お着替え
昨日はましろの家で『パチモン』に熱中してしまい、家に帰ったのが21時頃になってしまった。不良たちとの戦闘や、ゲームの疲れのせいか帰宅後にすぐ寝てしまい、気が付けば朝になっていた。
戦闘と言えば、ボロボロになった制服の修理依頼を出さなければならない。ただ嬉しいことに、制服の修理費用は無料である。政府が高校へ魔物の討伐依頼を頼む代わりに、制服などの修理費は全て免除してくれることになっているらしい。
超能力者高校に通う生徒は戦闘が頻発するため、制服の予備を何着か持つことを推奨としている。俺も予備は持っているのでボロボロの制服を着て登校という事態は避けられた。
寝ぼけながら昨日のこと、これからのことを考えていた俺は寝癖の付いた髪を梳かし、いつものように後ろ髪を二つに縛る。
それから、学校へ行く準備を整えた俺は頭が覚醒したことで、あることを思い出しため息をついた。
(憂鬱です…)
今日は健康診断の日だった。
◇◇
重い足取りで何とか無事に学校へ着いた俺は教室内に入る。クラス内にはもう半数以上の人がおり、めぐみんやましろももう来ていた。
「ひよりん!おっはよー」
「あ、めぐみん。おはようございます…」
「元気ないね?今日も一日頑張ろう? えい!えい!おー!」
めぐみんの激励に作り笑いを浮かべ、俺も「おー」と叫ぶ。
ここで俺が『やるぜーやるぜー』と気合を入れていたら、男だと知っているましろから見れば、今日行われる健康診断の覗きを『やるぜーやるぜー』と意気込んでいると思われてしまう。断じてそんなことはしない。
ちらりとましろの方を見ると、彼女は最前列の席に座っており、目が合った。そして、紙に何か書き込み、ぐちゃぐちゃと丸めてこちらへ投げた。
俺の身体に当たって床に落ちた紙を拾い、広げてみてみると『どうせ、やるぜー』と書かれていた。どうやら俺の評価は覗きを行う変態露出魔らしい。
「ひよりん?何その顔。可愛い~。あ、そういえば、今日は健康診断だね。ひよりんの下着は何色かな?ぐへへ。見せ合いっこしようね」
ましろへ疑念を晴らしに行きたかったのだが、めぐみんのおしゃべりが止まらなかったので、誤解を解くことを諦めた。あと、ここに正々堂々覗く宣言している子がいます。
めぐみんと雑談をしていると、ぼちぼちとクラスメイトが教室へ入ってきた。
入学式と比べると教室内は賑わっており、個々のグループに分かれて会話を楽しんでいる様子が窺える。
そんな活発なクラスに、小金井君が教壇に上り、教卓に手を叩きつけて全員の注目を集めた。
「どうしてだい?どうして誰もぼくに告白してこないんだ。ぼくは昨日の夜20時まで待っていたんだよ?なのに、誰一人として告白してこない。そこでぼくは思った。シャイなレディー達だから声を掛けづらかったんだとね。納得が言ったよ。だからぼくは謝罪の意味も込めてレディー達に僕のハーレム候補としての推薦状を送ろうと思う。まさか、僕に捨てられることを恐れているのかい?安心したまえ。僕がそんなことをする人間ではない。むしろ、その逆さ。紳士的なぼくに惚れても僕が許すよ」
クラス中のみんなは彼の演説を聞いても意味ないと思ったのか、再び話し合いを始めた。
小金井君はクラスメイトたちが聞く耳を持たないことに気づき、荒々しく声を出すけれど、誰も反応しないため諦めて席についた。
「刹那君。おつかれさま」
「き、きみは、伊藤君だったかな?こんな情けない姿を晒してしまい僕は恥ずかしいよ。ぼくはね。どうしてもハーレム王になりたいんだ…。おや?よく見ると君も可愛い顔をしているね?女がだめなら男でも…。いや、何を考えているんだぼくは。このぼくが!男を好きになっていいわけがない」
小金井君を慰める伊藤君。流石勇者の末裔。気遣いができるいい男だ。そんな優しい彼に一瞬でも心が揺らいだ小金井君は本当に残念イケメンだ。
「そういえばその腕の怪我どうしたの?」
「これかい?校門前に誰だか知らないがバナナの皮を捨てたやつがいてね。まんまと罠に引っかかってしまったよ。だが安心したまえ。傷は浅い。怪我をしたのが僕でよかったよ」
(バナナの皮…。どこかでみたような気がします…。思い出せません…)
まあ、バナナの皮なんてありふれた物だし、見かけることなんてよくあることだよな。
◇◇
健康診断はお医者さんが診察しやすいように体操服に着替えて行われる。
健康診断を受けるため、クラスの女子たちと一緒に女子更衣室に入った。
「ひよりん?そんな隅っこにいないでこっちにきなよ」
「い、いえ。わたしは大丈夫です…」
「恥ずかしがることないって。女の子しかいないんだよ?」
むしろ恥ずかしがってください。ここに男の子がいるので。とは言えず、目を逸らしたままめぐみんのほうへ向かった。
「はぅ…」
「もう。しょうがないなあ。ひよりんのために恥ずかしくならないおまじないをかけてあげるね。えいっ」
めぐみんは俺の背後に回り、後ろから俺の胸を鷲掴みした。
「ここがええんか?それそれー」
「ちょ、めぐみん?ぃや。んっ。やめてくださいっ!」
「お?ひよりんもなかなか大きいね。揉み心地が素晴らしい!」
「おっさんみたいなこと言ってないで、やめっ…」
必死に抵抗してなんとか悪魔の手から逃げ出す。
「あーあ。逃げられちゃった。あ、そうだ、ひよりんもうちみたいに、スカートの下にズボンを履いてくれば恥ずかしくないよ」
「スカートの下にズボン…?」
その発想はなかった。予め、家で運動着を身に着けその上から制服を着れば女子更衣室を使わなくてもよかったのではないだろうか。
「そうそう。こんな風に」
めぐみんがスカートを捲し上げると、赤の下着が見えて…
「って、ズボン履いてないじゃないですか…!」
「あはは。ひよりん男っぽい反応するんだもん。うけるー。それに、見せ合いっこする約束でしょ?」
男っぽいんじゃない。男なんです。それにそんな約束をした覚えはありません。
不意に下着を見せられたことで顔を真っ赤にする俺をめぐみんは揶揄った。
「遊んでないで早く着替えたら?」
ゲラゲラ笑うめぐみんに下着姿のましろが注意をしにきた。
「神田っち!黒の下着大人っぽいね。似合っているよ。さてさて、それではメインディッシュのひよりんはどんな下着を着ているのかな~?」
めぐみんの発言に女子たち全員が俺に注目してくる。こんな状況で着替えろと…?
「ひより。早くしなさい。遅れるわよ」
半分全裸の彼女に催促されるのだが、一言だけ言わせてくれ。ましろは俺が男だと知っているんだよな?羞恥心はないのか。
「別に黒人になら見られても平気だもの…」
俺にしか聞こえない声量でつぶやく彼女に男としてみられてないんだなって思った。