27話 攻略終了
魔力という世界に溢れだした奇蹟は、侵食現実から百年以上経った今でも完全な解析には至っていない。
なぜ人に寄り付くのか、なぜ人の想いに従い変質するのか。
なぜ発見されてしまったのか。
魔力構成体という反生物的な構造の獣。
『スライム』は今、静止していた。
凍りついたかのように、大きなものも、小さなものも皆一様に。
異能【終銀】。
(現在体力の90%を消費して、対象を絶冬に閉ざす)
世界を雪深い冬に誘うそれの正体は、使用者である俺には何となくだが理解できた。
エーテリウムの強制固定。
その運動量を零にし、流体から固体へと促す。
変質途中であった魔力はそのまま分子の運動停止を引き起こし凍結する。
氷塊を飛ばすだけの既存の氷魔法とは何もかもが違う。
命すら凍てつかせる零の異能。
もはやスライムたちは動かない。
こいつらは核を持たず、全てが魔力で構成された存在であるがゆえに、この異能が効きすぎてしまう。
引き寄せ合うはずの身体は停止し、流動的に動くことはもう出来ない。
「幽世殺しだな……」
仮に人相手に撃っても恐ろしいことになるだろう。
多くの人は魔力に馴染みすぎている。
身体に取り込み、あまつさえ肉体の補助として使っている狩人のような存在なら尚更だ。
異能の説明文に記載してある『現在体力の90%』とは、つまり使用者の魔力すら凍りつかせてしまうことではないだろうか。
魔力切れを引き起こし、身体機能に大きな悪影響が出ると仮定すればあながち間違いでもない。
でたらめな力だ。
神器と呼ばれる武具とはまた別の方向というか。
光の雨を降らせるとか、巨大な火球を放つとか。
そう言った類いの超常とはまた違う気がする。
「……どうすんだこいつら」
魔法的に凍りついてしまったスライムたちは未だに討伐判定にはなっていないらしい。
あちらから襲ってきたとは言え、このまま彫像にしておくのも少し忍びない気もする。
流体ではなくなった今なら介錯も可能だろう。
「斬るか」
全てを断つ力と、全ての奇蹟を殺す力。
不相応なまでの壊れた異能を手に入れた俺は何をするべきなのだろう。
世界でも救うのか、はたまた壊せばいいのか。
まあ、悩む前に答えは決まっていたが。
「全ては月詠家の安泰のために」
時刻は日付変わって午前一時。
眠気の一つも来ない狂った身体で、俺は天迷宮を後にした。
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月詠ハガネ(15)
Lv.-108(総獲得経験値-216855pt)
体力:0/0 魔力:0/0
攻撃力:-314
防御力:-41
魔法力:-52
俊敏性:-668
異能【夕断】
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