熊さん
「神崎ひよりさん。特に問題はないので退院できますよ」
「はい、わかりました。ありがとうございました」
ましろとめぐみんがお見舞いから帰った後、診察をすることになったのだが、特に異常も見られないので医者の判断で退院となった。
超能力者は一般人よりも治癒能力が高い。そのため、戦闘で負った傷の治りが早く、寝れば治る。だから、力の代償によって受けたダメージもすでに回復していた。
俺は3日間気を失っていたらしい。また、二階堂についてはまだ見つかっていなく、東雲君を中心に捜査を進めていると先ほどめぐみんから聞いた。
病院を出た俺は、近くにあったベンチに腰を掛ける。特にやることもないのでこのまま帰宅してもいいのだが、せっかくのいい天気なことと、まだ午後になったばかりなので帰るのはもったいない。
ひとまずスマホを取り出そうとする。でも、スマホが見当たらない。
(あれ…?スマホがないです。あ、そういえば戦いのときに壊されたんでした…)
今日の日程を決める前に携帯ショップに行くのが先だな。
◇◇
「ありがとうございましたー」
携帯ショップを出た俺は新しいスマホを買ったのでスマホの設定を行った。どうやら、昔使っていた携帯番号にメールアドレスを使うことが出来るみたいだ。よかった。いちいち友達に変更しましたって連絡をしなくて済む。
設定を完了すると、日頃はあまりメールや電話をかけてこない家族から山のようなメールが送られてきていた。病院側は俺が入院していたことを家族に連絡したみたいだ。
(今日は土曜日。明日実家に顔を出して安心させてあげなきゃ…)
うちの学校は一般高と同じで土日が休みだ。明日は一日暇なので『明日帰る』と家族にメールを送った。
さて、今日は何をしようか。
ましろたちがまだ近くにいるなら一緒に遊ぶのもありかな?電話してみるか。
「あ、もしもし」
『もしもし。ひより?』
「そうです。さっき退院したのでまだ近くにいるなら一緒に遊ぼうかなって思ったのですが、今どこですか?」
『めぐみと一緒にファミレスにいるわ。『幸せのたぬきちレストラン』てお店よ』
「わかりました。そちらに向かいますね」
電話を切り、急いでましろたちの元に向かう。俺もお腹空いたな。そういえば、ずっと寝込んでいたので何も食べていない。
腹いっぱい食べるぜ!!
◇◇
「「じー…」」
「そ、そんな見ないでくださいよぉ」
無事レストランに着いた俺は注文したナポリタンを食べようとしたら、ましろとめぐみんが見つめてくる。
「だってうちらもう食べ終わっていてやることがないんだもん~」
「うぅ…。来るタイミング悪くてごめんなさい…」
2人の食器はもうすでに片付けられていて、残っているのはドリンクバー用のグラスだけだ。
「「じー」」
すごく食べづらい。でも、お腹空いたので食べよう。
「「「「「じー」」」」」
視線が増えているんだが?ましろとめぐみんが見つめてくるのはまだわかるけど、周りにいる人たちまで見つめてくるのはなんで??
「ひよりん、どうしたの?食べないの?食べさせてあげようか?」
「だ、大丈夫です」
2人をこれ以上待たせるのは悪いので食事を口に運んだ。
「おい。あの金髪の子。めっちゃ可愛いぞ」
「その子だけじゃなくて一緒にいる子たちもレベル高いな」
「特に茶髪の子の胸がでかいっ」
「金髪の子も中々あるよな」
「白い髪の子は………。可愛ければそれでいい!!」
隣の席にいる男3人組がこちらを見ながら何やら騒いでいる。ましろが急にイラつき始めたので俺たちについて話しているのか?早めに食べて席を立とう…。じゃないと、死人が出る。
◇◇
「やべえぞ!!」
「死にたく…死にたくねえ!」
会計を済ませて外に出ると、俺たちの前に店を出た先ほどの男3人組は慌てて逃げだす。まさか、ましろ?お前何かしたのか?
「私じゃないわ」
「そうですか…」
ましろじゃないとすると何でそんなに焦って逃げたのかわからない。
キュイーーーーーーン
疑問に思っていると、街に設置されたスピーカ―から警報音が鳴り響く。なんだ…?
『魔物が出現しました。直ちに避難してください。繰り返します。魔物が出現しました。直ちに避難してください。場所は…』
どうやら魔物が出たらしい。警報が鳴るってことは少なくともB級以上の魔物だ。
「私たちも避難するわよ」
「は、はい」
「もうー。せっかくひよりんとデートなのにー」
俺たちもみんなが逃げる方向へ避難を始めると、ビルの向こう側から鋭く響く金属音が聞こえてきた。もしかして、この近くで魔物が現れたのか…?
次第に音が大きくなり、こちらに近づいているようだ。
ドカーン
手に巨大なハンマーを持った瑠璃色髪の女の子がビルを突き抜けこちらに吹っ飛んできた。服装からして『魔物特殊殲滅隊』の人だ。ただ、見た目は中学生ぐらいで幼い。
「まだ、です…。私が時間を稼いで皆さんを守らないと…」
ビルの開いた穴から5体の熊のような魔物たちがぞろぞろとやってきた。そして、立ち上がろうとする少女に襲い掛かる。
「させない!『ライトニング』」
少女の危機にめぐみんは電撃を打ち込んだ。
「あなた。大丈夫?」
「は、はい。ありがとうございます」
いつのまにか俺の横にいた二人は少女の元に行き、助けに入っていた。俺、見ていただけで役立たずかよ…。
聖女や魔王の生まれ変わりだとしても俺は俺。F級の能力者に代わりはなかった。
「だ、大丈夫ですか?うぁっ」
走ってみんなのところに行く途中、先ほどビルの破壊によって出来た瓦礫の残骸に躓いて転んだ。
「痛いです…」
足を擦りむき身動きが取れない。くそ。やられたぜ。なんて強い魔物なんだ…!
「…」
ましろがジト目で見てくるが気にしたら負けだ。それより今は目の前の敵に集中しないと。
(こういうときのための聖女の力です…)
「『ヒール』」
擦りむいた足に聖なる力を使った。でも傷が一向に治る気配はない。もしかして、自分で自分を癒すことができないのか…?
「何やっているの?ひより!」
ましろの掛け声で我に返り、前を見ると一体の魔物が俺に襲い掛かっていた。
「『ライトニング』 大丈夫?ひよりん」
「めぐみん…。ありがとうございます」
めぐみんの助けにより俺は事なきを得た。ただ、電撃は牽制しただけであり、熊の魔物を倒したわけでない。
「あなたたちは…。逃げてください。私が足止めしますから…」
今にも倒れそうな足取りで俺たちの前に立つ少女。『魔物特殊殲滅隊』の隊員だとしても、彼女だけではやられてしまうだろう。
「めぐみん。ましろさん…」
「うん」
「ええ」
俺が二人に顔を向けると、二人が頷く。
「わたしたちも戦います!!」
まずは、怪我をしている少女の手当てが先だ。
「『ヒール』」
俺は聖女の力を使った。すると、問題なく発動して彼女を回復させることに成功。やっぱり、他人には効果はあるけど自分には使えないらしい。もっとリリーから情報を聞いておけばよかった。
「あれ…?怪我が治った…?ありがとうございます?」
「気にしないでください…うぅ…」
お礼の言葉に返事をする。ただ、急に頭が痛くなり俺はこめかみを手で押さえた。どうやら『ヒール』をすると頭痛が起こるらしい。
「ましろん!」
「わかっているわ!」
「「『精霊召喚!!』」」
二人は精霊を召喚した。狼と猿が熊の形をした魔物へ襲撃する。
(わたしも、加勢しないと…)
ただ、頭が痛くてまだ動けそうにない。こうなったら俺も…。
「『精霊召喚』」
俺はゆかりを呼んだ。成長したゆかりなら、強いので任せられる。でも…
「お母様~。会いたかったです」
出てきたのは幼女のゆかりだった。
(あう…。やっぱり、黒人にならないと大人のゆかりは召喚されないのですかああ)
なんとなく予想はしていたが、少し期待していたのでがっくり。
「お母様?」
「ゆかり。ここは危ないから逃げなさい」
召喚しなければそもそも危険じゃなかったわけだけど。間違えって誰でも起こすよね。
「あたしも戦います!」
「え?ちょっとゆかり?」
ゆかりが魔物のもとへ行ってしまった。まずい。まだ頭が痛くて動けないのに…。
「そこの熊さん。あたしの熊さんのほうが強いんですからね。ガオー」
熊の魔物に対して、ゆかりは愛用の熊のぬいぐるみを突き出して威嚇する。ちなみに、ゆかりの持っている熊さんは愛嬌のある可愛いデザインだ。とても強そうに見えない。
「ここにいたら危ないわ」
「あわわ」
魔物が動き出す前に、ましろがゆかりを担いで距離を取った。
「ひより。場を乱してどうするの?」
「ご、ごめんなさい…」
「ほら、ちゃんと面倒みていなさい」
戦いに参加、ではなく俺のやることは面倒をみることになっているのだが…。まあ、ここまで足を引っ張っていたら逆にそのほうがみんなも戦いやすいか…。無念。
ましろはゆかりを置いてすぐ元の場所へ戻っていった。
「これでとどめです!『ジャッジメントハンマースラッシュ』」
『ヒール』によって回復した少女は地面に向かってハンマーを振り下ろした。すると、叩いた瞬間に星が発生する。その流れ星が熊を攻撃し魔物1体を討伐した。
変わった能力の使い手だ…。あと、必殺技の名前長すぎる。
「まだまだ行きますよ!『ジャッジメントハンマースパイク…。じゃないスラッシュ』」
続いて技を放つ少女。自分の必殺技名が長すぎたためか言い間違えを訂正した。
「ましろん。あれ見て。『ジャストミートハンバーガースライス』だって。すごいカッコいい技だよね」
ジャッジメントハンマースラッシュな。めぐみん…。せめてハンマーは付けてあげて…。
再び魔物に星が衝突し、2体目の魔物を撃破した。
「私たちもいくわよ」
「うん!『雷猿』」
ましろとめぐみんも自身の精霊と共に攻撃を仕掛け2体の魔物を倒した。残りは1体のみ。
ただ、最後の魔物の様子がおかしい。仲間がやられたためか、咆哮をあげると同時に身体も大きくなった。
「あれは…。エンシェント・ベア…」
ぽつりとつぶやく少女。なんだ。そのエンシェント・ベアって。
「なんかやばそうだね…」
「先ほどの熊が可愛く見えるわね…」
「お母様。ゆかりの熊さんより強そうです…」
「そ、そうだね…」
見るからに規格外の大きさに戸惑う俺たち。
「あれはS級の魔物です…」
彼女の言葉でその場に緊張が走った。




