初めての友達
1クラスに向かう途中、2階へ上がる人たちを見かけた。観察してみると、どうやら学年別でネクタイ、リボンの色が違うらしい。
一年生のネクタイ、リボンの色は赤色で、その他に黄色と青色があるのがわかった。ただ、どちらの色が2年生、3年生なのかはここからじゃ判断付かない。
(どっちが3年生なんだろう…。すごく気になります…。時間はまだあるし、2階に行ってみましょう)
上級生に目をつけられるのは怖いが、バレなきゃ問題ない。(キリッ)
身に着けているリボンを見られると一年生だとわかり、「ここは一年生が来るところじゃないよ」と注意される可能性があるので鞄からガイダンスの資料を取り出し、その薄い本でリボンを隠した。そして、俺は上級生たちが向かう2階へ駆け上がった。
2年生のフロアについた俺は、物陰に隠れてスキル『鑑定』を使う。
(はあああああ~。かん☆てい)
―そんな能力は持っていません
どうやら、2年生が黄色で3年生が青色だということがわかった。(観察眼)
疑問が解消されスッキリした俺は1階に戻ろうとしたとき、
「おーい。君!一年生だよね?」
上級生に絡まれた。しかも男だ…。
(ふええええ。一年生だってばれたあああ)
何がバレなければ問題ないだよ。バレてるじゃないか。でもリボンは隠しているのになんで1年生だってわかったのだろう。
「は、はぃ。そうです…。あの。どうして私が1年生だとわかったのですか?」
「ん?ここの学校は人数少ないから顔見れば大体同学年、上級生はわかるよ?それにその手に持っている本。1年生のときにもらう資料だからね」
策士、策に溺れるってこのことです。テストに出ますよ。
先輩のほうがどうやら『鑑定』持ちだったらしい。
(バレてしまってはしょうがない。戦略的撤退を)
「せ、先輩。私はこれで失礼します…」
俺は踵を返し、そそくさに逃げる体勢に持ち込む。
「あ、ちょっと待って」
(ふえええええ。いじめやだ。いじめ反対。いじめ嫌い)
ここで無視したら何されるかわからないので、立ち止まり先輩のほうをチラッと見た。
「はい!これ」
咄嗟のことで先輩が俺に何か渡してきたので受け取ってしまった。
「飴玉…?」
「うん。緊張してそうだったから、甘いものでも食べて」
「ありがとうございます」
―優しい先輩だった。いじめられると思ってごめんなさい。
◇◇
「すう~。はぁ~」
無事に教室の前に着いた俺は深呼吸して扉を開ける。
教室内では中学の時とは違い、全員がまだよそよそしく、話で盛り上がっているグループなどはなかった。
教室内に入った俺は、教卓の前にあるホワイトボードに座席表が張られていたので見に行くと、通路側の一番後ろの席に『神崎ひより』と書かれていたのを見つけたのでその席に座った。
持ってきた水筒にお茶を注ぎ、一口飲んでから一息つく。そして、先ほど先輩からもらった飴玉を口に含んだ。
「きゃー!!!!かわいいい!!!!!」
「ゔっ」
突然隣の席から悲鳴交じりの声が聞こえたと思ったら、急にその女子が俺に抱き着いてきたので飴玉が喉につっかえ、変な声が出た。
「ごほごほっ」
「あ。ごめんね?大丈夫?」
心配そうに顔を覗き込む彼女に俺は「大丈夫ですぅ」と答え、残ったお茶を飲み干す。
「私。桃園恵。よろしくね~。あなたのお名前は?」
「神崎ひよりです。よろしくお願いします」
とてもフランクな女性で、見た目に合った茶髪のショートカット。服を着崩しているため、真面目というよりかは明るいヤンチャな子といった印象だ。
「ねえねえ。さっきからさ。一番前の席にいるあの子いるじゃん?ずっとひよりんのこと見ているけど知り合い?」
そういわれて、どの子か確認するために目を向けると、こちらをジト目で見ている白髪の女の子がいた。
「いえ。まったく」
記憶を思い返しても知り合いではないのでそう答えた。
女の姿のときに視線が集まることには慣れている。でも、白髪の女の子の視線は可愛いものを見るような目ではなく、疑いの目で見ているように思えた。
「まぁ、ひよりんが可愛いから見ているんだろうね。あ、今更だけどひよりんって呼んで大丈夫?」
「え。あ、はい。大丈夫です。私はなんて呼べばいいでしょうか?」
「好きに呼んでいいよ~?めぐみんとか?」
「じゃあ、めぐみんって呼びますね」
高校で初めてできた友達。なんだかうれしいな。
「そういえばさ。ひよりんってどんな能力者なの?」
「え。えっと…」
めぐみんからの質問になんて答えればいいか迷う。ここは超能力者が集う高校だ。中学の頃はこのような質問がなかったので事前に考えるのを忘れていた。
『男が女になる能力だよ☆』なんて言ってしまった日にはにこやかな警察とご対面することだろう。
「身体強化能力です…」
解放を使えば、女の時でも身体能力が向上するため、あながち間違えではない。
「ほぉ~。こういっちゃ悪いけど、身体強化でよく1クラスに入れたなぁ」
「えへへ。わたしもなんで入れたのかが疑問です…。あ、めぐみんはどんな能力ですか?」
「うち?うちはこれだよ」
人差し指を天井に向け、その先から電気がバチバチっと流れる。
超能力にもいろんな種類があり、めぐみんのような能力は別名『属性魔法』とも呼ばれている。
属性魔法には、水、火、風、土、雷、氷、闇、光とあり、水、火、風、土はC級、雷、氷はB級、闇と光はA級とされている。
「雷属性魔法…。すごいですね…」
「そんな大したことじゃないよ~。このクラスにはもっとどんでもない能力者がいるって~!聞く話によると今年の1年生にS級がいるらしいよ。誰なんだろうね」
「S級ですか…」
S級超能力者。超能力の天才。そんな天才が俺のクラスにいるとは。めぐみんもそうだし、こんなすごい奴らとやっていけるのか、F級の俺よ。
その後、めぐみんと軽く雑談をしていると予冷が鳴り、担任教師が入ったことでHRが始まった。
担任教師はホワイトボードに『二階堂哲也』と記入し自己紹介を始めた。
「みなさん。初めまして。先生の名前は二階堂哲也。生徒からは二階堂先生やテッちゃんって呼ばれているかな。26歳独身。まあ話したいことはたくさんあるが、今日は入学式。校長先生がお待ちだ。皆心して聞くように」
二階堂先生は教卓にあったリモコンを操作し、スクリーンをおろした。そして、校長先生と思われる人物が映し出され、挨拶が始まる。
『諸君。ごきげんよう。さて、入学式なのに体育館で行わないのかと疑問に思う生徒もいるかもしれないからあらかじめ言っておこう。ここは超能力者が集まる高校だ。そんな普通じゃつまらないだろう?手始めに私が君たちに能力を見せよう』
校長先生が指パッチンをした瞬間、視界が宇宙空間に変わった。
『私の能力は他者の視覚をコントロールすることができる』
「視覚コントロールってA級の…」
「A級ってのも驚きだけど、それを全校生徒にしているってバケモンかよ…」
クラスの男子たちの小言が耳に入る。たしかに、校長先生の能力『視覚コントロール』だけでも驚愕するのに、それを全校生徒に能力をかけるのは人間技じゃない。
ランクの高い超能力を持っていたとしても力量がなければ能力範囲が狭かったり、能力をかける対象者の人数が少なかったりする。
今回校長先生が行った全校生徒への『視覚コントロール』はまさに神業であった。
校長先生はさらに能力を使い、景色が体育館へと移り変わった。
『さて、余興も済んだことだし、次は…』
その後の校長先生の有難いお話も神業であった。どう神がかっているかというと、話がめちゃくちゃ長かった。校長先生。視覚コントロールの次は睡魔コントロールをお願いします。
校長先生の『最後に…』という言葉から何の話をしていたのかは覚えていない。