第23話 それぞれの戦い
SIGN 二章 - SeVeN's DoA -
第23話 それぞれの戦い
白壁―――
片桐亮、石動和馬、神楽由良葉の三人は、ようやく白壁に到着した。
目の前に広がる光景は凄まじい状態だった。
交差点では自動車がひっくり返り、そこ等じゅうで煙があがっている。
事故車に警察…暴れる人々。
まさに混沌としている。
「ひでぇ有様だな…こいつは……」
「電話してみる…」
片桐は不破まりあに電話をした。
『もしもし!亮?』
「まりあか!今到着した!…なんなんだ?この有様は!
やっぱり霊の仕業なのか!?」
『うん。物凄い量の悪霊が白壁に放たれたみたいなの!
今、彰人と二人でバラバラに対処してるんだけど…数が多すぎて!
あなたも眼に見える範囲で助けてあげて!』
「合流は難しそうだな…わかった!こっちはこっちで片付ける!
無理だけはするなよ!」
『ええ!片付いたら電話するわ!
あなたもある程度片がついたら電話して!
じゃあもう行くわ!また!』
そう言うとまりあは電話を切った。
「おい片桐!」
「和馬…由良葉!お前ら…」
なんと、片桐が電話している間に目の前で暴れていた数名をすでに片付けたようだ。
「次行くぞ!」
「あ、ああ…お前ら、やっぱすげぇな…」
「あ?別にこいつ等がてんで弱かっただけだ。
祓ったら気を失っちまった。とりあえず数は多そうだが、力自体はそうでもない。
さっさと片付けるぜ!」
「片桐の兄ちゃんもいこう!」
「あ、ああ…」
三人は別の騒ぎが起きている場所へ向かって走り出した。
―――
――
「さてと…亮たちがどれ程やってくれるのか…。
とにかく一刻も早く片付けて、聖先輩のところに向かわないと!」
不破まりあは、その場をあらかた片付け一息ついていた。
「ううう…ぶっ殺すすうううううううううすすうすう!!」
狂気に満ちたサラリーマンが立ち上がった。
白目を剥いて、自我は失っているように思える。
「狂気化したか…。
これは厄介かもね…」
「うあああああっらああ!!」
サラリーマンは走り出した。
動きはさほどでもない。
「ふん…遅いわよッ!」
まりあはダッシュと共に跳んだ!
かなりの跳躍だ!
一気に男の前に繰り出すと、落下と同時に蹴りを放った!
蹴りは男の腹部に突き刺さった!
「どう!?」
「ぐぐ…!」
「一撃じゃ無理か…!」
「がああ!!」
男はまりあを吹き飛ばした!
「く…!力は相当なものね…!」
腕でガードはしたものの、左腕に痺れが走った。
「このまま、狂気化する奴が増えたら、私の霊力が何処まで持つかわかんないわね…。
後のこともそうだけど…まずはこいつを叩き潰さないと…」
「がああああああ!!」
よだれを撒き散らしながら両手を振り上げ、走ってくる。
不気味の一言に尽きる。
「ったく…うざったいのよッ!!!!」
向かってくる勢いに合わせ、まりあの渾身の拳による一撃を放った!
まりあの拳は顔面に突き刺さり、見事に男の顔はへしゃげている!
「あ…あべべ……」
「全力の霊撃よ…!眠りなさい!」
ガシッ!
「!…こいつ!」
男はまりあの腕を両手で掴んだ!
そして、そのまま力任せにぶん投げた!!
ドッガーーッ!!
まりあはコンクリートの塀に思い切り衝突した。
「痛っ……!!」
「ぐるる…殺す………」
まりあにじりじりと迫る男。
「なめんじゃないわよ…!!」
まりあはすぐに立ち上がると、気合を高め始めた。
霊気が全身を包み込んでいく。
「全力の全力で…ぶちかますわよッ!!!はぁぁぁあああ!!」
「がああああ!!」
覆いかぶさるように飛び掛る男!
それを待ち構えるまりあ。
そして射程距離に入った瞬間!
大砲のように強力な一打を男の腹部に放った!
霊気を纏い、光り輝く拳は男の腹部に突き刺さり、同時に激しく体を吹き飛ばした。
10m以上も吹き飛ばす凄まじい勢い!
「…これで終わりよ」
「…」
男は完全に沈黙した。
「ち…!霊力をかなり使ったかもね…。
もうどれだけ戦えるか…って、くじけてる場合じゃないわね!
他に行こう!」
まりあは騒ぎの声がするほうへ駆け出した。
―――
――
「しんど……一体どれ位減ったんだよ…」
愚痴を零すのは不破まりあの弟、不破彰人。
かなりの数の人の山が築かれている。
「うう…」
「はいはい…次から次へと…ご苦労様ですよ!」
休憩する彰人の前に現れたのは老人だ。
「げぇ…じぃちゃんかよ…。
こういうのが一番やっかいなんだよな…。肉体的なダメージは極力なしって方向で倒さないと…」
ビュンンッ!!
「ええ…うっそ…」
バキッ!!
老人とは思えない俊敏な動きで、一瞬にして彰人の間合いまで踏み込むと、
これまた老人とは思えない俊敏な一打を顔面に撃ち放った!
彰人はその場に倒れ込んだ。
「痛たた……マジパンチじゃん……。
じぃちゃん…ちょっとタンマ…」
「金ぇええええええええッ!!」
ドガッ!!
寝転ぶ彰人へ上から放つ拳打!
彰人はギリギリでそれをかわすも、老人の細い拳はコンクリートへ激突した。
なんとコンクリートが割れている。
「嘘だろ…!これって狂気化…?」
「ぐるる…」
「!…じぃちゃん……」
老人の右腕は完全に骨折していた。
あらぬ方向へ曲がり、ぷらんぷらんと揺れている。
「……ぜってぇ許せないな…」
「がぁああ!!」
飛び掛る老人!
「ごめんな…じぃちゃん…!はぁあああッ!!」
老人とはまだ距離がある段階で、彰人は手を突き出し、気合を放った。
そして勢いはそのままに彰人の胸の中に飛び込んだ。
どうやら今の気合で取り憑いていた霊は完全に消滅したようだ。
「…。じいちゃん……しばらくここで眠っててくれな…。
こんな…こんな真似しやがる奴は許せない…!!」
彰人は怒りの感情を抱えながら次の場所へと向かっていった。
―――
――
その頃…
社ヶ崎森林公園では…。
「さて…ある程度回復しましたね」
「ええ。菅谷さんも立てるぐらいには回復しました」
「はぁ…もう絶対ごめんだよ…こんな死ぬ思い…」
神谷、菅谷、聖の三名は回復に努めていた。
聖の治癒術で、瀕死だった菅谷も立てるまでには回復したようだ。
「さて…じゃあ僕はもう帰りますね…」
「神谷さん……出来れば、白壁のほうに向かった悪霊の対処も手伝ってはくれませんか?」
「…遠慮しときます。
僕はもう霊力使い果たしてますし…これ以上の労働は勘弁ですよ…聖君」
「そう…ですか。残念です」
「まぁまぁ才雅君。
かみやんがここまで協力してくれただけでもありがたいと思わないとね。
ゆっくり休んで頂戴な」
菅谷が手を振ると、神谷も小さく手を振り替えし、猫背で帰っていった。
「さてと…この二人はどうしようか…」
「ほっときなよ…。
取り憑いていた怨霊は消えたから、以前のような力はもうないはず。
それに、霊気で酷使していた体は恐らくボロボロさ。
すぐにはまともに動けないだろうよ」
「…ですね。
じゃあ、一刻も早く白壁に向かいましょう!
まりあ君も、彰人君も戦っているはずです!」
「ええ!?まだ戦う気なの!?
少し休もうよ〜………」
「ダメですよ。ホラいきますよ!」
「とほほ………!あ…そうだ!!」
菅谷は突然何かを思い出したかのように、来た道を戻り始めた。
「どうしたんです!?」
「思い出したんだよ!あいつ等が怨霊を放った時持ってた壷!!」
「え!?」
菅谷は茂みを探し始めた。
「あった!この壷!!」
「すごい…呪札が張り巡らされている…。
これに霊を封じ込めて持ち運べると言うわけか…」
「どうする…?
これがなければ色んな場所で怨霊を解き放てなくなるよ!」
「そうですね…。
これは危険な代物だ…やはりここで割ってしまったほうがいいかもしれない」
その時だった。
「その壷を渡してもらおう」
"超越(Transcendence/トランセンデンス)"…登場。
「誰だ…!」
「この二人の仲間か…」
ザッ
『!』
男が一歩迫ると二人に緊張感が走った。
「大人しくそれを渡せば危害は加えない…。
さぁ渡すんだ」
「嫌だと言ったら…?」
「殺してでも奪うことになる」
ゾクッ!!
二人は物凄い威圧感に押しつぶされるような感覚を覚えた。
ああ。この男には間違っても敵わない。
そう…一瞬で理解できるほどの圧倒的な威圧感。
「才雅君……ここは彼の言うとおりにすべきじゃないかな?」
「いや……彼が僕らを生かして返すとは思えないですよ…。
渡した途端殺されるかもしれない…!」
「くく…心配しなくていいよ。
私は無駄な殺生は好まないのでね…強者とは戦いたいと思うが…。
君たちはその域ではないようなのでね。
大人しく渡してもらえば、本当に危害は加えない…約束しよう」
「わかった…どうやらそれ以外に道は無さそうだ。
菅谷さん…渡してください」
聖の指示で、菅谷はゆっくり男に近づいていった。
「ほらよ…」
「確かに…」
菅谷は壷を渡すや否や、一目散に聖の元へ駆け出した。
「ふふ…何もしないと言っているのに…」
男は立ち去ろうと背を向けた。
「待って!」
「何か?」
「その二人は連れて行かないのか…?」
「ああ。彼等はもう使い物にならないゴミでしょう?
もういりません」
「もう一つ!……お前たちの目的はなんだ…」
「ふふ……さぁ?
私達は人間が嫌い……それ以外に共通点はない。
目的も…手段も……人それぞれ…。
まぁせいぜい頑張ることだね…弱き者たちよ」
そう言って男は去っていった。
「く……なんだっていうんだ……!」
「よくわかんないけど…やばい組織っぽいな…」
第23話 完 NEXT SIGN…