6話 帰る場所など
「ハガネ!無事だったか!」
森の正規ルートを辿っていると、ジンが四人の武装した狩人を連れて迎えにきてくれた。
常勤としてこの『常葉陸型獣管理所』で働く狩人だろう。
「上手く逃げられたみたいだな。
ったく。仕方なかったとはいえ心臓に悪いぜ」
「ごめんって、ジン。
そう言えばあの子は?」
恐らく同年代くらいであろう、獣の森の奥で倒れていた少女。
ここにいるということは狩人かその見習いではあるのだろうが、自分達と同じくおびただしい数の獣に襲われたのだろうか。
「ああ、今医務室で診て貰ってるけど大事はないらしい」
「死ぬ思いで助けたんだから、生きててくれなきゃな」
死ぬ思いというか、実際死んでる。
ステータスはおいそれと人に見せるものではなく、展開されてないものを盗み見ることもできない。
ジンとはお互いの戦力分析のために見せ合ったりはするが、当面は避けたほうが良いだろう。
今の俺は『Lv.-21』。
攻撃力(ATK)の値は『-101』。
驚異のマイナス値を叩き出している。
力がマイナスになったら歩くことすら出来ないのではと思ったが、奇妙なことに不便はない。
それどころか身体は軽く、羽でも生えているかのようだった。
「月詠君、一体何があったんだい」
四人の中では比較的若い男の狩人がそう訊ねてくる。
深刻そうな表情からしてジンから触りくらいは聞いているのだろう。
「三十体以上のレッサー・ガウルに囲まれました。
管理所内での総数で言えばもっといると思いますが、一区画にあれだけ集中しているのは初めて見ました」
彼らの顔に驚きはない。ジンから聞いた内容とほぼ変わらなかったのだろう。
目配せをしあい、今度は中年の男の狩人が前に出る。
「…………月詠君、君はここの馴染みの顔だから知っていてほしいんだが。
実はここ半年、間引きの頻度が急激に上がっているんだ」
それは何となく感じていた。
だが、今年は気温が例年より高いとか、台風が多いとか。
そんな程度の認識でいたから、死を見るはめになった。
「ここは仮にも実戦の場だ。不測の事態は起こる。
だが、ここまで明らかな異常事態はあってはならない」
「臨時閉鎖、でしょうか」
「恐らくそうなるだろうね。
今回の報酬は振り込んでおくから、心配しなくて良い」
彼らとて暇ではないのだろう。
肩をぽんと叩かれ、一人は俺とジンの付き添い、残りの三人は恐らく現場の検証に当たるために森の奥へと入っていった。
レベルは俺達よりも高いことは間違いない。
遅れを取ることもないだろう。
「帰るか、ジン」
「だな」
時刻は夕暮れ時。
雲行きの怪しい空を見て、これからのことを考え憂鬱になりかけた。