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2-28.帰宅

 私たちが中央の道路を通って、街の入り口に向かうと、道の真ん中に15歳くらいの少女らしき人物が居るのが見えた。


 こちらの姿は隠したままだけど、目視できる10mの距離にまで近づいたところで、何やら叫び声が聞こえる。


「ーー!!・ーー!」「dなdけおs」「トマレ」「〇▲▲××」


 ひょっとして、4種族の言葉かな?3番目は昔ニーニャの文字解読をするときに使ったドワーフ族の言語と似てる。最後のは人族なんだろうけど、南の大陸の言語だから全然わかんない。


「クレオ、ひょっとして、止まれって言ってる?」

「ヒカリさんは分かるのですか?」


「リサ、最後のは止まれなんじゃない?」

「そうです。止まりましょう」


 まず、光学迷彩を纏っているのだから、目視では私たちを察知できないはず。何か、エーテルとかの索敵能力を使える達人に違いない。

 次に4種族の言語を話せるなんて凄い。逆に言うと、こっちの存在が人型の生物であることを察知で来ていて、あらゆる言語でコミュニケーションを採ろうとしている辺りは、こちらの姿が見えてないっていう証拠でもあるね。


「クレオさん、クレオさんだけ光学迷彩を解くよ。そしたら、人族の言葉で、敵意は無いことを音声で伝えてみて」

「分かりました」


 光学迷彩を解いて、クレオさんはローブを脱ぎ、背中のカバンを降ろして、両手を上げて何か話しかけ始めた。


<<ナビ、緊急で悪いけど、クレオさんが会話に使っている言語をダウンロードして、私が理解できるようにしてくれるかな。あと、私が理解できなかった獣人族とエルフ族と思われる言語も後から追加ダウンロードしてくれるかな>>

<<ヒカリ、了解です。サンマール王国周辺の人族の言語をダウンロードし、ヒカリが理解できるようにします>>

<<ナビ、ありがとう>>


「こちらに敵意は無い。そちらは何者だ?」

「種族と人数を先に示して!」


「こちらは人族で成人2名。子供3名」

「他の4名の隠密行動の解除と人族の証明ができますか」


「ヒカリさん、残りの4名の光学迷彩を解除して貰っても良いですか?多分、戦闘になれば私一人で倒しきれると思います。

 それよりはこの街の事情を知り、この結界を安全に通過するためには信頼を得る必要があります」

「クレオさん、了解。他には?」


 私が残り4人の光学迷彩を解きながら確認する。


「人族の身分証明が欲しいそうです」

「そんなの、この距離で出来る訳?それより、相手は何者?」


「確認します」


 北の大陸の言葉で私に状況を伝えると、クレオさんは南の大陸の言葉で会話を始めた。


「隠密行動は解除した。私はサンマール王国で冒険者をしているクレオという者だ。貴方は何者だろうか?」

「私はこの街の結界を守る者。名前も種族の明かせない」


「何をすれば信用して貰えるだろうか。そして、そちらに近づいても良いだろうか?」

「まだよ。まだ動かないで。貴方達は何処から来たの?結界の中に街の住人は残っていないはず」


「迷宮の中から脱出してきた」

「最後に迷宮から脱出した人は、既に3日以上前よ。もう生きているはずが無いわ」


「我々は食料などを十分に用意してあった。そして、腕に多少の自信はある」

「地下何階層で戦えるのかしら?」


「15階層のボスを倒すことは出来る。その下を調査していた」

「……。」


「信用して貰えただろうか?」

「貴方、魔族ね?『魔族がこの迷宮に災いをもたらした』と、皆が考えているわ」


「意味が良く分からない。声を張り上げるのが辛いので、近づいても良いだろうか?」

「『ディアブロに死を』と、言えるかしら?」


「ディアブロに死を!言えたが、これで信用して頂けただろうか?」

「両手を挙げたまま、そのままゆっくり近づいてきて」


ーーー


 距離を取った状態でのクレオさんと少女のやり取りが終わって、街の入り口の結界を挟んだ状態で会話が出来ることになった。


 少女の様子を見ると、金髪のエルフっぽい。

 ただ、この子、服が無い。

 麻袋のようなものに穴をあけて、頭を通しているだけ。靴も無い。周りは汚物と食料品の残骸で異臭を放っている。

 普通、こういう結界を張って防御してる人って、立場が尊重されていたり、貴重な存在であるために収入もあって、身なりもしっかりしてるんじゃないの?

 これって、奴隷みたいな状態だよ……。


「この結界を解除して、そちらに行きたいのだが?」

「クレオさん……。……なのですか?」


「先ほど伝えたと思うが?」

「いいえ、そうでは無く、冒険者として有名な人族のクレオさんです」


「有名か判らぬが、B級冒険者として資格を所持している。確かにB級以上の冒険者の人数は少ないかもしれない」

「約一週間前に、迷宮に入宮登録をされた……。得体のしれないもう一人の人と……」


「訳あって、こちらのヒカリさんと共に行動している。そして一週間近く前に入宮したのも事実だ」

「地下15階層のボスを突破されましたね?」


「ああ……。それも先ほど述べたと思うが……」

「助けて戴き、ありがとうございます。お待ちしていた甲斐がありました……。

 もう、安心ですね?結界を解除しても大丈夫ですね?」


「何が言いたいのか判らない。少なくとも街中に魔物が溢れている様子は無い」

「結界……。解除します……」


 結界が解除されるとともに、その少女は崩れ落ちる。その寸前のところで、クレオさんが駆け寄って、顔から崩れるのを防ぐ。


「ヒカリさん、どうしましょうか……」

「魔物もいない。街の人も避難しているみたいでいない。その子しか事情を知る人が居ないけど、倒れちゃったね。

 放置して私たちだけ帰っちゃうのは薄情な気がする。だけど、その子を勝手に連れて行って良いのかな?」


「誰かの奴隷でもない限り、救出した状況を説明すれば大丈夫でしょう」

「クレオさん、奴隷印を確認して貰える?」


「はい。この子の能力と服装のちぐはぐさがきになります。念のため奴隷印の有無を確認します」


 クレオさんが、抱きかかえながら首筋に手を当てて、奴隷印の有無を確認する。


「ヒカリさん、奴隷印の登録名が何故が私の名義になっています。このまま我々が救出しても問題ないかと考えます」

「わかった。じゃ、帰りはクレオさんとリサは自力で飛べるかな?私は荷物とその子を抱えて飛ぶから。ユッカちゃんにはシオンを預けたいんだけど……」


「お母様、まさか王都まで飛ぶのですか?」

「リサ、街1つが壊滅してるからね。きっと、王都へ続く周辺の街にも連絡が行ってて、迷宮方面から来た人は魔族扱いされるよ。王都へも援軍要請は出てるだろうから、こっそりマリア様のお屋敷へ戻るのが一番安全だよ」


「お姉ちゃん、私は大丈夫だよ。クレオさんとリサちゃんが飛べないなら、シオンくんとお姉ちゃんの荷物も持てるよ」


「ユッカちゃん、ありがとう。クレオさんと、リサは飛べる?」


「ヒカリさん、多分……。身体強化の第二段階を教えて戴きましたので、多少は飛べると思います」

「お母様、私は飛空術が何か分からないのですが?」


「じゃ、クレオさんは単独飛行。リサとそのエルフの子は私が運ぶ。ユッカちゃんは悪いけど、荷物とシオンをお願いできる?」

「「「「ハイ!」」」」


 エルフの子を除いた4人から声が挙がったので、直ぐにガラスの仮面を身に着けて、抱っこ紐と負ぶい紐を調整して各自が飛行の準備を整えた。


 よし!この街から脱出だよ!

 途中、クレオさんに疲れが見えたので、食事をとるための休憩をした。エルフの子は起きないから放置しておいたよ。それ以外特に問題無く、行きと同様に光学迷彩を掛けたまま、上空から王都に侵入して、マリア様が借りてる屋敷の中庭へ着陸。

 

ーーー


 やった~。無事に上級迷宮をクリアして帰ってきたよ~。

 まぁ、この後いろいろな問題があるわけなんだけども……。


 荷物を降ろしたり、エルフの子の体を洗ってあげたりと、先ずは旅の汚れを中庭で落としてから、自分達の部屋に入る準備をしていると、マリア様が中庭に顔を出した。


「ヒカリさん、お帰りさなさい。迷宮とやらは楽しめたのかしら?」

「マリア様、ただいま帰りました。身支度を整えてから報告に上がるつもりでした」


「いいのよ。念話が来ないってことは、特に緊急事態でもないのでしょ?」

「はい。まぁ、多分……」


「何かあったのかしら?」

「私たちは問題ないのですが、倒れていた少女を一人救出しました」


「そう……。身元は?」

「名前すらわかりません。ただ、能力は結構高い様に見受けられます」


「その格好で?」

「ええ。私たちも少々困惑しております。放置できずに救出した次第でして……」


「ヒカリさんらしくないわね。人と最小限にしか関わらず、問題を起こさない様にしていたのではなくて?」

「その……。そのですね?」


「何かまた面倒なことを持ち込むのかしら?」

「クレオさんのことは知っている様なのですが……。ただ、クレオさん本人も私たちも良くわからないのです……」


「お姉ちゃん、その子は迷宮で助けた子だよ」と、ユッカちゃん。

「お母様、気が付かなかったのですか?」と、リサ。


「ま、待って。クレオさんは気が付いていたの?」

「え?いいえ……。なるべく迷宮内でも人と関わらない様にして、穏便に済ませたはずですが……」


「迷宮でご飯を食べてるときに、ボス部屋で戦っていた人達の一人だよ。ボス部屋の中で倒れていた人」と、ユッカちゃん。

「お母様とユッカお姉ちゃんで、服を脱がして治療していたエルフの人です」と、リサ。


 ええ?

 いや、ちょっと待ってね?

 迷宮で助けた子って、確か金髪の綺麗なエルフの少女で、各種コーティングもされた高価な装備に身を包んでいた子だよね。こんなボロボロになってなかったよ……。

 そもそも、会話とかして無いし?


「ヒカリさん、クレオさん、子供達に口止めでもしようとしていたのかしら?南国の果物よりも重大な秘密かしら?」


「マリア様、大変申し訳ございません。私は外見の違いにより、その少女の本質を理解できておりませんでした。

 確かに迷宮で一人の少女を助けたのですが、その子と今のこの子の様子が余りにも違っており、認識できておりませんでした」


「サッパリ判らないわ。その子は貴方達に2回も助けられたの?その子は馬鹿なのかしら?」

「馬鹿では無く、それなりに優秀な子だと思うのですが……」


「良いわ。

 部屋は余ってるから、メイドを一人付けてその子の面倒を見させなさい。そして、話が出来るようになったら、クレオの名前を何処で知ったのか聞きだしてして、情報の漏洩元をしっかり確認しなさい。


 ユッカちゃん、リサちゃん、シオンくんは、私と一緒におやつを食べる?それとも、シャワーを浴びてから、夕ご飯までお昼寝かしら?」


「「「マリア様とおやつを食べてから、お昼寝が良いです」」」


 わ、私は?

 マリア様、私は寝てても良いの?

 子供達をマリア様に任せて、クレオさんにエルフの子を任せて良いなら、私は、ちょっと寝てても良いよね?


「ヒカリさん、貴方はリチャードが待ってるわ。顔をだしてあげて」

「わ、分かりました。早速!」


 大事な大事な旦那様。

 忘れていました。すみません。

 寝る前にちょっと挨拶しておこうかな……。


「迷宮の冒険譚は、皆の疲れがとれたらゆっくり聞かせてね。

 それじゃ、解散!」


 って、マリア様に仕切られてしまった。

 でも、まぁ、全て上手く行くからそれで良いかな?


 とりあえず、中庭から続く裏庭に抜ける片隅に、迷宮で拾って来たものをリストと照合しながら片っ端から引っ張り出しておいた。

 先週のカタコンベの収集品が馬車1杯分だったのに対して、今回は潜っていた時間や準備した麻袋の量が多かったので、馬車10杯分ぐらいになったかな?

 皆には悪いけど、片付けは後回しにしてリチャードの所ににいってくるよ~。


いつもお読みいただきありがとうございます。

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2章完了にて、年内は終了。

3章は年明けから開始予定です。



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