3-11.ナーシャと妖精の子
「ナーシャ、直ちに帰りなさい。命令です」
「ステラ様、捨てないでください。お願いします。何でもします」
「いいえ。貴方は人族の方達を軽んじています。言い訳無用です。族長の元へ帰りなさい」
「ステラ様、すみません。人族を理解する機会をお与えください」
「ヒカリさん、ヒカリさんのお手を煩わせるのでしたら、クレオさんの奴隷に戻しても良いのですが……」
「ステラ、リチャードがショックを受けているように、ナーシャさんも実感できてないだけでさ……。
まぁ、ナーシャさんにも実感できるチャンスが無いと不公平かな?」
「ヒカリさん、感謝します。
ナーシャ、貴方が一番得意とする、あるいは種族として誇れることは何かしら?」
「ステラ様、それはやはり……。妖精との交信であると思います。
私が記述しした結界であれば、人族の方達も勉強することで使える様になります。ですが、妖精との交信に長けていることは、エルフ族の得意とするところと自負しております」
「そう……ね……。ナーシャ……。貴方、誰と交信できるのかしら?」
「ステラ様、すみません。誰と申しますと……」
「そうよね……。そうなるわよね……。
貴方が得意とする妖精との交信で、一番の得意な特別な術は何になるのかしら。今まで誰にも見せたことが無い様な内容でも構わないわ」
「は、はい!
光の妖精ライト様の僕と交信ができます。
例えば、このような明るい状態でも、光の妖精を召喚して、目に見えるような灯りを灯すことが出来ます」
「それを皆に見せることが出来るのかしら?」
「勿論です。少々お待ちください」
すると、ナーシャさんは腰ひも一部に隠してあったのか、何か乾燥した薬草の様な物を取り出して、手のひらに揉み込む。その揉み込んだ状態で手を握りしめて、目を瞑って額に手を当てると、長い祈りの様な詠唱を始めた。
妖精との交信っていうのだから、そういった大掛かりな儀式になるんだろうね。まさか、ラナちゃん本人が呼び出されたりしないよね?
日中の太陽光の下では辛うじて見える程度の、ポツポツとした光の粒が辺りを漂い始めた。数からすれば、10個以上20未満ぐらい。見え辛いし、ふよふよと漂っているから、正確な数は分からないよ。
「皆様、見えますでしょうか?12の妖精を同時に呼び出しています」
と、誇らしげに胸も声も張って皆に、光の妖精の小さな粒粒を指し示す。魔道具もなく、そういったことが出来るのは凄いんじゃないのかな?
「ヒカリさん、確認できますか?」
「ステラ、私だってナーシャさんを正当に評価するよ。ちゃんとナーシャさんが召喚した妖精の子達を確認できているよ。ちょっと、チラチラしてて霞んでいるから、ステラの子より見え難いけどさ」
「ヒカリさん、そういうことを言うと、彼女が傷つきますわ。地水火風の妖精と違って、光と闇の妖精は捉えどころが無いのです。
まして最近では、その光と闇の妖精の力が弱まっていたので、召喚に苦労しているのですわ」
「ステラ様、そうなんです。
私も召喚に成功することができるとようになったのは、ここ1-2年のことなのです。それまではいくら努力しても上手く行かなかったのですが、努力の甲斐あって、漸くここまで出来る様になりました」
そっか……。
クロ先生もラナちゃんも封印されていたからね~。妖精の長が封印されると、力が弱まるようなことを言っていたしね……。2年前っていうと、丁度二人が解放された頃だもんね。
「ステラ、ナーシャさんを軽んじる様な発言をしたのは悪かったよ。それで、この子の一番凄いことを披露して貰って、私は何をすれば良いの?」
「ヒカリさんが、ナーシャより妖精の召喚が上手いことをお見せください」
「ステラ、それはちょっと不味くない?」
ここにラナちゃんとか来て貰ったら、色々と不味いでしょ。
呼んだら来ちゃうし、来たらラナちゃん達に怒られるし、未だマリア様にも妖精の長達のことは伝えて無いんだし……。
「ひ、ヒカリさん!違います!ヒカリさんの妖精の子の話です!」
「ああ、なんだ……。だったら、ステラが見せればいいじゃん?」
「ナーシャは、私には敬服しますが、人族を軽んじるきらいがあります。ですから、ヒカリさんに披露して戴きたいのです」
「まぁ、良いけど……。ナーシャさんは信じないと思うよ?」
「ヒカリさんの子なら、会話が出来るので大丈夫ですわ」
「そっか、本人が納得するまで確認出来るもんね。そうしよう!」
私はラナちゃんから貰った光の妖精の子に出てきて貰う。手のひらに載る蝶々ぐらいの大きさの妖精が私の目の前に現れる。
一緒に迷宮に入っている人は見慣れているし、リチャードも王宮からタコを獲りに行ったときに見せている。クワトロやマリア様もロメリア王国と模擬戦を行った時に召喚してるから、何となく遠目には見たことがあるんじゃないかな?
まぁ、妖精の子を召喚出来ることは、秘密でも何でも無いからいいや。
「ナーシャさん、私もこんな風に光の妖精を召喚できるのだけど、これで少しは人族に対する考えを改めて貰えるかな?」
「す、す、ステラ様、ステラ様、ヒカリさんはその名の通り、光の妖精の長なのでしょうか?」
あまりに動揺してて、ナーシャさんがエルフ族の言葉になっちゃったよ。私はナビにエルフ族の言語もダウンロードして貰ってるから聞き取れるけれど、他の人族の人達は分かんないんじゃないかな?
「ヒカリさん、ナーシャが困っています。話しかけてあげて貰えますか?」
「私の子、ナーシャさんはエルフ族の人なんだけど、私が妖精の長じゃないって、説明してあげて」
「はい、お母様わかりました」
ふよふよ~って感じで、ゆったりとナーシャさんの所まで移動すると、ナーシャんの顔の前でお辞儀をした後、耳の近くでエルフ族の言葉で何か囁いている。発音の感じがエルフ族語だとは思うんだけど、音量が小さくて内容は良くわかんないや。
しばらく、ナーシャさんと妖精の子で話をしてから、妖精の子が私の方へ戻ってきた。
「お母様、私が人族であるお母さんの子であると、ナーシャさんにご理解戴けました」
「ありがとね」
私がお礼を言うと、妖精の子は微笑んでからす~っと姿を消した。
「ステラ、ナーシャさんをどうするか決まった?」
「ナーシャ、最後のチャンスよ。何をしたいかヒカリさんに話しなさい」
ナーシャさんがステラに促されて私の前まで来て、片膝を着いた姿勢をとり、一度頭を下げてから、私の顔を見上げると言葉を発した。
「ヒカリ様、わ、わだじわ、……。わだじ、だーざは、……、ひがりざばの、(ヒック、ヒック)、ど、どれいに……(ヒック、ヒック)」
最後まで言い終わらずに泣き出しちゃった。
っていうか、私の奴隷ってどういうことよ?
「ヒカリさん、ごめんなさい。色々と謝るわ。全然判って無いわね。ちょっと、この子を部屋まで連れて行くわね。皆様、失礼します」
と、ステラは皆に挨拶をすると、ナーシャをお姫様抱っこに抱え上げて、屋敷の方へ立ち去ってしまった。ま、仕方ないっか。
「リチャード、作戦会議は続ける?」
「ああ、訓練が必要なのは認める。だが、集団行動をする以上、皆で意識を合わせることは必要だ。だから、作戦会議を続行する」
流石、私の旦那様。
打たれ強いし、何がすべきことかを見据えて行動できる。
強いなぁ~。
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