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逆行聖女は剣を取る  作者: 渡琉兎
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第6話:少女アリシア 5

 ――その日の深夜、アーノルドはアリシアが眠りについたのを確認すると、リビングの椅子に腰掛けて窓の外から月を眺めていた。

 妻を亡くしてから五年が経ち、その間は彼が男手一つでアリシアを育ててきた。

 どんな変化も見逃さないよう注意を払い、気になることがあれば声を掛けて話を聞くようにもしていた。

 しかし、今朝のアリシアはアーノルドが全く気づかない中で大きな変化を起こしていた。


「……本当に、夢だけが理由なのか?」


 小さく息を吐きだしながら、昨日までと今朝のアリシアを思い返していく。

 何をするにも駆け出していき、よく転んで怪我をするお転婆娘。

 叱られることも多かったが、最後には笑顔を浮かべて元気を分け与えてくれる。

 女友達だけではなく男友達とも仲が良く、喧嘩することも多かったが一本筋の通った子で、喧嘩の理由をはっきりと口にできるような、そんな女の子だった。


 今朝のアリシアはどうだっただろう。

 急に抱き着いてくることはあったが、それは単にアーノルドの大きな体で受け止めてほしいからであり、そうすることが楽しかったからだ。

 しかし、今朝のアリシアは涙を流しながら抱きついてきた。

 怖い夢を見たからだと口にしていたが、あれはきっと嘘だろうとアーノルドは確信している。


「……嘘をつく時の癖が出ていたからなぁ」


 朝ご飯の席でのことだ。

 おしとやかになったのではないかと口にした時のアリシアの反応が、嘘をつく時に見せる斜め上へ視線を向けながらの発言だったことに気づいていた。

 アリシアは無意識にやっていることだろうが、アーノルドは彼女の癖に気づいている。

 とはいえ、怖い夢とは口にしていたものの、アリシアがそこまで思い詰めている様子もなかったこともあり、アーノルドは追及することなく話を終わらせていた。


「だが……まさかまた、剣を習いたいと言ってくるとはなぁ」


 剣を習いたい、この発言はアーノルドからしても予想外だった。

 ネイドから教えてほしいと頼まれた時、一緒に習いたいと口にしたのも意外だったが、あれは遊びの延長だったから彼も許していた。

 事実、ネイドには厳しく指導していたものの、アリシアには怪我をしないよう注意を払いながら、簡単な素振り程度で終わらせており、それに彼女も満足していた。

 しかし、今回の場合は遊びの延長ではなく、本気で剣を習いたいと言っているのだとアリシアの表情からすぐに理解できてしまった。

 いったいどんな夢を見たのか、そこからどうして剣を習いたいとなったのか。

 疑問に思うことは多くあるが、アーノルドはそれをアリシアに聞こうとはしなかった。


「何かあればアリシアから言ってくれるだろう。……はぁ、ダメだな。自分で決めたことなのに、すぐにこれでいいのかと悩んでしまうよ」


 アーノルドは窓から視線を外し、すぐ横の花瓶に飾られた一輪の花を見ながら独り言を口にする。


「君がいれば、きっとアリシアも相談してくれていたんだろうな」


 飾られた一輪の花は、亡くなった妻が大好きだったカルドネアの花だった。

 黄色と橙色のグラデーションが美しいカルドネアの花は、季節を問わず咲き続ける強い花だ。

 妻も一本芯の通った強い女性だった。だからこそ、美しさと強さを併せ持つカルドネアの花を好きになったのだろうと、アーノルドは思っている。

 カルドネアの花を飾ることで、妻がアリシアを見守ることができているのではないかと思っているアーノルドは、彼女のことで悩みを抱えるとこうして独り言のように話し掛けていた。


「……はは。こんな弱気な私を見せてしまったら、きっと君に怒られるだろうね」


 そして、毎回のように最後はそう締めくくられた。

 男手一つで女の子を育てるということへの悩みは尽きないが、やらなければならないという思いと、妻に怒られないよう頑張らなければという気持ちで悩みを吹き飛ばすことにしていた。


「……今日もありがとう、ミーシャ。これからもカルドネアの花を通して、アリシアを見守ってあげてくれ」


 そう口にしながら椅子から立ち上がると、美しい花びらを武骨な指で優しく撫でてから、寝室へ戻っていったのだった。

ご覧いただきありがとうございます。

もしよろしければ、ブックマークや★★★★★をいただけるとありがたいです。

何卒よろしくお願いいたします。

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