3-13.封建制度(2)
「マリア様、ご丁寧な説明ありがとうございます。
そうしますと、この国は封建制度を捨てていると言っても過言ではありませんね……」
「ヒカリさん、封建制度って、なにかしら?」
「王国が領地を支配して、領民は税金を納める。
王国は貴族階級に領地を割譲して、その領地を統治させる。
その代わり、外国からの防衛、領内のインフラ整備、技術開発を請け負います」
「ヒカリさんは、それを目指して貴方の領地を統治しようとしているのかしら?」
「え?」
「少なくともエスティア王国は封建制度では無いわね。
鉱石による交易を主な財源として、最低限の軍備を備えているだけだわ」
「あっ……」
「ストレイア帝国も封建制度では無いわね。
ひたすら、領地を拡張して、そこを征服して奴隷を抱えることで労働力を確保して、そこからの収益を上げているわ。
技術開発はアジャニアから購入しているし、インフラ整備は構成国に任せきりで、軍事力で反抗させない状況を作っているだけね」
「あぁ……」
「ロメリア王国はヒカリさんの言う封建制度に近いかしら。王国が責任を持って、軍を支配し、領地を侯爵が管理して、そこからの収益を税金として徴収する仕組みがあるわね。
治水や灌漑は進んでいなかったとは言え、メルマの街への街道は彼らが整備したものだし、ストレイア帝国側の街道も彼らが整備したわ。
ただ、構築していた全てをヒカリさんによって、制圧されてしまったわね」
「はい……」
そっかぁ……。
私は全然わかって無かったな……。
王様が居て、騎士が居て、農民が居れば封建制度とか思っていたけど、ちゃんと経済が成立していての封建制度なんだろうね……。
上辺だけの理解で言葉を使っちゃいけないね……。
歴史ってのは、後付けで解釈を当てているってのはあるのかも……。
その時代の本当の姿を知らなければ、言葉を簡単に当てはめちゃいけないってことだよ……。
私が浅はかだったな……。
「ヒカリさん、封建制度のことは気が済んだかしら?
それとも、それを皆が理解できないと話が進まないのかしら?」
「いえ、あの……。私の勘違いと言いますか……。
経済や統治に基づく、地政学的な見地からの分類と申しますか……」
「いいわ。それで、この国の特徴が判ったのかしら?」
「簡単に言えば、皇后陛下が全てを握っていると考えれば良いと思います。そして皇后陛下の範疇にない物は、全て自由にして良いと言えるでしょう」
「そうね……。
元々は人族の土地であって、魔族の占領下にある土地を解放した場合、定義上は皇后陛下の範疇にない物でしょう。けれど、それを素直に認められる方では無いわね。
ストレイア帝国の兵で、ストレイア帝国の直轄地が作られるとすれば、そこは皇后陛下の範疇にもなるわね。ここのサンマール王国の事情とは切り離せることになるわ。
そして、ストレイア帝国の直轄地とサンマール王国で直接交易を行えば良いことになるわね。港までの通行税などは別途調整が必要でしょうけれど、それは魔族からの領地奪還に成功してから、その成果物に対する対価としてサンマール王国と交渉をすればいいわね」
「マリア様は明晰です」
「ヒカリさんに言われたくないわ。
でも、貴方に褒められて悪い気はしないわね。
それで、どうするのかしら?」
「『皇帝陛下の命により、上皇陛下の指揮下にある騎士団を派遣させる』ことで、如何でしょうか。
命じたのはストレイア帝国ですが、拡張した領地はその指揮官に下賜されるはずです。
ハシムさんやカシムさんが率いて制圧したのであれば、奴隷の所有者であるユッカちゃんに成果は帰属しますし、ユッカちゃんが自由に行動しても差し支えありません。
当然ながら、ストレイア帝国に対して、何らかの納税の義務は生じると思いますが、帝国兵への給金と相殺できるような額に交渉を進めることも可能と思います」
「それは、サンマール王国とも、ストレイア帝国とも異なる完全なユッカちゃんの王国になるわね。
私は構わないけれど、ユッカちゃん本人とヒカリさんはそれで構わないのかしら?」
「私としましては、残り9年が上皇陛下より許されたユッカちゃんと共に過ごすことができる期間ですので、ユッカちゃんの思いを大事に支えて行きたいと思います。
そして、予測される困難は事前にリスク回避をすることも私の支援内容に含まれていると考えています。
あとは、ユッカちゃん自身の思いを再確認させて戴ければと思います」
「おねえちゃん、国を作るの?誰かに任せられるの?モリスさんみたいに……」
「ユッカちゃんは、何か心配?」
「お姉ちゃんと冒険に出られなくなることが心配。私が王女として、ここでずっと暮らすことになるの?」
「そういう心配なら必要ないかな。
ハシムさんやカシムさんなんかは、騎士団を指揮できる知識が十分にあるし。モリスほどじゃないけど、内政も出来ると思うよ。
南国特有の植物を栽培して輸出できるよになれば、騎士団員達の給料も賄えるし、地場の人達を雇用できるようになれば、騎士団員達は魔族との対応に専念できるようになる。
そこまでくれば、ユッカちゃんは何もすることは無いよ」
「お姉ちゃんも手伝ってくれる?」
「私だけじゃなくて、様々な能力を持った人たちがユッカちゃんを支えてくれると思うよ」
「それならやってみる!」
「わかった。そういう方向で準備を進めようね。
マリア様、リチャード、そういった方向で準備を進めさせて頂いても宜しいでしょうか?」
「ええ、私は構わないわ。ただし、今まで通りヒカリさんの素性は隠したままよ。
リチャードは何か意見があるかしら?」
「ああ……。色々ある。
あるが……。ユッカちゃんの行動を支援することは全く問題ない。
ヒカリには色々確認したいことがあるから、そこが問題かもしれない」
「そう……。皆が居るこの場所でもいい話題ですか?」
「ああ。先ずは身体強化について。次に念話についてだ。
この二つの謎が解ければ、他のことなどどうでも良い話だ」
どうでも良くは無いこともいっぱいあるけど、確かに身体強化レベル2と念話に関しては、考え方の根本が変わるからね……。
身体強化レベル2は飛竜の血が無くても身体性能の向上が維持できるし、脳内の活性化もできるから、思考能力や反射神経といったものまでが変化してくる。
これまで制覇してきた観光迷宮だったら、負けることは無いね。当然、従来型の兵器しか備えていない騎士団員が何人で掛かってきても負ける要素が見当たらない。
それって、戦争が戦争で無くなって来る。
次に念話だけど、これも従来の常識が全て覆る。戦争の場面で活用すれば、それは非常に効果が大きい。念話を盗聴することが出来るなら、それは妖精の長クラスの存在だけだろうし。ノーリスクで瞬時に情報共有ができるし、一度に多人数での会話も成立する。
インターネット上でのミーティングと同じ効率で情報共有が出来るのだから、大したもんだよ。ただし、情報を記録する手段が無いから、会議の決定内容を各自が記憶して貰える程度に優秀な人材である必要はあるけどね。
「ヒカリ、大丈夫か?」
「あ、ハイ。大丈夫です。この場で続けられますが、念のため盗聴防止の結界を作ってからの方が良いと思います」
「分かった。そうであれば、フウマが帰って来てからにしよう。彼らにもぜひ習得して貰いたい」
「承知しました」
まぁ、フウマは身体強化レベル2も念話も習得してるんだけどね。
よし!リチャードの戦力を一段階アップだね!
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