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3-12.封建制度(1)

「ヒカリ、エミリーという修道女の遺体があると言われる村の攻略に関して、皆で準備すべきことを決めたい」


「その件は私にとって、とても重要なことです。是非お願いします!」


「よし。

 その修道女の遺体は教会に安置されているらしいが、その教会は魔族に占拠されている。現状、その教会がどうなっているか不明だ。

 また、魔族によって周辺地域も占領されているため、実質的には魔族の領域であると考えて貰った方が良い」

「わかりました。続けて貰って大丈夫です」


「一つ目の案として、遺体の回収を目的とせず、単に道中の安全確保と、現地調査のみを行うことが考えられる。


 二つ目は、遺体の回収に重きを置いて、只管ひたすら、村を目指す。遺体の回収ができたならば、直ぐに離脱して帰路に着く。


 三つ目は、1案と2案が織り交ざった内容に加え、村とその周辺を魔族から人族へ取り戻す。


 先ずは、ここのどれを目指していくか、皆の意識を合わせたい」


「リチャード、兵が居ないと道中にしろ、村にしろ、魔族を撃退しても、継続的に確保は出来ません。

 傭兵ではなく、この国の為に働いてくれる専門の人が必要。

 それか、人族の領地奪還を面で構成して、魔族との境界線にバリケードを組んで、線で防衛線を張る方法でも良いかもしれません」


「ヒカリ、それは理想論だ。この国は疲弊している。それだけの兵を出す余力は無いだろう……」


「それなら、最初から二つ目の案になりますね?」


「お姉ちゃん、もし魔族から領域を取り戻して、人族の領域にすることが出来たら、その土地は誰の領地になるの?」

 

 と、ユッカちゃん。

 何か考えがあっての発言だろうね。ちょっと話を聞いてみようかな?


「リチャード、どうなるか分かりますか?」

「ああ……。ユッカちゃんなら……。あり得るか……。


 もし、何処からか兵を新たに準備して、元の人族の領域まで魔族を追い出して、そこへ防衛線を敷くことが出来たなら、そこは撃退して、領域を確保した兵を率いているリーダの領地になるだろう。

 当然、そのリーダーの領地マーカーを設置して、そのリーダーが防衛団を養う前提となる」


「お姉ちゃん、私が貰った騎士さん達をここに派遣しても良い?」

「ユッカちゃんの所属だから、ユッカちゃんが決めて良いよ。

 でも、もう少し詳しくユッカちゃんの話を聞いてみたいかな」


「あのね。みんなね。暇なの。

 それとね。お姉ちゃんが雇っている人たちに比べて弱くて、自分達が活躍出来なくて悔しいんだって。

 あとね。おじいちゃんが、『資金がなぁ』って言ってた。


 だから、新しい領地を守る仕事があれば良いと思ったの」


 そうだねぇ……。

 私の領地では軍事行動をなるべく避けて運営しているから、騎士としては暇だろうね。建築資材を運んでもらったり、道を舗装して貰ったりしてるけど、基本は神器の活用と、重力遮断で資材を運搬しちゃうから、人数をかけて行う仕事って、とっても少ないよね。


 日々の訓練とか、模擬戦をしようにも、私が直属で雇っている人達は、元々の能力と、リーダーにはニーニャの武具を与えて、飛竜の血を飲んでもらっている。更には念話と飛空術も教えてあるから、普通の人達じゃ全く勝ち目が無いんだよね。さっきのリサとリチャードの戦いみたいな感じ?


 最後のお金の問題だけど、「帝国の直轄地があるのだから、そこに兵を派遣しているのは当然」って、誰もが考えている。単身赴任だろうと、給料だろうと、全部帝国持ち。だけど、そこの常駐している兵士達は帝国に貢献することも無いし、兵士としての仕事もしていないっていうね……。いわゆる無駄飯ぐらいってやつ?


 総合的に考えて、ユッカちゃんの言っていることは正しい。もっと帝国から派遣されている騎士団のメンバーを有効活用する方法を考えてあげるべきだよね。


「ユッカちゃん、実現方法は一緒に考えるとして、私の領地にいるユッカちゃんの騎士団員を派遣するのは面白いと思うよ。

 マリア様やリチャードはどのように思われますか?」


「私としては、ヒカリの領地のことだから、ヒカリが決めれば良いと思う

 。ロメリアもメルマも実質支配出来ているのだから、エスティア王国が成長のための領地拡大戦略や奴隷徴収戦略へと転換しない限り問題無いだろう」


 と、リチャード。

 今まで、リチャードが戦略論とか考えている様子は無かったけれど、結婚の儀を終えての1年間で色々考え方が変わったのかもしれないね。がんばれ!未来の国王様!


 続いて、マリア様から発言があったよ。


「ヒカリさん、私は大きく2つの調整が必要と思うわ。


 一つ目は、ストレイア帝国からの緩衝材が無くなることね。盾が居なくなるのだから、実質的に無防備になるわ。

 二つ目は、この国の利権の話ね。どう考えても後から約束をたがえてくるわね。


 ここの前提が最悪の方向に向かっても皆で対処が出来るのなら、私はユッカちゃんの案を採用しても構わないわ」


 うん……。


 封建主義の軍拡路線が前提にあるとすると、ストレイア帝国が再度エスティア王国というか、私の領地に対して進軍してくる可能性は高いだろうね。ロメリアがその盾となり得るかは、レナードさんとロメオ王子の連係が機能していれば、消耗戦に持ち込ませられるだろうし、進軍を諦めさせることは出来ると思う。いわゆる「こっちくんな作戦」って感じかな?


 帝国兵にしろ、ロメオ国王の騎士団にしろ、活躍の場が与えられて、ある種のガス抜きになるなら仕方ないのかな……。騎士として死ぬことがほまれみたいな精神論があるのだから、私が現代日本の思想を説いても、直ぐに浸透する訳が無いよ。


 次に、こちらの南の大陸の話だよね……。

 なんで、そんなにお金も兵士もいないんだろう?封建制度が崩壊する何かが起きて居るんだろうね。軍事力ではなくて、利権だけで生きていけると勘違いしちゃてるみたいな?

 ちょっと、情報不足かな……。


「ヒカリ、母の考えについてはどう思う?」


「一つ目は、私が言うのは不味い気がするのですけど、ストレイア帝国が進軍してくるのは仕方ないと思います。


 その上で一度、エスティア王国には軍事力で心底敵わないと思うまで撃退し続けて、矛先をエスティア王国の反対側へ向けて貰うのも有りだと思います。


 その際、ストレイア帝国との戦場はミラニア川周辺になるでしょうし、レナード様とロメオ国王が連係して対応して頂くことになると思います。

 私の領地の問題であるにも拘わらず、他の人達に代理戦争をしてもらうのが申し訳ないと思いますが……」


「なるほど。この国の利権についてはどう考える?」

「私には判断できる情報が少なく、もう少し皆様の意見を伺ったり、調査した方が良いと考えます」


「ヒカリさん、この国で半年ほどクワトロと一緒に色々な手段を用いて情報収集をしたの。分かる範囲で答えるわ」


「マリア様、ありがとうございます。幾つか知りたいことがございます。


(1)ストレイア帝国に嫁いだ皇后陛下と、この国の王族との関係

(2)この国の王族と貴族の支配関係

(3)この国の財政とお金の流れです


 これらが判れば、我々の立ち位置も判ってくると思います。我々の立ち位置が判れば、ユッカちゃんの提案の実現性も見えてくるのでは無いでしょうか」


「ヒカリさん、流石ね。


 (1)は、簡単ね。ここの国王の姉がストレイア帝国の皇后陛下よ。うちと同じよ。リチャードの姉の一人がロメリア王国に嫁いでいるわ。


 (2)は、少し様子がおかしいの。王の元に貴族が集う。王は外交を含めて領地内の貴族の面倒を看る。一方で、貴族側は領地内での税収を上げることで、国王へその義務を果たすべきなの。

 ところが、この国では、貴族と王族の結びつきが弱いの。貴族は貴族で兵を持つし、税収も自分で決めて王族へ支払うわ。王族も外交面で全面に出ることもなく、かといって領地内での困りごとに対して、派兵する訳でも無いわね。

 此処までは良いかしら?」


 人族同士の結びつきとしての封建制度、政略結婚は残っているけれど、南の大陸の地ではそれが有効に作用していないということ?

 例えば、集団戦を得意とする人類にとって、密林はその意思を阻む。まして、狼煙にしろ伝書鳩にしろ、この状況ではどちらも使えない。

 更には、騎士としての騎馬戦も密林では機能しないし、鎧や盾による弓からの防御を目的とする装備が、この南国の地では体力を消耗させて逆効果。


 つまり、南の密林を領地とする場合には集団戦や情報連絡網による攻勢を仕掛ける人類特有の戦い方が功を奏せず、軍拡主義が成立しないということ?


 全く異なる経済発展の仕組みを構築しないと、人類は南の大陸ではその居住領域を拡大していくことは出来ないね……。


「ヒカリさん?」

「は、はい!」


「王族と貴族の結びつきが弱いという説明は良いかしら?

 良ければ、次の説明に進みたいのだけれど?」


「はい。お願いします。考察は後で行います」


 財政面とかお金の流れが判れば、封建制度が崩壊しているかどうかも判るんじゃないかな~?


「ヒカリさん、私が集められた範囲でのこの国の財政に関する情報を共有するわ。


 支出に関しては、ストレイア帝国への上納金が大きいわ。金貨5000枚ぐらいであると聞いているわ。そこに、エルフ族とドワーフ族へ金貨5000枚ずつの重しが加わった様ね。


 国内のインフラ整備はその土地の領主や組合に任せっきり。騎士団も最低限であり、貴族の息子たちを訓練の名目で参加させて集めている様ね。実質的な国王の支配下にある直属の騎士団は500名も居ないはずね。

 つまり、大きな支出は国内では必要なく、国外への流出がメインと考えて良いわ。


 次に、収入面ね。

 1つ目は、ストレイア帝国と農産物の交易を行っていることが一番大きな収入のようね。北の大陸では輸入するスパイスの種類が限られているわ。最近になって、砂糖や綿花を輸出するようになったけれど、輸出額が急増しているのはここ1-2年の話。

 その砂糖や綿花の輸出額にしても、交易に用いる船がトレモロ・メディチ卿の大型船のように、一度に大量に、そして安全に運ぶことが出来ないと利益が出ないわ。小さな船でリスクを負って、少量の単価の安い物を運んでも、その手数料の方が高くつくもの。

 すなわち、交易での利益と言っても、市場の食品の様な価格で北の大陸へ買い取られていると考えて良いわ。


 2つ目は、他種族との交易。

 これは、物々交換のようなレベルであって、それ自体は税収とならないわ。隊商を組んだ商人達が、それを村や王都で販売し、その売り上げの一部を税収として納めさせているわ。

 けれど、流通量も少ない上に、その売り上げの一部が税収となるのだから、人族同士の交易に比べて、非常に少ないと言えるわ。


 3つ目は、各ギルドからの上納金

 各ギルドは営業の許可権を得て、それで運営し、収入を得ているわ。商人組合、魔道具組合、薬師組合、武具屋、道具屋、冒険者ギルド、各種市場があるわ。

 問題なのは、それぞれの組合やギルドがどれだけの利益を上げているかが判らないから、利益に割合に応じて税金を徴収することができず、実質、許可権の付与や更新する際に、一定額を徴収しているだけなの。



 そして、最後に。

 皇后陛下自らのストレイア帝国内での販売網ね。ヒカリさんが潰したのはごく一部らしいの。装飾品だけでなく、副食品や高級食材、料理店、メイド組合などを経営していて、そこからの上納金を、各種ルートに分散させて、この国へ還元している様なの。

 このルートと金額の解明は出来ていないわ。アルバートさんやサンさんに頼めば良いのでしょうけれど、その情報が必要かしら?


 尚、人頭税や、開拓地ごとにかかる税金は無いようね。


 以上よ」


 これって、もう、封建制度でも君主制でも無くない?

 商社とか、そんな感じで……。

 株式会社作ったら、皇后陛下(株)とか、そんな感じ?


 いや、まぁ、皇后陛下の名前が未だにわかって無いっていうね……。


いつもお読みいただきありがとうございます。

暫くは、毎週金曜日22時更新の予定です。


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