第11話 解剖
SIGN 二章 - SeVeN's DoA -
第11話 解剖
「…
(まだ私自身に"死を告げる刻印"は出ておらん…
少なくとも死ぬ事はない…。
しかし、実力的にはどうかのう…)」
「僕はね、たまに自身の"この力"を発していたんだ…遊び相手が欲しくてね。
普段なら彷徨ってる霊がやってくるんだけど、今日は君たちがやってきた…
くく…これは今までにないことだよ」
男は禍々しい霊気を放ちながら不敵な笑みを浮かべている。
「ふん…何が可笑しいんじゃ……
こちらとしては、手がかりを掴めて喜ばしい限りさ」
茜もニヤリと笑った。
「あー…やっぱ御婆さんは"あの人"の言っていた敵対勢力か…。
これは潰しておかなくちゃね」
「"あの人"……緋土京のことかのぅ?」
「?…さぁ…あの人はあの人さ」
男は表情を変えずに戦闘態勢に入った。
「名を聞かされておらんのか…はたまたとぼけておるのか…。
まぁどちらにせよ…戦闘は回避できないようじゃな。
まずは動けなくさせてもらおう」
茜は咄嗟に手を前に出した。
「はっ!!」
「!」
ビュンッ!!
突如、突風に吹き飛ばされるかの如く男は吹き飛び、壁に押し付けられた。
「ぐ…!……なんだこれは!?」
「ただの気合じゃ…」
一足飛びで男に近づく茜。
男は未だに壁に張り付いた状態で身動きが取れないでいる。
「く…!!こ、こんなもの…!!」
「無理じゃ…落ちてもらうぞ」
茜の渾身の掌底突きを男の水月に打ち込んだ。
「ガハッ…!!!!!」
吐血し、崩れ落ちる男。
霊気で筋力を増強された一撃は、老婆の一打とは思えぬ威力を発揮する。
「ふむ…あっけない」
ヒュッ!!
崩れ落ちた男が即座に立ち上がりながら手刀で反撃してきた。
茜はギリギリの所でソレをかわした。
が、肩には切り傷が生じている。
「…霊気の刃か…」
「あー…油断したわ……。
マジで逝きかけた……なんて婆さんだよ…あんた」
右肩が斬られたとはいっても、薄皮一枚といったところ。
戦闘になんら支障はない。
「…
(ふむ…霊気の質が変わったな…より一層攻撃的…
同じ手は通用せんじゃろな…)」
先ほどの気合は男に内在する怨霊に対して発した破邪の気…。
それゆえ気圧され、あのような状況を作り出す。
しかし、気合を上回る邪気を放っている現状、効果は望めないと踏んだのだ。
「自己紹介しておこう…僕は"解剖(Dissection/ディセクション)"…
あんたを切り刻み…解剖してやる」
「このド変態が…老婆を切り刻んでも面白くもなんともないじゃろが…」
シュッ!
男は駆け出した。
かなりの速さだ!
一瞬にして茜の間合いに踏み込んだ。
「まずはさっきの右腕ッ!!ちゃんと斬りおとさなきゃ!!!」
「…!」
男は茜とはまだ距離がある所で手刀を振り放った。
ピシッ!
「な…?」
「ふん…何を驚いとる!
霊気の刃を出せるのはお主だけではないわ」
茜は漆黒の刃を生み出し、それで男の霊気の刃をはじいたようだ。
「霊気を刃のように研ぎ澄まし…それを手刀に合わせて飛ばす…か。
恐らくかなり強化し、見えない刃を演出しているのじゃろうが…私には見えておる。
残念だったの」
「…じゃあ…見えても防げない奴をお見せしよう…」
男はゆっくり両腕を開いた。
「!…これは…」
男の両腕の下に無数の霊気の塊が現れる。
それが徐々に形を変え…メスのような形状に変化した。
「行くよ…?これだけの刃…防げるかな!?」
「ち…!」
「はッ!!」
バシュッ!!
一気に茜目掛けてメスが発射された。
かなりのスピードだ。
「守護霊壁!!」
茜は地面に手をつくと、そう叫んだ。
すると茜の前方に巨大な霊気の壁が生まれた。
この術は過去、緒斗の森(序章・14話)で夕見司が使った術である。
司は霊に抵抗力のない仲間たちのためにこの術を使い、霊気から守るために使った。
確かにそういう使い方も出来るが、このように霊気の壁を作ることや、
自身のみを纏う様に使うことも出来る。
未熟な司では怨念の篭った霊気を和らげる事は出来ても、霊撃は防げない。
しかし茜のそれは、十分に霊撃を防ぐに値する技である。
全てのメスは霊気の壁の前に沈黙した。
「なんだと…!?」
「残念じゃったな。
(とはいえ…霊力の消費も大きいからの…
あまり容易に使えない技でもある…。
ここは一気にかたをつけ…縛り上げておくかの)」
茜は霊気を高め始めた。
「はぁぁぁぁッ!!」
「ぬ…!?…なんだ…?」
茜を纏う霊気が強く輝き出し、光がほとばしっている。
「はっ!!」
「!」
茜の踏み込んだコンクリートの床が見事に割れた。
同時に男の間合いに入る。
男には一瞬にして茜が視界から消えたくらいにしかわかってはいなかった。
ヒュッ!
バシッ!!!
一瞬にして男の背後に回りこみ、中空からの手刀が男の首筋に見事にヒットした!
男はコンクリートの床に勢いよく叩き付けられた。
だが、茜はさらに追い討ちをかけるように倒れる男の背中目掛けて踏み込んだ。
あまりの威力に床が抜け、二人は3階へと落下していった。
「はっ…はっ………
(筋力・霊力・霊気・動体視力に至るまで、全ての能力を一時的だが飛躍的に上昇させる…この"霊王化身"
霊王眼の5つの能力の中でも一番負担が大きい…。
出来れば使いたくはなかったが…他の技は余りに破壊範囲が広すぎるからのう…
こんな場所では流石に使えない…。まぁこれでも十分に目立つ破壊になってしまったが…)」
―――
――
ビルの外では八坂警部が対処をしていた。
流石に大きな音に野次馬が集まってきていたからだ。
それ以前にも救急車が来たりで人だかりが出来ていたので尚更騒ぎになっている。
「茜さん…大丈夫なのか…!?」
―――
――
「…」
男はピクリとも動かない。
全身うつ伏せでコンクリートの床にめり込んでいる。
「…下手な芝居はやめたらどうじゃ。
時間稼ぎは無駄じゃよ」
茜がそういうと男はゆっくりと起き上がった。
「全く…老人の力じゃないよ…。常人なら死んでるところだ」
「骨折もなしか…大したものだよ。
(あの速さからの攻撃に防御が追いついたというのか…?
これは周りを気にしている余裕はないかもしれんな)」
「御婆さん…一つ取引しないかい?」
「?…取引じゃと…?」
いきなり取引を持ちかける男。
「僕はまだやりたいこともある…ここで終わりたくないんだ。
あなたは僕等のボスの居所を知りたいんでしょ?」
「つまり、情報を得る代わりにお主を逃がせと…そういうことか?」
「ご名答」
「答えはNOじゃ…そんな取引に応じるはずなかろうて」
茜がそう言うと、男はおもむろに背広を脱いだ。
「はぁ…せっかくの申し出を無碍にしたこと…後悔すればいいよ」
「最初から話はせんと言ったじゃろう」
二人は同時に後ろに下がった。
男は先ほど同様に両腕を広げ、無数のメスを生み出した。
さらに両腕に長い刀のようなものを生み出した。
「死ねッ!!」
メスを飛ばすと同時に自分自身も飛び出してきた、
「この際、周りを気遣ってはおられんな…!
砕竜…力を借りるぞ…!はぁああああッ!!!」
茜は両手を前に突き出して気合を込めた。
凄まじい霊気が両手に集まっていく!
「砕竜の咆哮!!」
ドゥッ!!
茜がそう叫ぶと、一気に大砲のような霊気の波動が両手から溢れんばかりに飛び出した!
目前に迫っていたメスを飲み込みながら男に向かっていく!
「くっそおお!!」
男は両腕をクロスさせ、頭を低くしてガードの態勢をとるものの、波動の勢いに負け、吹き飛んでいった。
そして壁に激突し、勢いそのままに突き破って外に落ちていった。
「はぁ…はぁ………
(いかん…思った以上に霊力の消耗が激しい…。
今の一撃で倒したと信じたいが…もしあれで倒せないようであれば…
ここは一旦引くしかないか…)」
霊王眼の"霊の能力を吸収し自分のものにする能力"で得た砕竜の能力…"竜気"。
かつて若かりし頃、妖魔砕竜と戦い、得た力。
その強大さ故に消耗もまた激しい。
「年は取りたくないものじゃな…」
茜は砕竜の咆哮で出来た壁の穴から下を覗きこんだ。
人だかりが出来ている。
「!…いない!?」
茜は急いでビルを駆け下り、飛び出した。
「茜さん!?」
「おお!八坂殿!」
「無事でしたか!よかった!…先ほどの地鳴りやら、ビルの崩壊で心配しておったんです」
「話はあとじゃ!今ビルから男が落ちてきたじゃろう!?」
「え…?こちらからは確認していませんが…」
茜は人だかりのほうへ駆け出して野次馬に聞いた。
「男?…ああさっき飛んできたぜ!
でも、別の男がすぐに連れて行ったよ」
「そうか…ありがとう…(逃げられた…か)」
―――
――
「あの糞ババァ!!」
「落ち着きなさい"解剖(Dissection/ディセクション)"」
苛立つ男。
あの場から逃がし、救ったのは"超越(Transcendence/トランセンデンス)"だった。
「はぁ…はぁ……!クソッ!!」
「彼女が場所を省みず最初から全力で暴れていたら、恐らく今あなたは生きてはいない」
「僕だって本気は出していない!」
「それを差し引いても…という意味で言ったのですよ。
とにかくもうすぐパーティは始まります。
今はまだ大暴れは控えてください」
冷徹な眼で男に言った。
苛立つ男をも一瞬にして黙らせる威圧感。
「ち…」
「さぁ…戻りましょう」
第11話 完 NEXT SIGN…