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逆行聖女は剣を取る  作者: 渡琉兎
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第4話:少女アリシア 3

 一人になったアリシアは、食器の片づけを終えると部屋に戻ってこれからのことを考えていた。

 今から五年後、一五歳になる年には右手の甲に聖女の証明である痣が浮かび上がってくる。

 その日から、アリシアの運命は大きく変わってしまった。

 離れたくなかったディラーナ村を離れることになり、やりたくなかった聖女教育を強要され、一度も村に戻ることなく死んでしまう。

 椅子に腰掛けて一枚の紙を机に広げると、これから起こるだろうことを書き出していく。


「五年後に聖女になっちゃうのは確定だけど、そのあともしばらくは大変だったんだよねぇ」


 王都に訪れる数々の危機を聖女として乗り切ってきた。

 しかし、その度に多くの犠牲が強いられており、命を落とした者たちも少なくない。


「……もしかすると、そういった悲劇の犠牲も減らせるんじゃないのかな?」


 アリシアの考えでは、今まで起きてきた悲劇で有力な騎士や冒険者が亡くなってしまい、そのせいで最終的な国の滅亡に繋がったと考えている。

 それは当時も考えていたことでもあり、あまりにも連続して大きな悲劇が起き過ぎていた。


「……よし、こんな感じかな? うーん、こうして見てみると、どうして王都の近くでこんなに大量の魔獣が頻発したんだろう」


 王都が築かれるような場所というのは、比較的安全度の高い場所が選ばれるものだ。

 別の場所から魔獣が流れてくることも考えられるが、それにしても数が多すぎた。


「……まさか、人為的に?」


 そこまで考えたものの、アリシアは首を横に振った。

 現時点ではまだ起きてもいない悲劇であり、仮に人為的だったとしても防ぎようがない。


「それに、人為的である証拠もないものね」


 気になることはある。しかし、確かめようがない。

 最低限の対策だけは考えておくとしても、深く思考するには早すぎると考えた。

 それは次に検証したいことへ早く移りたいという思いもあったのだが。


「ヒール!」


 聖女として何度も使ってきた基本的な治癒魔法。

 ヒール以外にも多くの治癒魔法を国のために使ってきたアリシアだったが――


「……やっぱり、何も起きないか」


 今はまだ聖女として目覚めたわけではない。

 当時は聖女になるなど思いもしなかったのだから試したことがなく、一応の確認のためにやってみたのだ。


「この頃の私って何をしていたっけ? みんなと遊んでいたくらいだったかな?」


 家では庭を駆け回り、外では友達と色々な話をしながら笑い合っていた。

 女友達だけではなく、男友達ともよく遊んでいた記憶がある。

 そんなことを考えていると、部屋の隅っこに置かれているとあるものに目がいった。


「……そういえば、あいつは元気かなぁ」


 この頃にはすでに村を出ていた四つ年上の男友達を思い出す。

 男友達は冒険者になると常々口にしており、この頃でいえば二年前、彼が一二歳の頃に村を飛び出していったのだ。

 自警団隊長をしているアーノルドに何度も剣を教えてくれと頼み込み、それがきっかけでアリシアも仲良くなった。

 さらに彼が剣を習っている時にはアリシアも交ざってアーノルドから教えてもらい、隅っこに置かれているものがその時に使用していたものだった。


「木剣、懐かしいなぁ」


 小さな足で木剣のところへ移動すると、手を伸ばして柄をギュッと掴む。

 アリシアは自警団に入るつもりも、彼のように冒険者になるつもりもなかった。剣を習っていたのも遊びの延長だった。

 結局、アリシアは彼が村にいる間で一度も勝つことはできなかったが、剣の実力は間違いなく上達していた。

 しかし、彼が村を出てからは剣を習うのを止めてしまっている。

 もしも習い続けていれば、前世で死んだあの時に何かできただろうかと考えてしまう。


「……いいえ、無理ね。聖女になったら剣を振るなんて絶対にできないもの。そんなところを見られたら、懲罰房行きになっちゃうだろうし」


 ため息交じりにそんな言葉が零れ落ちるが、アリシアはなんとなく部屋の中で素振りをする。

 木剣の重さに剣先が地面にぶつかりそうになるが、なんとか止めて小さく息を吐く。


「こんなに重かったっけ? ……でも、ここでまた習い始めたら、あの時には無理でも、近い悲劇には上手く対処できるんじゃないのかな?」


 聖女は後方支援が普通なのだが、それだけでは防ぎ切れなかった悲劇も多くあった。

 犠牲をもっと防ぐことができたんじゃないかと思った時も一度や二度ではない。

 このあと考えようと思っていたことだが、その答えの一つが見えてきたかもしれないとアリシアは自然と笑みを浮かべていた。


「……私がみんなと一緒に前線に出られたら、助けられる命が増えるんじゃないの?」


 そう口にした途端、木剣を握る手には自然と力がこもっていったのだった。

ご覧いただきありがとうございます。

もしよろしければ、ブックマークや★★★★★をいただけるとありがたいです。

何卒よろしくお願いいたします。

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