69話 想起する原始たち
夜空に上がる光の花。
南部への避難勧告が何度も町設スピーカーから流される斑鳩市北区神川町。
その少し東側で、戦争が起きていた。
地が躍り、雷が縦横無尽に飛び交い、刹那の海が街道を削る。
閃光と爆発が絶え間なく辺りを照らし続け、凍った魔力が大気を巻き込みダイヤモンドダストとなっている。
月詠ハガネはその真っ只中で剣と弓を振るっていた。
限定的に右手と同化している無骨すぎる錆びた鉄塊のような弓、『迷閃』。
弦も何もないままに引き絞れば武器に秘められた異能、【天炎槍】が発動し、黄金の一矢が放たれる。
任意のタイミングで爆ぜる天魔の魔法の再現が、あるいは神川の町の灯りよりも眩しく闇の中で輝いている。
『…………くっ、くひひ、ハハハハ。
ヒライズミから離れた辺境にこんなのがいるなんてなあ?』
『疑孝:対象の魔力操作方法』
『ああ。あの塵、調和無しで魔力を消費してやがる』
爆発する光がそれこそ矢継ぎ早に飛び交う凄まじい戦場の中で、翼持つ者が音に頼らない会話をしていた。
『竜言葉』。
竜だけが使えるその言語は人には捉えられず彼らだけの会話を可能とする。
既存の通信体系とは根本から異なる遠距離意志疎通能力をもって、今竜たちは一人の人間について語らっていた。
『猜疑:天迷宮由来の武装』
『地の底の廃棄物にしちゃブッ飛んでやがる。
本当に天迷宮由来なのかよ』
こう話す合間にも、二人は天変地異を引き起こしている。
『竜魔法』。
人の用いる魔法のほとんど上位互換として設定されたそれは、規模、威力、展開速度に至る全てが別次元のものであり、大地を持ち上げて地形を変え、万雷を降らせ大渦を生んでいる。
たった一人を踏み潰す為に、郊外の人が寄り付かない場所とは言え更地を通り越して新しい世界さえ作ろうとしている。
それでもなお竜たちが相対する敵は倒れる気配はない。
一定以上の知能を持つ竜は人を侮っていない。
同胞は幾度となく狩られ、強者の更に上に位置する存在を知っており、総じてそう言った者たちは自分たち竜種を敵視していることを知っているからだ。
今相手をしている敵はその点認めざるを得ないものだった。
赤髪の竜の男『焔のヴァルカン』はその相対する敵の力量を量ろうとすればする程湧く疑問に不愉快そうに顔をしかめている。
常に周囲の魔法を殺している奇妙な生命体。
翼の魔法無しに空を走り、得体の知れない凍結魔法のようなものを際限無く放ってくるろくに魔力を持たない人間。
広範囲の魔法は一部を削り取るように殺され隙間から避けられ、反撃には奇妙な爆破の魔法が飛んでくる。
埒が明かない。
そう考えた二体の竜が取った行動は単純。
距離を詰めて捻り潰す。
竜の膂力で引き裂いて終わり。
「試行:視覚情報の撹乱。
⇒発動:『止停留氷』」
金の髪の女、『空のエンデ』が莫大な魔力を氷に変換し大空からばら蒔く。
霰の嵐となり渦を巻くそれに、ヴァルカンが空から突っ込む。
白髪の少年が豪風に煽られ僅かに体勢を崩したのを見逃すはずもなく、爆発的な突貫から人のそれと見た目は変わらない脚を振り回し蹴りを放つ。
その魔力補助は竜のそれであり、たとえ巨体でなくとも破壊力は理不尽と呼べるもの。
だったが、インパクトの刹那にヴァルカンは奇妙を見る。
金色を放っていた赤茶色の弓もどきをその人間は持っていなかった。
ただ、代わりにその右手に握られていた真白い刀を眇めながらも竜の身体は止まることはない。
「じゃあな、塵野郎」
避けられる筈もない。
凡百の人に設定されたレベルとステータスでは防ぐ術などなく、ヴァルカンの目には慌てて振り向いた少年の灰色の目が重なる。
今、滅ぼしを確信しているヴァルカンと後詰めに迫るエンデ。
そのどちらもが、この大魔法に近い威力の異能を連発していたこの少年を長距離殲滅に長けた旧来の魔法使いだと確信していた。
だから、その灰色の目が戸惑っているように見えてしまった。
その下の口許が緩んでいたにも関わらず。
「───ありがたい」
誰にともなく感謝をする。
竜の二人の特異な眼には月詠ハガネの周囲が一瞬黒く濁ったように見えた。
崩れかけていた体勢、それをそのままに白い刀を突如顕現した臙脂色の鞘で覆い、ヴァルカンの重すぎる蹴りを受ける。
人の五体などバラバラになって当然の一撃を受けて大きく吹き飛ばされるも、それを受けた鞘もハガネの身体も傷一つない。
土煙がなぜか凍っていく世界でヴァルカンは訝しみつつも、自らが削りきった大地を再び蹴りつけて加速する。
同時に空からはエンデが強襲し、世にも珍しい竜の連携が生まれる。
苦し紛れで防御したのだと疑っていないヴァルカンは、今度こそその白い身を粉々にすべく蹴りを回す。
「消し飛んでくれるなよ、虫けらァ!」
無限の闘争心から沸き立つ感情に従い、笑いながら無慈悲な暴力を振るう。
余波で大地が更に捲れあがり風さえ巻き起こる蹴撃。
だが苦い顔をしたのは蹴りを放った方のヴァルカンだった。
あるべき骨と身を砕く感触がない。
それどころか、まともに蹴り抜いた時の反動自体がまるでなかった。
おまけに足先が僅かに凍てつき、借り物の靴に霜が降りている。
「移行:超近接格闘」
間隙を狙ったエンデの空からの襲撃。
成人女性のそれと変わらない大きさの掌を開き叩きつければ、大地は放射状にひび割れる。
当たりこそしなかったが風圧と土片で後退は免れない一撃だったにも関わらず、ハガネは地に手をあてるエンデの真上、その首を刎ねられる最短距離で宙を翻っていた。
「月詠一刀───」
あまつさえ目を瞑って唱えるハガネ。
エンデのセーフティはその雰囲気に破壊され、最大限界レベルの反応を余儀なくされる。
「───『外導・頸掻』」
月詠の流派において六つある基本の剣の型。
その番外に位置する『立鞘』、つまりは刀を鞘に収めた状態での技。
無防備となる空中での技は古くから演舞用とされ実戦では日の目を見ることはなかった。
だが、空を駆けるハガネにはデメリットの多くは無いものとなる。
「展開:爪翼」
竜の翼を交差させ、更にその下で自分の頭を両腕で守る。
火花ではなく結晶が散るその一撃でエンデは大きく吹き飛ばされるも、ハガネは残心などする暇もなく直ぐ様ヴァルカンの横薙ぎの竜の炎を回避する。
『更新:対象の従服魔力の増大』
『………………』
ハガネを間に挟みながら、顔色一つ変わらないエンデと額に青筋を立てるヴァルカン。
募る苛立ちを抑える気もなく、昂りの火にくべる燃料とする。
再び、今度は全く同時に挟み撃ちの構えを取った竜たち。
ハガネが動いたのはエンデの方。
体勢を低くし突っ込み竜の爪の一撃を誘う。
誘いをかわさず右手を叩きつけるエンデ、その瞬間にハガネの足元が弾け飛び崩れ落ちる。
獣が知に触れる時代、竜は策を覚えていた。
速度で勝るエンデは一瞬足場に気を取られたハガネにそのまま手を叩きつける。
かわす余裕が無く真上からの一撃を受け止めるも、エンデはそのまま翻りハンマーのような形状の尾を薙ぐ。
右手に握った雪禍ではなく左手で受ける形になったハガネ。
響く振動を堪えつつも十メートル程後ずさった場所で待っていたのはヴァルカンの蹴撃。
「潰れちまえ」
「断る」
この日一番の隙。
体勢整わず首だけで振り替えるしかなかったハガネの瞳。
右足を無造作に振り回そうとしていたヴァルカンは勝利を確信し、
「───ッ!?」
その場で身体を大きく捻り蹴りを中断、そのままハガネの鞘の一撃を右手で受けることになる。
全くの無防備の相手に足踏みをしたのは、根源から来る警告によるもの。
死んでいた。
あのまま蹴りを放っていては。
それは単に予感などではない。
生物が異能を使用する際に発生させる予備線、『異導』と呼ばれるそれは通常人の眼には見えず、竜と一部の獣だけが可視化としている。
はっきり見えたのは分かち。
余計な要素は一切無く、ただ断つという意思のもと放たれたそれを食らっていればどうなったかなど、ヴァルカンにとっては考えるだけで不愉快であった。
そしてその時間こそが失敗だった。
「行こう、【夕断】」
またあの分かちだ。
ヴァルカンは舌打ちしたくともそんな余裕すらなくゼロ秒後の切断を避けざるを得ず、竜の敏捷性を持ってして弾けるようにその場を飛び退く。
避けたということは食らえばただでは済まないということ。
そしてそれを何かしらの手段で事前に知覚し避けられるということ。
どちらもハガネはヴァルカンの反応から読み取っており、そして躊躇なくその自身の持つ異能を行使することを決めた。
【夕断】という絶対に回避しなければならないという切り札。
ハガネ自身は使うことは好まずとも、それは死線の最中の悦楽より優先されるものではない。
既存の生物の規格を大きく外れた竜という相手を前にして振るえる武器は全て振るう。
もはやこの時だけは月詠も護国も世界もどうでもよく、如何にして竜の爪と牙を掻い潜り、その逆鱗を叩き割るかしか考えられなくなっていた。
熱を持つハガネの意思とは反比例して、辺りは乾いた音をたてながら結晶を生む。
髪は真白くなり鼓動も吐息さえも薄れる。
「さあ」
夕断の異導を撒き餌に行動を制限する。
受け気味の姿勢を取ったヴァルカンと中距離からの支援を選択したエンデ。
それを見てハガネはヴァルカンとの近距離戦闘を選択する。
人の器に制限されていながらも竜はやはり竜であり、膂力も疾さもヴァルカンのそれがハガネを上回っている。
にも関わらず攻め立てるは決まってハガネ。
その立ち回りの最中に極限まで範囲を絞った竜魔法をエンデが狙撃主が如く撃ち込むも当たらず。
『提問:対象の何らかの速度操作の異能の存在』
『………………』
夕断の牽制を抜きにしても酷く攻撃が当たらない。
絶対の竜の一撃がことごとく読まれきっている。
エンデの問いに舌打ちで答えたヴァルカンだが、返す言葉がなかったわけではない。
彼は知っていた。
これは業だと。
ステータスに囚われた生物とは異なり、人間は数字以上の動きを可能とする。
幾度となく繰り返した反復動作の末に磨かれた歩法に立ち回りは身のこなしを最大限の更に上へと昇華させ、手が錆びるほどに振った剣はいつしか断てないものを失う。
不愉快なほどに目の前の人間はそれを体現していた。
エンデの礫を避けながら縦に横に好き放題動き回り、疲れることを知らず不意を見て鞘を壊し白刀を抜く。
かと思えば灰色の眼を向け異能をばら蒔くためにヴァルカンは次の一歩を踏み出すのを躊躇う。
「虫、けらがァ!」
怒りが更に竜に力を与え、その教典の悪魔のような翼がはためき地を砕く蹴りが炸裂する。
三者共に無傷。だが楽しんでいる者と平静の者、苛立ち怒っている者に別れている。
戦場は町から少し離れた森林区へと近付きつつあり、ヘリコプターの羽音が遠くで響いている。
当初の目的から外れていることをヴァルカンもエンデも自覚してはいたが、今この生物に背を向けるのは何よりも躊躇われた。
翼と角と尾を前にし、正義を語るわけでもなく嬉々として刃を振るうそれに、竜たちは自分と近いものを感じながらも決して相容れないであろうという気持ちもあった。
「発動:渇涸枯雷。
⇒追唱:震振降土。
⇒追唱:震振降土」
高層ビルほどの石柱が無数に隆起し三人を囲う。
限られたスペースに竜の雷が降り注ぎ、空を飛び避けるヴァルカンとエンデに宙を走るハガネ。
交差するのは自ずと空中であり、しかし空での制動に大きな差はない。
「発動:哭泣鳴水」
先に動いたのはエンデ。
叩きつける濁流ではなくハガネを閉じ込める超巨大水泡を発生させる。
すぐに凍てつき砕かれるも上空に待機させていた雷を降らせ感電を狙う。
「雪禍」
その声と同時に耳鳴りすらする程の強引な魔力の停止が行われ、その一瞬でハガネの視線がエンデを捉える。
濃厚な死の香りを竜の鼻でかぎ分け、空を蹴るようにターンしたせいかエンデの雷撃は僅かに逸れる。
「忘れてんじゃねえぞ!」
雄叫びと共に突っ込んできたヴァルカンの蹴りをハガネは上体を反らして避け、竜の瞳に映った反対方向から迫り来るエンデの気配を知る。
完全な挟撃。
竜の顎を思わせる二方向からの喰らいつき。
更にヴァルカンの手はハガネの右手を遂には掴み、離脱を許さない。
岩の壁を蹴り弾いて風を置き去りに迫るエンデの手刀。
竜の握力で腕を掴み、空いた脚で首ごと弾き飛ばさんとするヴァルカン。
絶体絶命の最中。
それでもハガネは悦びに口を綻ばせていた。
竜なる化物が二人、自分を滅ぼさんと躍起になっている。
これほど愛されることも滅多にない。
地形を変える怒涛を掻い潜ることは何にも代えがたい悦びであり、その間隙を縫って踏み込むのは悦みだ。
そして今もそう。
追い詰められるほどに笑みが溢れるハガネの左手の甲に、その昂りを表すが如く巨大な雪華結晶が浮かぶ。
「『業威血界』」
月詠家に伝わる十三の刀の内の二つから名前を拝借したその技は、技と呼べる程に繊細なものではなかった。
ただ、己すら滅ぼしかねない威力で雪禍の異能である【終銀】を発動するだけ。
気分の高揚は必須条件であり、自分を中心とするために不発であればただの自爆だ。
リミッターなど忘れて裏拳で何もない宙を叩きつければ、六角形の雪の結晶が一瞬生まれそれが砕けると同時にハガネを中心に凍結現象が発生する。
今までのただ魔力の振動を停止させて変質途中にあるものを巻き込み凍結させる生半可なものではない。
活性不活性問わず魔力も大気も凍らせる絶対零度の自殺技。
「推奨:退避……ッ!」
「がッ、クソ! 手がッ!?」
『バカ!? 解除しなさい! 早く!』
ハガネの辛うじて機能している端末に潜むアストライアの大声と同時に、水晶を砕いたような音が岩壁に囲まれた地獄の中で響き渡る。
全員が全員同時に落下する。
膨大な竜の魔力と言えど、たった二秒間の中でかなりの割合が殺されてしまい、翼の魔法を保つことができなくなる。
五体投地で着地するもヴァルカンもエンデもその衝撃自体でダメージを負うことはない。
だが、盛大な自爆に巻き込まれたことによりその髪は凍りつき、手足は赤く腫れ、表情を歪めれば顔に張り付いた氷がぱきりと音をたてる。
対するハガネは左手から落ちたことで、今日だけで大分抉られた大地の上に波氷を発生させながら辛くも降り立つ。
白い髪はやはり竜たちと同じく凍り、水球に閉じ込められていた分服や手足のあちこちに固形の氷塊がへばりついている。
睫には小さな氷柱が張り、凍りついた口元は不気味にも笑みで固定されてしまっている。
満身創痍でしかない筈だ。
あれだけの規模で自分を犠牲にしながら大魔法に匹敵する何かを放ったのだ。
もはや動くことすらままならないだろう。
竜たちはそう確信していた。
願ってしまっていた。
「…………訝疑:対象の周囲の魔力反応、消失」
眼を細めたエンデの前で、ハガネは雪禍の刀身を握り潰し一度消す。
武器を仕舞って投降、という空気では決してない。
二人の竜の眼に映るその異常は人でも獣でもましてや竜でもあり得ないものだった。
「………………喰ってんのかよ」
誰しもが魔力を保有して、それを放ってはまた調和して取り戻すことを繰り返して生きている。
だがヴァルカンの眼前の例外は違った。
自分ではなく、他人の魔力を使って生き永らえている。
一切の調和無く、その核とも言える場所に無理矢理引き寄せ内燃している。
手を取り合い願いを叶えさせる調和に対して、首に鎖を着け従わせ殺している。
「…………流石に、死ぬかと思ったな」
『ばか! ばーか! バカ人間!
アタシが叫ばなかったらほんとに死んじゃってたんだからね!』
回復している。
命を削って放った馬鹿げた異能の傷を、大地と大気の奇蹟を啜りあげて喰らっている。
これではもはや人ではない何かだと、人ではない竜の二人は確信していた。
「奨案:翼の解放」
「…………チッ、こんな辺境で使うことになるとは」
ヴァルカン、エンデ、共に大地に脚を着けて並び立ち、胸に手をそっと当てる。
それを見てハガネは再び雪禍を抜き構える。
「…………なんだ?」
『わかんない。でも、気を付けなさい』
一切魔力が見えないハガネだが、それでも二人の周囲につむじ風のようなものが起こっていることは見て取れた。
人が幾度も挑み、幾千の武器を折り、幾万の命を失ってようやく辿り着く竜という生命の極致。
その上位に位置する『焔のヴァルカン』、『空のエンデ』は、共にとある魔法に曝されていた。
元は本州西側に棲息していた彼らは、ある日奇妙な現象を目にした。
草木など芽吹かない地に、銀の華。
それを境に二人、というより西側に住む一部の竜は、あるものを失い、あるものを手にした。
手にしてしまった。
それは祝福と称した呪い。
これを解くべく強大な二体の竜は、人里へと舞い降りていた。
かの呪い。
発動者、罪竜『■■■■■■■■』。
魔法名、巡生命魔法『銀呪記』。
西日本を命芽吹かぬ地へと変えた罪竜『褪せ赤のイフリシア』の用いた反生命魔法『赤祝書』とは対にあたる魔法。
命の芽吹きの余波を食らった竜たちには、とある異変が起きていた。
それが『人化』。
あるまじき人間への変貌。
強大な竜ほどこの煽りを受け、知能と力に比例して人化の度合いは高くなる。
その戦闘能力は大きく落ちることはないが、彼らにも矜持があり、そしてそんな者にだけ限定的な解呪の力もまた与えられていた。
一日に一度が精々。
解呪時間は十分にも満たない。
だが、その間は本来の竜の力に加え『銀』の祝福で全能力が強化される。
「巻き戻すぜ」
「詠唱:回帰態勢」
竜には矜持がある。
強大であり、尊大であり、傲り、誇っていなければならない。
それを二人は、二体は忘れていない。
「『竜退行』」
揃った声と同時に業火と爆風。
焼けた風が視界から外れる頃には、ハガネの前には二人はいなかった。
いるのは二体
双角剣尾の赤竜と単角槌尾の金竜。
前傾姿勢にも関わらずその体高五メートル以上、尊大な翼を広げれば更に大きく気高く見える。
びっしりと揃った鱗は一枚一枚が刃物の如く、手足に目立つ爪の獰猛さに口元から覗かせる牙の残忍さ。
奇蹟と理想と空想から成り立ったにも関わらず、その全てから原始の力強さを感じさせる存在。
それは美しさに他ならず、ハガネは見上げつつも見とれていた。
「綺麗だな、羨ましい」
認められた。
塵でも虫けらでもない。
誇りをもってして踏み潰す対象と。
こんなに嬉しいことはない。
赤い竜の大咆哮と同時に辺りを囲う岩壁が全て砕け散り、それが開戦の合図となった。
━━━━
月詠ハガネ(15)
Lv.-131(総獲得経験値-1484654pt)
体力:0/0 魔力:0/0
攻撃力:-462
防御力:-52
魔法力:-60
俊敏性:-1150
異能【夕断】
(魔力を消費してものを断つ常時展開型異能/使用者の最大魔力値の255倍の魔力を消費する。)
▼装飾品
【Ex】雪禍
耐久値 ―/―
攻撃力補整+0
異能【終銀】
(現在体力の90%を消費して、対象を絶冬に閉ざす)
【S】八握爪
耐久値 66/66
攻撃力補整+5
異能【糸涙】
(希い能ず、汝哀しみの果てに──)
【Ex】宵綴じの鞘
耐久値 ―/―
異能【願重】
(鞘で受けるごとに俊敏性の補整値が上昇する)
【??】迷閃
耐久値 ??/??
異能【天炎槍】
(──の雪───落ち─また──いつか)
━━━