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episode.16



ロベルトは仕事柄、人の気配や何気ない物の変化には敏感なタイプだ。だから、イブの家に近づくに連れて、いつもと雰囲気が違う事を何となく感じていた。


明かりが点いていないイブの家を見て、ロベルトの予感は確信へと変わる。物音を立てないように近づくと、入り口の扉は開けられたまま、窓ガラスが割れているのも見える。


そこにイブとルフィナの姿は無い。荒れた室内を見る限り何かがあったのは明白で気持ちが焦る。


何か手がかりは無いかとロベルトは周囲を見渡した。どんな些細な事も見逃すまいとゆっくり何度も見渡すと、扉の前で何かがキラリと光るのが見えた。


玄関先に置いてある植木鉢に光る石を見つけたロベルトはそれを拾い上げる。青く淡い光を放つその石にロベルトは心当たりがあった。


ロベルトの見立て通りならこの石は魔法石と呼ばれる特別な石だ。魔術師の魔力を石に込める事によって光る色が変わるもので、魔術師が結婚する時には自分の魔力を込めた魔法石を相手に贈る文化がある。


対になった魔法石は魔導士が魔力を込める事で反応し合い、相手の安否や居場所を特定する事も出来る為、所謂浮気防止としてお互いを束縛し合う意味合いもある。


イブはいつも右腕に青い石がはめられたブレスレットを着けていた。魔術師が魔法石をアクセサリーとして身につけるのは珍しい事ではない。だがこれはイブが普段つけている物とはデザインが少し違うような気がする。イブがつけていたブレスレットを思い出そうと記憶を辿っていたその時、石から一直線に光が伸びた。


「!?これは………」


やはり、イブがつけていた物とは別の物だったらしい。そしてこの光の差す方向にイブとルフィナがいると直感した。


急いで馬を走らせ森を抜け、このまま光の差す方へ走り出したい気持ちを抑えてロベルトは一度宮廷へと向かった。


恐ろしい顔で長い廊下を歩くロベルトを見た侍女達が何事かと声を潜める。そんな事を気にもとめないロベルトは廊下の突き当たりの部屋をノックし、返事を待たずにドアを開けた。


「返事ぐらい待ったらどうなんだ?」


そこには呆れた様子のダンテともう1人の側近、レベッカの姿があったが、2人ともロベルトの非礼を怒ってはいないらしい。日頃の信頼関係がそうさせているのだろう。何より、足音や気配で悟っていたはずだ。


ロベルトはダンテの態度を気にも止めず、単刀直入に言う。


「ルフィナとイブが攫われた可能性がある」

「………攫われた?2人で出かけているだけなんじゃないのか?」

「家は荒らされて、もぬけの殻だった」

「……………」


ふむ、と何かを考える素振りを見せたダンテだったが、少しして小さくため息をついた。


「なるほどな。それで?騎士団を派遣して国中を探し歩くのか?」

「その必要は無い。どこにいるかは分かっている」

「へぇ?じゃあなにが目的なんだ?」

「攫われたのだとしたら確実に犯人を仕留めたい。協力してほしい」


珍しく焦りの表情を浮かべるロベルトに、ダンテはフンと鼻を鳴らすとニヤリと笑みを浮かべた。


「俺にそんな事を頼むのはお前ぐらいだろうな。言っておくが、俺はこの国の第二王子だぞ?」

「攫われたのは未来に優秀な魔導士になる子供とこの国の重要保護魔術師だ。誘拐や人身売買も見て見ぬフリは出来ないこの国の問題だろう」

「っはは!確かにな。それは助け出さなくてはな」


普段、支える相手のダンテに私情でこんな事を頼むのはロベルトぐらいだろう。ダンテは本来なら危険な事から遠ざけるべき存在なのだ。


それまで黙って事の流れを見守っていたレベッカが口を挟む。


「殿下が向かわれる必要は無いのでは?」


腕組みをして壁に背を預けているがその態度や表情から、その言葉が本心では無く建前だと言う事はダンテもロベルトも長年共に過ごして来たからよく分かっている。茶番は程々にしてほしいと思いつつ、ロベルトは黙って話の流れを見守った。


「ロベルトを疑うわけじゃないが、攫われた証拠がないからな。騎士団は動かせん。だが、誘拐や人身売買が問題視されているのは事実だし、だとしたら実態を調べて然るべき対処をしなければな」

「いつもの視察、ですか」

「そう言う事だ」


危険な場所に行こうというのに楽しそうに話す2人だが、協力してくれる事にホッとする。と同時に一刻も早くイブとルフィナを見つけ出したいと気が早る。


「で、2人はどこにいるんだ?場所は分かっていると言ってただろ?」

「どこかは分からないがこれで突き止められるはずだ」


ロベルトがポケットから取り出した魔法石からはピンと一筋の光が伸びている。イブが、魔力を操作して分かるようにしてくれているのだろう。


その様子を見たダンテとレベッカは2人揃って驚いた様子を浮かべていた。その石にどういう意味があるのか、知らない人はいないだろう。


「お前、いつの間に彼女とそこまで進んでいたんだ?苦戦してるんじゃなかったのか?」

「これは家の前に落ちていた物を拾っただけだ。恐らくイブが居場所を伝えるためにわざと落としたんだろう。俺が拾ったのは偶然だ」

「対になる魔法石を彼女が持っていたとは意外だな。人に縛られたり縛り付けるのを嫌っていただろう。まぁ、これを誰に贈るつもりだったかは、分からないけどな」

「………」


誰に贈るつもりだったのかはイブに聞かなければ分からないが、他に贈る相手がいるとは考えたくも無い。イブはロベルトの事が好きだと言ったし、ロベルト用だと思いたいが下手な事を言うと後々面倒なので答えるのをやめた。


喋りながらも身支度を整えたダンテとレベッカと共にロベルトも厩舎へと急いだ。





ストックが無くなってしまったので、マイペース更新になります。よろしくお願いします。

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