放課後
コスプレ騒ぎからはよどみなく時間が進み、いつの間にかHRを終えた。今日は超能力者についての授業が多く、個人的に興味がある内容だったので、時間の流れが速く感じた。
生徒たちは学業から解放され友達と話し合いを始めたが、先生が手を叩き注目を集める。
「お前ら、今日は遊んでないで早く帰れよ?最近超能力者による犯罪が増えているからな」
うちは小規模校のため部活が1つもなく、全員が帰宅部だ。とはいえ、学校に張り出された依頼を受ける人もいれば、校庭は自由に使用していいので放課後にみんなで集まってスポーツをする人たちなんかはいる。
俺も1年生グループで行うドッジボールに誘われて参加してみようかなと思ったのだが、学校帰りに様子を伺ったとき、俺には無理だと悟った。
彼らのやるドッジボールは俺の知っている競技と違い、超能力ありで行われていた。超能力であればどんな妨害でも違反にならないルールでやっているらしい。そのため、ボールを受け止めたらファイアボールだったということもよくある事例だ。
そんな危ない競技に俺が参加した日には命に関わることになるかもしれない。だから、諦めた。
超能力による妨害が飛び交う中、平気でドッジボールをしているのでみんなは大怪我をしないのか?という疑問があったけど、今日の授業でその疑問が解決された。
超能力には能力値があり、能力値が高いほうが優れた能力者だということは以前から知っている。でも、能力値によって『耐久力』も変わってくることを今日初めて知った。
能力値が高い人は耐久力も高いので能力者による攻撃を受けたとしても軽症で済む。逆に能力値が低い俺なんかが攻撃を食らうと耐久力がないので病院送りとなるだろう。
あとは、耐久力のほかにも『耐性力』がある。例えば、ましろが心を読もうとした人の耐性力が高い場合、心を読むことができなくなる。ただ、耐性力が高い人でも対象者が心の許している場合は、思考を読み取ることが出来る。
つまり、耐久力は物理的な攻撃に有効だが、耐性力は精神や状態異常の免疫を向上させる。
「ひよりんー!一緒に帰ろう♪」
俺が授業で習ったことを思い返していると荷物をまとめためぐみんが話しかけてきた。めぐみんは稀に友達と一緒に放課後の遊び(デスゲーム)に行くことがあるけど、今日は先生に早めに帰るよう言われているので帰宅するらしい。
「はい。あれ?ましろさんは…?」
「用事があるみたいでHRが終わった瞬間に走っていっちゃったよ?」
ましろの用事…?あぁ、『パチモン』シリーズのグッズが新発売されて買いに行ったのだろう。それぐらいしか思いつかない。
「じゃあ2人で帰りましょうか」
「いえい!ひよりんと放課後デート~♪あ、そうだ。ひよりん。模擬戦のときのこと覚えている?」
「模擬戦のこと…?」
記憶から全て削除したので覚えていない。ナニカアッタカ?
「ほら、ましろんと戦って勝ったほうがひよりんを好きにしていいってやつ」
「あ~。それなら覚えています」
黒歴史のほうかと思って一瞬焦ったぜ。
「それ今お願いしてもいいかな?」
無理難題でなければいいけど、めぐみんは無茶なことしか言わない気がする…。
「わたしにできることなら…いいですけど」
俺は覚悟を決めた。
「うちね。ひよりんの笑顔がみたい!」
「へ?」
まともな要求で面食らった。
「怒った顔も、恥ずかしがっている顔も好きだけど、一番見たいのはひよりんの笑顔なんだー。ひよりんの笑顔を拝みながらごはん10杯はいけるね!」
「なんですか。それ。でも、わかりました。…こんな感じですか?」
俺はにこっと笑ってみる。
「ちっがうー。違う。そうじゃない。もっと自然に。不自然になった。心から笑って!ひよりん!もっと!これじゃあごはん3杯しかいけないよー?」」
「それだけ食べられたら充分ですよ」
俺の笑顔に納得できないめぐみんはいろいろと要求してきたが、結局めぐみんのお目に叶う表情はできなかった。
「んー。何がダメなんだろう…?あ、パフェを食べることを想像してみれば…」
バタンッ
めぐみんがしゃべっている途中、教室のドアが閉まる音がしたので二人してそちらに目がいく。
「お、ちょうどいいところにいた。桃園―。ちょっとこっちこい」
「あ、はーい!」
先ほど教室を出た二階堂先生がまた戻ってきてめぐみんを呼び出した。
(早く帰らなかったから怒られるのかな…。次はわたしが怒られるよね…?先生のお説教って長そう。お尻ペンペンされたりして…。怒られている間、暇つぶしに笑顔の練習でもしてみようかな?…お尻ペンペンされながら怒られているのに笑っているなんて変態さんです…)
「これ…に…く…か?」
「わっかりましたー!」
いつも授業中にしゃべる二階堂先生の声は透き通っていて聞き取りやすいけど、声が小さかったため何言っているかわからなかった。反対に、めぐみんは小学生のように手を挙げて元気な声で返事をした。
先生と別れためぐみんは再びこちらに戻ってきた。
「ごめんね、ひよりん。先生に頼まれごとされちゃった。すぐ終わるみたいだけど、先帰っていていいよ」
「私も手伝いますよ?」
「小物を届けに行くだけだから一人で平気だよ~。それとも、うちと常に一緒にいたいの♡?」
にやりと笑うめぐみんに「べ、別にそんなんじゃないですからね」と誤魔化す俺。
「わたし待っています」
「本当?じゃあすぐ終わらせてくるね」
めぐみんが駆け足で教室を飛び出したのを見届けた俺は、自分の席に座りめぐみんについて考える。
めぐみんは明るく元気で誰にも気さくに話しかけられるムードメイカー的存在だ。そんなめぐみんが俺の彼女だなんて今でも信じられない。
俺はめぐみんのことが好きだ。それは間違えない。でも…。
めぐみんを彼女として接することに抵抗を感じる。
(理由はわかっています…。めぐみんはわたしが男だと知らないせいです…)
本当は男だと知った彼女はどんな反応をするのだろうか。軽蔑するかもしれない。別れることになるかもしれない。怒らせるかもしれない。嫌われるかもしれない。
でも…。
例え、嫌われても怒らせても軽蔑されてもいいけど、もう話してくれなくなるのだけは嫌だな…。
それが怖くて、今までいうタイミングはいくらでもあったのに言い出せなかった。自分の心の弱さが情けない。
(このままじゃ…だめです。結果がどうなろうと、めぐみんに伝えなきゃ…)
ましろには申し訳ないけど、俺はめぐみんのことも大好きだ。二人がハーレム入りを認めているとはいえ、彼女を2人も作るのは最低な行為だ。でも…
(二人どちらかを諦めることなんて…わたしにはできません…。わがままかもしれませんが…)
だから、この後めぐみんが帰ってきたら俺の正体を話そう。そして、受け身じゃなくて俺から告白するんだ!!
「あっ」
めぐみんのことに集中していて、時間のことを気にしていなかった。考え込んでから1時間は経っている。なのに、めぐみんはまだ帰ってきていなかった。
(やっぱり手伝えばよかったです)
きっと物を届けた後も立て続けに先生から頼みごとをされたのだろう。今からでも手伝いに行くか。
場所がわからなかったのでめぐみんの携帯に電話すると、近くにあるめぐみんの鞄から着信音が聞こえた。
(めぐみん。荷物置いて行っている…)
これじゃあ、どこにいるかわからないので探してみることにした。ただ、入れ違いになっても困るのでめぐみんの机に『遅いので探しにいきます。戻ってきたら携帯に連絡ください』と張り紙し、教室をでた。
◇◇
1階、2階、3階と全ての教室を回ってみたがめぐみんは見つからなかった。
(一体どこにいるのでしょうか…?もう教室に戻ったのかな?)
残りは屋上だけだ。ただ、探し回ってから30分は経っているのでもしかしたら先生のお手伝いが終わったかもしれない。
(残りは屋上だけですね。最後ですし確認してから戻りましょう)
屋上に届け物なんて流石にないだろうと思っていたので捜索範囲から除外していた。
(二階堂先生、終礼ではみんなに早く帰るように言っていたのにこんな遅くまで手伝わせるなんて言っていること矛盾していませんかね。まったく)
二階堂先生はいい先生だ。空気を読めるし、授業の説明うまいし、クラスの皆からも人気だ。それなのに美少女を連れまわすのはマイナスポイントですよ。先生。
「やっと着きました」
階段を上り、屋上の扉前に着いた俺はドアノブに手をかけて体重を乗せる。
(あれ…開かない)
鍵はかかっていないし、ドアの隙間が多少開くけど、これ以上は押せない。
(行けないならここも違いますね…)
俺はドアを戻し、一旦自分の教室に戻ろうとしたとき、
ドサッ
扉の向こうから音がした。
(誰かいる…?)
先ほどドアが開かなかったので人は来ていないものかと思っていたが、誰かいるらしい。
気になったので、一旦階段を降りて近くにあった掃除用ロッカーからモップを取り出す。今度はドアの隙間にモップを突っ込みテコの原理を利用してドアを開けた。すると、ドアの近くには物が置いてあったせいでドアが開かなかったみたいだ。
(誰ですか!こんなところに物を置いた人は!!…あ、それよりさっきの物音は…?)
俺が真下から前を向くと、信じられない光景が目に映った。
「え…?」
そこには…血だらけのめぐみんが倒れていた…。
遅くなりました。ごめんなさい。
誤字報告ありがとうございます。




