腕を伝い、滴り落ちていく。
バシュッ!
由良葉は腕を抜いて血をぬぐった。
「ひゅー…ひゅー………」
「虫の息か…。悪く思うなよ」
由良葉が立ち去ろうとした。
その時だった。
禍々しい気が膨れ上がるのを感じた!
由良葉が振り返ると、暴君がゆらゆらしながら立ち上がっているではないか!
「なに…?」
そして腹部に空いた穴が徐々に塞がっていく!
「くくく…すばらしい……」
「こやつ…
(狂気をも飲み込みおったのか…?)」
「君は人間じゃないのかな?」
「まぁ人間ではないな…じゃが、器は人間じゃでな…。
あまり派手な真似は出来ん」
「そう…僕と君は似ているのかもしれないね」
「一緒にするな小童…。お前は危険な存在ゆえ…
ここで死んでもらうぞ」
「くく…出来るのかな?」
「出来るさ」
―――
――
白壁高校・校門前―――
「!…おーい!」
校門で待っていた片桐は白凪優と天城勇の姿を見て手を振った。
「あ!片桐先輩だ!」
三人は合流した。
「お前ら二人だけなのか?」
「ええ。他の面子は昨日の戦いで消耗してて…。
まともに動けるのは私と天城君だけだったの」
「そうか…まぁしょうがない!俺達だけでも行くぞ!
こっちだ!」
「ええ。行きましょう天城君!」
「うん!」
三人は社ヶ崎へと向かった。
十数分後…
「何よ…これ…」
辺りは荒れ果てていた。
道路のアスファルトは剥がされ、見るも無残な有様だ。
「片桐くーん!」
「あ…あんた!無事だったんだ!」
片桐を呼んだのは一人、何もしてなかった菅谷だった。
地面に埋まった聖才雅、不破彰人、雑木林に吹っ飛ばされた不破まりあ、
そして倒された石動和馬の四人を木陰で介抱している。
「和馬まで…こんなボロボロになるなんて…」
「アイツは悪魔だよ…。
あの巨漢たち二人も相当な化け物だったけど…あの女男はそれ以上の化け物だ…。
由良葉君だったっけ…あの子が必死に戦ってたけど…静かになってもう10分は経つ…」
「おい!アンタはそこで黙って見てたっていうのかよ!!」
片桐は菅谷の胸倉を掴んで叫んだ。
「しょうがないだろ!!俺が出て行った所で何も出来やしなかったさ!!」
「!……すまねぇ……ついイラだっちまった…」
片桐は手を離した。
「とにかく見に行きましょう。…由良葉君がどうなったのか…気がかりだわ!」
第25話 完 NEXT SIGN…