10話 疲れすら失って
やはり剣が軽い。
マイナスとなった攻撃力値は一体どういう扱いなのだろうか。
そもそもがバグのような表記であり、絶対値だけを参照しているのならこれから先レベルが下がりマイナス値が膨れ上がるほどに膂力が上がることになる。
そんな都合の良いこと、ある筈がない。
必ずどこかで不条理は湧いて出る。
思考に没頭しながらも構えて斬ってを繰り返す。
広い自室なれど動きは小さく、最小限で斬り結ぶ。
【夕断】は確かに強力無比な異能ではあるが、いつ変質して使い物にならなくなるかわかったものじゃない。
結局いつだって自力が全てだ。
一時間、型を繰り返して異変を覚える。
息が乱れない。汗一つかかない。
休憩すら忘れて没頭していたが、今までこんなことは一度だって無かった。
「…………死にながら生きてる弊害、か」
最大体力が0で固定された存在。
人や獣が腕や足を欠損した場合はステータスに表示される最大体力は大きく減少する。
ただの体力減少ではなく、失った部位が戻るまでそれは永続的に続く。
なら、最大体力が0の俺は何を失ったのだろう。
腕や足を飛ばされたら、どうなるのだろう。
自分の手首をじっと見つめていれば、視界に一本の線が生まれる。
【夕断】には際限が存在しない。
恐らく簡単に断てるだろう。
「………………やめだ、やめ」
結局この日は日が昇るまで自室で木刀を振るい続けた。
息一つ乱さず、生物らしさを忘れて。