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最弱なわたしと最強の俺  作者: ぴよーこ
20/27

笑顔

「君は、一体…」


俺は見知らぬ女性が出てきたことに戸惑った。



「ご主人様。ゆかりはゆかりでございます。こう言えばわかるでしょうか。『お母様』」



「本当にゆかりなのか…?」



「はい。どうやら、ご主人様が召喚されると能力値の関係で成長した姿になるようです」


黒人くろと』なら『大人のゆかり』、『ひより』なら『幼女のゆかり』を召喚するらしい。


「今は時間がおしい。話は後だ。ゆかり。めぐみんを頼む。後これでましろに連絡してくれ」


「承知しました」



成長したゆかりならば、めぐみんを任せても大丈夫だろう。



俺は軍服のポケットにいつの間にか収納されたスマホを取り出し、ゆかりに渡す。




「させねえよ『物体爆破』」



「ゆかり!」



人の会話は待つのがお約束。というわけではなかったので、敵は能力を使いスマホを爆破させた。俺は咄嗟にスマホを投げ捨て、ゆかりを抱いて庇った。



「っ…。ご主人様!」



「大丈夫だ。俺より、めぐみんを頼む」



「はい…。ですが、本当にご主人様が危険なときは、ゆかりはご主人様を優先して…」



ゆかりがしゃべっている途中に俺は彼女の頭に手を乗っけて撫でる。



「安心しろ。これから先、奴らは俺に傷一つつけられやしない」



「はい…。その…いってらっしゃいませ。ご主人様」



俺が微笑むとゆかりは顔を赤くして俯いた。



「おいおい。こっちはS級が3人もいるんだぜ?お前一人に何ができる?」



「見ていればわかるさ」



「ほざけ!俺たちの能力も進化しているのに勝てるつもりか?『物体生成・操作』」




「『テレポーテーション』」





敵は空中に100本以上のナイフを創り出し、自在に操る。そして、瞬間移動の能力で今度は俺自身を空中に放り出し、身動きを取れなくさせた。



中解放リリースだったら何もできずにやられていただろう。でも、今の俺は一味違う。



相手は俺を空中に移動させたら避けられないと思ったのか?悪いな。今の俺は、地に足がつかなくとも歩けるんだよ。



俺は空気を高速で蹴ることによって移動した。




「ば、ばかな…」



さらに、蹴りによって発生したかまいたちで全てのナイフを撃ち落とした。



「くそが!なら、狙いはそこの女だ!『大気爆破』」



「させません!『ウォーターバリア』」



爆破男が能力を使い、めぐみんを狙ったが、ゆかりは素早く爆破元を水の膜で包み込み、不発で終わる。ナイスだ!ゆかり!




「っち、まじかよ…。俺たちじゃもう手に負えない。一時退却だ」



一人の発言に敵は全員一択し、その場を離れようとする。





「逃がすわけがないだろ。『明鏡止水』」



俺の能力、大解放リリースから派生した新しいスキル『明鏡止水』。これは超能力というわけではない。達人が武の頂点を極めたときに使えると言われる技だ。



俺だけ時間軸が変わり、全ての物や人が止まった世界。そんな世界を自由に歩き回れるのは俺だけだ。



敵の近くまで歩き、一発殴る。それを3回繰り返し敵全員に拳を入れた。



「俺の彼女に手出しておいて、無事に帰れると思うなよ」



俺の言葉を最後に時間軸が戻り、相手は吹っ飛びだす。



「何が起きて…ぐおおおおおっ」


このままだと男たちはフェンスを突き破り、屋上から落下してしまう。別に相手はどうなろうと構わないが、下にいる人が危険だったので、俺は空中移動して相手の背後に回り、屋上へ目掛けて蹴り飛ばす。


「ぐはっあああ」



3人とも気絶したことを確認した俺は、すぐさまめぐみんの元に駆け寄った。




「めぐみん!」



ボロボロになった彼女の身体からは大量の血が流れて続けている。



「ひよ…りん…?」



「今病院に連れていくから、もう少しの辛抱だ」




病院に連れて行く前に、応急処置を施そうと、俺はマントを破り包帯替わりに止血しようと試みるが血は止まらない。流れた血が多すぎる…。これじゃあ、もう…。




「自分の身体は自分が一番よく知っている…。うちはもう、助からないんだって…。だから、もういいよ…。それより、ひよりん…。お願いがあるの…」




「何だ?なんでも叶えてやる…。だから、死ぬなっ…」



「今のひよりんも…カッコよくて好きだけど…。最後はやっぱり『ひよりん』がみたいな」



彼女の言う『ひよりん』が何なのか理解した俺は頷いた。




「…わかった。『蓄積チャージ』」



ひよりになると、目から涙が大量に流れ視界が曇る。今は泣いている場合じゃないのに…。



「ありがとう。ひよりん。大好きだよ」



めぐみんはそう言って最後の力を振り絞り俺の頭を撫でた。でも、すぐにその手は崩れ落ちたので慌てて握る。



「わたしも、大好きです!!だから………死なないでっ!!」




涙を拭いてはまた涙が溢れる。めぐみんの死が間近だということはもう薄々気づいているけど、現実を受け止められない。




「ひよりん…。最後に、ひよりんの笑顔が…みたいなぁ」



こんな状況で笑顔を作れだって?…無理に決まっているだろう…。大切な人が今にも死にかけているのに、笑顔なんて作れやしない。



「無理ですよ…。めぐみんと会えなくなってしまうかもしれないのに…笑顔なんてわたしには無理です…」





「うちね…。悲しいとき、苦しいとき、不安な時、落ち込んでいるとき、どんなつらいときでも…。ひよりんが笑顔でいてくれたら、幸せな気持ちになれるんだよ?はぁ…はぁ…」



めぐみんは呼吸を整えた。



「だから…笑って?」




「…わかりました。…にぃー」



俺は頬を上げ笑顔を作ろうとするが、涙が止まらないし悲しさがこみ上げてきてうまく笑えない。やはり、無理だ…。




「…ありがとう。ひよりん。いい笑顔だったよ」



教室で見せた顔よりひどいにも関わらず、うつろな目をしためぐみんは、お礼を言った。



…めぐみん。もしかして、もう目が視えてないのか…。



「もうすぐお別れだね…。でも、死ぬ間際になってやっとひよりんと本当のカップルになれたかな…?」


男であると隠していて、その後ろめたさがあったことにめぐみんも薄々気づいていたいみたいだ。そのせいで、俺はましろほどめぐみんのことを想ってやれなかった…。



でも今は違う。めぐみんのことを本気で愛しているし、とても大好きな俺の彼女だ。



バカだな…俺は…。こんなに愛しい彼女にもっと早く男だと打ち明けていればよかった…。めぐみんが俺の正体を知っても嫌いになんかならないってことは考えればわかったのに…。




不思議と今のおれは『ひより』であるはずなのに、『黒人くろと』であると思ってしまう。

めぐみんの返事には『黒人くろと』で返したかったからか…?



「あぁ…。お前は俺の彼女で、俺はお前の彼女だろ…?」



「ひよりんの声でそんな逞しい言い方…。うち妊娠しちゃいそう」



今は『ひより』の姿だが、喋り方が『黒人くろと』になったことに、めぐみんは微笑んだ。



こんな状況でも冗談を言えるめぐみんは強いな…。それに比べて俺は悲しさに押しつぶされそうで涙が止まらない。




「大好きだよ…」


「あぁ。俺も大好きだ」


「愛しているよ…」


「俺も愛している」



「うち、本当のことを言うと…まだ…。死にたくない…。死にたくないよ…。ひよりんと、もっとデートしたかった…。いっぱい遊んで、笑って、ましろんとも一緒にお話しして3人でいつまでも一緒にいたかった…」



「めぐみん…」



「男のひよりんとも、たくさんデートして、いっぱい遊んで、ひよりんの笑顔を見ながら山盛りのご飯食べて、数えきれないくらいチューして…。いつもお別れの時は寂しいけど、笑顔で別れるの。また次も会えるから…」



めぐみんの笑顔は徐々に崩れていき、涙を流した。



「でも…もう…。会えないよ。ひよりんと、もう会えないよ…。嫌だよ…。うちはもっとひよりんと一緒にいたいのに…。やっとカップルになれっ」



めぐみんの悲しそうにする姿に耐え切れなくなった俺は、彼女にキスをした。



「人がしゃべっているときに…。バカ…。でも、ひよりん。大好き。今までありがとう…」



「俺もめぐみんが大好きだ!だから…いかないでくれ…」





「………」



「めぐみん?」



「………」



「めぐみんのしたいこといっぱいしよう。俺が好きなところに連れて行くからさ。お金はあまりないけど、バイトしてお金貯めて、一緒に旅行行こう」



「………」



「近くで新しく遊園地ができたみたいなんだ。そこで二人で観覧車にでも乗る?ああ、めぐみんは絶叫系のほうが好きだよな。俺は少し苦手なんだけど、めぐみんとなら何でも楽しそうだな!」



「………」



「夏はお祭りに行って屋台で好きなだけ食べて、花火でもみよう。きっと綺麗だぞ。まあ、めぐみんのほうが綺麗だと思うけどな!」



「………」


「俺が…。めぐみんの願いを何でも叶えてやる…。だから…」



「………」



「目を開けてくれよ!!!!!!」





そんな俺の願いは届かず、めぐみんは安らかな眠りについた…





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