3-08.ドリアン
みんなでぞろぞろと、私の寝室から大人数で食事が出来る広間へ移動。メンバーは、私の家族である、リチャード、リサ、シオンと私。そしてユッカちゃんとステラ。
様子を見に来たマリア様と、エルフの子のナーシャもステラに呼ばれた。クレオさんは色々な準備で走り回っているらしいから、後で情報を共有すれば良いね。
「ヒカリさん、元気になったのかしら?」と、マリア様。
「はい。ご心配、ご迷惑をお掛けしました」と、私。
「2度目だけれど、慣れない物ね」
「すみません……」
「今回は、迷宮に入っていただけなのでしょ?ユッカちゃんやクレオさんも居たのだし。何がそんなに大変だったのかしら?
それとも、リチャードとの夜のお仕事かしら?」
うは~。
みんながいる前でそれを言いますか。
恥ずかしくて、顔がのぼせてるのが判るよ。
「マリア様、あまり寝ていなかったせいかもしれません。
もちろん、観光迷宮を攻略中の話です。収集品の管理と、各班での訓練につきあっていましたので、それが理由だと思います」
「そう、相変わらず真面目なのね。残念だわ……。
それよりも、果物を皆で食べるのですって?」
本当に残念そうに呟くね……。
そして、一転して笑顔になって、果物のことを尋ねるマリア様がちょっと可愛いです。
「ええと、クレオさんが定期的にこの屋敷に果物を配送するように指示を出していたはずなので、それなりの種類と量が届いていると思うのですが……」
「ええ、色々あるわよ。
どうやって開けたら良いのか判らない物や、食べ物かどうか判定出来ないものまであるわ」
「ヤシの実は、外側を剥いて、中身の汁を飲む物ですね。完熟させて、ココナツオイルを採ったりしますが、普通は殻の中のジュースを楽しみます。スッキリしてて、仄かな甘みがあるので、お茶とは違った清涼感が味わえます」
「そう。それは食べ物として考えても良さそうね。でも、臭いのはダメよ……」
「何か、腐った物が納品されたのでしょうか?」
「腐った臭いというより、何ていうのかしら、毒々しい臭いで、強烈な臭いね。
外見はゴツゴツ、トゲトゲしてて、頑丈そうなので、あれは何か投擲するための兵器を間違えて納品したのかしら?」
それって、ドリアンかも?
「マリア様、それはドリアンと言われませんでしたか?」
「分からないわよ。クレオさんはヒカリさんが連れて行っていたでしょう?質問する暇もないわ。
貯蔵庫を見に行ったら置いてあったのよ……」
「多分、だれか、ここの執事に頼めば解体して貰えたのでは無いでしょうか……」
「あれを食べ物を判っていて、食べたくなる雰囲気の物だったなら、私だって、指示を出したわよ……」
「じゃぁ、屋外で食べましょう。屋内だと臭いが籠ると大変です。クレオさん以外の執事さんの名前を存じ上げていないので、マリア様から指示頂けますか?」
「クワトロにさせるわ。合流させて良いかしら?」
「はい。是非とも」
ーーー
またまた、みんなでゾロゾロと、今度は中庭へ移動する。
中庭から裏庭へと続く隅っこには、山の様に積み上げられた武具が転がってる。収集品の麻袋には未だ手が付いていないのか、それとも既に洗浄と分別が終わってるのかな?寝てた自分が、どうこう言えることじゃないから、まいっか。
クワトロが何処からか現れて、中庭にテーブルと椅子を何脚か運んでくる。重力遮断をいつごろか身につけた様で、軽々と準備を進めていた。
みんなが座れる準備を済ませた後で、貯蔵庫に行って、ドリアンを持ってきた。
「ヒカリ様、これはどのようにすれば良いのですか?」
クワトロは2個のドリアンをヘタのある枝の部分を持って、ぶら下げて持っている。
あれ?
あのサイズ、小ぶりなドリアン。日本で輸入されてるのと違う。色もキウイ色に少し茶味が掛かってて、完熟してそう……。
あれって、噂でしか知らないけど、ドリアンの高級品種?現地で食べても一個数千円するとか?日本じゃお目に掛かれない代物じゃないの?
「クワトロ、2個しかないの?」
「いいえ、まだ数はあります。足りなければ追加でお持ちしますが?」
「うん。私は食べると思う。みんなが美味しかったら、追加で持って来てね」
「承知しました」
「トゲトゲが痛いから、手袋をするとかして、注意して扱ってね。
先ず、尻尾の方から見ると、膨らんでるところと、凹んでるところで3分割できそうなラインが見えてこないかな?
そのラインを見極めて、鉈で割るように刃を入れればOK。内側から、ブニブニしたクリーム色か白っぽい中身がでてくるよ」
「分かりました。やってみます」
クワトロはこういった野趣豊かな野生の果物でも、皆が囲んでいるテーブルの上で簡単に処理してしまう。
「ヒカリ様、その、ゲヘン、ゲヘン。その……。これを召し上がるのですか?」
と、クワトロは割って、外殻の内側に収まったドリアンのトロッとした中身を私に見せながら言う。この特有の臭いに馴染め無いんだろうね。
こんなこと言ってる私も、あのガス臭さがこっちまで臭ってきて、恐怖すら感じるよ。本当に美味しいのか、ちょっと心配になる臭い。
「うん。そのネットりした部分に大きな種が入ってるけど、その周りの部分が蕩ける美味しさのはずだよ。ちょっと食べてみるね」
クワトロが割って、実が飛び出した状態の物を革手袋で下から支えて、私の前に持ってくる。
私は、ドリアンを食べるのは初めてなんだけど、なるべく自然を装って、指で端っこを摘まむように掬い上げて、臭いを嗅ぎながら一舐めしてみる。
あれ……?
あれだけ臭かったのが、口に近づけると濃厚でフルーティーで上品な香りに早変わり。期待できるかも?
口に含むと、柔らかプリン系のツルっとした食感ではなくて、ネットリしたバターというか、重たいティラミスというか。そんな食感。
だけど、味はフルーツ。口の中で香る芳香は正に南国の甘いフルーツそのもの。酸味が一切なくて、脂分が多いのか、どっしりとした後味が芳香と一緒に残る……。
こ、これは……。
高級プリンでは絶対に出せない香りと味だよ……。
感動したね!
と、ここで周囲の人が、鼻で息をせずに、半分口を開けた状態で息をしながら、心配そうに私を見る。
な、何か言わなくては!
「ええと、みんな!危険じゃないです!
この臭いも口に含んでしまうと、非常に濃厚な香りに感じられるので、遠いところで臭っている感じとは全く違います。
食感はミルクテロンを濃厚にした感じなので非常に食べやすいです!
先ずは、試してください!」
クワトロがマリア様から順番に、私がしたように、一舐めずつ掬い取って貰う様に席を周る。
一応、私が過去に提供してきた食品や料理で信用を培ってきたみたいで、異臭を放つドリアンに対しても、恐る恐るチャレンジしてくれる。
「ヒカリさん、これ、確かに美味しいわ。美味しいというのか、頭に直接美味しいという刺激が飛んでくるような怖さがあるわ。これ、危険じゃないのかしら?」と、マリア様。
「私の知識では、麻薬など習慣性になる成分は含まれていないと思います。美味しさの刺激で脳がダメージを受けることは在りませんので、ご堪能いただければと思います。
ただ、油脂分が多いので、食べ過ぎると、太る前にお腹を壊します」と、私。
「そう。それなら好きなだけ食べても大丈夫だし、太ることも無いわね」
「太らないかどうかは、私にも判りません。ですが、1日ぐらいで、いきなり体型は変わりませんので、お気になさることは無いと思います」
クワトロが一通り周り終わったところで、私に尋ねる。
「ヒカリ様、私も試しても宜しいでしょうか?」
「当然だよ。試してみて!」
クワトロもテーブルに布を敷いて、その上にドリアンの半割れを置くと、手袋を外して一掬いした。
口の中で良く味わってから、香りを鼻に抜けさせると、その途端に咽ていた。
そうなんだよね……。薄い香りになると、何故か臭く感じるんだよね……。これって、ひょっとして、ゲップをしたり、おならをしたら、エライ臭いになるんじゃないかい?
だって、ほら、ニンニクとか食べた後って、酷いでしょ?体臭すら変わるもんね。もし、このドリアンで同じことがおこるとしたら、体からこのドリアン成分が抜けきるまで、ピュアし続けないと行けないってこと?
「ヒカリ様、美味しいです。
他の果物ではこの濃厚さは味わえないかもしれません。味だけで言えば、ヒカリ様の作るデザート類で、似た味を楽しむことが出来るかもしれませんが、この芳香は果物ならではと感じました。
芳香と濃厚さの両方を兼ね備えた絶品と言えます」
「でしょ、でしょ?美味しいと感じた人はもっと食べてみて!」
と、あたかも食べ慣れているフリをして、相槌を打つ。
今日初めて食べたとか、この後の体臭の心配をして、困ってるとか、そんな素振りは見せない!
皆も、自分だけでなく周りの人が美味しく食べているのだから、大丈夫だろうと安心する気配が伝播していったみたい。
皆が次のドリアンを待ち構える雰囲気になったので、クワトロが残りのドリアンをドンドンと分割して、布の上へ並べて行く。2個分のドリアンを割り終えると、直ぐに貯蔵庫に戻って、追加のドリアンを持ってきた。3個抱えて持ってきた。
いや、美味しいけどそんなに食べると後で酷い目に遭う気がするんだよ?特に体臭の面で。それと、脂分が濃いから、薄めるような消化を促進するような果物とか、炭水化物も混ぜ合わせた方が良いと思うな……。
「クワトロ、ドリアンはそんなに一度に食べない方が良いよ。一人一房ぐらいあれば良いから、また次回にしよう。それよりもヤシの実とかを鉈で開けて、皆で飲んで楽しんだり、バナナみたいな炭水化物をメインとする食べ物で中和した方が良いよ」
「承知しました。そのように準備をします」
「お母さん、飲み物が欲しいなら僕がお水を出すので、皆の器を出してください」
「シオン、ありがとうね。器は準備するけど、ヤシの実ジュースも楽しんでみると良いよ。水とは違った香りが付いていて面白いし、ドリアンのしつこさをスッキリさせてくれるよ」
「そうですか。皆様、手を洗いたくなったら言ってください。お水を出しますので」
シオンは良い子っていうか、気遣いの達人なのかもしれないね~。皆の行動を良く見て無いと、そういうことって気が付かないもん。
「ヒカリ、元気になってきたようだから、このままここで作戦会議を再開しても良いか?」
「うん。私は良いよ。みんなも良いかな?」
「「「「「ハイ!」」」」」
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※美味しいドリアンは写真の物より、もう少し黄みがかかったクリーム色です。
海外に行く機会があればご賞味いただければ幸甚です
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暫くは、毎週金曜日22時更新の予定です。
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