16話 その敵、雑魚につき
不明な点が多い竜はともかく、陸型獣は水棲型獣よりも解析が進んでいる。
既存種の多くは体系化とまではいかなくとも分類に分けられており、狩人向けの獣図鑑も発行されている。
俺もざっと目を通したことはあるが、『昆虫型』はそれなりにいたはずだが、蜘蛛のような節足動物なんていたか?
「とりあえず確認するか」
ステータスを開き、リストの切り替えを行い蜘蛛型の獣のステータスを確認する。
人間相手にこのシステムは働かない。
あくまで魔力由来のステータスが設定された獣相手だけ、未討伐でも無許可での一部ステータスの閲覧が可能だ。
ええと、なんだ。
「名称『ロスト』、レベル144」
ロストとは何ともシンプルな名前だ。
レベルは144。
「ひゃくよんじゅうよん???」
レベルが100で統一されている竜はともかく、獣のレベル上限は『果ての獣』の99だったはずだ。
それをゆうに超える三桁の大台。
それに『ロスト』という名称もしっくり来ない。
大概の獣は系統分けされており、例えば狼型であれば◯◯・ガウルと共通する属名のようなものが設定されている。
だがこいつは何だ?
常識が音を立てて崩れていく。
そんな俺にお構いなしに、ロストと名称付けられたその蜘蛛は飛びかかってきた。
いや、飛びかかり終わっていた。
「なっ!? いっ、つぅ……!」
生まれつき目は良い方だったゆえに、何をされたのかわかった。
ただ飛び掛かり、第一歩脚で正面から叩かれた。
それだけで無様にも十メートル以上吹き飛ばされ、頭を咄嗟に庇った右手は痺れを覚えている。
あのふざけたレベルは飾りじゃない。
だが、到底勝てないという程の実力差は感じない。
「お前を殺したら、どれだけレベルが下がるんだろうな」
【夕断】は最後の手段。
幸いにも武器はある。
身体は動くし、意識も冴えている。
既存の高レベルの常識を覆す三桁レベルの獣。
こんなものが地上に出てしまえば混乱は免れない。
「月詠のために、死んでくれ」
雑魚敵(レベル144)との死闘がこうして始まった。