幼女
幼女は俺と目が合う。彼女は紫色のショートボブで季節的には少し肌寒そうな黒いワンピースを着ている。手元にはクマのぬいぐるみを抱きかかえていて、すごく…
「「「可愛い…」」」
クラス全員が同じ想いだった。
「お母様~」
幼女はクマのぬいぐるみを投げ捨て、俺の足に抱き着いてきた。
「え、神崎さん…。子供いたんだね…」
伊藤君が面食らって聞いてきた。
「神崎さんは百合だと思っていましたのに…。裏切られましたわ…」
「ち、違いますよ!そもそもこの子見た感じ5歳ぐらいですよ?わたし15歳なので、産んだとしたら10歳ぐらいに出産となるわけで…。あり得ないですよ」
これ以上勝手な妄想をされても困る。
「え、お母様…。お母様はお母様じゃないんですか…?」
涙目で訴えてきた。
「えっと…その…」
何と言おうか悩んでいると、ましろがしゃがんで幼女の頭を撫でた。
「そんなことないわ。あなたは、私とひよりの子ですもの」
「「「え…?」」」
衝撃の事実を口にした彼女。
「何言っているの?ましろん。この子はうちとひよりんの子だよ?成りすましはやめてよね!」
めぐみんさんも何言っちゃっているの…?君も成りすましだからな!!
「気安く触らないでください」
幼女はましろの手を叩き、めぐみんにプイっと顔を背けた。
「あたしに触っていいのはお母様だけです」
再び俺に抱き着く幼女。どうやら俺に懐いたみたいだ。
「あぁ…。美しい。美しすぎる。なんて美しいんだ。………この僕は!!今日も美しい!!」
「…」
てっきり、幼女のことを言っていると思ったけど、自分かよ。手鏡で見つめながらつぶやく小金井君を無視した。幼女には興味がないらしい。害虫が近寄らなくてよかった。
「まあ、冗談はこの辺にして…。どうやらこの子は精霊のようね」
幼女に嫌われたましろは立ち上がり、俺たちに説明する。ましろが涙目になっていることは触れないでおこう。子供好きだったんだな。
「え、でも人型の精霊ってみたことないよー?実在するの?」
「私も見るのは初めてだけど…。いてもおかしくはないわ。ひより、あなた能力値はいくつ?」
「1ですけど…」
「「「いち!?」」」
一クラスに能力値底辺の生徒がいることを知らなかったみんなは、口を揃えて声に出した。
「なるほどね。この子、まだ産まれたばかりなのよ。それなのに能力値1の誰かさんが召喚しちゃったみたいね…」
精霊召喚で召喚される精霊は能力値に依存するのは先ほど聞いた。つまり、産まれたばかりの幼女は最弱で、最弱の俺と惹かれ合ったってことか…。
「ちなみに精霊には親という概念がないの。自然に発生してそこから自己成長するわ。でも、目の前に自分に似た『人』がいたとしたら親って勘違いするのも納得ね」
「お母様…」
先ほどから抱き着いている幼女は不安そうな顔で見上げている。そんな顔されたら、拒絶できない…。それに自分で召喚したのだから、責任取らなきゃな。
「わたしがあなたのお母さんだよー。あなたのお名前は…?」
「お名前…?」
ああ、そうか。親がいないのなら名前がなくても不思議ではない。
「ゆかり。あなたのお名前はゆかり」
「ゆかり…」
髪の毛が紫なことと、『ひより』と似ていたので『ゆかり』と名付けた。
ゆかりは自分の名前が気に入ったのか、先ほど捨てたクマのぬいぐるみを拾い、クマさんに「あたし、ゆかり~」と語っている。微笑ましい光景だ。
「神崎さんに子供…」
「あり寄りのありだな!」
「美少女に美幼女…。最高かよ」
「赤ちゃんになりたい。ミルク。ほしい(ゲス顔)」
「おい。そろそろ模擬戦再開するぞー。神崎。お前の番は後にしてやるからその子の面倒でもみてやれ」
二階堂先生は空気の読める男だ。クラスの野郎たちとは大違い。
「それじゃあ、小金井と東雲。次はお前たちだ」
「やっと僕の番が来たようだね…。見せてあげるよ。ぼくの…美しさを!!」
「こんな奴が相手かよ…」
東雲君の戦いを見てみたかったけど、ゆかりを放置できない。
「ゆかり。あっちで一緒に遊ぼうか」
「はい!」
ゆかりの手を取って、俺は少し離れたところでゆかりと遊ぶことにした。
「ゆかりは…。どんなことができるの?」
人型の精霊は珍しいらしく、もしかしたらすごい力を秘めているのかもしれない。
「全属性魔法使えます!」
ほらね?やっぱり。って…
「ええ。全属性!?」
「はい!こんな風に『ファイアーボール』」
ゆかりの手から煙が上がった。鎮火している…?
「どうですか?」
「す、すごいね~」
自信満々でどや顔のゆかりを褒める俺。うちの子は褒めて伸ばすんだ!
「『ウォーターボール』」
続けて、ゆかりはビー玉ぐらいの水を生成して飛ばす。
「おー。すごい!」
「えっへん」
将来が楽しみだ。
「こんなこともできます。『ダークネスウォーターボール』」
褒められるのがうれしかったのか、ゆかりはさらに複合魔法を使った。先ほどと同じ、ビー玉ぐらいの水が黒ずんでいる。
(あっ)
放った魔法が、これから模擬戦をする小金井君の後頭部に直撃した。ただ、殺傷能力がほとんどない水の塊だったため、命に別状はない。というより、彼自身何が起こったのか気づいていない。
「ふぅ…。何ともなくてよかったで…す…?」
よくみると、ゆかりの魔法が当たった部分だけ髪がなくなっていて、十円ハゲになっている。
(ど、どうしましょう…。ゆかりの親として謝りに行くべきですか…?慰謝料とか請求されたりして…。身体で払ってもらうって言われたら…。どうしよ…こうなったら…)
俺はましろにアイコンタクトを送り、彼女が頷く。
「小金井君。ちょっといいかしら?」
「なんだい?この僕に!告白かな?告白なら少し待ってくれたまえ。僕の勇姿を見てからでも遅くはないだろう?そんなに待たせはしないさ」
「ハゲているわ」
「ハゲている…?誰がだい?」
「あなたの後頭部。ハゲてるの。気づかなかったかしら?」
「そ、そんな馬鹿な…ありえない!なんで!こんなっ」
「彼女ができなくてストレスを抱えているようね。でも、この模擬戦で勝てればモテモテになってきっと彼女もできるでしょうね」
自前の手鏡をうまく使い、後ろ髪を確認している彼にましろは元からですよアピールをしてくれた。すまない小金井君。君の髪は無駄にはしないよ…。ゆかりの成長のために犠牲になってくれてありがとう。
「髪が…。僕の美しい髪が…。でも…勝てば…。っふ。どうやらこの僕を!本気にさせてしまったようだね。東雲君。君には悪いけど、僕の糧となってもらうよ」
「早くしろよ。ハゲ」
「ハゲ…?今、君はハゲと言ったかい?はげた人の気持ちを考えたことはあるのかい?君は!!!」
お互いやる気に満ちたようで、先生が試合開始の合図をする。
「はじめ!」
「先手必勝だよ。東雲君」
始まった瞬間を狙い、小金井君が襲い掛かる。
「『跪け』」
だが、東雲君の言葉に小金井君はその場で止まり跪いた。跪く彼に近寄って思い切り蹴り飛ばす。
「ぐはっ。何のこれしき、僕は彼女を作るんだ!!」
自分にやる気を出させ、すぐさま立ち上がり再び襲い掛かる。
「『地面に這いつくばれ』」
「くそ…。身体が言うことを利かない…」
「お前。本当にハゲてるのかよ…」
地面に這いつくばることで、小金井君の後頭部を見た東雲君は少し申し訳なさそうにしていた。先ほどのやりとりを見ていなかったらしい。
「ここまでだな…。勝者、東雲」
先生はこれ以上戦っても意味がないと判断したのか、勝敗に白黒つけた。
「先生!僕はまだやれますよ。やらせてください!」
「小金井。諦めろ。お前じゃ勝てない」
「ちくしょう。ちくしょう!!僕は試合に勝って女の子から告白されるんだ!じゃないと…こんなハゲた頭の僕を好きになってくれる人なんかいないというのに…。あぁ、僕は負けてしまったのか…うぅ…」
自分でも勝てないことを悟ったのか、小金井君は諦め泣いていた。なんだか可哀そうになってきた。そもそもうちの子のせいでハゲてしまったんだ。慰めてあげなきゃ…。
「お母様?」
「ゆかり。ごめんね。ちょっと行ってくる」
俺は泣きじゃくる小金井君に声をかける。
「小金井君。おつかれさまです」
「神崎さん?こないでくれ…。こんな惨めな僕を見ないでくれ…」
やっぱり、模擬戦で負けたことと、ハゲてしまったことによっていつもの小金井君らしさが感じられず、しおらしい。元気づけてあげないと。
「その…。ハゲていても、逞しく戦う姿、わたし、好きですよ?」
「「「え…」」」
絶望の境地から天国へ登り詰めたような表情を見せた。
「神崎さん…。まさかのハゲ好きなんじゃ…」
「俺。ちょっとハゲてくるわ」
「お前ら落ち着けよ。ハゲになっても神崎さんに振られてしまったらどうするんだ。他の女は見向きもしてくれないんだぞ」
「でもよ…。俺は神崎さんに好かれればそれでいい!」
「わかったよ。これ以上は止めない。だけどこれだけは言わせてくれ。お前はハゲていなくてもいいやつだったよ…」
「ハゲても友達でいてくれるか?」
「ああ…」
よくわからないが、周りにいた男子生徒の何人かがいきなり髪を切り始めた。もしかして、小金井君に気を遣って…。いい友達をお持ちのようで。俺が配慮する必要なかったな。
「お母様。お母様は髪がなくなっている人が好きなのですか?」
ゆかりが俺のズボンを引っ張り質問してきた。
「え…?ううん。好きじゃないよ。むしろ嫌かな…」
「「「え…」」」
「ひよりんって天然男たら…ハゲたらしだよね」
めぐみんは肩をすくめて俺に言ってくるが何のことだかさっぱりわからん。
「神崎。その子も大人しいようだし、次は神崎と北条。お前たちで模擬戦な」
先生に呼ばれてついに俺の番がやってきた。でも…。何の策も考えてないっ!!




