2-26.上級迷宮からの脱出(2)
「うん、じゃ、納得いかないかもしれないけど、目立たずに此処から出る良い方法を一緒に考えてくれる?」
「承知しました!」
「先ずさ、未クリアの階層から人が出てくるっていうのはさ、地下15階層のボスを倒した証になっちゃうでしょ?ここが第一関門だと思うの。
次に、道中を他の人にばれずに、浅い層まで移動し続けることかな。
最後に、リセットが繰り返される迷宮で出入門記録が一週間近く無かったことをどうやって、言い繕うかを考えないといけない。
私は大きく3つあると思うけど、クレオさんはどう思う?」
「はい。私なりの考えですが……。
1つ目の、地下15階層のボス部屋に関してですが、リセット期間を逆手に取れば良いと思います。あたかも、『リセット期間中に、ボス部屋が開いていて、下の階層に降りてしまって、戻れなくなった』とか、言っていれば、ある意味で被害者を装うことができます。ただ、地下15階層へ到達できるようなレベルである必要はあります。
2つ目ですが、これもまた『リセット期間中に慌てて逃げて移動した』と、言い繕うこともできますし、実際にリセットされて魔物が湧かなくなるタイミングであれば、徐々に進むことは可能でしょう。
3つ目は、『リセットだらけで地図が役に立たずに、迷子になっていて、大変な思いをした』とか、言い訳が成立すると思います」
「なるほど~。でもさ?
私たちが移動しているタイミングで、誰がここのボスを倒して迷宮のリセットを掛けるの?
それに、私たちが脱出を始めたら、リセットが行われなくなるなんて、私たちのパーティーとの関連性を疑われないかな?」
「あの、ええと……」
「クレオさんの意見は悪くないと思う。
一人が此処に残って、クレオさんの作戦でパーティーが脱出し終わるまで、リセットを掛け続ければ良いんだよ」
「いや、でも、そうしますと、残された一人が……」
「行方不明になったことにすれば?」
「ヒカリさん、待ってください。確かにボス部屋に残る人以外は、偽装して脱出もできますし、迷宮での出入記録にも話を通すことができるでしょう。
ですが、最後まで残る1名の方はどうしますか?」
「私が、『どうしても行方不明者を探しに行きたい』とか言って、迷宮に入り直して、念話でタイミングを誘導して合流するよ」
「それは、つまり、ユッカ様か、リサ様かシオン様が残られるということですか?」
「ユッカちゃんか私しか居ないよ。
リサもシオンもカバンが無いから食料が調達できないし、リサは念話が使えないし、シオンはボスを倒すことが出来ないもん」
「ヒカリさん、それを聞くと私が一番役立たずな気がするのですが……」
「クレオさんは、私たちを目立たずに此処から脱出することに力を貸して貰えれば、それだけで価値があるよ」
「お姉ちゃん、私が残るよ。いつから始めればいいの?」
「うん。私たちが地下15階層のボス部屋の下に辿り着いたら、念話で声を掛けるから、そのタイミングでボスを倒して欲しいかな。それまでは、今まで通りの周期でちゃんと倒してれくれれば良いかな」
「わかった~」
ーーー
ユッカちゃんの元気な返事を貰えたので、分かれて行動することになった。ユッカちゃんはこれまで通りにボスを倒したり、収集品集め。私たちはドンドン進む。ただし、他の冒険者に見つからない様に細心の注意を払いながらね。
3時間ごとにリセットが掛かるのだから、リセットが掛かってる時間で冒険者がドンドン進んで深層部に来てると思っていたら、実は違った。
ボス倒す
→新規の敵は湧かない。だけど既にいる敵は残る。
→3時間経過する
→全ての敵が初期状態で湧く。更に前回の敵も残ってる。
これはさ?3時間以内に沸いている敵を倒しきらないと、どんどん敵が累積して増えて行くってことだよ!
リセットされて、敵が湧かなくなるだけじゃなくて、全ての敵が消滅してしまうなら、話は違うんだろうけれど、倒しきれなかった敵は残るっぽいのね。
私たちは3時間リセットの間に、最後のボスと、3時間で周れる範囲の敵を掃討していたから、そんなことになってるって気が付かなかったのね。
だけど、私たちが巡回していない20階層から上まで来ると、モンハウどころか、モンスターのすし詰め。ギチギチ。ちょっと、ユッカちゃんに見せたかったよ。
地下20階層までくれば、身体強化を柔軟に使いこなせるリサとクレオさんなら、敵の数が無数にいても全く問題無い。某スライムがくっついて大型化するような現象が起きなければ、スライムは何匹いてもスライムってこと。
リサとクレオさんに道を切り拓いて貰って、私とシオンはリセット1週間分魔物から産出される収集品をひたすら集めて、麻袋に分別せずに入れる。この迷宮に来ている目的が時間つぶしってこともあるけど、収集品で小銭を稼ぐってこともあったから、そこは忘れちゃいけないね。
ユッカちゃんも呼んで、敵を倒したり、収集品を拾うことも考えたんだけど、リセットが突然止まると、今度は「リセットが止まったタイミングで私たちパーティーが登ってきた」っていう、別の疑いを掛けられちゃうから、ユッカちゃんには暫く時間が掛かるけど、予定通りボスを定期的にリセットして貰うことにした。
ご飯も食べて、身体強化も使ってるから、体のエネルギーは充填できている。けど、眠さと精神的な飽きが辛いね。シオンやリサなんかは、体に溜められるエネルギー量が少ないから、休憩回数も増えてくるし、睡眠回数も私やクレオさんより多い。
この辺りは幼児なんだから仕方ないさ~。それより、ユッカちゃん一人に何時間も継続してボス部屋の番をさせてしまう方が気がかりだよ。
ってことで、クレオさんが敵を倒す係り。私が収集品を集める係り。リサとシオンは5階層ごとにあるボス部屋でお留守番。だって、3時間のリセットが掛かるまでは、新しく敵が現れないし、ボス部屋だったら、必ず通過するからどこに置いてきたか忘れちゃっても大丈夫。
そんなこんなで、長時間アイテムを拾い続けて、腰が痛くなると、クレオさんと役割を交代して貰った。身体強化で血流を変えつつ、戦闘して体を動かして、腰痛予防をしながら進んだよ。
それでも、なんだかんだで、15時間ぐらい掛かったのかな?魔物がすし詰め状態の階層を地下5階のボス部屋まで戻ってきた。
ここまで人間の冒険者パーティーとの遭遇は0回。こんな浅い階層まで人が居なくて、遭遇することもないなら、リセットさせたりして、私たちの存在を偽装する必要って無かったんじゃないかな……。
「クレオさん、冒険者パーティーを見かけないよ?」
「ヒカリさん、私は迷宮のリセット機能を熟知していなかったと改めて思い知りました。
これほど頻繁に迷宮のリセットが掛かってしまうと、普通の冒険者パーティーからしてみると、リセット前の残っている魔物を殲滅し終えるより先に、新しい魔物が一斉に湧き出す訳です。普通のパーティーでは、休憩をとる暇もないので、迷宮に入ることは命の危険が生じます。
きっと、休憩の不要な浅い階層で戦っていると思います」
「でも、地下5階層ぐらいまでなら、結構居見かけたよ?ボス部屋前で待機して周回しているパーティーも居た訳だし……」
「きっと、ボス部屋を出て、帰路を確保するのが困難と見込んで、慌てて脱出したのではないでしょうか?3時間経過するごとに、倒さなくてはならない敵の数が倍増するとか、恐ろしすぎます」
「そうだねぇ~。そうだとすると、この先も人はいないかもねぇ~」
「ひょっとしたら、入り口が封鎖されてしまっているかもしれません」
「結界とか張られてたら、私たちは外に出られるのかな?」
「入宮時の登録名簿があるので、そこのリストに名前がある人は、きっと除外されていると思います」
「そんな都合の良い結界があるの?」
「結界の外側には門番が居るでしょうから、一時的に結界を解除してくれると思います」
「そう……」
「どうかされましたか?」
「うん……。もう、ユッカちゃんを呼び戻して良いと思うよ……」
「はい。そうかもしれません。これ以上リセットを掛けて、魔物が増えるのも止めておいた方が良いかもしれませんね」
「いや、それだけじゃなくて……」
「他に何か問題がありますか?」
「多分だけど、迷宮の入り口から魔物が溢れたんじゃないかな……。ただ、5階層ごとのボス部屋で区切りがあるから、溢れたとしても地下5階層までの大して強くない魔物だとは思うけど……」
「そのための門番です。ちゃんと彼らが魔物を封じ込めて、街中に飛び出さない様に倒しているはずです」
「それは、リセットも掛からないし、冒険者が浅い層の魔物は間引いてくれている前提だよね?」
「それは、まぁ、そうですが……。
彼らだって冒険者ギルドや王国から任命されてきているのです。ちゃんと見合った報酬も貰えますし、腕が確かな者たちが配置されています」
「3時間ごとに、地下5階層分の魔物が一気に増えるんだよ?」
「そんなこと言いましても、私たちだって、かれこれ25階層はリセットを受けながら過去に発生してしまった魔物をきちんと倒してきたじゃないですか」
「クレオさん、それはクレオさんだから言える台詞だよ……」
「ヒカリさん、私は何か間違ったことを申していますか?」
「……。 と、とりあえずさ。
この地下5階層のボス部屋でユッカちゃんと合流しようか」
「ちょっと、納得がいきませんが、ユッカ様と合流することには賛成です。
食事の用意をさせて戴きます」
多分、私が疲れているんだね。
万が一、迷宮の入り口で討伐しきれずに、街中に溢れ出してたら、冒険者と迷宮関係者のために発展した街だもん。みんなが助け合って、ちゃんと討伐できてるはずだだよ。そういうときのための結界もあるって言ってたし……。
ただ、身体強化の第二段階を覚えたクレオさんは、ユッカちゃんやリサと同レベルで戦いを進められるようになったし、普通の人じゃ考えられないような体力や精神面での耐久性も発揮できているけど、それって、クレオさんは自分が普通じゃなくなってるって、自覚してるのかなぁ……。
さっきの感じからすると、クレオさん自身はまだ、B級冒険者の頃の感覚で魔物を殲滅していたんじゃないのかな……。
別の意味で、このまま進んでも大丈夫かな……?
いつもお読みいただきありがとうございます。
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