13話 秘匿には隠匿を
俺に陰形の心得は無い。
常葉陸型獣管理所への侵入は容易かったものの、内部がどうなっているかはまだわからない以上、大手を振って歩くわけにも行かない。
気配を探り隠れ息を殺し進む。
なぜ俺がこうして違法侵入による罰則と獣の襲撃の可能性という危険を犯してまでこんな場所にいるのか。
それはひとえに月詠家のため。
というだけではなかった。
「うーん、もう一度ここに来れば俺のレベルダウンが直るかと淡い期待はしていたが」
今の俺のレベルは『-22』だ。
こんなもの人に見せたら面倒どころか相当な騒ぎになる。
そして狩人学校に通っている以上、いつまでも隠し通せるとは思っていない。
確かにレベル0を下回ったことで使える力も増えたが、もし可能なら元に戻してほしいというのが本音だった。
とは言ってもそう甘くはなく、何か変わった気配はない。
ならばもう一つの野暮用、『獣の異常繁殖の真相』でも探ろうか。
「って、あれ?封鎖されてる」
常葉陸型獣管理所は確かに閉鎖されているが、更にその内部の一部区画が臨時のバリケードとキープアウトを意味する黒テープで囲われている。
きな臭い。
「……匂いすぎだろ」
何かがここで起きている。
そして今、きな臭さと同時に、単純に臭い。
これは獣の臭いだ。
封鎖された中から木々を縫って現れる下級陸型獣『レッサー・ガウル』の群れ。
臨戦態勢バッチリで俺を睨んでいる。
今の俺は無手。剣も何も持っちゃいない。
「これ以上レベルを下げたくないんだが……」
致し方ない。
斬ろう。
そう考えた時には既に【夕断】は展開され、斬撃の雨が獣を襲った。