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3-04.推薦枠その2

 ハピカさんの所で出された料理は、装飾に関する巧は洗練はされていないけれど、素材も味付けも特上のものが選ばれている。これって、実は私の好みだったりする。

 日本食も味を桑めるために技巧の美をそぎ落としている部分があって、そういう考え方に共感できるんだよね。

 もちろん、儀式に提供されるような様式美はあるし、それはその地域で独自に発展された文化とか伝承によるものだから、それはそれ。

 華美であることで余計なプレッシャーを与えて、素材を楽しむリラックスして楽しむ気持ちを削ぐのは話が違うって感じ。


 なんか、ハピカさんの持て成しの仕方なのか、南の大陸の文化なのか判らないけど、共感が持てていいね。


「リチャード殿下、ヒカリ王子妃殿下、お口に合いましたでしょうか?」

「素材が大変洗練されていて素晴らしい。とりわけ、海や川が近いためか、魚系の食物は私の領地では提供される機会がすくなかったため。

 肉類とは違って、とても印象深いものでした」

「私も大変美味しく戴きました」


「そうでしたか。ご満足いただけた様で何よりです。北の来陸にある大国に比べて、料理技術の発展が遅れており、心配していました」


「そんなことは無いです。ヒカリもそうだろう?」

「はい。素材を生かす料理技術が駆使されており、素晴らしと感じました」


「もし、機会がありましたら、いつかは北の大陸の料理を味わってみたいものです」

「北の大陸を訪問戴けたならば、是非とも我々の国へも立ち寄りください。

 そのときは、ヒカリも手伝ってくれるだろう?」

「ええ、もちろんです」


「奥様は、料理も嗜むのでしょうか?」

「ハピカ殿のお口に合うかは分かりませんが、彼女に胃袋をおさえられたのは、結婚に至る理由の一つと言えましょう」


「それほどの腕前とは羨ましい」

「ヒカリ、そうだろう?」


「あ、いえ、その……。」


「南の大陸の食材で、何か気になる物はございましたか?」

「「果物が美味しいです。海の幸も多くの種類がありました。そして、各種香辛料の扱い方に驚きました」


「ほほぅ……。我々の食文化をよく理解されております。以前にもこちらを訪問されたことはあったのでしょうか?」

「いいえ。リチャードと共にハネムーンでこちらに訪問させて戴いているのが今回初めてです」


「確か、到着されてから10日間ほどと伺っておりますが?」

「はい。市場を案内頂きまして、色々な料理を試させて戴きました」


「それは、それは……。今度、ご相伴に預かりたいです」

「大したものをお出しすることは出来ないかもそしれませんが、ご訪問戴く機会があれば是非とも」


 と、ここで会食中にも拘わらず、ハピカさんの執事と思われる人が何かを伝えに来た。


「あの、少々すみません。席を外します」


 携帯とかあるわけないし、当然念話なんか存在していないのだから、誰か火急の訪問者があったか、ハピカさんの食事会を邪魔できるレベルでの上位職の人からの伝令が有ったのかも?


「ハピカ殿、我々は十分に食事を堪能しました。これ以上お邪魔しては失礼です。我々にて帰ります」


「リチャード殿下、少々、少々お待ちいただけますか?ひょっとすると、ユグドラシルの追加の推薦者になって戴けるかもしれません」


「分かりました。お邪魔になる様でしたら直ぐに帰りますので、気兼ねなく言ってください」


 執事に呼ばれて、部屋から出て行ったハピカさんが戻ってきた。


「リチャード殿下、お待たせしました。そして、もしお時間が許せば、紹介させて戴きたい方がいらっしゃるのですが、如何でしょうか?」

「私は構わないが、ヒカリはどうだ?」

「私も構いません」


「その……。複数の人物に同席戴くことになるのですが、宜しいでしょうか?」

「火急の用件なのでしょう。私どもでお役に立てますか?」


「できれば、是非ともお力をお借りしたく……」

「ヒカリ、どうだ?」

「私は構いません」



ーーー


「ご案内させて戴きます。この国の軍事を担当する、セリン・トーシス様。それと、外交を担当するコリン・コカーナ様です」


 どちらも男性。そして姓が付いているので貴族なんだろうね。貴族で軍事や外交ってことは、大臣クラスの権限持ち。上手くやればユグドラシルの調査隊の推薦人になってくれるかも?


「私はリチャード、こちらは妻のヒカリです。

 火急の用件と伺っておりますので、儀礼的な挨拶は結構です。単調直入に本題に入って戴いて結構です」


「リチャード殿下、配慮戴きありがとうございます。不躾を承知で本題に入らせて戴きます。

 上級迷宮から魔物が溢れて、街が一つ飲み込まれました。現状は不明。事態の収拾と封印のために兵をだす必要があります。また、それだけでなく、エルフ族の支援により、封印を施す必要があると考えます」


 と、セリンさんが説明してくれる。


「封印については私から説明しましょう」と、コリンさん。


「街1つを封印するためには、複雑な結界の印を施す必要があります。

 そのためには、複雑で連係動作が可能な印を構築できる知識が必要であること。そして、その構築した印同士を連結させて発動させるための膨大な魔力量が必要になります。

 その他にも、結界を維持させたり、封印した結界の中と外を行き来するための門の開閉をおこなえるだけの知識、魔力を備えた管理者も必要になります。

 そのような知識と能力を備えた種族はエルフ族の中でも族長に近いレベルの持ち主にしか不可能と判断しています」


「リチャード殿下、状況をご理解いただけましたでしょうか?」と、ハピカさん。


「大変な状況であることは想像できます。ですが、我々には、南の大陸に軍隊もなく、そのような事情のお役に立てるとは思えないのですが?」


「ステラ・アルシウス様にご支援戴けないでしょうか?」

「そ、それは……」


 まず、ステラの名前が何でここで出てくるの?

 次に、普通はエルフ族との外交問題は国の問題であって、特定の人物を指名して依頼をするものではないでしょう?

 色々とこちらの情報が漏れてるのか、なんなのか……。

 警戒しておいて損は無いね。


「ヒカリ、どうだろうか?」

「少々席を外して、二人でリチャードと二人で話をさせて戴いても宜しいでしょうか」


「は、ハイ!突然の事ですので、ご相談いただければと思います」と、コリンさん。


ーーー


 ハピカさんに別室を用意して貰って、直ぐにリチャードと作戦会議に入る。

 先ず、ステラがここに来ている情報が洩れていることがオカシイ。そして種族間の国交であれば、私たちの所に持ち込んでくるのは、何か表沙汰にしたくない面倒な事情がありそうだと、第一印象を伝えた。


「ヒカリ、先ずステラ様の件だが、

 ヒカリの領地に住み、各種支援して戴いていることは広く知れ渡っている。ここ2年近くのステラ様の活動結果は北の大陸のみならず、南の大陸に伝わっていてもおかしくないだろう。

 そして、母のマリアに南の大陸での身分証を作って戴いた際に、ステラ様の名前を実名で登録して良いか確認し、ステラ様の了承の元、身分証を実名で登録してある。

 すなわち、10日前にこの王都の城下町に入った際に、門番によってステラ様の出入りは記録されていることになる。


 ここまでは良いか?」


「そういうことでしたら、ステラがこの国にいることが知られていても仕方ないね。でも、種族間の外交を観光客にゆだねるのは、国としてどうかと思うよ?」


「次に、種族間の交渉だが、


 ヒカリの考え方がオカシイことを先ずは正したい。

 ヒカリの種族間の交流の仕方は異常だ。私としては助かっているし、感謝している。だが、族長クラスの力を持った人たちがヒカリの領地に集まってくるのはオカシイし、その人たちとヒカリが仲良く交流しているのもオカシイ。


 普通は、各種族とも警戒心を露わにし、お金と集団戦しか特技が無い人族に対して、敢えて交流を持とうとは思わないのものだ。そうであればこそ、この南の大陸では種族間の争いが絶えないし、種族間の国交もスムーズには行われていない。


 そのような状況で、人族の国内において封印を施してもらう様にエルフ族に依頼をするとなると、莫大な費用や対価を請求されることは自明であるし、午前中の状況からすると、金貨2000枚程度であっても国費から捻出するのが難しい状況であると想像できる。


 その他にも、溢れ出た魔物たちを鎮圧するための兵を出す必要もあるから、そこの費用も嵩むのだろう。そういった事情をひっくるめて、ステラ様と繋がりのある我々に何とかして貰おうと考えるのも判らなくもない」


「そんな大事おおごとをステラに頼むの?」

「我々と言うか、ヒカリにしか頼めないことだろう?」


「ステラにとっては、エルフ族の面倒ごとが増えるだけで、嬉しくないでしょ?

 それに、どこの迷宮が溢れて、どのくらいの規模での封印が必要かもわからないのにさ?」


「ヒカリが二人で話をしたいというから、その説明をしただけだろう。嫌なら嫌と断れば良い」

「私が断るの?」


「断るのは私がする。だが、ユグドラシル調査隊の推薦人の件は諦めて、別の方向から攻める必要が出てくるだろう」


「そんなこと言われても、ステラに聞かないと、わかんないよ。ステラだって、ユグドラシルの調査隊に加われるなら、ちょっとは手伝ってくれるかもしれないし……」

「うむ。では、『本人に打診をするので、回答を保留させて戴きたい』ということで良いな?」


「最終的な回答はそれで良いけど、ここからの距離とか、街の規模とか、どれくらいの魔物が溢れているとか、そういった難易度に関わる情報は出来るだけ聞いておいた方が良いよ。

 あと、報酬の約束も」


「そうだな。そうしよう」


ーーーー


「大変お待たせしました。確かにステラ・アルシウス様は私どもの客人としてお付き合いがありますので、相談に乗って戴くことは可能でしょう。

 ですが、ご本人の意向もありますので本人伝える前に、詳しく情報を伺っても宜しいでしょうか?」


 と、リチャードの返事に対して、軍事担当のセリンさんが答えを返してくれた。


「分かりました。

 私どもが持つ情報を共有させて戴きます。

 先ずは、上級迷宮の管理をしている門番からの伝令になります。ただ、この城下町ににも続々と噂レベルの情報が行商人や冒険者達から入ってきておりますが、伝令以外の情報の信ぴょう性は無いと前置きした上で、話を進めさせて戴きます。


 この街から東の方向へ馬車で1週間ほどの地点に、上級クラスの魔物が居ると分類分されている観光迷宮があります。そこは未踏破の階層があるため、まだまだ攻略に時間も掛かり、街としても新たなる発見を求める冒険者達で賑わっておりました。

 街の規模としては、せいぜい半径500mぐらいでしょうか。定住しているのは商人や酒場の従業員、娼館、賭博場、宿屋といった部類です。冒険に必要な機材はあくまで一時しのぎのものでして、行商人が露店で販売するような形となります。

 王国としては街や住人へ税金を課しておりません。何故なら、観光迷宮で産出されるレイアアイテムや収集品を元にした薬剤類が手に入り、間接的に王国の活性化に繋がるからです。そのため、僅かな入宮料金を徴収する以外は、基本的に関知しておりません。


 ですが、今回のように魔物が溢れたとなると、周辺の村にも影響があるため、国として制圧に乗り出す必要があります。


 迷宮の入り口を封鎖するだけでしたら、直径10mの範囲で封印すれば良いのですが、魔物が街まで溢れて、街全体を結界の印で囲むとすれば、半径500m程度の規模で封印する必要があります。

 また、封印をするためには安全に結界の印を形成していただくために、魔物の討伐支援のための軍隊を派遣する必要があると考えています」


「すると、片道1週間の行軍を経て、軍隊が有る程度制圧を行った後でステラ様に登場して戴き、結界の印を構築していただくことになるのだろうか?」


「いや、それが、その……」

「何か問題でも?」


「溢れた魔物の制圧にもご協力いただけないかと……」

「国が抱える軍隊、冒険者、傭兵の皆さんが居るのではありませんか?」


「これは、噂レベルなので極秘にしておいて戴きたいのですが、魔物が溢れた原因には魔族の力が関わっていると噂されています。

 真の実力はA級以上と見做されるB級冒険者と、正体の知れないもう一人と、二人で迷宮に入ったという情報があります。

 そして、未開放階層のボスを開放し、更に奥深くまで進み、どうやら迷宮のリセット機能を破壊し、永遠に魔物を迷宮から溢れ出させることに成功したと噂されています」


「ヒカリ、判るか?」

「リチャード、詳細はわかりませんが、『迷宮のリセット機能』というのは詳しい者から説明を受けています。


 最深部の迷宮の主を倒すと、迷宮のボスが自動復活するまでの間、一時的に迷宮の魔物生成が止まり、リセット期間が終了すると、初期状態の魔物が一式新たに出現する仕組みの事です。

 セリンさんのお話からすると、何らかの方法で、迷宮の最終ボスを倒し続ける印を構築したとか、ボスを倒さなくても迷宮をリセットさせる機能を構築したのだと推測されます」


「それの問題が判らない」


「迷宮のリセット機能は、リセット期間中はそれ以上新しい魔物が湧かない為、安全に帰路に就くことが出来ます。また、一度帰還して、最深部のボスに再チャレンジする場合には、道中の敵を倒しながら辿り着きますので、リセット前に出現した魔物と、リセット後に出現された魔物はほぼ倒し終わっていると普通は考えます。


 ですが、もし、最深部のボスのみを倒し続けたり、あるいはリセット機能だけを自動で作動させることが出来たとなると、道中の魔物の間引きが行われずに、延々と増え続けることになります」


「ヒカリ、私は観光迷宮の仕組みが良く判らないのだが、その魔物生成の資源は何処から来るのだ?」

「未解明なことが多く、全容は分かっておりません。この大地のエネルギーを何らかの方法で変換して、魔物生成に充てていると思われます」


「すると、その迷宮リセット機能自体を壊す必要があるのか?」

「そのためには、未踏破迷宮を踏破できるパーティーが必要になるでしょうし、その一方で、それ以上魔物が拡散しない様に封印することも並行して必要になるのでしょう」


「それは、国家規模で全力を挙げて対応すべき、由々しき事態なのではないか?」

「そうであればこそ、このように異種族への支援要請が必要になっているのでは無いでしょうか」


「ヒカリ、お前なら出来るのか?」

「リチャード、ただ、単に魔物を倒して来るだけであれば、支援出来なくは無いかもしれません。

 ですが、もし迷宮のリセット機能を悪用した国家転覆を狙うとなると、根源に異種族の力があると疑わざるを得ませんし、魔族が関わっているとなると、私はどういった対応が必要なのか判りません。

 この場で判断するには情報が少なすぎます」


「ハピカ殿、我々二人がステラ・アルシウス様にお願いをするには、状況が混沌としていると言わざるを得ない。調査隊を出すにしても、それなりの準備が必要と考える。

 まして、異種族からの侵攻が関わっているとなると、そちらの外交や防衛に対する準備も必要であると考える。

 当然ながら、我々が軍議での助言やエルフ族への支援依頼をすることにやぶさかではないことを予め申し上げておきたい」


「つまりは?」

「長期に渡るこの国での指揮権を戴きたい。もちろん、この国の近衛兵を指揮するという意味では無く、異種族との交渉、民間の冒険者や傭兵者を募り、共に活動をするに当り、干渉されうに自由に行動できる権利と考えて戴きたい」


 この人、言っちゃったよ。

 それって、『この国の中で自治権を認めろ』って言っているようなものだし、期限が区切られてない。訳の分からない異種族間戦争に私たちを巻き込むっていうなら、それなりに自由に動ける環境を作る必要はあるって言い分はもっともだけど……。


 ただね?

 現代日本であれば、国防力が手薄い自衛隊だけでは難があるので、米軍に在留して頂いて、その基地内では自由に行動が許されて、駐留に関わる費用負担をしているってのはある。日本は徴兵制も無く、お金で解決しようとしているんだよね……。


 リチャード、貴方は国を守るために何が必要かを瞬時に把握し、そしてそれを外交における交渉権とする判断力も備えている。国王として、とても素晴らしい資質なのではありませんか?



「リチャード殿下、こちらもこの場ではその申し出を許諾できる権限を与えられておりません。至急閣議を開きますので、お時間を戴けますでしょうか」


 と、ハピカさんが通訳する。


「承知した。共に問題解決に向けて歩もう。ご連絡をお待ちします」


 うん。

 立場上お願いをされる側が最大限有利になる状況に持ち込めたんじゃない?向こうの出方が決まるまで、こっちはこっちで最大限に準備しておこうかな?




いつもお読みいただきありがとうございます。

暫くは、毎週金曜日22時更新の予定です。


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