不良たち
教室を出た俺たちはお腹も空いたことだし、下校途中にファミレスに寄り、一緒にごはんを食べることにした。
無駄に広い校舎のせいで、下駄箱まで向かうのに多少時間がかかった。
下駄箱の前に立ち、靴を履き替えようとすると、
「あら?ごみがついているわよ」
俺の上履きにゴミが付いていると勘違いしたましろさんは、俺が朝に貼った絆創膏を剥がした。上履きの天面に書かれた『ひより』が露わになる。
「こ、これは…間違えて…」
恥ずかしいあまり逃げ出したくなるのをぐっとこらえた俺にましろさんは思考を読み取ったのか、
「はぁ。そんなことで悩んでいるの?」
と言って、彼女は鞄から油性ペンを取り出し、まだ何も書かれていない自分の上履きに『ましろ』と記入した。
「これでお揃いでしょ?」
「ましろさん…」
「ほら、さっさと行きましょう」
友達の気遣いに感謝しつつ、彼女に促されるまま校舎外へ出た。
しばらく歩いていると校門にたどり着いたのだが、そこには柄の悪そうな3人組がいた。
「あ、親分。あいつでっせ」
「ほぉ。こいつは上玉だ。ずっと待っていた甲斐があったな」
「やっぱりまだいたでやんすね」
明らかにこちらを見てゲスい顔で話し合っている不良たち。
「おい。そこの女。こっちこい」
親分と呼ばれていたモヒカンの大男が大声で叫ぶと、俺は完全に委縮してしまい動くことができない。
(怖いですぅ)
ましろさんの裾を軽くつまみ、彼女の背に隠れた。
ましろさんは男らしく俺の前に立ち、
「何の用かしら?」
不良たちに質問した。
「なぁに。ちっとばかし俺様たちと遊ぼうぜって話よ」
「おとなしくしていれば痛い目は見ないで済みまっせ」
「下衆が…」
近寄る男たちに悪態をつくましろさん。彼女はどうやら3人の思考を読み取ったみたいで表情をみればよくないことがわかった。
「ひより。あなたは逃げなさい。目的はあなたよ」
「で、でも…」
「あなたが逃げればやつらも諦めて帰るはずよ。私が時間を稼ぐから。早く!」
「…わかりましたっ」
俺は動かない足をどうにかコントロールし、校門に向かって走るが子分たち二人がこちらの行く手を遮った。
「いかせないでっせ。『バブルボム』」
子分Aが俺に手を翳し、手から泡が現れる。こいつら、超能力者か…!
泡がこちらに飛んできたので躱したが、その直後に泡から爆風が起きた。
「はぅ。 うぅ…」
吹き飛んだ俺は地面に叩きつけられ、すぐに立ち上がろうとすると、次は子分Bが能力を発動させる。
「とっとと諦めるでやんすよ。『ランダムトラップ』」
彼が能力を使用すると彼の足元には神々しい光を放つ物体が現れた。
―地面にはバナナの皮が設置されていた。
「は、外れでやんす…」
どうやら思っていたのと違うものが出現したらしい。今が逃げるチャンスだ。
「おい!お前ら!その女は逃がすんじゃねえぞ」
「はいでっせ」
「やんすぅ」
親分に喝を入れられ、俺に襲い掛かる。
『解放』
俺は身体能力を向上させ、追ってくる男たちに攻撃をしかける。
「えいっ」
ポスッ
子分Bの身体に俺のパンチがクリティカルヒットするが全く微動だにしない。今、解放使っているよな?使っていてこの程度かよ…。
微弱な力がいくら向上したとしても微弱なのには変わらなかった。
攻撃がダメなら逃げに徹しようとするが、
「捕まえたでやんす」
子分Bに拘束されてしまった…。
「は、離してください!」
俺は抵抗するが子猫が暴れる程度なので子分Bにとってはなんてことはない。
「ひより!」
ましろさんは俺が捕まったことを察知すると、軽い身のこなしでこちらにやってきて、子分Bに蹴りをかます。
蹴られた子分Bは咄嗟の衝撃に俺の拘束を解いた。
「『超加速』」
子分たちでは任せられないと判断したのか親分は凄まじい速度でこちらにやってきて、俺の目の前に立つ。
(ひぃいい。怖いです…)
子分たちを相手にするのは恐怖を感じなかった。でも、親分に関しては巨漢なため、怯えてしまう。
親分の手が俺に迫ってくるが、ましろさんが平手打ちで受け流す。
「早く逃げなさい!」
俺がいても足手まといにしかならないのでましろさんに頷き、すぐに逃げる。
不良たちは3人がかりで邪魔をしようとしてくるが、それをましろさんが遮った。
(ましろさん、強いです…)
心が読める彼女は、相手の行動を事前に把握することでそれに合わせた動きを取ることができる。それに彼女の徒手格闘も優れている。さすが1クラス。俺とは大違いだ。
ましろさんのおかげで俺は逃げ切ることに成功し、物陰から彼女たちの様子を伺った。
俺が目的であり、彼らは早々に諦めてくれるのかと思ったけど、戦いはまだ続いている。
次第に、ましろさんが劣勢になっていき、ついには彼女が力尽き、親分に腕を掴まれてしまった。
(ど、どうして…)
彼女は心を読むことができる。だから、俺が逃げれば敵が諦めるという言葉を信じて逃げたわけだが、不良たちはましろさんを捕まえ連れ去ろうとしている。
(誰か助けを呼ばないと…)
ただ、今の時間だと俺たち以外に人はいなかった。
(け、警察に電話しなきゃ)
スマホを取り出し110番を押す。しかし、警察が来る前にましろさんは連れ去られてしまうだろう。
(わたしが、何とかしなきゃ…)
黒人の姿なら、あいつらに対抗できるだろう。でも、この力は学校生活では使わないと決めていたし、能力を誰かに見られたくない。
だからといって、友達が危ない目に合うかもしれないのに何もせずに黙ってみているだけなんて俺にはできない。
「解放」
男の姿に戻った俺は時間がなかったため服を脱がずに能力を使った。そのため、身体が大きくなることで服はピチピチだし、Yシャツのボタンは全てはじけ飛んだ。
親分に向かって俺は走った。ひよりのときは1分かけて走った距離もこの身体だと1秒もかからない。
「あ?」
急に俺が視界に現れて驚いた親分。すかさず俺は、ましろさんの腕を掴んでいる親分の手に手刀を入れる。
親分がましろさんを手放す間、俺は子分たちに近づき、彼らの額にデコピンした。
衝撃を受けた子分たちはそのまま後方に吹っ飛び泡を吹いていた。
親分がましろさんから手を離したことを確認した俺は、彼女をお姫様抱っこし距離を取る。
「だ、誰だ。お前は」
「俺か?俺は…」
彼女を抱えたまま親分に接近し、彼の溝内に殴りかかった。
「変態露出魔だよ…!」
言葉と拳、どちらが先に親分に届いたかはわからないが、拳が当たった瞬間に彼が『くの字』になって後ろにあった壁へ激突し、気絶した。
「黒人…」
「悪いな。最初からこうすればよかった」
「ううん。私は大丈夫。それから、ありがとう。助かったわ。変態露出魔さん」
今の俺は男が無理に女子制服を着ている恰好だ。端から見たら変態だと思われるだろう。でも、事情を知っている彼女には変態露出魔だと言われたくない。
「いや、俺の方も助かった。ありがとう」
ニカっと笑う俺に対して、彼女は俺の胸に顔をうずめた。
「やっぱり、私は黒人のことが…好き」
俺の胸元でましろさんは何か囁いているが俺には聞こえなかった。彼女みたいに心を読める能力があれば聞こえなくても理解できるだろうが俺にはそんな能力はない。
「ましろさん?どうかしたか?」
「いいえ。別に。それより、その『ましろさん』って言うのやめてもらってもいい? 今度からは『ましろ』って呼んで」
「…わかったよ。ましろ。でもひよりのときは今まで通り『ましろさん』って呼ぶと思うけど…」
「それでいいわよ。むしろそのほうがいいわ。あと、そろそろ降ろしてくれる?」
ずっとましろをお姫様抱っこしていたので流石に彼女も恥ずかしくなったのか顔を赤くして俺に要求してきた。
「さて、結構遅くなってしまったが、ご飯食べに行くか」
「そうね」
ましろを降ろした俺は学校に設置された時計を見る。時刻は3時半。昼食にしては遅すぎて、夜食にしては早すぎる中途半端な時間だ。
「貯蓄」
このままの恰好でファミレスに向かったらガチの変態露出魔になってしまうので女の姿に戻る。ただ、女の姿に戻ったところで、
「は、はぅ。服がボロボロですぅ」
男に戻ったことでYシャツにボタンが弾け飛びなくなっている。服もところどころ破けていたことに気が付いた。
「なら、ファミレスはやめてうちに来る?ここから近いし何か作るわよ」
ましろの提案を受け入れた俺は、素肌がさらされないようにボロボロになった服で何とか隠し、ましろの家に向かったのだった。
明日投稿できないかもしれません。申し訳ございません。




