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レッド・デッド・ホワイトデー





3月14日。

ホワイトデーに用意をする青年が一人。

その目の下には薄い隈がまだ残っている。


彼はただ、ぼーっと鏡を見ている。

着替え、髪を正し、呆けて。




「おはようございます、兄さん」



そんな背に、声が掛けられる。

薄氷のように優しい声。

声をかけられた青年、古賀集はその声にようやく正気を取り戻したかのように頭を上げる。




「!…あ、ああ。

おはよう。今日は早いな」



「?いつもと同じですよ。いつも朝起こしてるじゃないですか。何を言ってるんですか」



「うん、ああ…いや、そうだな」



どこか呆然としたような、呆けたままの状態で答える青年。その様子を見て、少女…古賀鈴は怪訝から心配へと表情を変える。



「……疲れてるんですよ、きっと。あまり根を詰めすぎないようにして下さいね。ただでさえいつもオーバーワーク気味なんですから」



「…ああ」



「なんなら、今日は学校を休んだらどうです?一日くらいならとやかく言いませんよ」



「いや、今日は絶対に行くよ。

お返しもしなきゃだからな」



「今日はホワイトデーですもんね。

確かに、大事なことです」



そっと、悲しむような目つきを少女がした事には青年は気付きはしなかった。

それは彼が疲労しているからだったかもしれないし、彼が彼だからかもしれない。


ともかくとして、妙にどんよりとした空気を入れ変えるように、話題を切った。




「そういや、今日はアオは一緒に通学しようと来るかな?それならちょっとだけ話したいことが…」



「アオさんは、来ませんよ。

おそらく、ずっと」



「え?」



すとん、と。

包丁が落とされたような、そんな声だった。

聞き返す事も、ただ反射で行っただけでそれをすらまともに行えないほど、鋭利だった。




「大丈夫です、心配ありませんよ。

私がいます。私がついていますから」



「一緒に行きましょう。

大丈夫、いつも通りに」



「私が、ずっと一緒ですから…」







 


……






そして、いつもの如く教室に着く。

通学の道はどこか記憶が朧げなようで、鈴に対して失礼をしてしまったのではないかと、ふと思う。そうでなければ、いいのだが。




「おはよう、シュウ」



席に着いた途端に、一人の少女が青年に近寄っていく。その姿には子猫が親元にすり寄るような微笑ましさがある。

そのように、見えるというだけだが。



「!ああ、お早うアオ。今日も…」



そしてそのままにぎゅっと、座った青年の顔を抱きしめるようにして抱擁をする。

それまでなら腕を組むなどであったそのボディ・タッチは、些か過激すぎるようだ。



「……〜〜っ…」



いつもより身体に熱を帯びているように感じたのはきっと、気のせいではないだろう。



集青年は、それらに言及をしなかった。

それは、気遣いであったりだとか、そう言ったものではなく、ただどう口にしていいものかさっぱりとわからなくなってしまったのだ。



だからその代わりにと言わんばかりに、鞄に手を入れて小包を取り出した。




「急で悪いけど、これ。ホワイトデーのお返しだ。口に合えばいいけど」



そう、自身を抱きしめる相手に平常心を保ちながら言うことが出来たのは、奇跡的と言っても良かったかもしれない。



「ア…ありがとう、シュウ。

中身はなんでしょう?」



「ン、ただのクッキーだよ。

ほんとは手作りのが良かったんだけど…

どうにも、最近忙しくて。ごめんな」



「私はお返しを貰えるだけで、十分です。

ただ、クッキーですか」



「…?嫌い、だったか?」



「イイエ、好物です。

なんでもありません」



少し、落ち込んだような色が顔に走った事を、めざとく青年が指摘する。ただアオは、その指摘を、何事も無かったように流す。




「…今日は、顔色が良くありませんね。

寝不足ですか?」



「……まあ、そうだな」



「私のせいですか」



「そうじゃない」



『あの言葉を、聞いていたのですよね?』



「……!」




眠そうに、ぼーっとしていた脳と目に刺激が走る。見開いて、ただ前を向く。




『ごめんなさい。そんなつもりは無かった。

答えはすぐに求めるつもりも無いし、困らせるつもりも、ね』



『………でも。できれば答えはちょっとだけ早くして欲しい、ですよ?』




瞬間に、ホーム・ルームの鐘の音が響く。



「フフ。それでは、後で」



にっこりと笑う、彼女を見る。

ニッコリと笑う、彼女。

無表情の彼女から、非常に珍しいものを見たのにも関わらず、感じるものは歓喜というよりは、むしろ身震いであった。


青年はまた、そんな自分を嫌悪した。

どうして、素直に喜べない。

どうして彼女を。


きっとそれは、笑顔でありながら、笑顔とは程遠いものだったからなのだろう。




そうしていると、ふと違和感の正体に気付く。

そう、先程から何か妙な違和感に襲われていたのだ。その正体に、ようやく気付いた。



アオと話している時。そんな時にいつもあるような、背後から射抜くような視線を感じなかった。そして、そんな視線の元より聞こえてくる黄色い悲鳴も、今日は聞いていない。


あの、赤い視線が。


席は空だった。









……






思わず、青年は鞄を落とした。

驚愕、呆れ、虚脱感。それぞれ、6、3、1程の割り合いの感情からの行動だった。


生徒会室。

ただ向かった先に、今日、教室には居なかったある人物が一人で佇んでいた。


座る事すらせず、ただ立って。




「…どうしたんだよ、シド…!?」



彼の声音から、明らかな心配。

それは休みであった彼女が何故か学校にいる事への心配でも、ただ立ち尽くしていた事への心配でもない。


ひどい顔だった。

顔色が、蒼白よりも白だった。

それに対する、心配だった。




「……おや。来たのかい。

いいや、来ると思っていたのだけれど、ね」



「……元気そう、じゃないな。でも、せめて学校に来てるんだったら先生に連絡したらどうだ?クラスのみんなも心配してたぞ」




頭を掻きながら、取り直すようにそう言う青年は、次にまた仰天する。


少し目を逸らした隙に、彼女はグイとまた距離を近づけて来ていた。

それ自体は、シドがよくやることではあった。だが今日は何か、猛禽類を思い浮かべるような。そんな、飢餓じみたものがあった。




「へえ、心配してくれたのか。みんな」



「あ、ああ。当然だろ。

お前無断欠席するような奴じゃないし…」




「キミは?」



「?」



「キミは、心配してくれたのかな。

ボクの事を」



「当然だろ」



「そう、心配したろうね。

『皆と同じように』」




一部分を強調して話す、喋り方。皮肉じみたように話すそれに、珍しく青年が眉を顰めた。




「…何が、言いたいんだ?」



「もう、いまいち分かってないなんてツラはやめなよ。わかっているだろう、きっと」



「……『皆と同じように』心配されるのが気に食わないってことでいいのか」



「何故だと思う?」



「…」



「キミが、皆と同じような心配をしていると聞いたボクが、機嫌を損ねている理由は?」



「……わからない」



「嘘つき」



「…」





ふらふらと、足取りがおぼつかないように、青年の横を通り、出て行こうとするシド。

それを止める手は、彼からは出ない。

出すことのできる資格は、無い。




「…待った。

これ、もし良かったら」



「なんだい、それ」



「ホワイトデーのお返しだよ。お前からは直接貰ってないけど…色々いつも、世話になってるし。一応チョコは貰ったからさ」



「…………」


「…そういうこと、ばかりするね。

それをやめた方がいいのに。

特に、ボクみたいな相手にはね」



「…放って置けるもんか。お前の傍に居るって約束したじゃないか。これでも、覚えてるんだぞ。あの時言ったこと」




その言葉を聞いて緩慢に、しかし、ハッと驚いたようにシドが振り向き、彼の顔を見た。

そして、疲れたように笑う。

笑ったまま、つぶやいた。




「そんな目で、ボクを見ないでくれ…」




「え」



「…見ないでくれ…よ…」




「!?おい、シド!シド!?」




ふらりと倒れるその身体を何とか受け止める。


両の腕に、彼女がぐったりと、死体のように倒れかかる。その身体は、ぞっと怖くなるほどに軽かった。








……





「……過労と寝不足、あとめまいが慢性化してたらしい。ひとまず寝たら、良くなるかもしれないって言ってた」



「そ、そうですか。

よかったですね、何事も無くて」



「ああ、本当に。

…ひさめもありがとう。急に運ばさせちゃってびっくりしたろ。ごめんな」



「いえ、そんな!

お二人の役に立てて本当によかったです!」




そう、へにゃり、と慣れていないような笑みを浮かべるのは村時雨ひさめだ。彼女は、倒れ、それを運ぼうとしている古賀集を目撃。生徒会室からシドを運んできたのだ。



「…あ、あとさっきのホワイトデーのお返しもありがとうございます。その、大事にとっておきます!」



「い、いやいや早めに食べてくれ。

そっちの方が美味しいだろうから」



「あっ、はい!確かにそうですね…」



申し訳なさそうな顔をする、ひさめ。

それを見てまた、古賀が複雑そうな顔をした。




「シドさん…大丈夫でしょうか」


「…なんて。

僕が心配する資格もないでしょうが」




ぞっとするほどの嫌悪を持って、そう吐き捨てるひさめ。その急な変貌に、集青年は思わずそちらを向いた。



「……どういう意味だ?それ」



「……」




顔を逸らし、苦々しい顔をし。

そして、ゆっくりと話す。




「…きっと、僕のせいなんです」



ああ、この嫌悪は何に向けている訳ではない。自分自身に向けたもの。だからこそ、それは恐ろしいものだった。自身をそれほど嫉み、厭う事ができるだろうかと。




「ひどい事を、シドさんに言ってしまったんです。言った上で、それを撤回するつもりが無いとも。その発言の意味が分かってない訳はなかった。なのに、僕は…」



「…僕は、どこかで、あの人ならばきっと何を言われても大丈夫だと思っていた。

シドさんはかっこよくて、強くて、完璧で。だから僕なんかが何を思おうが、変わらないまま凛然と立っているんだろうって」



一息に、早口に、言う。

そして深呼吸のように息を再び吸う。

息が明らかに荒くなっている。



「僕、僕は…本当に、あの人に感謝してるんです。あの人が生徒会に居てくれたから僕なんかでも居続けることが出来て、僕と友達になってくれて…なのに、なのに!」



「……」



「…なのにどんどんと自分の中でシドさんを嫌いになっていってしまう自分がいるのがわかる!それが嫌なんです、本当に。」



「そしてあまつさえ!これを、貴方のせいにしてしまいそうな自分の弱さが!貴方が僕を変えてしまったと貴方のせいにしても。貴方なら、きっと僕を許してくれるからって甘えが!」



「…嫌いだ…」


「こんな僕自身が、大嫌いだ…!」




ぜい、ぜいと肩で息をする。

その肩をゆっくりと抑え、顔を上げさせる。

涙こそ流れては居なかったが、その端正な顔がどうしようもなく、苦悶に歪んでいた。



「すみません…急に、こんな…」



「ひさめが何を言ったかは分からないけど。きっと、大丈夫。それは君のせいなんかじゃない」



「でも、僕は…」




「大丈夫、ひさめのせいじゃあない」


「………全部、俺のせいだ」




「…え?」



「…それじゃ!ひさめも今日は帰りな?

もう遅いし。俺も帰るから、じゃあな!」



「あっ、ちょっと…!?」




明らかに、何かを誤魔化すように。

焦るように去っていった彼の背中に手を伸ばし。そして伸ばした手をそのまま引っ込めて、そのまま下ろす。

そのまま、追う事もできないまま。



その背姿を見て、ひさめはまた、改めてため息をついた。恋慕、嫉妬、衝動。




(この気持ちの、折り合いが付けられない)



知らなかった感情。慣れていない想い。それら全てが、彼女を狂わせていく。それに慣れない。倫理と論理が支配をしてくれない。



(……早く。)


(言わないといけない。

僕自身より、彼の為に。

彼の周りを、どうにかしない内に)



そう、背中が見えなくなるまで見守っていた。そして放課後のチャイムがそのまま、思考の終わりとなった。



(…結局、保身か)


(……僕は、最低だ。)









……







集青年は、家に帰るでもなく、かといって何処に行ったというわけでもない。


空いた教室に。

力無く、そこにただ横たわっていた。

糸の切れたマリオネットのようだった。





「……ええと、最近流行ってるのかしら?

誰も居ない教室で黄昏るの」




優しく、しかし確かに困惑した声。

それは、また彼が聴き慣れた声だった。




「……あ、すいません、ウキハ先生。

教室、閉じますよね。

すぐに出ますんで」



「あ、ええ。…って、そんな急に立ち上がらなくてもいいのよ?ほらそんなにフラついて…」



ふと、浮葉が口をつぐむ。


すると、何を考えたか彼女は一つ椅子を引いた。否、それだけではなく、机を移動させ向かい合わせる。小学校の時分の給食の時のように。



「ほら、集くん。座りなさい」



「…え?いや、でも俺…」



「…そんな顔をしてる貴方を放って置ける訳ないでしょ。緊急、二者面談よ。

これは先生からの命令です」



「…はあ」



いつもならば、それに困ったような、それでいて爛漫な笑顔を見せたであろう彼。しかし、それすら無い。生気が抜け落ちたような状態だった。




「…本当は九条さんとももう一回話したかったの。あの時は誤解を招く言い方になってしまったけど、その気持ちは大事なものだって…」



「……」



「……っと、ごめんなさい。

今は話を聞く番だったわね」




再び、沈黙が襲う。気まずそうに浮葉が目を泳がすが、しかし席は立とうとはしない。ただゆっくりと話し出すのを待っている。




「…俺のせいなんです」



「何が、かしら」



「みんな、笑顔じゃなくなる」








……





ぽつり、と言われた。

外からは楽しそうな下校の声が聞こえる。


次につながる言葉を、浮葉は待った。





「…みんな、どんどんと笑顔じゃなくなってく。かっこよくて綺麗だったシドはあんなにやつれて、笑わなくなっちまった。ひさめは泣きそうな程追い詰められて、笑うことなんてめっきりなくなった。アオだって辛そうな顔をしてた」


「鈴だって!俺なんかが兄貴じゃなければもっと幸せだったはずだ!悲しませることもない、あんないい子ならもっと、もっと!」



「…何が人助けだ、何が。

俺は何も助けちゃいない、何も出来ない。

ただ自己満足に彼女たちを使っただけだ!」




聖人を気取ってのたまうその面は、どれだけ恥知らずならばできたのだろうか。

そんなように、けらけらと笑うのは正義感にあふれていた自分自身のような気がして、彼はただ嘲りながら涎を垂らした。




「……そっか。

貴方は、怖いのね。

周りから好かれている事も。

そして、それが皆を苦しめてる事も」




理解できないものを恐れる。これは、人間、生き物として当然のこと。

風が鳴る音の恐怖から人は妖怪を作り、疾病への恐怖から人は悪魔を作った。


分からないものは、こわい。

これは、当然のことだ。



彼には、わからないのだ。


自分をどうして好きになるのか?それが本当にわからない。何故。どうして。人として当然のことをやっているだけ。ましてや、それで自慰行為のようにしているだけ。

そんな最低な自分を、糞のような人間を。

それが何一つとしてわからない。根源的な恐怖に苛まれ、幼児のようにびくついている。



そしてまた、そんな自身を痛め付けている。そんなことを理解できない自分を、なんと出来の悪い奴であろうかと。好意をまともに受け止めることすら出来ない、出来損ないの人間。お前が不出来だから。お前が駄目な人間だから。彼女たちを苦しめているのだ。


そう、自身を延々と痛め付け続けている。


それが、今の彼だった。

ずっと、そうだった。それを隠し切れなくなったのが、今になったというだけであった。




「…ずっと、愛を向けてくれてるのはわかってた。薄々と、それでも気付かないフリをしてた…」



「だって、それに応えたら絶対に相手は不幸になる!俺が、俺なんかが…!」




そうして目を逸らせば逸らすほど、更に自己評価は下がっていく。『分かった上で目を逸らしている、最低な塵野郎』と。

尚更、気持ちに応えるべき人間では無いと思っていく。負の、ループだった。




「……俺は、愛される価値なんてない!

誰も幸せにすることなんて、出来ない…」




焦点が合わず、ただ首を横に振るう。

暫く、また沈黙が流れた。その沈黙は、死刑執行のベルを待つような沈痛さだった。





「………私、うれしい。

貴方がそこまで、自分を曝け出して、声まで荒げたのを、初めて見れたから」




その沈黙を破ったのは、浮葉のそんな声だった。彼女は、あくまで平静のまま、話し出す。




「中庸って言葉。

集くんは知っている?」



「?まあ、聴いたことは」



「遠慮、謙遜。譲渡。確かに大事なことよ。我先に我先にとなってしまいがちな人間にとってはとても大事なことだわ」


「でもね。

度を越した謙遜も、また失礼になるの」



「……謙遜じゃ」



「『謙遜じゃなくて、正当な評価』…なんて言おうとしたかな。それが、失礼なのよ」


「貴方のその発言は、貴方を好きになってくれたその女の子たちすら否定しちゃってるのよ。見る目も、好意も、感性も、何もかも間違ってるって。それこそ、集くんの独りよがり」



「……」



「まさか、そう言いたいつもり?」



「!それは違う!」



「でしょう?だから、中庸。プラスでもマイナスでもない、真ん中が一番良い」


「…言うは易し、行うは難し。それでもそれをしなくちゃいけないの。無責任かもだけれど」




カタリ、と机が揺れる音。

椅子が座り直されて、揺れた。

彼の目が浮葉と合う。さっきまでの、目に写る虚ろな光は薄くなりつつあった。





「…何より。貴方は誰かを助けたり、何かに関わる時。誰かを幸せにする、誰かに幸せにされるなんて、打算で動いていた?」



「……違う。違います。

それだけは絶対に、違う」



「でしょ?幸せにするとか、しなきゃとか、不幸にするとか。背負い込みすぎよ、集くん。

それくらい、突飛で、発作的でいいの。

貴方のそれに、私も救われたんだから…」




そっと乗り出し、そっと手を握る。無骨な手は、細い指が両手がかりで支えている。




「『幸せにしなきゃ』『不幸にしたくない』

じゃない。『貴方は誰を幸せにしたいか』。

その自分の声を聞くのが君には大事」



「…集くんは、行動だって早い。だからこそ、心の声ははっきりとしている筈よ。

…もう、きっとわかっているはず」




そう言う彼女の声は、震えていた。

彼女自身、わかっているのだ。

今聞かんとしていることの意味を。




「みんなは貴方が好き。

じゃあ、集くんは?」




空気が静かになった。

落ち葉のように、綺麗な静けさだった。






「……貴方は、誰が好きなの?」





息を呑む。

この答えはきっと、未来を丸ごと決めてしまうような、大事な瞬間。それでも戻ることはできない。戻るつもりも、無い。


心の声を聞け。

心は、誰を見ている。

答えは、とうに出ている。





「俺は──」





夕焼け空に、声が消える。











この作品はマルチエンディングです。

それぞれのルートのエンディングを出します。

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