アオイハルノヒ
「俺は、きっと。いいや、絶対に。
彼女が好きです」
「……なるほど。でもそれは私に言うべきことじゃない。そうでしょ?」
「…たしかに、そうだ。
ありがとう先生。それじゃ行ってきます」
「ええ。それじゃあ、さよなら」
遠ざかる足音。教室から消えていく人の気配に、一人女教師は椅子に力無く座る。
「………馬鹿ね。
私ったら、何で悔しいのかな…」
そう呟き、人知れず一雫を眼から垂らした。
…
……
「アオ!」
下校途中だったのだろう、背中を向けていた彼女に俺はなんとか追いつく。
そっと振り向いた彼女はいつものように無表情で、どこかを眺めているかのように視線が遠くなように見えた。
「…シュウ、どうしたのです?
今日は生徒会ではないのですか」
「……色々、あってさ。そしてそれよりも、どうしても伝えなきゃいけないことがあって」
「……ハイ。何でしょう」
一息、吸った。
不思議とあまり緊張はしなかった。
「俺、君が好きだ。菜種アオ、君を愛してる。
以前の答えにもイエスと言いたい。
…どうだろう。答えは分かってるけど、君からの答えを聞かせてほしい」
「はい。…ダメです」
「わかっ…ええええ!?」
一息に言い切って、『答えは分かってるけど』とまで言ってからの返答はまさかの拒否だった。あまりにも意外な答えすぎて、ただただ悲鳴を上げることしかできなかった。
いや、まさかだったんだって。本当。
「え…いや、あれェ!?
あの時の答えって、えっと…!」
「!スミマセン!違うんです。気持ちは本当にとてもとても嬉しいですし、跳び上がってそのまま戻って来たくない程嬉しいんです」
「でもダメです。…私、あの時。必死の、決死の思いで言ったんですよ。だからシュウだってそんな簡単に済ませちゃダメです」
「………えっと、つまり?」
そう聞くと、頬を赤く染めて。
ポッと、擬音が出そうなほど可愛らしい紅潮と手のいじらしさと共に、こう言った。
「ハイ。つまるところ…もっともっと、ロマンチックにお願いします」
「……さては何かに変な影響を受けたな…」
悩ましく、頭を抱える。そんな俺を見て、横に寄り添って、スッとその腕を取った。そのまま組んで、俺の肩にその頬を沿わせた。
『心配しないで。気持ちそのものは、いつだって受け入れる準備はあります。貴方の身体も気持ちも、貴方の全てを。だからこそ、こんなワガママを言ってしまってるのだから」
『…それとも、迷惑?』
本来の口調に近い、英語での話し言葉。急に来たそれを何回か反芻し、なんとか理解してから。俺はなんとか笑って彼女の頭に手を乗せた。
「いいや、むしろありがとう。
こんな味気ない告白で終わったんじゃ俺の方から後悔してただろうからさ」
そう言ってから、幼子のように抱き上げてそのまま抱き寄せる。それは恋人にやるものというよりは、親愛やそういったものに近しい抱き上げだ。
「キャッ…!」
「約束する。近いうちに絶対、もう一回君に告白する。今度はアオが満足するくらいロマンチックにな」
「ハイ、心待ちにしてます。我が恋人」
「……うん?
告白は保留なのに恋人ではあるのか?」
「ハイ。細かいことはいいのです」
そしてそのまま、互いに寄り添い合いながらその日は下校した。
互いにこの上なく有頂天であって、それが他者からどのような目で見られるかとかそういう認識は全くのように抜け落ちてしまっていた…
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しかし、ロマンチックに、満足するような告白とはまた無理難題を言われてしまったものだ。
聞いてみたところ妹曰く俺は、世界一女心のわからないダメ男なのだから。そんな俺にロマンチックとは。うーん。
そうしてどんどんと悩んでるうちに、季節はどんどんと過ぎていってしまう。
夜中ですら汗ばむような熱帯夜。空調が無いとそれだけで不快なような湿度。
夏の、その足がかりの季節になってしまう。
であるのに、アオとの関係性も殆ど変わるところが無く、たまに思い出したように俺を恋人と呼んでくれるくらい。今までの距離感が近く、それから変わってないならちょうどいいくらいではあるのかもしれないが。
時たま、彼女も愛想を尽かしてしまったりしたのではないか。そんな不安が心を締め付けるように襲ってくる。
そうしていた日に、ふとチラシを見かける。それは近くの神社で、小規模ながら納涼の為の祭りをやるのだという事だ。
ロマン、ロマン。
正直、もう何がそうで何がそうじゃないかはわからなくなってきてるが、何か参考になるかもしれない。皆には内緒で行ってみようか。
そうしよう。それでもし、何か思いついたなら二日目の祭りにアオを誘ってみよう。
…
……
夏は嫌いだ。本当に暑いし、じめじめとしていて本当に不愉快だから。
夏は嫌いだ。彼が、他の娘の事ばかりを考えるように思案に耽るから。
夏は、苦手だ。私が私で居られないような、そんな不思議な気持ちになる。
そんな私をもし見たのなら、彼は一体どんな事を思うのだろう。『アオ』らしくない私を。
『アオ。これを着なさい』
そう、ぼーっとしていた私の部屋に、ドア越しに声がかけられる。お母様の声だ。
言われるがままに扉を開けて持っているものを見てみる。そこにあるものは、服だ。
ただ、それは…
『ユカタ…ですか?』
『ええ。これを着て見せてみれば、恐らくそれだけで悩殺できるでしょう』
母が手に持つその色とりどりの色彩の着物は見るだけで美しく見えるようで、
ただそれにどうも上手く反応できずにため息のような返事だけを出してしまう。
それを見て、母が、目を瞑る。
『ただ。それを行動に移すのはもし貴女が良ければの話、ですが』
『?どういう、事ですか』
『…私の勘違いならいいですが…
アオ。貴女の中に迷いが見えますよ。
まさか、彼に愛想を尽かしたのですか』
『そんな事有り得ませんッ!
冗談でもそんな事を言わないで!』
…初めて、母に怒鳴ってしまったかもしれない。反射で叫び、怒ってしまった。
正気になった時には遅く。はっと息を呑んだ時には、既に全て言い尽くしてからどのように言い繕うかもわからなくなっていた。
『……不適切な事を言いましたね。それは詫びましょう。しかし迷いが見えるのは事実です。迷いは、それこそ彼にだって伝播する」
『…母は強制はしませんし、それを貴女から言わない限り無理に追求もしません。ですが、取り零してから後悔はしないようにね』
お母様はそのまま、怒鳴ってしまった事に怒るでも悲しむでもなく、浴衣を部屋に置いてそのまま行ってしまった。その優しさや、見通されているようなその態度が少し私自身を情けないような気持ちにさせた。
迷う。迷う?
私は何を迷っているんだろう。
彼に愛している事を伝えた。返答も、その気持ちも伝えてもらった。それは間違いない。それを捨てるつもりもないし、彼もそうだ。
心が通じあっている事を感じている。
なのに何を迷う?
分からない。夏は嫌いだ。暑くてゆだりそうで、考える気力すら奪っていく。
ただ私は、ぶっつけ本番でこの姿を彼に見せることが怖く。この着物をどこか着ていく場所はないかなとだけ考えていた。予行練習をしてからでないと、怖くて怖くて。
『…フフ。初めて怒鳴られたな。
これがあの子なりの反抗期かもしれない…』
階下から、そんな少し嬉しそうな声が聞こえてきたような気がしたのも、ゆだった頭にはあまり留意すべき事には思えなかった。
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小さな、小さな夏祭り。履き慣れてなくて歩きにくいその靴で何とか歩くには、これくらいの方がちょうど良かった。
私は結局、近くの神社で行われる小さな夏祭りをその予行練習の場に選んだ。
でもそこですら、思ったより恥ずかしくて。
着るのも難しくて、少し息苦しくて。
だから。男性に声をかけられた時も何かに声をかけられたな、というまるで幼児のような感想しか出なかった。
こんなとこに一人で大丈夫?と軽薄そうに語る男に大丈夫と言って去ろうとするけど、肩口を掴まれて止められてしまう。動こうにも動きにくいその服が、抵抗を許さない。出来たとしても身じろぎ程度。
その時になって初めて危険を感じる。これは、誰も見ていないのでは。何かに助けを求めるか?私に大きな声を出せるのだろうか。急にぐっと、肺が萎縮したような気がした。
「…オイ。その子俺の彼女なんだよ。
だから、あっちに行ってくれねえかな」
低い、低い声が聞こえたのは、そんな時。
一瞬、あまりにも怒気を孕んでいて、誰の声だかわからないくらいだった。
ただ、その声の持ち主自体は分かっていた。
こういった時に助けてくれるのは彼であると決まっていたから。困った時に、怖い時に。それを打ち払ってくれる私のヒーローは、いつだって貴方しか居ないのだから。
「………シュウ」
「…大丈夫か、アオ」
涼しげな格好をした彼は、さっきまでの様子とは打って変わったように、優しげな顔をして屈んで、私の顔を下から覗き込む。
その顔に、首に、ぎゅっとハグをした。
…
……
意外と色んな出店があるなと周りを見ていた時の、その瞬間だった。見覚えがある少女が、見覚えの無い格好で、そして誰か知らない男に肩を掴まれていた。
アオ。
可憐なその浴衣姿も目に映っていたかどうか、正直あまり確かじゃない。
相変わらず無表情で分かりにくかったが、その痛みと不快をないまぜにしたような顔を見て。ぷちんと頭に血が昇って。
どんな声を出したかも覚えてない。
何を言ったかも曖昧だ。
ただ一つ、アオを助けられたみたいであることは確かで、もうそれだけで良かった。
「……ありがとう、シュウ」
強く抱擁しながら、そう言う声はほんの少しだけ震えており、今のそれに恐怖を覚えていた事がわかる。
「…まさか、アオもこのお祭りにいるとは」
「ええ…シュウは、何故?」
「ん…あーいや…
その、ちょっと来てみようかと思って…」
まさか、君とくる下見の為だとそのまま言うことも出来ずに歯切れが悪くそう返す。
急にしどろもどろになった俺を見てアオが不思議そうに首を捻っていた。
「えっと、アオは?」
「ア…この服を着てみようと思って。
ただ、それだけのつもりだったんですが」
そう言うと、全身を見せるようにくるりと横に一回転する。そうしてからこっちを見て笑う。
「……さっき追い払った男が気の毒に思えてくるよ。今のアオみたいなのが居たらそりゃあ声掛けたくもなる」
「?」
「…死ぬほど似合ってる。凄く、可愛いと思う。お世辞とか無しで、こんなに綺麗な浴衣姿初めて見た」
そう、思った事を言う。そんな事を言いながら顔がみるみる赤くなっていったのを感じた。
「……あ、ありが、とう…」
アオらしくもなく、顔を逸らして、明らかに恥ずかしそうな顔。そんな表情を見ると、改めて恥ずかしくなってしまう!
「シュウも!
その…それ、似合っていますよ!それは…」
「え?あ、ああ。誰にも会わないと思って適当に甚平着てきちゃって…アオが居るんなら、もっとちゃんとした格好してくればよかった」
「イエ、それがいいです。
それがありがとうございます」
「…?微妙に文法が変じゃないか?」
そんな話をしてる内に、だんだんと周りから喧騒が引いていっている事に気付く。
気付けば、そこそこ時間が経っている。すぐにとまでは行かないが、そろそろこの日の宴も竹縄といったところだろう。
それに気付いたであろうアオは、いつもの無表情のまま。一つの提案をした。
「…少し、歩きませんか?」
夜風にでも当たりたいのだろうか。折角なら俺もそうしたいと思い、素直に縦に頷く。
ただ、ほんの少しいつもより、その無表情に冷めたようなものを感じた事は気のせいだと思って。
…
……
(きみ、だいじょうぶ!?)
絶望と悲しみの間にいた私を見つけて、手を伸ばしてくれるのはいつも貴方だ。
そうして救われて、貴方に惹かれた。
貴方に惹かれてから、私はどんどんと変わっていった。それがいいものなのかは分からないけど、貴方は良いと言ってくれた。
ならば私にとってもそれは良いことだ。
でも、じゃあこの変化はどうだろう。
この変化を、貴方は好いてくれるだろうか。
(だから、あっち行ってくれねえかな)
貴方に手を伸ばしてもらった。
いつだって貴方は手を伸ばしてくれる。
そしてそれは、私にだけ伸ばされる手ではないのだと思う。助けを求める人全てに、手を差し伸べる。それが貴方。古賀集というヒト。
それを責めはしない。
むしろ、誇らしい。
私はそんな貴方が大好きで、大好きだから。
でも、それだから怖くなる。
貴方のその差し出した手の先に、貴方が私よりも愛せる人間が捕まってしまった場合を。
ああ、そうだ。
さっきの瞬間に、わかることが出来た。
私が、何が怖かったのか。
私が何に迷っているのか。
……あの時。あの夕暮れ時。
何を恐れて彼の告白を、難癖を付けてまで保留にしてしまったのか。自分でも何を言っているかわからないような言葉を弄してまで。
怖い。
貴方は私を好きになってくれた。でもそれは、貴方に会えてから変わっていけた『私』であり、貴方と付き合ってからまた変化し始めてしまった『私』ではないのではないか?この、また変わっていってる私を直視したら、そのまま愛を向ける対象じゃなくなってしまうのではと。
私は、怖い。
こうして、一度だけでも手に入れることができたこの奇跡。貴方と両思いになれたこの幸福が、崩れてしまうのではないかという事。貴方が私からその関心を無くしていってしまう時が来るのではないか。
ではもしそうなったその時。私はまた彼を魅了出来るだろうか。私のような空っぽの人間に、愛玩人形にすらなりきれない存在に、もう一度惹かせる事が出来るのだろうか。
出来なければならない。
ならないけど、出来るとは限らない。
もし、もう出来ない時が来たのなら。
そこにあるのは最早地獄だ。
一度知ってしまった極楽からも突き落とされて。この上ない幸福を知ってからの追放は、きっと死した方がマシな程の、生き地獄。
「私のような空っぽの人間は、貴方と共には居られないのではないか。
ずっと、そう思っているんです」
シュウ。
貴方にこれを全て伝える。
貴方になら、私の全てを知ってもらって構わない。むしろ、知ってほしい。それが私が出来る唯一で全ての報いであって、私の幸せでもある。
これでもし否定されてしまうのならば、その時は、ただ私はそれを受け入れる。
それが貴方の幸せならば。
歩きながらそう語り終えた後。
シュウは暫く黙って歩いていた。
二人の間に、ゆっくりとした沈黙が漂う。
どれだけ経ったか。
彼が、口を開いた。
「……俺は、人を助けてなんかいないよ。アオの言うようなほど誰にでも手を差し伸べれてないし、初めはもっともっと邪だった。
それこそ最初はこのヤケド傷で怖がる顔を見せつけて、周りを怖がらせたかった、みたいな当て付けが無かったなんて言い切れない」
「……!?」
急に、彼はつらつらと語り始める。
その表情は驚くほど穏やかだった。
まるで、説法でも聞かせるような。
「そのネジくれた感情が治った後も。みんなを助けるのは誰かの役に立ちたかったからじゃない。ただ、自分が気持ちよくなりなかっだけ。偽善ですらない、自慰行為だ」
「…う」
「俺は、みんなに、あんな綺麗な眼を向けられるような人間じゃない。アオに、そんな想いを向けてもらえるような人間じゃないんだ」
「違う」
不思議と、声が出ていた。
大きな声でも、はっきりとした声でもなかった。それでも確信の篭った声だった。自分からこんな声が出るのかと思うほど。
「…貴方が貴方自身をどう思っていようと。
私は貴方の事が好きです」
「そして、貴方が貴方を嫌いな分、私は貴方を好きになります。足りない分も、足りた後も、もっともっと溢れるくらい、貴方にあげます」
一度宣言しておきながら出来なかったこと。結局、貴方には難しかったこと。諦めない。それでも貴方には、自分を大切に思ってもらう。
これからも、これから先も。
「貴方が貴方自身を好きになるまで。
好きになった後も。アオはずっと傍にいます。傍で貴方に愛を注ぎ続けます」
「…だから。私の好きな人の事を、そんなに馬鹿にしないでください」
そう言うと、彼はまた、慈しむようにこっちを見てニコリと笑った。
ほら、どうだ。と、そんな風に言わんばかりに。イタズラがうまく行った子どものように。
「ああ。そうするよ。
だからアオも。俺が好きになった君のことをそんなに卑下しないでくれないか」
…そう言われて、初めて気が付く。
ああ、そうだ。
そうだった。
これは、私だ。私の姿、そのままだ。
「同じなんだよ。
俺たちは、根本的に自分が嫌いなんだ。
だけど、そんな自分を愛してくれる人間がいる。それは確かに、自分が思っている自分とは別のものを見ているかもしれない」
「でもそれでいいんだ、きっと。
俺は君の言うような素晴らしい人間かもしれない。君は俺が言うように、可愛くて最高の女の子かもしれない。それでいい」
「そうして、寄り添ってくれる人がいる事が、もうそれだけで幸せなんだ。
……先生とかからの受け売りだけどな」
何を言いたかったかわからなくなってきた、と照れくさそうに後頭部を掻いてから、シュウが改めて足を止めて、こちらを向いた。
真っ直ぐとこちらを見ている。
その目から、目を離せなかった。
「俺はまず、君から愛想を尽かすなんてことあり得ない。そして億が一にでもそうなったのなら、その都度何度だって好きになる」
「私だって。シュウのことなら何回だって、何回だって好きになれる」
死ぬほど貴方を愛してます、など、言葉にしてしまえば、きっとこれも誰かの模倣。だけれどこの胸の気持ちは間違っても、何かの真似なんかじゃない。
「…なら、何も問題はない。だろ?
それじゃあちょっとだけいいかな」
「?どこに向かうのですか?初めてが外は流石にハイレベル過ぎるけど」
「な、なんの話だよ!
いいからこっちに来てくれ!」
彼がなんとか手を取って行く先。しばらく待つように言うと、火の光が見えた気がする。
瞬間、焦ってこっちに来るシュウの姿。
そうして、始める。
「……どっちも、好きなら問題はない筈。
だから今、改めて言うよ」
「俺は、君を愛している。
だから、結婚を前提に付き合ってほしい。
君が言ってくれた誓いと想いを、その命を持って全うさせてほしい!」
瞬間に、打ち上げ花火がいくつか上がった。
小さな、小さな市販の花火。
チープで、ただうるさいだけなようなそれり
でもこの時のわたしにはそれが、世界でなによりも美しく、華やかにすら見えた。
「……どうだ?アオ。
これ、ロマンチックかな」
「……正直、少しダサいです。
それに音がうるさくてあまり告白が聞こえませんでした。それに、煙もひどいです」
「う…辛口だな。100点満点中、何点?」
気まずそうに口を窄める彼に、チョンチョンとジェスチャーをして屈ませる。
耳元で囁くようなフリをして、どうした?と。
「……ふふ、そうですね」
『文句なしの、100点よ。シュウ』
その唇に、唇を閉ざした。
もう二度と空っぽにならないように、貴方の愛を吸い出すように。
もう二度と、貴方が貴方を嫌いにならないよう、私の愛を与えるように。
青い春が、過ぎて行く。
快晴と未熟の青色は過ぎる。
後に残るは、二人で乗り越える熟した果実のような。甘々しいその未来だ。
……いいや。本当のところ、そうなるかどうかは、正直わからない。私は人形でも予言者でも無い、ただの人間なのだから。
でも。ただ一つだけ確かなことはある。
これを境に、私は夏を好きになるという事だ。
「エエ、私も愛してます。
一生、幸せにしてくださいね?」
夏の夜の事。
私は貴方に、愛をもらった。
エンド2、おわり




