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3-03.推薦枠その1

「ヒカリ、早速だが昨日接待戴いたハピカさんを訪問する」

「ハイ」


「質問は無いのか?」

「リチャードの考えを聞いてから考えます」


万事屋よろすや、こちらの国では冒険者ギルドと呼ぶらしいが、そこの利権に関わることで相談があるらしい」

「クレオさんの派遣元として登録があるところですね」


「ああ。

 この国では、エスティア王国と違って、観光迷宮というものがあって、冒険者が依頼をこなすだけでなく、迷宮を探索することでも生活が成り立つらしい。

 うちの万事屋では、誰でも登録できるが、国に貢献することが求められているから、組織の目的が少し違うかもれいない」

「それがどうかしましたか?」


「依頼達成に対する報酬で揉めているらしい」

「当事者同士の仲介をするために、そのギルドが存在するのではありませんか?確か、依頼を受ける側も登録料をギルドへ支払らっているとのことです」


「詳細はきちんと話を聞かないと分からない。

 だが、どうも冒険者ギルド自体が破綻するレベルの事件らしく、それなりの組織が動き出しているらしい」

「昨日のジンジさんとかですか?」


「誰だそれは?」

「晩餐会が始まる前に、ハピカさんが紹介してくれた人です」


「そんな人物が居たか?」

「う~ん。

 バンバンジーとか、ジャンバルジャンとか、そんな感じの本名で、本人が『気兼ねなく、ジンジと呼んでくれ』と、言っていましたね」


「うん……。分からない。

 ハピカさんの話次第では、この国の専門家の意見を改めて聞く必要があるな」

「それでは、先ずはハピカさんに詳し話をく聞いてからになりますね」


ーーー


「リチャード殿下、ご足労戴きありがとうございます」

「ハピカ殿、最初に申し上げた通り、こちらは一介の旅行者として赴いている迄。この国を統治する側では無いので、もっと気楽に接して戴いて構わないのだが?」


「いえいえ。些細な行き違いが外交問題に発展することも過去にはありました。丁重におもてなしさせて戴きます」

「うむ……。国ごとの事情にまで干渉する気は無いので、こちらとしてはお任せします。

 今日、訪問させて戴いたのは、『ユグドラシル調査隊の推薦人とお会いできる』との話でしたので、早速伺わせて戴きました」


「はい。昨日の晩餐会が良い機会でしたので、それとなく5名の推薦人を紹介させて戴きました。

 各分野の専門家であったり、国王に任命された職に就いている方達ですので、もし良いお付き合いを戴ければ、推薦戴く条件なども聞けるかと思いました」


「そうでしたか。それは有難いです。本日はどなたとお会い出来るのでしょうか?」


「国内の各種ギルドの営業許可権をもつ、ジュリアン・ジューン様でいらっしゃいます。本人は、ジュンジュと呼んで頂くことをお望みです」

「ジンジ殿ではなく、ジュンジュどのですか」


「リチャード殿下の発音ですと、ジュンジュよりは、ジンジと発音戴いた方が近いかも知れません。舌の動きが南国特有でして、煩わしくて申し訳ないです」


「分かりました。ジンジ殿は私に相談事あるとか?」

「はい。

 エスティア王国では国営の依頼事を持ち込める派遣所があると伺っています。確か『よろずや』とか。

 サンマール王国では、国営の派遣所ではなく、あくまで国が許可した管理者に営業権を付与し、管理者が派遣業務などを行います。

 この違いはあるものの、今回の件で何か良い解決方法が無いか情報交換をさせて戴ければとのことです」


「具体的な問題とは何でしょうか?」

「ジンジ本人から直接話を聞いた方が良いかもしれません。通訳は私が行いますのでご心配戴かなくて結構です」


 ふむふむ。

 ここまではリチャードが入手していた情報通り。具体的な困りごとの相談にのって、あわよくば解決なんか出来たら、ユグドラシルの調査隊に推薦とかして貰えるかも?


 ジンジさんが到着して、相談会が始まった。

 リチャードは翻訳機能が無いので、ハピカさんに通訳をして貰いながら、話を聞くと大体こんな感じ。


 貴族が過去に依頼しな内容が冒険者ギルドに書類として保管されていた。

 一方、偶然からか、その過去の依頼を達成した冒険者が現れたので、依頼達成報酬を支払おうとしたところ、元の依頼を出した貴族の懐事情ふところじじょうが良くなく、その依頼料を支払えないとのこと。


 つまり、冒険者ギルドとしては、その依頼料を肩代わりせざるを得ない。一般的な派遣業務を行う管理者が貴族に対して、契約違反を申し立てても、それを裁くことが出来るのは王族ぐらいしかいない。

 王族がその没落した貴族の肩代わりをする必要も無く、かといって、没落した貴族ではその依頼料が支払えないのは自明である。

 国としては、冒険者ギルドにおける契約の問題として本件を黙認しようとしていた……。


 ところが、何故か依頼を出した貴族が支払いを拒むような案件が立て続けに生じていて、このままでは冒険者ギルドが破綻する。

 国が許可をだしている冒険者ギルドが破綻するとなると、冒険者ギルドへ登録していた冒険者達が国に反抗を始めるかも知れないし、国から依頼を出している冒険者への傭兵や討伐の依頼に関して、今後引き受けて貰えなくなる。


 といった事が起きて居ることが判った。

 貴族が没落した原因も面倒だけど、そういう貴族を狙って依頼を達成するとか、その冒険者も結構嫌なところを突くね。ひょっとしたら他の種族から依頼を受けて、この国の脆弱性を露わにして、内乱を誘っているとか?


「ヒカリ、どう思う?」

「その過去の依頼を達成した冒険者の身元を確認してみては如何でしょうか?最近登録したばかりの者ですと、他国や他種族の密命を受けて実行しているか可能性もありませんか?」


「その依頼を達成した者はB級登録してある冒険者であり、冒険者ギルドとして、昔から素性が知れているし、没落していない貴族の依頼も丁寧にこなし、評判の良い者です。

 他国からの工作員の可能性は、ほぼ無いでしょう」


 と、ジンジさんの発言をハピカさんが通訳してくれた。


「では、そのB級冒険者が急にお金が必要になったとか……。

 例えば家族の高価な薬代が必要などの場合です。


 あるいは、身分違いの者との結婚をするために、貴族の爵位が必要になったため、没落した貴族を狙って金銭の代わりに爵位を求めたかったとか……」


「ヒカリは、その冒険者を疑うのか?」

「何かオカシイじゃないですか。没落した貴族の依頼をたくさんこなす必要は無いでしょう?

 冒険者はお金を稼ぐことが目的のはずです。教会のような慈善事業では無いのですから、依頼料が回収できないようなリスクをわざわざ冒すには、何らかの理由があると思うのです」


 すると、またハピカさんが通訳してくれた。


「最近、裕福な商人の専属契約になっているとかで、その依頼人は金払いも良いと聞いている。

 敢えて没落貴族に対する嫌がらせをすることで、その悪評が元で専属契約を打ち切られるようなリスクは冒さない程度に、依頼にも金銭にも困っていない。


 また、ここ最近では本人に浮ついた話も無く、貴族の中には達成された依頼に対して、支払いに応じいている貴族も多数いるので、没落した貴族ばかりを狙った行動とは考えにくい」


 ジンジさんが収集した情報だと、そうなるんだって。

 そうだとしたら、今度は専属契約している商人が怪しいでしょ?

 商人が利権や爵位を求めて、間接的に依頼人へ仕組んだかもしれないし


「その商人は半年以上前から王都に居を構えていて、他国との貿易に精を出している。慎ましく生活しているようで、野心のようなものは見受けられない。

 そのような実績や信頼を伴わない商人が爵位を求めたところで、国王が爵位を授与するはずがない」


 とのこと。

 流石に私が犯人追求っぽくなってて、段々と深みに嵌って見えたのか、リチャードから方向転換の提案があった。


「ヒカリ、もう、その冒険者に固執するのは止めたらどうだろうか?それよりも、先ずは冒険者ギルドの存続について、上手い手を考えた方が良いのでは無いかな?」

「でしたら、その冒険者にお願いをして、その依頼達成の権利を破棄して貰えば良いだけでしょう?

 何も悪気無く行動した結果だったら、相手も応じてくれるんじゃない?」


「ヒカリさん、依頼達成報酬の総計が金貨2000枚に達しているそうです。

 それこそ、名ばかりの男爵であれば、爵位が買える金額です」


「リチャード、うちで肩代わりしたら、ユグドラシル調査隊の推薦人になってくれるとか、ありませんかね?」

「どういうことだ?この国の金貨で2000枚なんか無いぞ?」


「昨日まで行ってた上級迷宮の収集品売れば、それくらいにはなると思います」


「そうか……。ハピカさんに聞いてみるか……。


 ハピカさん、我々でその冒険者ギルドが抱える借金を肩代わりしたら、ジンジ殿に『ユグドラシル調査隊の推薦人』として、我々を調査隊に推薦して戴くことは可能だろうか?」


「ジンジ殿の仲介が入れば、冒険者ギルドを通して、依頼料の支払いに時間が掛かることを伝え、分割で少しずつ渡していく交渉をしていただけるとのことです。ですが、一ヶ月で満額は準備戴きたいとのこと。


 もし今回の冒険者ギルドの窮状を肩代わり戴けるのであれば、ユグドラシル調査隊の推薦人となって戴けるそうです。

 ただし、あくまで推薦人ですので、他の推薦人との人数枠の取り合いになりますので、何人でも調査隊に入れるものでは無いと、予めご承知おきくださいとのことです」


 って、ハピカさんからの回答。リチャードもそれに了承したよ。


 まぁ、良いんじゃない?

 特に揉め事もなく、お金で解決出来ちゃうならさ?

 本当なら、その冒険者の裏の事情を炙りだして、訳の分からない支払いをしないで済むようにしたかったんだけどね!


 よし、ユグドラシルの推薦人枠を1人ゲットだよ。

 ただ、まぁ、上級迷宮の収集品をきちんと売り捌かないといけないけど、クレオさんに何とかして貰おうね。


ーーー


 「リチャード殿下、大変助かりました。

 もし、よろしければ、ご一緒に昼食を召し上がって行きませんか?」


 と、ハピカさんから昼食のお誘いの声が掛かる。


 こっちも午前中の打ち合わせで調査隊の推薦枠が貰えることになるとは思わなかったよ。こんな感じで推薦人枠が貰えるなら、多少の費用は掛かるけど、上級迷宮の収集品を値崩れしない様に売れば何とかなりそう。

 昼食に付き合うのは、今後の付き合いも含めて、交流を深めておくために良い事かもね。


「ハピカ殿、こちらもユグドラシルには興味があり、その調査隊への参加権が戴けるのであれば、是非とも協力したいところです」

「そう言っていただけると有難いです、

 昼食ですが、何か不得手な物はございますか?あるいは召し上がってみたい物などありましたら、手前どもで用意できるものでしたら提供させて戴きます」


「ヒカリ、どうだ?」

「リチャードにお任せします。私は特にアレルギーなど有りませんので大丈夫です」


「アレルギー?」

「ええと、食べ合わせが悪く、発疹がでる場合があることを言っています。他の人には問題無くても、個人差によって生じる症状のことです」


「そうか。ハピカ殿、こちらから特に希望は無いので、ハピカ殿が食べられる予定だったものにご相伴させて戴ければと思います」


「承知しました。お口に合うか判りませんが準備させて戴きます」



いつもお読みいただきありがとうございます。

暫くは、毎週金曜日22時更新の予定です。


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