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12話 護る者たち

一項目は戦闘基礎。

などという物騒な銘を打たれてはいるものの、実際は獣相手の作業対処や逃げ方の指南だ。

実戦は実戦でしか学べない、とまで言う気は無くとも、学校の方針としてはやはり生存第一が主眼なんだろう。


殺したきゃ勝手に殺せ。

ただし死ぬな。

よく考えればとても無茶を言っている。

殺すんだから殺されるだろうし。


二項目は物理基礎。

魔法によって生み出された火やら風やら水やらは、魔力エーテリウムの状態から使用者の意思ねがいによって変質し放射される。

当然その放たれたものは既に魔力から実際の火や風に変わっているわけで、戦闘状況の対処のためには物理物質方面の知識もにわか程度に必要となっている。


三項目、昼食を挟んで四項目と終わり、気付けば下校の時間だ。


「どうする、ハガネ? たまには『神田』辺りまで遠征するか?」


ジンの誘いは狩りについてのもので間違いないだろう。

死にかけた昨日の今日で懲りないとセラ辺りが真実を知れば怒りそうだが、一度起きたことはそうそう起きないだろう。

あいにくと引っ越しや何やらで金欠気味だし(月詠家にあまり金を負担させたくない)、懐を暖めるのも悪くない。

だから俺は答える。


「ごめん、ジン。

今日は家のことで手一杯なんだ」


「あー、それもそうだな。

んじゃ、次はお前から誘ってくれよ」


「了解」


爽やかと男臭さの半々の笑みは非常に頼もしい。

護国十一家という面倒くさそうな身柄の俺に長年添ってくれてるだけあって、こういう時のジンはやはり大人びてる。

ありがたい。


廊下に出て玄関を過ぎた辺り。

三月の緩い日差しを受けて銀髪が輝いていた。

無視するか悩み、どうせ捕まると悟って自分から話しかける。


「セラ、日焼けするぞ」


「『常葉陸型獣管理所』で何があったの」


俺の気さくな挨拶は無視された。


「言えることなら言ってるって。

それもわかってて俺を締め上げても何も出ないぞ」


「昨日私の家に『守護依頼』が届いたの。

姉様が夜番で向かった先は常葉だった。

しかもS級で固めた完全兵装で」


守護の一族は護国十一家と同じく強大な組織力と魔法戦闘力を備えた名家ではあるものの、俺の実家である月詠家ほど責務に追われているわけではない。

そのため民間では手に追えない案件が発生した際に、窓口を通して『守護依頼』が通知されることがある。


「姉様が呼ばれるほどの事態、どう考えても普通じゃない。

だから……」


「だから……?」


「危険を感じたらすぐ逃げなさい」


それだけ言ってセラは正門へと向かってしまう。

その顔は見えなかったが、あえて覚られないようにそうしていたのかもしれない。


「セラ」


だからつい呼び止めた。

申し訳無さからつい。


「ありがとう。今度ケーキでも奢るから」


振り向いたその顔には驚きと、それから呆れた笑い。

罪悪感も多少は薄れようものだった。


本当は感謝ではなく、謝罪を言いたかった。

あそこまで心配させて、更にこれから不義理を働くのだから。


俺が向かったのは常葉市の森林保護区。

ここは獣管理所に隣接するように森が広がり、手入れ損なった木は好き放題伸び実っている。


常葉森林保護区の入り口は一ヶ所であるものの、監視カメラも警備員もそれほど数がない。

脇道から侵入し首に巻いた『Next』で方位を確認しながら目当ての場所へと進む。


「……あった」


それは常葉陸型獣管理所の十メートルはあろう五重の分厚い鉄柵だった。

広大と言って差し支えない管理所全てを囲い込むこの柵は、要塞とも呼べるだろう。

獣は漏れ出さず、半端な魔法であれば鉄による魔力エーテリウムの半減機能が働きそうやすやすと壊れることはない。


「【夕断ゆうだち】」


木々と枝葉に隠されたこの場所は、侵入にはうってつけだ。

異能を以てドアを斬り出すように鉄柵を断つ。


一度起きたことはそうそう起きない。

だが、起きた、ではなく起きている(・・・・・)だとして、今はまだ渦中の最中であるとしたら。

月詠家の膝元であるこの旧都東京、本家の隣市であるこの常葉で何かを企てている者がいるとしたら。


月詠つくよみの障害になるのなら」


何であろうと、誰であろうと。

斬るしかない。

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