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episode.18



「2人とも怪我は無いか?」

「大丈夫、です…。すみません、魔力を多く消耗してしまった反動で……」


イブは1人で立ち上がることもままならず、ロベルトの肩を借りて何とか立ち上がる。ルフィナはロベルトの足元に自力で立っていて、イブはなんだか大人なのに情けなく思えてくる。


「謝らなくていい。ここがすぐに分かったのはお前のおかげだ」

「いえ…。ルフィナを守れなくて………」


元々低い自己肯定感が、更に低くなる。そんな時、どこかからまた足音が聞こえてきて、イブは緊張感を高めた。


「無事だったようだな?」

「でっ!?殿下!?!?」


てっきり、あの野蛮な男達かその仲間がやって来たのだと思って身構えていたイブは、そこに現れたのがダンテ・ルミナス第二王子と側近のレベッカだった事にこれ以上無い程に驚いた。


なぜ彼ら程の人がこんなところに、とロベルトを見上げるも、白々しい程の知らん顔をされるだけだった。


「あ、あの…誘拐犯がいたと思うんですけど…」

「下の奴らなら問題ない。他の兵に引き渡してきた」

「殿下が……ですか…?」

「素人のようだったし、すぐに終わったさ。お前が手こずったのはコレのせいらしいな」


そう言ってダンテが内ポケットから取り出したのは、あの男達が持っていたカードだった。


「おかしいと思ったんだ。宮廷魔導士を勤めていた程の魔術師が苦戦するような相手じゃ無かったからな」

「すみ、ません……。私が無力なせいで、そんな相手の為に殿下や皆さんの手を煩わせてしまって…」

「っはは!それは構わない。罪は罪だからな。それに、ロベルトの面白い顔も見れた」

「………?」


面白い顔、とは一体何なのかとロベルトを見上げるも、いつもの無表情のままイブの視線には気づいているはずなのに目を合わせようとしない。


その様子を見て、ダンテは「クククッ…」と堪えきれない笑いが漏れていた。


「もう良いだろう。早く2人を休ませたいんだ」

「ああ、そうだな。引き止めて悪かった。俺たちも戻ろう」


ダンテが行ってしまう前に、イブは慌てて声をかける。


「あ、あのっ、殿下!助けて頂いて、本当にありがとうございました」

「礼なら、宮廷魔導士に戻って貰えれば十分だが?」

「…………………それ、は…」


目を逸らしたイブを見て、ダンテはフンと鼻を鳴らし笑みを浮かべた。


「冗談だ。お前にはお前の人生があるからな。俺は、未来にどれ程優秀な魔導士が現れるか、気長に待っている事にする。まあ、戻りたくなったらいつでも歓迎するがな」

「…もう少し、働きやすい環境にして頂ければ………」

「全くだな。未来の優秀な魔導士の手前だ、善処しよう」


ダンテは、ちっぽけな魔女のわがままに気を悪くする様子もなく、最後にルフィナに「よく耐えたな」と声をかけて部屋を出ていった。


その後はなんだか気が抜けて、馬車に揺られているうちに意識もぼんやりしてきて、気がつくとロベルトの屋敷に着いていた。


ルフィナも安心と疲労でぐっすり眠ってしまったようで、ゆすっても起きず、お屋敷の使用人が抱えて自室へと連れていった。


馬車の中で2人きりになるとロベルトが先に口を開いた。


「今夜は泊まっていけ」

「え?いや、私は大丈夫ですよ?」

「泊まっていってくれ、頼む」

「……………では、お言葉に甘えて…」


そんな風に弱々しく言われたらそうするしか無い。よく考えてみればイブの家は元々片付いているとは言えないが、今はよりひどい状態になっているはずだ。まずは壊されたドアを直さなければいけないし、ロベルトはそれを考慮して提案してくれているのだろう。


馬車を降りる時も丁寧に手を取られ、イブの小さな家に比べたら何十倍もあるお屋敷の中を歩くにも、もう1人で歩けるまでには回復していると言うのに、どういう訳かピッタリと横につけられていて気恥ずかしい。


「ここだ。奥に浴室があるから先に体を流すと良い。1人向かわせるから少し待っていてくれ」

「え…?」


そう言って部屋に通され、圧倒されている間にロベルトは扉を閉めて行ってしまった。そこはイブの家なんかより余程広くて綺麗にされている。宮廷にいた事があるイブは、お貴族の生活がどれほどのものか知ってはいるが、やはりそこに自分がいるとなるとどうにも場違い感が否めない。


汚れた体で休むわけにもいかず、言われた通り先に体を清めようとよろよろと奥へ足を進めていたその時、コンコンコンと部屋がノックされ、ロベルトが来たのかとイブは返事をした。


だが、扉を開けたのはメイド服に身を包んだ女性だった。


「失礼致します、イブ様。お支度の手伝いをするよう仰せつかってまいりました」

「え?」

「すぐに湯浴みの準備をしますので、少々お待ちいただけますか?」

「い、いや!そんな、1人で大丈夫です!」


自分なんかにお世話係をつけてもらうなんて烏滸がましい。急に来て部屋を用意してもらっているだけでも厚かましいというのに。


だが、同年代程のメイドは困ったように眉尻を下げ微笑んだ。


「ですが、旦那様からイブ様のお身体にお怪我が無いか見るように言われておりまして…」

「お風呂で…ですか…?」

「はい」


何かおかしいかとメイドは微笑んでいるが、絶対におかしい。なのにどうしてかそれを指摘できない。自分の感覚の方が間違っているような気になってくる。


「では、すぐに準備いたしますね」

「……………」


そう言ってスタスタと部屋の奥へと消えていくメイドの姿を、イブはただ呆然と立ち尽くしたまま見送った。






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