3-10.リサとリチャード
分量が少ないので二本立てです。
「ヒカリ、何故俺がヒカリではなくて、娘のリサと勝負をするんだ?」
「私が勝つと、皆がインチキっていうからだよ。リサと勝負をすれば、分かる人には判ると思うよ」
「ほぅ……。お前がした特訓とやらは、それほど凄いのか。見せておらうじゃないか。
リサちゃん、お父さんと一緒に稽古をしよう」
「お母様はインチキです。ですが、私がお母様の代わりにお父様と手合わせをします。
お父様、よろしくお願いします」
みんなで、中庭のテーブルとか片付けて、ちょっとした稽古なら出来そうな5m四方ぐらいの場所を空ける。地面は芝生みたいな草だから、あまり強く踏み込むと草で滑っちゃいそうだね。
「ヒカリ、リサが得意な分野は何だ?」
「身体強化あり、攻撃魔法無し、武器から魔法を放出させるのも無し、飛び跳ねるのは良いけど、飛空術を使っての空中戦は無し。
それぐらいかな?」
「そうじゃないだろう……。剣とか槍とか弓とかそういった話だ」
「うん……。リチャードに憧れて、両手剣が好きみたい。
本物の両手剣で勝負すると、いろいろ壊れるから、木刀を各自でコーティングしながら使って欲しいかな」
「わかった。
リサちゃん、木刀を見つけてくるね。ちょっと待てって」
リチャード、リサに『ちゃん付け』すると怒られるよ?
あと、その余裕は勝負が始まる前までだと思うよ?
ーーー
リチャードはいろいろ探し回ったようだけど、訓練用の木刀なんか、この家にはある訳無いよね。木切れを持って戻ってきたよ。
「リサちゃん、薪しか無かった。ちょっと削るから待ってて」
リチャードは自分の剣で薪になる前の丸太のような木を切って、そこから1本の木刀を削り出す。剣で丸太を切れる技量ってのは凄いと思うよ?
その様子を見ていたリサも、短い方の木切れから自分の身長に合わせて木切れから木刀を削り出す。リサは縦方向に木を割りつつ削いでいくから、木を横に断つような力も技も要らないっていうね。
それを横目に見ていたリチャードは、リサの剣の扱いと木刀を木片から切り出す速さにちょっと驚いていたみたい。きっと、リサが木刀をちゃんと振り回せるとは思っていなかったんだろうね。
木刀が完成したのはリサが先。リサは素振りをしつつ、自分で木刀にコーティングしたり、身体強化の呼吸を整えたりと戦いの準備を始めている。それほど遅れずにリチャードも木刀を完成させた。だけど、コーティングしてない。
あれじゃ、折れちゃうよ。ま、いっか。
「リサちゃん、お父さんとリサちゃんで交代で打ち込みをしよう。受けきれなかったり、剣を落としてしまったりしたら負け。どうかな?」
「わかりました」
「よし、お父さんが先に受けるから、リサはお父さんの何処へでも打ち込んできていいぞ」
「わかりました」
リサは靴の靴紐を締め直して、更にミスリルの細い糸が編み込んである部分にも魔力を通して、力が逃げず、靴の中の汗で滑らない様に靴の中の空気循環が正常に行われていることを確かめているみたい。
そして、木刀にもう一度コーティングを掛け直して、上段に構えて、リチャードと向き合う。
リサから見るとリチャードの準備が整っていないと思ったのか、まだ打ち込みに行かないで、ジッと待っている。そのまま2-3分、両者が何の反応も示さないので、リチャードが声を掛けた。
「リサちゃん、いつでもいいぞ」
「あ、あの、お父様、本当に良いのですか?」
リサからすれば、そりゃそういう反応になるよね。
先ず、武器、身体強化の状態が相手に筒抜けになっている訳なのだから、リチャードが身体強化もしてないし、木刀にコーティングも施してない。だから、勝負が始まってないっと考えてたんだろうね。勝負する前から、勝負が決まってる。
だって、地下30階層のボス部屋で、20体近い魔物と対面して、怯まずに殲滅しきってしまうだけの先読み能力を実践で身につけているんだからさ。たった一人の人間の身体を流れるエーテルの流れを検知出来ない訳が無いもん。
ただ、まぁ、リチャードがぶつかる直前だけ身体強化する戦法取っていて、敢えて隙を見せている可能性も無くは無いけども……。
リサはリチャードがコクリと頷いたことに、コクリと頷き返すと、一瞬で飛んで、リチャードが正面に構える木刀へ打ち込みに行った。
勝負は、人を倒すことや打撃を入れることでは無いのだから、木刀を手放させたり、力で押し切れれば勝ち。だから木刀を狙ったのは当然だよね。
そして、何のコーティングもしていないリチャードの木刀は、中ほどの所で鋭利なナイフで切ったかのような綺麗な断面で真っ二つになった。
「はい、リサの勝ち~。ステラ、これで良いかな」
「ヒカリさん、リサ様は一週間で此処まで成長されたのですか?」
「うん。リチャードとナーシャさんも訓練するなら、一緒が良いでしょ?」
「ナーシャ、見えましたか?」
「ステラ様、リサちゃんは剣を隠し持っていたということでしょうか……」
「リサ~。リサがインチキだって」
「お母様!判ってて言っていますか?」
「リサもそのうち、『リサだから』って、言われるかも?」
「そんなの嫌です!カッコイイ二つ名が欲しいです。『神速の剣闘士』とかカッコイイです」
「リサ、リサはお母さんより速いかもしれないけど、クワトロさんには敵わないよ?」
「何故です?」
「クワトロさんは、戦況も戦術も読むからね」
「クワトロ様、私と勝負してくださいませんか?」
と、リサはリチャードのことは無視して興奮気味にクワトロに話しかける。
「み、みんな、ちょっと待ってくれ。私の理解が追い付かない」と、リチャード。
「マリア様にはご確認戴けましたでしょうか?」と、私。
「ええ。
この子、最近は外交や内政ばかりさせていたせいかしら。クロ先生にも稽古をつけて戴いてはずなのに、戦闘のセンスが無さすぎるわね」
「ま、待て。本当にこの場で状況が見えていないのは、ナーシャさんと私だけなのか?シオンはどうだ?」
「おとうさん、おねえちゃんは凄いよ。僕には同じことは出来ないよ」
「待ってください。皆様、お待ち下さい。
私はリチャード様が丸太から木刀を手早く削り出しているのを観ていました。リサちゃんも削り出してるようにみえましたが、例えば、木刀の中に剣を仕込んでいたのかもしれません」
ナーシャさんが目の前で起きた状況を信じられずに、まだ噛みつくよ。
うん、まぁ、そういうもんだよ。
だから、もうエルフ族の元へ帰って貰っても良いのに……。
「ステラ、ナーシャさんには無理して居て貰わなくても良いと思うよ?
リチャードも、わざわざ訓練してまで魔族と戦う必要無いし……」
妥当な提案だと思うんだよね。
リチャードはともかく、エルフ族の元に戻れば、ちゃんと立派なエルフとして自尊心を保ったまま生きていけると思うんだよね……。
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