クラスメイト
「次、神崎ひより」
「ん…。ふぇ? はっ!」
急に二階堂先生に呼ばれてびっくりした。あれ?入学式は?たしか、校長先生の話を聞いていて、急に眠気が…。もしかして爆睡しちゃった!?
口元に涎がついていたので間違えなく寝ていた。
(ど、どうしよう…なんで呼ばれたのかわからないです…)
なんて返事をしていいかわからなかった俺は早く何か言わなきゃいけない雰囲気だったので自分の直感を信じて先生に言う。
「さ、さようなら~」
きっと先生はもうHRが終わったのに俺が寝ていたので起こしてくれたに違いない。とても素晴らしい先生だ。
先生にお別れを告げて帰ろうとする。
「っぷ。もう無理。あはははははっ」
隣を振り向くと、ぷるぷる震えていためぐみんがいきなり大爆笑した。それをきっかけにクラス中が爆笑の渦に巻き込まれた。
「あ。ほえ?め、めぐみん?」
「っぷ」
絶対寝ていたことを知っていて起こさなかったであろうめぐみん。俺の顔を見るなり噴き出しているので睨みつけた。
「いや~。ごめん、ごめん。あまりにも可愛かったから起こさないほうがいいかなって~」
めぐみんの発言に男子生徒も便乗する。
「神崎さんの寝顔カメラに収めたかった」
「天使の寝顔は天使だった」
「怒った顔も可愛い」
「一緒に寝たい」
(うぅ…。登校初日からやらかしちゃったよぉ。今何する時間なの?誰か教えてぇ~)
俺が目に涙を浮かべてオドオドしていると、入学式前に俺のことをずっと見ていた白髪の女の子が立ち上がった。
「それで、自己紹介は終わった?次、わたしなのだけど?」
「じ、自己紹介…。ま、まだですぅ」
なるほど。今は自己紹介する時間だったのか。それなのに俺は帰ろうとしていたのだから笑われてもしかたがない。
白髪の女の子は俺の言葉を聞くと席に座った。
場も静かになったことで、改めて自己紹介を始める。
「ぐすん。か、神崎ひよりって言います。皆さんと仲良く、楽しい学校生活を送れたらいいなって思っています。よろしくおねがいします」
「神崎ひよりってあの、『パチモンの…』」
「絶対絵盛っていると思ったけどあの可愛さなら納得だわ」
「今日宝くじ買えば当たるかも…。そして今度こそ絶対『ひよりちゃん』を出すんだ…」
「まさか、あの『ひよりちゃん』ご本人がうちのクラスにいるとは」
「え…」
『パチモン』のガチャに俺が新キャラとして出たのは知っていたけど、ここまでの知名度があるとは思ってもみなかったので、驚きを隠せなかった。
「もしかしてひよりん。自分の置かれている状況理解していない?ほらこれ見て」
めぐみんがスマホを俺に見せると、画面にはネットニュース速報と書かれており、タイトルには『神崎ひより降臨』と載っていた。
「SNSのトレンドも1位だよ?」
「そうなんだ…」
他人事のように言う俺にめぐみんはやれやれといった感じで顔を横に振る。
「さて、時間も押しているし、神崎。もう終わりでいいよな?」
「あ、はぃ…」
俺に結構尺を使ってしまったみたいで申し訳ない。
「次、神田ましろ」
「はい」
先ほど戸惑っていた俺に助け舟(自己紹介ということを)を出してくれた白髪の子だ。神田ましろっていうのか。髪色に似合った名前だなと思った。
(あとでお礼を言わないと…)
「神田ましろです。よろしくおねがいします」
彼女は名前だけ言うとお辞儀をして席に座る。
(どんな人かいまいちわからなかったです。でも悪い人ではなさそう)
その後の自己紹介は順調に進み、めぐみんの番が回ってきた。
「桃園めぐみです。趣味はひよりんの鑑賞でーす♪みんなよろしくね~」
今日知り合った人の鑑賞が趣味っていい趣味しているな。もちろん悪い意味で。
めぐみんのおふざけからみんなが似たような感じの紹介をし始めた。
「俺はひよりちゃんに足で踏まれるのが趣味の変態紳士です!」
「わたしは神崎さんに付きまとうのが趣味のストーキング能力者です」
「おれは、ハァハァ。ひより…ハァハァ」
二階堂先生は止めに入らないのかな。みんな調子に乗って雑な自己紹介になってきている。ただ、クラスの雰囲気はよくなったのだと思う。俺をダシに使ったおかげでね…。
あと、今発言したやつ!お前はひよりじゃないだろ。
「次、小金井刹那」
「やっと僕の出番が来たようだね。僕の名前は小金井刹那。ぼくには誰にも言っていない秘密があるんだ…」
深刻な顔で話す小金井君に先ほどまで大騒ぎしていたクラスメイトたちは黙り込んだ。
森閑とした教室で彼が口を動かす。
「ぼくは…… 美しい!!」
(…は?)
「神崎さんのような可愛らしい女性がいたとしても、ぼくは、美しい!!」
たしかに、彼は西洋風の顔立ちをしており、ブロンドヘアがよく似合っていて見た目だけで言うならば、かっこいい。
ただ、その見た目を自分から吹き散らすその姿がカッコ悪すぎだ。
「ちなみに、この僕でさえ!この僕でさえ今まで彼女がいたことはない。だから絶賛彼女を大募集している。女性陣のみんな。今後、僕のハーレムに加わりたい人はいるかな?ああ、待ちたまえ。そう急がなくても僕は逃げたりはしないさ。そうだな。放課後。君たちの想いをこの僕に!聞かせてはくれないだろうか?」
どこから持ってきたのかわからないが、小金井君は一輪の赤バラを口に銜えていた。
クラスメイト(先生も含む)全員がドン引きしていた。
(すごいキャラが濃い人ですね…)
小金井君の恋人には死んでもなりたくないが、その存在感というか、メンタルの強さには恐れ入る。
「まあ僕の素晴らしさをまだ理解していない人がいると思うから…」
「あー。小金井。悪いがその辺にしてもらえるか?」
「先生。男の嫉妬は見苦しいですよ?でもそうですね。早めに放課後になればその分早く彼女ができますし、今日はこの辺にしておきましょう」
小金井君が席に着くと、先生は不服そうにしていたが、彼の発言を促した。
「次、北条鈴音」
「はいですわ。わたくし。北条鈴音と申しますの。呼び方は好きになさってくださいまし。わたくし、ガチ百合ですの。男には興味ないのでこないでくださいませ」
彼女は赤髪を縦ロールに巻いていて、口調でも見た目でもお嬢様といった感じだ。
「次、伊藤鳴海」
「はい!ボクの名前は伊藤鳴海です。よろしくお願いします。初めに言っておきますと、ボクは『勇者の末裔』ですが、魔物を前にすると足が竦んでしまって、戦うことができません。そんな自分を変えたくてこの学校へ入学しました」
『勇者』とは、大昔に起こった大規模な災害を1人で解決した人物だ。災害の元となったのは未だかつていない強さの魔物で、別名『魔王』と言い伝えられている。
勇者と魔王の戦いに関する文献は俺も読んだことがあるが、相打ちとなったと記されていたはずだ。そのため、末裔がいることに驚いた。
「あと、よく女の子と間違われますが、男です。あはは。よろしくお願いします」
伊藤君の顔立ちは中性的で童顔でもあるので女の子に見える。髪も黒色のセミロングのため尚更勘違いが生まれることだろう。
(親近感沸きますね…)
超能力で女になって通っている俺と元から女の子に見える彼。立場は違うけど、お互い何か感じあえるものがあるはずだ。伊藤君とは仲良くなれそうだな。
「さて、これで自己紹介は終わりだな。あとは明日のスケジュールをざっくり話して終わろうと思う。その前に改めて言おう。超能力高等学校へようこそ。みんな学業に励んでくれ。じゃあ、早速明日についてだが健康診断を行う」
「け、健康診断…」
今は女の姿とはいえ、クラスメイトの女子たちと一緒に健康診断を受けるのはいろいろとまずい…。
人によっては何の障害もなく女性の生着替えが見られるので喜ぶものもいるだろう。ただ、俺にとっては罪悪感を感じるので、極力は避けたいのだ。
とはいえ、どうしようもない。俺は悪くない。そう。ラッキースケベというやつだ。
明日が楽しみだな…。
悩み事が1つ増えたことで、HRが終わり、解散となった。