3話 始まりの更に前へ
「げほッ、はっ、……流石に、ヤバいな」
敵を倒せば倒すほどに、俺は弱くなる。
剣は重いし、敵は速く、硬い。
今のレベルは8。『レッサー・ガウル』の基本レベルは9。
いつの間にか追い抜かれてしまっていることに笑いすら湧く。
当然レベルで負けているからと言って、一対一で劣るわけではない。
十五年間鍛え上げた剣術はステータスや異能と言った部分とは無関係に俺の戦闘力を底上げしてくれている。
だが、もう限界だった。
刀は血と脂で鈍り、足は震えている。
息切れも酷い。喉に張り付いた血反吐の隙間から無理矢理酸素を取り込んで、咳き込みながら息をする。
それでも斬れない刀で斬りつけて、そしてレベルを下げていく。
刀が折れた。五年は一緒にいた相棒みたいな物だったが遂には耐久限界のようだ。
レッサー・ガウルを二体倒した。
Lv.6。
左足を噛まれた。血が止まらず、最大体力が下がり体力も徐々に減っている。
折れた刀で殴り付けて、残った魔力全部を使って氷の魔法を放った。
レッサー・ガウルを四体倒した。
Lv.3。
獣の死体に足を滑らせた隙に肩を爪で裂かれた。
俺を死体だと勘違いして遠巻きに眺めていた鳥型の獣をぼろぼろの刀を投げ付けて殺した。
Lv.1。
「……はっ、はは。…………笑えるな」
強敵を倒せばレベルは上がりやすい。
逆に雑魚を倒しても経験値は大して貰えない。
このレベルダウンにもそれが影響してるんだろう。
俺のレベルが下がるにつれて獣を倒す度に減少する総獲得経験値の量は増えている。
物心ついた時には既にLv.3だった俺には、この数字は新鮮だった。
獣の数は一向に減らない。
俺の足は動かないし、刀は手元を離れた。
魔力は空で、体力は二桁。
次噛まれるか裂かれるかすれば死ぬ。
それをわかってか、獣たちももはや俺を警戒していなかった。
誰がどの部位を喰らうかでも話し合っているのだろうか。
やがて一頭がしゃがみこむ俺に飛び掛かってくる。
親父にはついぞ認められなかった。
妹には呆れられてばかりだった。
ジンには迷惑ばかりかけた。
虚しい人生だった。
だからこそ、最期くらいは。
「…………!タダで死ねるかよッ!」
隠しステータス、気力。
とは名ばかりでそんなものは存在しないが、隙だらけで餌にかぶりつこうとしていた狼の口の中に手を突っ込み殴り付ける。
クリティカルヒットの手応えだったが、掠めた牙が俺の少ない体力を削っていった。
出血による体力減少で瀕死状態になり、投影されるステータス画面の縁が赤く染まる。
血だまりの中で、俺は経験値を失う。
結局最期まで、俺の【異能】は機能しなかった。
レッサー・ガウルを一体倒した。
Lv.0