フォームチェンジ
時刻は早朝。今日は学校に早めにくるようましろに言われたので普段より2時間ほど早く登校している。いつもなら学生を見かける通学路も別世界のように静かで車が通ることを除けば、俺の足音しか聞こえない。
コツコツコツ
やたらと響く自分の足音に、もしかして誰かに後をつけられているのかと疑ってしまう。
(誰もいないよね…?)
まだ日が昇っていなく薄暗かったので少し不気味だ。
いったん止まり後ろを振り返る。…誰もいないようだ。
(気のせいかな…?)
再び歩き出すと足音も同時に鳴り響く。
(ストーカーじゃないよね…?そういえば、めぐみんが昨日うちの生徒が襲われる事件について話していたけど、もしかして…)
もう一度立ち止まり、背後を確認する。
(なんだか怖くなってきました…。あ、そうだ。後ろを向いたまま進めば怖くないです!さすがわたし!今日は冴えていますね)
後ろを向いた状態で歩き出し、不審者がいないか隈なくチェックする。
これぞ、必殺技『後ろを取ったつもりか?わたしは常に見ているぞ』だ。
これなら安心安全無敵…
「ぐへっ」
というわけではなく、前方を注意しなければいけない欠点を早期発見できた。
◇◇
「ということがあったんですよ!聞いています?ましろさん!だから、もうこんな時間に呼び出すのは、やめてくださいね?わたしものすごく痛かっ…怖かったんですからね!大体JKが薄暗い中、人のいない場所を通るのはよくないです!!ましろさんも危ない目に合うかもしれなかったんですよ?って『パチモン』していないで聞いてください!!」
「それで、話は終わったかしら?」
電柱に頭をぶつけたので八つ当たりしているとましろが話の区切りをつけた。
「終わりますよ。ふんっ。…それで、こんな時間に呼び出して、話って何ですか?」
「ひよりに渡したいものがあるの」
ましろは鞄から銀でできているブレスレットを取り出し俺に渡してきた。
「これは…?」
「フォームチェンジ用のアイテムなのだけど…ひよりは1クラスなのに割と無知よね…」
「フォームチェンジって何ですか?」
「生産型の能力者がいることは知っているわよね?」
「生産型…?」
「ひより。悪いことは言わないわ。幼稚園からやり直してきなさい」
「うぅ…」
俺って幼稚園卒業していたよな?自信がなくなってきた…。というか、幼稚園でそんなこと学ばないわ!!
説明によると、超能力者には戦闘型のほかにも生産型の能力を持った人がいるらしい。生産型の超能力者は特殊な道具を作ることに特化した人で、その生産型の能力者によって生み出されたアイテムがマジックアイテムと呼ばれている。
マジックアイテムは普通の道具とは違い、例えば、先ほどましろが俺に渡したブレスレット。これは、合言葉によって戦闘服へ瞬時に切り替えられるという優れたアイテムなのだ。しかも、使用者に一番適正がある服に換装されるし、耐久性も普通の服とは違い上質らしい。
「こ、こんな高そうなもの頂けませんよ…」
「別に気にしないで。お金よりあなたの命のほうが大切だもの」
「ましろさん…。今は無理ですけど、いつか必ずお金払います!」
学校に張り出されている依頼をコツコツ熟してお金貯めよう。まだ一度も受けたことがないので1回でどのくらいの報酬がもらえるのかわからない。でも、塵も積もればお支払いできるはず!
「『パチモン』でいう1100000連ガチャできるぐらいなのだけど、払える?」
パチモンのガチャってたしか11連するのに3000円ぐらい必要だったよな?だからえっと…えっ。3億…?
「無理です…。やっぱりお返しします…」
今後もやし生活になりそうなので諦めた。
「冗談よ。そこらへんで売っているようなものだから気にせず使いなさい」
「嘘だったんですか!?もー!でも…。ありがとうございます。大切に使いますね」
意味あり気に、にこっと笑う彼女。あとで何か要求されたりする?
「早速、合言葉を設定したら?」
「はい。どうすればいいんですか?」
設定方法は簡単だった。ブレスレットについているボタンを押して合言葉を言うだけ。戦闘時は『解放』を使うことが多いのでそれにした。
「試してみますね」
設定が完了したので試しに使ってみる。このマジックアイテムの欠点があるとすれば、服装が使用者の一番適正がある服にしか換装されないということだ。一体、どんな服に変わるのか楽しみでもある。
「解放」
能力は発動させずに言葉を発するだけにした。すると、ブレスレットが光だし俺の学生服が戦闘服へ変わる。
「いったいどんな服に…」
俺は胸元を見るが、自分ではよくわからなかったので首を傾げた。
「神官服のようね」
「神官服…」
ましろがスマホで俺の全体写真を撮り渡してきた。白と水色で彩られた可愛らしい衣装に神官服を際立たせる帽子がいつの間にか頭に被さっていた。
その姿を見て俺はまずいことに気づいてしまった…。
今日ツインテールにするのを忘れていた!!
家の鏡でチェックしたのに朝早く起きて寝ぼけていたから気づかなかった。
(わたしのチャームポイントだったのに…)
落ち込んでいると、ましろが神妙な顔をしてつぶやく。
「その姿を見ると聖女そのものね」
「聖女…?」
「あら?知らないかしら?勇者と魔王の言い伝えに出てくる聖女の話」
「いえ。知らないです…」
勇者と魔王の話は文献で読んだことがある。でも聖女なんて登場したかな?
「辺鄙な村で育った女の子は幼少期に聖女に覚醒し、魔王を倒すため勇者たちと共に戦う。勇者は相打ち覚悟で魔王に挑んだが、負けてしまった。でも、弱った魔王を聖女が自分の魂ごと封印することで世界が平和になった。という話なのだけど、その言い伝えに出てくる聖女が金髪碧眼であなたにそっくりなのよ」
「そんな話だったんですか!?勇者の話って」
てっきり勇者と魔王2人だけの戦いなのかと思った。でも、文献によっては美化するためにそう書かれている可能性もある。
「『パチモン』の神崎ひよりの詳細にもあるでしょ?『辺鄙な村で育った少女が聖女として覚醒。あまりの美貌にモンスターですら魅了する』って。これはあなたの外見が聖女にそっくりだからそういう説明文になっているのよ」
「そんなに似ているんですか?わたし…」
「実際に見たことはないけど、金髪碧眼美少女な子なんて聖女かあなたぐらいよ」
俺のほかにも探せばいそうな気がするけど、見かけたことはないな。
「あと、文献には『勇者たち』と書かれていることから、勇者にはパーティがいたと推測されているわ。人数構成までは載っていなかったけど、聖女もそのパーティの一員ってところね」
「そう考えると、複数いる勇者パーティと互角に戦った魔王って相当強かったんですかね?」
「歴代最強は間違いなく魔王でしょうね」
能力値1の最弱な俺とは正反対で史上最強の魔王。魔王が羨ましい。
「あなたも、100年ぐらい力を貯めれば魔王をも倒せるかもしれないわよ?」
100年って…。よぼよぼのおじいちゃんになっているじゃん…。そんなおじいちゃんが放つ拳で最強の魔王を倒しても、『魔王弱すぎワロタ』で物語が終わりそう。
「有名人になりたいわけ?大丈夫よ。もうあなたは有名人だから。子供たちが遊ぶ公園に出没する全裸に漆黒のマントを翻した『変態魔王』なのでしょ?巷でうわさになっているわよ」
「そんな趣味ないですよ!!」
ましろからみた俺のイメージってまだ変態露出魔なのか?…いや、マントを付けているだけまだマシになっているのかもしれない。ただ、変態露出魔『王』になっているけど。
「そういえば、男の姿でフォームチェンジした場合、また違った服になるんですかね?ちょっと試してみます!」
「私も気になるけど、今はやめておきなさい。人が来るわ」
気づけば教室に入ってから1時間ぐらい経っていたので、そろそろ早めに登校する生徒がきてもおかしくない時間帯だ。
「伊藤君。僕はなぜ、こんなにも…。美しいのだろうか!」
「あはは。相変わらずだね。刹那君は。あ、神田さんに、神、崎…さん。おはよう…」
教室に入ってきたのは伊藤君に小金井君だった。伊藤君は俺の方を向くと目を丸くしている。
「おはようございます」
「おはよう」
俺とましろも挨拶をし、なんで驚いているか聞こうとしたら、
「皆の衆おはよう!おや?神崎さん。コスプレかい?早朝の教室でコスプレなんて…僕より美しい!!」
「へ?」
小金井君の言っている意味がわからなかったけど、自分の服装を見て気づいた。
神官服のままじゃないかああああああああああ。




