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2-27.上級迷宮からの脱出(3)

「おねえちゃん、お待たせ~。言われた通り、ボス以外の収集品は無視して登ってきたよ」

「ユッカちゃん、お疲れ様。いろいろ手間取らせちゃってごめんね。私もリセットし続けると、こんなことになるとは思って無くて……。

 先読みが甘くて、迷惑かけちゃったね」


 クレオさんと地下5階層で休憩をとることにして、ユッカちゃんに念話で話を通してから、大体3時間ぐらい経過したかな?私たちは15時間ぐらい掛かって上がってきたのに、ユッカちゃんは収集品を拾わず、すし詰めの魔物を掃討する必要は無いとはいえ、驚異的は速さだよね。

 もちろんMAPは写しを渡してあったから、罠とか迷子になる時間は無かったけどもね。


「お姉ちゃん、大丈夫。それより、この後どうするの?」

「あのね。念話でも言ったけど、魔物が凄いの。多分迷宮から溢れ出てると思う」


「確かに、お姉ちゃん達が通った後だったけど、降りて行った時より、今回登ってくるときの方が、ボス部屋も通路も魔物が多かったね」

「私たちは1週間分のリセット回数の魔物を掃除しながら上がってきたよ……」


「どういうこと?」

「ボスを倒してリセットすると、魔物が初期配置になるんだけど、リセットするまでに残っていた魔物はそれ以上増えることは無いけど、減ることも無いの。

 だから、リセット回数分だけ、魔物が増えてるってことになるよ」


「私はリセット5回分の魔物を倒して上がってきたということ?」

「そうなるね」


「この先には一週間分の魔物が居るの?」

「多少は減っていると思うけど、多分入り口から溢れたと思うよ」


「ふ~ん。クレオさんはどうするって言ってるの?」

「『結界が張ってあるだろうから、問題無いでしょう』って、言ってた」


「クレオさんは何処に居るの?」

「みんなのご飯を作り終わったので、『ユッカちゃんが上がって来るまで、ちょっと掃除しに行くっ』て、この部屋から出て行ったよ」


「お姉ちゃん、私も見てきても良い?」

「良いけど、ご飯食べてからにしたら?迷宮の外まで溢れていると、暫く、倒し終わるまで時間が掛かるよ?」


「じゃぁ、入り口まで見てきたら、戻ってくる~」

「うん……。外が酷いことになってても、ちゃんと戻って来るならいいよ」


「外が酷いことになってるなら、直ぐに助けに行かないと!」

「いや、だから、外のことは門番さん達に任せて、私たちはちゃんと休憩して、体力を回復してから出て行った方がいいよ」


「リサちゃんと、シオンくんは?」

「そこの隅で寝てるよ。みんな揃ったらご飯にするから、それまで寝かせておいてあげてる」


「わかった!じゃ、クレオさんにご飯にしようって、声掛けてくるね」

「うん、よろしくね」


 なんというか、クレオさんは現実を見て行動できるけど、ユッカちゃんは現実を見ると、全てを目の前にある救うべき存在に手を差し伸べてしまうからね……。

 街中に溢れても、結界で封じ込められていれば良いけど、結界が間に合わずに、街の外に溢れ出ていたら、エライことになってると思うんだよね……。


 リサが言っていたけど、『身体強化は呼吸が続く限りです』って。

 ということは、多くの人は、長時間連続で魔物を倒し続けることはできないってことだよ。

 私が朝の訓練でクロ先生に30分ぐらい特訓して貰ってるけど、その30分間に型の稽古や組手をしてもらうだけでも、汗びっしょりになる。

 パーティー組んで、交代で迎撃し続けても、今度は体力とか魔力を循環するための身体強化がほとんどの人は追いつかずに、無力化していくと思うんだよね。


 軍隊のような統制のとれたまとめ役が居て、順番に迎撃して休憩させる様になってないと、連続した討伐って難しいと思う。

 まして、レアアイテムを狙った冒険者たちが、低レベルで収集品の価値が大して高くも無い敵を倒してくれるってのは、ギルドからの依頼でもないとやってくれないだろうし、そのために体力回復用の高価なアイテムを使ってまで対応とかしないと思う。


ーーー


「お姉ちゃん、ただいま~。クレオさんを連れてきたよ」

「ヒカリさん、ただいま戻りました。身体強化の第二段階を身に着けてもユッカ様には追い付けそうにいですね。未だ何か秘密があるのでしょうか……」


「ユッカちゃん、クレオさん、おかえりなさい。先ずはご飯にしよう。

 それと、ユッカちゃんは、いろいろな加護を受けていることも影響しているかもね。機会があったらクレオさんにも教えてあげるよ」


「加護の件、承知しました。そのときはよろしくお願いします」


 久しぶりに全員で一緒に食事をした。

 最下層のボス周回中も、交代でボスリセット時間を利用してアイテムの収集に行ったり、それぞれが各種特訓をしてたから、みんなで揃って食事をとる機会がほとんど無かったんだよね。


「みんな、ご飯を食べて、仮眠をとったら、迷宮の外まで魔物の掃除をするよ。この階層から上は魔物のレベルが低くて、収集品の価値も低い。だから、時間節約のために、収集品を回収するのは止めよう。

 ここに上がってくるまでに相当量の収集品を拾ってきたから、収集品だけでも半年分は生活費には困らなないと思うよ。ボス部屋で出た武具や大き目の魔石を適正価格で処分できれば、ユグドラシルの調査隊の権利も買えるかも。だから、しばらくお金の心配はしなくていいよ。


 それよりも、迷宮から魔物が溢れていた場合の対処の方が心配かな?溢れていたら皆にも手伝って欲しい」


「お母さん、なんでそんなことになるのですか?」

「リセットするごとに、魔物が増えるからかな。途中までリサも魔物を掃討するのを手伝ってくれたでしょ?」


「はい。でも、それが迷宮の外に溢れるとは思えません。ボス部屋の扉があるので、区切りの階層を跨いで敵が外に出て行くことは無かったです」

「迷宮の入り口にはボス部屋が無いから、魔物が出て行ったら、出て行けちゃうみたい。普段門番さんが立っているのもそういうことだね」


「それなら、門番さんが居て、倒してくれているので大丈夫でしょう?」

「門番さんが、倒し続けてくれればね」


 なんか、さっきのクレオさんと同じ会話になってるな~。

 どうやったら分かって貰えるんだろう?


「職務放棄は重罪です」

「でも、敵がたくさんいて、自分の手に負えなければ仕方ないでしょ?


「それは、援軍を呼ぶべきです。そういった対応をすることも職務に含まれているはずです」

「ここから王都まで片道1週間掛かるんだけど……」


「それは普通の馬車で移動した場合の話です。伝令用の早馬を乗り継げば、2-3日でたどり着けるはずです」

「伝令が届いて、王様に報告して、軍隊を編成してから、ここに来てくれるまで、1週間以上掛かると思うよ?」


「それ以上は門番の責任ではありません」

「だったら、伝令を出してから軍隊が到着するまでの10日間のうちに、魔物が迷宮から溢れてしまう場合もあるよね」


「お母さんの時間感覚が正しければ、1週間しか経過してません」

「いや、だから、魔物が溢れてたら、軍隊が到着してないよね?」


「お母さんは、どうしたいのですか?」

「魔物が溢れてたら、みんなで助けたい」


「だったら、直ぐに向かうべきです」

「でも、みんなの体も大事だよ。疲れも溜ってるし、ちゃんと食事も摂って無いよ」


「そ、それは……」


 リサは自分が寝てたのだから、『みんな疲れていません』とは言えなよね。それに、自分が寝ている間に、クレオさんとユッカちゃんと私が合流して、随分浅い階層まで来ていることには気が付いているのだろうし。


「ヒカリさん、先ほどユッカ様と合流したときに、既に地下2階層と地下1階層の階段付近でした。地下1階層を掃討すれば、迷宮の外にも出られますし、様子も確認できると思います」


「うん。それで?」


「私が一人で先行しても宜しいでしょうか?」


「念話が使えないからダメだね。ユッカちゃんか私がついて行く必要があるよ。シオンは戦えないからお留守番」


「それでしたら、ヒカリさんはリサ様とシオン様のお世話をして頂いて、ユッカ様と私で状況を確認しに行っても構いませんか?」


「う~ん。ユッカちゃんも登ってきたばかりだから、クレオさんが大丈夫なら私が行くよ。ユッカちゃん、リサ、シオンの3人で寝ながら休んで待っていられる?」


「お姉ちゃん、寝ていると念話は届かないよ。別の方法で起こすことが出来れば良いけど」

「ええと、アジャニア行ったときは時差とかあったけど、レイさんと念話が通っていたと思うよ?」


「飛竜さん経由の念話は大丈夫だよ。直接の場合は相手が起きて居ないと、エーテルの呼びかけでは起こせないよ」

「うわ~~~。知らなかった。スマホの通話より断然不便だねぇ~」


「お姉ちゃんが何を言っているか、いつも判りません。でも、寝ている人と念話が出来ないのは今更の話です」

「ユッカちゃん、ごめん。便利過ぎて普段は余り使わないようにしてた。いろいろな限界があるんだね……」


「ですから、シオンくんに任せて私だけが寝ることは出来ません」


「……わかったよ。皆で進もう。作戦とか考えても仕方ないね。疲れたら、そのとき考えよう。

 良いかな?」


「「「「ハイ!」」」」


 4人からの返事は早くて元気が良かった。


 本当に良いのかなぁ~。

 食事は摂ったけど、みんな疲れてると思うんだよ?

 迷宮の中は魔物だけだから良いけど、迷宮の外に魔物が溢れ出てて、その魔物を退治して周る依頼とか受けることになったら、エライことだよ?

 ま、いっか~。 きっと、なるようになるさ~。


ーーー


 そんな心配をよそに、1時間も掛からず、すんなりと迷宮の入り口まで辿りついた。


 最初はクレオさん一人が様子を伺いに行ってくれたけれど、誰も居ないって。残りの私たち4人も光学迷彩を纏って迷宮から出たんだけど、やっぱり誰も居ない。クレオさんの見間違いじゃなかったってことだね。


「ヒカリさん、今は深夜の様です。ですが、迷宮の門番は出入りの確認が必要ですので、必ず交代で最低一人は立ち番をしているはずです。

 また、迷宮の入り口に結界が張られている様子もありませんでしたし、この付近を索敵したところ、低レベルでも魔物は確認できていません」


「ええと、門番と魔物が居ないのは良いとして、街の中の人はどうなの?」

「これほど静まり返っている街は初めてです。

 夜中であっても、一山当てた冒険者たちがお酒を飲んで騒いでいるのがつねだったのですが……」


「寝てる?逃げた?全滅した?」

「正直判りません。

 ユッカ様とヒカリさんに教わったエーテルの流れを追うような索敵は、私にはまだコツが掴めていないようでして、人間の僅かなエーテルの動きを、この距離からは検知できません。

 ですが、街が静まり返っているのは確かです」


「ユッカちゃんやリサは何か感じる?」

「「街の入り口に一人います」」


 と、ユッカちゃんとリサがハモりつつ、指をさした。

 どれどれ、街の入り口って、あっちの方角だよね。エーテルで索敵したら、確かにその辺りから人間一人分くらいの大きさのエーテルを検知出来た。ただ、大きさはともかく、かなり弱いよ。本当に人なのかは怪しいね。


「ヒカリさん、街全体が巨大な結界で覆われています。その人は結界の門番かもしれません」


 と、クレオさんなりに別の調べ方をしたみたいで追加の情報をくれた。

 それじゃぁ、その人に会いに行くしか追加の情報の集めようが無いね。街の中に入ってきたときと同じように、皆でローブを纏って私たちが何者かを直ぐに判別できないように姿を隠して、更に光学迷彩を纏ってから、街の入り口に向かうことにした。


いつもお読みいただきありがとうございます。

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