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8話 無傷の帰宅

大豪邸、という程ではないにしろ、『護国十一家』に連なる月詠家の邸宅は一般家庭のそれとは随分と異なる。

門扉を開ければよく整えられた花壇を脇に置く道があり、玄関を開けば住み込みの給仕が挨拶をしてくる。


今日も玄関の扉を開ければ、掃除に身をやつす給仕服を纏った二十代前半のメイドと目が合う。

月詠家にて最も下位に位置する俺にもしっかりと挨拶をしてくれる人の筈だが、今日は何やら固まっている。

というか青ざめている。


「……は、ハガネ様!? その服は……、というかお怪我は!?」


「え? あっ、忘れてたな」


学校から支給される学生服兼狩人装束は肩口が破れズボンの足元は食い破られている。

返り血が至るところに滲み、満身創痍としか見えないのも無理はない。

帰りに使った狩人用の送迎車(と言ってもトラックの荷台に放り込まれるだけだが)では誰に見られるでもなかったから気付かなかった。


「カエデさん、お風呂沸かしてきていいですか」


「いやいや、そのくらい私がしますけど!

ご学友と常葉で獣狩りとは聞き及んでいましたが、何かあったのですか?」


ぺたぺたと俺の髪やら頬やらを触って確認してくる侍女カエデ。

掃除中にこんなに汚れている物体が帰ってきたら嫌だろうななどと考えていれば、彼女の大声を聴いてやってきた別の給仕が目を丸くする。


「ミツバさん、お風呂を今すぐ」


「へっ?はっ、はいただ今!」


一応カエデさんは侍女統括という立場にあり、こういう際は行動が早い。

血みどろの服を洗濯かごに入れるわけにもいかないためにビニール袋を一枚用意して貰い、少し待って第一浴室に入る。


広いだけあって一般家庭のそれより少し大きめの風呂場が二つあり、片方は月詠家、もう片方は住み込みの者達というような分け方をしている。


「どうしようかね」


この先。

誰に打ち明ければいいのだろう。

レベルがマイナスになりましたなんて、聞かされた側も困る。

こんな事例は聞いたことがないゆえに、知れ渡ってしまえば恐らく一生研究室でオモチャにされるかもしれない。


異能スキルの方もそうだ。

使えば視界に一本の線が浮かび上がる。

線をなぞるように任意のタイミングで切断が可能であり、視界内であれば恐らく対象が何であれ一瞬で真っ二つにできる。

こんなものは、人が持っていて良いものじゃない。


「かと言って、棄てられるものでもない、か。

どうしたらいいんだろうな」


浴室に反響した声に返ってくる声はない。

意味の無い自問自答。

答えなど最初から決まっていて、これはただの茶番である。


「今までと何も変わらない。

名実ともに最底辺になっただけだ」


逆に気楽で良い。

静かに剣を振って生きていよう。


ふと見た鏡に映った自分の髪色はやはり段々と色が抜け落ち白に近付いている。

これが何を意味しているのか、考える気は起きなかった。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 「掃除に『身をやつす』」の使い方が間違ってる気がする。 身をやつす、ってのはみすぼらしく身を落とすみたいなニュアンスなので。
[一言] 続きが読みたいです。更新をよろしくお願いいたします。
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