3-05.作戦会議(1)
「ただいま~。みんな元気?」
昼食後の簡単な相談会を終えて、日もまだ高いうちにリチャードと馬車でマリア様の借りているお屋敷に戻ると、中庭で収集品の整理や拾ってきた武具の洗浄をしていた。
よく見ると、見慣れない子が居るね。
あ、拾ってきた金髪のエルフ族の子かな?一緒に洗浄作業をしているってことからすると、クレオの情報漏洩元や彼女自身の身元が明らかになったのかな?
「お父様、お母様、おかえりなさい」と、リサ。
「お母さん、水でずぶ濡れです。乾かす魔法か、替えの服が欲しいです」と、シオン。
「お姉ちゃん、タコ丸パーティーの材料の準備は整ったの。みんなが帰ってきたらいつでも始められるよ」
「そっか~。お父さんと出かけてる間に、みんなが頑張ってくれてて助かるよ。それで、その子は?」
と、挨拶を返しつつ、エルフ族の少女を紹介して貰う様に促す。
「リチャード様、ヒカリ様、お帰りなさい。
できれば、この少女の身柄についてお話したいことがあります」と、クレオさん。
「リチャード、付き合って貰えますか?」
「ああ。状況が良くわからないが、ヒカリが拾ってきたのか?」
「拾ってきた訳では無いけれど、放っておけなかった感じでしょうか。
クレオさん、リチャードは大丈夫な様なので、話を伺います」
「ありがとうございます。では、早速打ち合わせをさせてください」
子供達4人を残して、リチャード、クレオさん、私の3人で打ち合わせを行うことにした。
ーーー
いくつかあるか客間の一室に4人掛けのテーブルを囲む。ソファーとか無いから、どうしても椅子になってしまうのは仕方ないよね。私とリチャードが隣り合わせ、その向かいにクレオさんが座る形で話を始めた。
「先ず、あの少女が私の名前を知るに至った経緯を説明させて戴いても宜しいでしょうか?」
リチャードと私がクレオの目を見て、ウムと、黙って頷くと、クレオさんは話を続けた。
「あの少女は、一緒に来たパーティーと共に、一度迷宮の外へ出ると、迷宮への入宮の記録を調べた様です。
人族で、B級ランク以上で、ここ最近入宮をしている人たちであることから、凡その範囲を絞り込んだようです。
次の問題は、私への莫大な費用の請求に備えることだったようです。私たちが痕跡を消して立ち去ってしまったため、パーティーとしての所持品に関わる全額、ボス部屋からの救出に関わる支援費用、そして救出後の治療費とそれに使用したと思われる水、食料、薬品に関わる費用です。
彼らとしてみれば、命を助けて貰ったことに対してお礼は言えるけれど、実費を支払うことが出来ない状態だったようです。その際、新入りとして加わっていた彼女がその犠牲になったと申しますか……」
「犠牲って?」
ついつい、口を挟んでしまった。
だって、迷宮の中の少女と、廃墟と化した街の入り口で待ってた姿の余りの変わりようにビックリしたもんね。っていうか、同一人物とは見分けがつかなかったわけだし。
「その……。
彼女の装備類の売却、彼女の身柄の売却でした。
冒険者ギルドでその手続きを終えた様です。装備品は冒険者ギルドで預かっているのか、もう武具屋に転売されてしまったのか、混乱の最中で分からないようです。
身柄の方は、自分を奴隷商人に売ることで、幾ばくかの金貨を入手して、その補填に充てたそうです」
「いろいろと腹が立つんだけど!」
「ヒカリさん、その、そのですね……。
迷宮で救出する際に、『彼らの全ての所持品を回収する権利があり、さらに莫大な費用を請求できる』と、申し上げたと思います。彼らは彼らなりの儀を果たすべく、冒険者ギルドに仲介を頼んだのでしょう」
「あの子だけが、奴隷になったの?」
「自分から願い出たそうです。そもそも、臨時雇用枠であったので、パーティーの契約に彼女の名前が無く、『ご迷惑をお掛けした』ということで、全責任を負うと宣言したようです」
「それだけを聞くと、私たちの救出の仕方に落ち度が有ったと言うこと?」
「救出すること自体は完璧なものであったと考えます。その対価の請求をしなかったことが問題に繋がったと言えなくもありませんが……。
と、言いますか、そもそもヒカリさんが気にされる事柄ではありません。彼女が自分の意思でその選択をした訳ですから。
それよりも、話を先に進めさせて戴いても宜しいでしょうか?」
「エルフ族の子を奴隷に落としたきっかけが私のせいだとか、不味いよ。全然、話が簡単じゃないよ」
「ヒカリさん、ですが、ですが……。もう、契約が終わってしまっていて……」
「ヒカリ、クレオさんが困っている。話を最後まで聞いてあげなさい」
と、ちょっと熱くなってる私にリチャードが冷静になるように促す。
全然冷静になんか成れないよ。
ただ、まぁ、ここからがクレオさんの言いたいことの本題なのだろうけどさ?
「それで、彼女の奴隷の契約印なのですが、名義が私の名義になっておりまして……。私がこちらでお世話になっている都合上、彼女もここで暮らす必要があると、そういう話をさせて戴きたかった次第です……」
「拾ってきたあの子をこの屋敷で住まわせることは、マリア様の許可が出れば良いんじゃないの?食事なんかもクレオさんと同じものだったら準備して貰えれば良いし。
ただ、私としては、そんなレベルじゃない大きな問題を抱えているようにしか思えないんだよね……」
「ヒカリ、クレオさんとしては仕方が無いのだろう?そしてちゃんと事情を話してくれた上で、判断を仰いでいる訳だ。ここまでは問題なかろう」
「クレオさん、クレオさんの奴隷として暮らすのは当面大丈夫だと思う。
だけど、奴隷印が付いたエルフ族の身柄については、ステラの意向も聞いた上で判断させて貰っても良いかな?場合によっては、クレオさんの意思に背いてでも誰かが買い取って、所有権を移すかも知れないよ」
「はい。私としましても、物や人族の犯罪奴隷を押し付けられたのであれば、何ら気にせずに、奴隷商人に転売するなどの処分をさせて戴いたと思うのです。
ですが、彼女の能力は人族の範疇を超えており、あのパーティーが15階層のボス部屋に辿り着いていたのも彼女の支援効果の可能性が高いのです。そういった人材を無闇に放出して良いか判断がつきかねなかったことと、もし、エルフ族の族長の関係者であったとするならば、奴隷市場に出回る前に確保しておくことで、何らかの交渉の役に立つと思いました」
「クレオさん、少々伺っても宜しいかな?」と、リチャード。
「はい、何でしょうか」
「クレオさん達が遊んできた観光迷宮の話は後で詳しく伺うとして、そのエルフの少女の能力についてなのだが……」
「はい」
「名前、身分などは分からないのだろうか?」
「『私は奴隷です。クレオさんが全て決めてください』と、だけで、それ以上話をしません。種族の元を離れて冒険者パーティーに加わるには、何らかの事情が有ったのかもしれません」
「並外れた能力とは?」
「低レベルの魔物であれば3日間一人で倒し続けることができるでしょう」
「ほう……。ヒカリから見るとどうなんだ?」
「シオンより強いけど、リサより耐えられないかな?」
「リサはまだ1歳になったばかりだぞ?何を言ってるんだ?」
「リチャードは、リサと立ち合いをしたこと無いの?」
「ヒカリ、お前は何を言ってるんだ?」
「いや、リチャードごめんなさい。
多分、エルフの子は、そこいらの冒険者では敵わないぐらいの魔法を駆使できる人と考えて良いです。もし、ステラの協力が得られなくても、あの子だったら、ちょっとした魔物は封印で抑え込めると思います」
「それだけの能力があれば十分だろう。クレオさんには是非とも協力してもらって、例の魔物が溢れた街の救出に協力して貰うべきだ」
「魔族が関わって居なければ、封印するだけで済む話だけどね」
「それは別の話だろう。クレオさん、暫くはその子の世話もよろしくお願いしたい」
「エルフの少女に関しまして、承知しました!
それで、もう一件、別のご相談があるのですが……」
「クレオさん、どうしましたか?」と、リチャードが丁寧に尋ねる。
「先日のカタコンベ行った観光迷宮の収集品の売却代金なのですが、少々精算に時間が掛かるので、分割で支払わせて欲しいとの連絡が入りました。
ただ、細かな収集品は直ぐにでも買い取って、各種装備や薬品に転用したいとのことですので、必要な物が無ければ処分させて戴いても宜しいかの許可を戴きたいのです」
「ヒカリは知っているのか?」
「武具類と収集品で、夫々(それぞれ)別の店で売却の依頼をしました。
今日の午前中の話からして、冒険者ギルドの方の資金繰りが悪く、クレオさんの分も遅滞していると考えられます。
一方で、午後の話に出てきたように、薬品や武具の修理や改造に使える収集品は需要が高まっていると思われます」
「ヒカリ、それなら問題なかろう?」
「元々、カタコンベの収集品は当てにしておりませんので、資金調達上は問題ありません。
それよりも、上級迷宮の収集品を素早く、値崩れさせずに販売することの方が大変かもしれません。そこが上手く進まないと、例の件の金貨2000枚の支払いに支障を来すかもしれません」
「そうか……。
すると、ヒカリの言う様に、過去の依頼を達成して、違約金を請求している冒険者とその黒幕を炙りだして、依頼料の請求を見送って貰う手も並行して考えた方が良いかもしれないな……」
正攻法でないなら、お金を集める方法は幾らでもあるんだけど、そもそもこの国の経済が回って無いみたいなんだよね。
経済が回ってないところへ、物だけ投入しても価格が下がってお金が動かない。お金を回すために借金の証書を発行して貰うと、その証書の信用問題から国家が破綻する可能性も出てきちゃう。
国が破綻しない程度にお金が回る量を見極めて、少しずつ売り捌けは良いかな~。
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