25話 感謝と
魔法が生まれるずっと前から存在する古い剣の家である月詠は、六つの型を基本とするよくある武門の内の一つである。
誰が何のために興したのか今では誰もわからない。
その剣の標榜は『ただ、斬ること』。
そのための全ての過程を修練で会得するために日々剣を振るう。
変わらず緩やかに降る雪の中で俺は刀を打ち付け合う。
生まれつき物覚えはあまり良い方ではなかったが、こと剣に関しては例外だった。
極限まで最適化された足運びは舞いに近い。
俺もそれをなぞりたくて、共に踊りたくて、跡を辿る。
初めてこの『ノーブル・スノウ』に一撃を見舞ってから、一体何時間経ったのだろう。
レベルでもステータスでもない。
人が本来持っている学習と経験による底上げによって、身体能力は変わらないままに俺はこいつと戦えるようになっている。
腕を打ち、脚を弾いてなお止まらない首無しの武者。
だが、何となくわかる。わかってしまう。
終わりが近い。
「…………まだだ。まだ、教わりたいことがある」
言っても仕方がないが、言いたくもなる。
もっとその剣を俺に。
「────g───a─i」
どこから音を発しているのか知らないが、ノーブル・スノウはたまにこうして慟哭する。
悲鳴なのか。雄叫びなのか。
その咆哮を皮切りに雰囲気が変わる。
最後の最期まで残していた秘奥の構え。
それは奇しくも俺が得意とする型と同じ。
月詠一刀、一閃・神鳴。
鞘に音無く刀を仕舞い、身体の開きと共に放つ居合の極致。
応えたい、俺も。
そう考えるよりも早く、鏡写しのように俺は構えていた。
あっちと違って鞘は無いがあまり気にはならない。
額に伝うのが溶けた雪なのか汗なのか。
同時に納刀したまま、銀世界の中心でその時を待つ。
杯に水滴を満たすような溜め。溢れたら終いだが、満たねば敗けだ。
呼吸も鼓動も忘れて、命すら手放しそうな程の静止を超えて。
俺はやっと剣を抜けた。
完全な同時。
だが、相討ちとはならなかった。
折れた剣が宙を舞って、遅れた衝撃が俺の胴体を叩き付ける。
呼吸が止まって受け身すら取れない中で、勝者が敗者にとどめを刺しに突貫してくる。
斬り上げの際に生まれる剛風で俺をふわりとかち上げ、腰を落とし突きの構えを見せる首無し武者。
その嫉妬すら湧く美しさは最期まで健在で、納得しかない。
「───俺の敗けだ」
その技の極みを見せてくれたことに感謝を。
それと、詫びを。
何のしがらみもなかったら、喜んでこの一撃を受け入れたと思う。
全力の更にその先を出し切って、なお届かないのならそれが全てだ。
だけど、一人だけ満足して死ねるほど一人で生きているわけじゃなかった。
俺が死んだら悲しむかもしれない顔が幾つか浮かんでしまうから。
「さよなら」
この勝負は俺の敗け。
必ずいつか追い付くから、今少しばかりの猶予をくれ。
高潔な淡雪へ、ありがとう。
【夕断】、発動。