3-14.特訓の準備
「ヒカリ、何から始めるのが良いのか?」
「身体強化レベル2からでしょうか」
「それを知らない人は、ここにどれだけ居る?」
「マリア様、リチャード、シズクさん、あとはドワーフ族の方達でしょうか。
あ、あと、今日の雰囲気からすると、エルフ族のナーシャさんも知らない様子でしたね」
「そんな簡単に身に付く物なのか?」
「簡単かどうかは、習得した人たちに聞かないと分かりませんが、知識レベルを先に上げてから取り組んで戴くことで、習得の速さが変わる様です」
「何故、母や私が聞かされてない?」
「危険だからです。
身体強化を身に付けて、隣国のロメリア王国との戦争に用いれば簡単に勝つことが出来たでしょう。
ですが、戦争で勝ててもエスティア王国を存続することは困難であったと考えます。
そのため身体強化のレベル向上よりも優先すべきことに注力して行動させて戴きました」
「何故今なんだ?」
「ここにはエスティア王国の後ろ盾がありません。各自が自衛できることを最優先にすべきと考えました。
南の大陸の王国や冒険者たちの支援を当てに出来るか判りません。
魔族との戦いがどういった内容になるか判りません。
南の大陸の飛竜族との接触も可能性があります。
高さ2000mの高台への登頂も種々危険が伴います。
これらの状況下では自衛できる身体能力も必要と考えます」
「なるほど。だからリサも訓練したのか」
「あ、いや……。
リサは観光迷宮を探索中に本人が訓練したいと本人が言ったからかな?」
「そうか。身体強化レベル2を身に付ければ、リサに勝てるのか?」
「いや……。どうだろう?」
「どういうことだ?」
「人族同士の戦いで勝つことと、死なない訓練を積むことでは真剣さが変わると思うよ?」
「リサは魔物相手の真剣勝負をしていたのか?」
「う~ん。訓練?」
「リサちゃん。お父さんに本当のことを教えてくれないか?」
「お父様は素晴らしい方です」
「そうか。お父さんはリサちゃんに褒められて嬉しいよ。
お母さんとの訓練は危なくなかったのかい?」
「お父様、常にユッカお姉ちゃん、クレオさん、お母さんの誰かが居たので危なくは無かったです」
「そうか。訓練は大変じゃなかったのかい?」
「シオンの様な幼い子が行う訓練ではありません」
「リサちゃんとシオンくんは同い年だ」
「私は自らが望んで身体強化の訓練をしてもらいました。
シオンは念話の訓練をして、身に付けました」
「ヒカリ、リサの話を聞く限り、危険でも無いし、何とかなるのでは無いか?」
「リチャードなら簡単かも?
そしたら、リチャードが此処で訓練している間に、ちょっとリサの本体が祀られている村まで散歩して来ても良いかな?」
「お母様、私も行きます」と、リサ。
「お姉ちゃん、私も行くよ~」と、ユッカちゃん。
「クロ様がいらっしゃらなければ、私もヒカリ様に付いて行きます」と、クワトロ。
「私もついて行けるのかしら?」と、マリア様まで。
「あ、あの……。
マリア様はとリサは、まだ飛空術が使えないかと……」
「そう。誰なら飛空術が教えられるのかしら?」と、マリア様。
「クレオさん、フウマ、クワトロなら教えられると思います。
ユッカちゃんもステラも飛べますが真似出来るかが微妙でして……」
「そう……。クレオさん、フウマ、クワトロは3人とも身体強化レベル2を理解しているのかしら?」
「はい。さもないと、飛空術の長時間継続が困難と思われます」
「分かったわ。ステラさんとユッカちゃんと3人で仲良くしてらっしゃい」
「はい!ありがとうございます!」
「ヒカリ、待て待て。勝手に決めるな。まだ、念話の話が終わってない」
と、散歩に行こうと思ったらリチャードから割り込みが入った。
まぁ、仕方ないよね。
ちゃんと説明しておこう。
「すぐできるよ。たぶん」
「うん?どういうことだ?」
「マリア様もシオンも使えるし、クワトロも使えるから大丈夫だよ」
「待て、待て。ちょっとまて。いや、しっかりと待て。
俺が言っているのは飛竜族の方達を介しての念話の話ではないぞ?」
「うん。普通の方の念話だよね。大丈夫だよ」
「身体強化レベル2が使えるとは思えないシオンまでが使えるのか?」
「念話はコツがいるけど、消費魔力は少ないみたいだね。飛竜さんとの会話と似たようなもんだし」
「そんなことが出来たら、世界が狂うだろうが!」
「まー、悪用はしてないよ。危険だとは思ってるよ」
「それに、今の話からすると、母も身に付けているのだな?」
「はい。色々と助けて戴いております」
「色々と?」
「はい。ストレイア帝国兵が視察に来るときの対応ですとか、その他諸々です。
私の知らない所では、モリス辺りがマリア様を介して、各種権限を譲渡して戴いているかもしれません」
「母さん、本当なのですか?」
「ええ。飛竜族を介しての念話のフリをしていたけれど、南の大陸では使えないから、その辺りは気を遣う必要があったわ」
マリア様の返事を聞いて、リチャードは少し考える様に黙ってしまう……。
自分が何も知らされてなかったことがショックなのか、それとも念話が活用されることへの有用性へと思いを馳せているのかは分からない。
何であれ、前に進むしかないんだけどね~。
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