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23話 外なる君

多分だが、ここは-3階。なのか?

白い鹿にどこかへと案内されながら俺は考えていた。

随分長い間落ちていた気もするし、天井もやたら高い。

吹き抜けのようになっていて幾つかの階層を飛ばした可能性もある。


そう言えばこの階層は妙に立体的というか、今までの階層のような味気無さは感じない。

おそらく四角だけで構成されていた地形から円と高低差が盛り込まれ始めたためだろう。


いよいよ迷路というよりは異世界感が強まっている。


「これは……、卒塔婆そとばか?」


得体の知れない文字が書かれた縦長の木片が辺りに突き立っている。

人工知能群かみさまたちは随分と変わった学習をしたらしい。

まあ確かにこの雪景色となら風情があっていいかもしれないが。


気付けば白い鹿はいなくなっていた。

いつの間に消えた? 見落としたなんてことあるだろうか。

しかし、もし仮にあの獣が何かへと俺を導いていたならば、ここがそう(・・)なのだろう。


辺りを警戒する。

持てる限りの力で索敵する。

水平方向には何も感じない。地中も同様だ。


ならば上。


「ちっ……!」


シンプルな攻撃。

すなわち幾千の刀が降り注いできた。

素直に食らうわけにもいかず、雪を踏み締め駆ける。

俺を追尾しているのか、走ってきた足跡を塗り潰すように降る剣の雨。


だが、何か違和感がある。

まるで避けてくださいと言わんばかりの追従速度。これは過去の獣狩りでも何度か感じたことがある。


設定行動システムモーション』、つまりは野生とか理性とかとは隔絶した、『決められた動き』だ。

嫌らしくなりすぎぬよう、さりとて簡単でもなく。

丁度いい具合(・・・・・・)の攻撃。


「…………アンタか、雪だるま」


手洗い歓迎。天迷宮仕掛け(ダンジョンギミック)なのかという疑念はその真白い雪塊を見て吹き飛んだ。


赤黒いオーラを放つ雪だるま。


こうもぽんぽんと遭遇できるものかと疑わしくもなるが、ステータス画面に表示されたやかましいポップアップを確認すればもはや間違いはない。


『ノーブルモンスター』、レアエネミーだ。

上階の『ロスト』のノーブル個体はただ固まるだけのエラーに近いものだったが、こいつは間違いなく機能している。


剣を降らせる能力か?

こいつを放っておけば人類は武器に困らないんじゃないか。

まあ剣がいくらあったとてド派手な魔法の撃ち合いの前では無力だが。


「…………何もしてこない?」


白い鹿が誘ったのは間違いなくこいつの戦場。

だが、挨拶代わりの剣の雨以降、三メートルはあろう顔の無い雪だるまは止まっている。


ノーブル個体の実装はやはり早かったのでは?

運営者かみさまに苦言を呈したくなるが、その前に一応あの雪だるまのステータスでも見てみよう。


───


ノーブル・スノウ


Lv.Ex


体力??/??、魔力??/??


───


「いーえっくす?」


どんな表記だ。

Exと言えば色んな英単語の略称になるが。

Example(例えば)?、Expert(達人)?、Excellent(優秀な)?


何の略だ? レベルに当たるExとは。


「とりあえず斬るか」


斬ればわかる。

単純明快、世の摂理。

割ってみなきゃ中身はわからないのだ。

トコハの曲剣はもう限界っぽいが、剣からすれば振られない方が苦痛だろう。


「その首(?)、貰ったァ!」


曲剣ゆえに袈裟斬り。

跳躍し雪塊の上から斜め下に斬り降ろす。


「───────a──8─m」


「っ! はあ!?」


雪を纏った部分までは刃が通ったが、その下の異常なまでの硬度の何かにぶち当たりついにトコハの曲剣は役目を終える。

空中で無防備にも隙を晒す俺。

死がよぎるその前に、爆発的な俊敏性が空中で異様な体幹制御を可能とし、間一髪で飛び退くことに成功する。


右手には刃が真ん中から折れた曲剣だったもの。

詫びではなく感謝を一瞬伝え、改めて状況の確認に移る。


それ(・・)はもはや、雪だるまではなかった。


「首無し、……武者」


纏っていた雪は全て落とされる。

それは人の形をしていた。

ただ、誰に斬り落とされたのか首から上は無い。

三メートルはあろう体躯に馬鹿デカい太刀を携えて、静かに構えていた。


その姿を見て、俺は固まっていた。



美しい(・・・)

そう思えて仕方がなかった。



何故だ?こんなもの所詮はただのプログラムの行き着いた先だろう?

人が何百何千年と積み重ねてきた研鑽の歴史が、こんなにあっさりと覆されていいのか?


「…………研鑽だと」


人工知能群は人だけを見てきた。

その思考も生活様式も、衣食住から繁殖対立調和崩壊。

それがもし、『剣豪』という設定を作るために活かされたら?


それは斬り上げだった。

シンプルに刃を下から上へ。

それだけで積もった雪は全てめくれ上がり、卒塔婆もどきを巻き込んで俺は吹き飛ばされていた。


階層主フロアマスターですよ!強力な攻撃に注意してください!』


おせえよポップアップ。

案の定というか、この首無し武者は階層主フロアマスター、つまりはボスだ。

そして、ただそれだけじゃない。


尋常ならざる赤黒いオーラ。

高貴などとはとても言えない、悪鬼羅刹が如し気迫。


「…………かみさま。設定、ミスってるよ」


階層主フロアマスターのノーブル個体。

やっとわかった。

こいつはLv.『Extra(番外)』。


今度は俺が雪まみれになって、いざ果たし果たされの死合いが始まった。


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