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2話 数値上の死

「クソッ!どっから湧いてくんだよこいつら!?」


級友であるジンの叫びはもっともだった。

今回の狩猟対象である『レッサー・ガウル』は繁殖力だけが取り柄の比較的弱い獣だ。

生態は既存のイヌ科の生物とそう大差なく、特殊な技能なども持っていない。

それゆえに学生や新米狩人が手慣らしとして挑むことが多く、強敵とはとても言い難い。

現に俺たちも狩り慣れた相手だった。


しかし、俺とジンは苦戦していた。

理由は明白、ただ単純に数が多すぎる。


「ジン、退くぞ!」


「合点!と言いてえが……」


ジンが大盾で一体を殴り飛ばした先には、木に背を預ける学生服の少女がいる。

意識は無さげで、放っておけば食われて終わりだろう。

なんと間の悪い。



「ジン、彼女を担いで────」



出入り口まで退いてくれ。

殿しんがりは俺が努める。


そう言いたかった。

だが、体力確認のためにふと横目に確認した自分のステータス。

その幾つかある項目の内の一つに奇妙な異常が発生していた。


総獲得経験値が目減りしている。


ついこの間十万という節目の値に達していたからこそ、すぐにわかってしまう。

今は九万と少し。

見間違えなどする筈もなく、混乱に呑まれかける。


総獲得経験値とは今まで倒した獣の数と種類に応じて積み重なる数値だ。

増え続けこそすれ減ることなどまずあり得ない。


「…………斬る!」


戦場で迷っている暇はなく、飛びかかってきた黒く体格の良い狼を斬り伏せる。

単調な動きだ。今までも幾度も見たものゆえに避けるのも切り返すのも難しくはない。

決して偽物ではない肉を切り骨を断つ感触。


その時、急に剣が重くなったような気がした。


脂汗が滲み出る。

嫌な予感しかしないままに、開きっぱなしのステータスを視界端に捉えれば、そこには『Lv.17』の表示があった。


ここに来るまで、俺は『Lv.18』だった筈だ。

同年代の平均より少しだけ高い程度のよくある平凡なステータス。

もうすぐ上がるかもしれないと少しばかりの期待をして、また剣が更に軽く感じるようになることに胸を踊らせていた。


「…………ガネ!……おい、ハガネ!」


「……っ! ごめん! なんだ、ジン!?」


レベルが下がっている(・・・・・・・・・・)。そんな異常な事態を前に亡失していたが、ジンの声になんとか我に返る。


「俺が引き付けっから、その間に──」


ジンの言いたいことはわかる。

だが、大盾で自分と味方を守りつつ戦うジンのような盾持ち(ガードナー)は単身で囲まれた時に滅法弱い。

俺のような回避主体の剣担ぎ(アタッカー)の方がこれだけ囲まれている際の囮には向いている。


「わかってるだろ、ジン。

その役目は俺がやった方が成功率が高い!」


「いや、だがよ……。あー、クソッ!

わかったよ!」


無駄なやり取りはしない。流石に何年も共にいるだけあってジンの行動は早かった。

よく見れば頭部から血を流している学生服の少女を担ぎ上げ、俺がわざとらしく剣を振るっている間に戦線を離脱する。

何頭かはジンの背を追って行ってしまったが、あれだけなら何とかなるだろう。

問題はこっちだ。


「……十や二十じゃないな。

どこまで持つか」


威嚇の唸り声がそこかしこから聴こえる。

今の攻防でレベルは15まで下がっている。

力は無くなり、速さは消え、魔力と体力までもが減っている。

死がそこまで迫っていた。




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