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2-25.上級迷宮からの脱出(1)

 地下30階層のボス部屋で周回を始めてから一週間が経過した。


 レアアイテム狙いのボス部屋では、いくつかの武具がドロップしたのを確認しているけど、クレオさんも私も価値が判らないから、『ニーニャに見せてから考えることにしよう』ってことになった。

 魔石とか、細かな収集品でもカタコンベの迷宮には比べられないぐらいの質と量のはずなんだけど、『売値が決まらないから苦労するでしょう』って、クレオさんが言ってたね。

 急ぐわけでは無いけれど、南の大陸での活動資金に換えたいから、その辺りはクレオさんの伝手を上手く利用して、こちらが有利になるように売りさばいて行きたいかな。


 念話の特訓で成果が出たのは、なんとシオンが最初!リサとクレオさんは念話の習得に至っていない。


 シオンの方は、そもそも遠隔通話技術があることを知っているので、私は『電波の代わりにエーテルで通話してる』っ説明したら、それを理解して、割と短時間で習得できちゃった。


 今度はシオンが皆に教えようとしたのだけど、『思念を作って、固めて、投げるだけ』とか、私も超越した理解の仕方をリサとクレオに説明していた。


 ユッカちゃんやシオンの説明で、普通に達成できるもんじゃないんだろうねぇ~。私も良くわかんないよ。


ーーー


 私はナビで経過時間を知っているのだけど、クレオさんいは「そろそろ結構な時間が経つので帰りませんか?」って、曖昧な表現で帰ることを提案した。


「ヒカリさん、念話の習得が未達成なのが惜しいところですが、確かに随分な時間が経過したと思います。余りにも長くマリア様達を待たせるとご心配させるかもしれません。

 皆様の意見に従います」


 ユッカちゃんにとっては、ここは全然上級でも何でもなくて、身体強化や念話の勉強会をしつつ、収集品を集めて活動資金の作成に協力してくれてるって感じだから、どっちでも良いか、出来れば他のもっと難しい迷宮にチャレンジしたいぐらいなんだと思う。

 シオンは念話の習得は出来たけど、此処では念話の相手がユッカちゃんと私しかいない訳だから、念話を試す相手が居なくてつまらなさそう。相変わらず良く寝て過ごしてるよ。だから、いつ帰ることになっても問題なさそう。


「リサ、リサは帰ることになっても良いかな?」

「私は構いませんが、皆様へのお土産は十分でしょうか?」


「うん?皆様って?」

「マリア様やお父様へのお土産です」


「リサがここで楽しんで、無事に帰れることが何よりのお土産だよ。ここの迷宮を中心に出来ている街では大して良い物を買って帰れるとは思わないし、レアの武器や細かな収集品は王都で専門家に診てもらってから換金すれば良いかな」


「それなら帰っても良いです」


 うん、じゃあ、私の意見に皆が従ってくれるってことなら、帰ることで良いね。 後は、私たちが迷宮荒らしという噂が広まらないように偽装して帰る方法を考えれば良いね。


「クレオさん、今、私たちが普通に迷宮を上層に向かって上がって行くと、色々目立つことになると思うんだけど、それを避ける作戦について考えたいの」


「と、申しますと?」


「要は目立ちたくないの。ここに来たときも、クレオさんが最大限の警戒をしてくれて、私たちの存在が周囲に判らない様に配慮してくれたでしょ?」


「ヒカリさん、それは違います。

 今、このパーティーは街全体の英雄です。そして、その実力も一目を置かれるでしょうから、何も心配は要りません。

 『ただの観光客では無い』って知れ渡れば、下手に手を出したら返り討ちに遭うことが目に見えてます。それよりは迷宮の地図や魔物の構成などを知って、自分達の迷宮攻略を有利に進められるように情報を得ようと、すり寄ってくるでしょう」


「そういうの、要らないの」

「要らないとは?何か、私の理解出来ない秘密があるのでしょうか……」


「この街でも、この国でも有名になりたくないの。静かに暮らしたいの」

「全然意味が分かりません。

 ヒカリさんたちは、冒険者として、種々の攻略を行っているのですよね。そして、いずれはユグドラシルへの調査隊にも応募される訳です。ここでの実績が採用される有力な証となります」


「人族における利権の調整はリチャードに任せるから大丈夫だよ。資金の充足は必要かも知れないけど、まぁ、何とかなるんじゃないかな?今回の迷宮の収集品もそれなりの金額になると思うし」


「ヒカリさん、調査隊の権利はお金では買えません。有力者からの推薦が必要になります。

 推薦されるための難易度はBランク冒険者とは比べ物になりません。A級冒険者でも推薦から漏れる場合があります。今回の上級迷宮の攻略の成果を王都にあるギルドに報告すれば、間違いなくA級は確実でしょう。登録に必要な資金も、ヒカリさんの仰るように、今回の収集品の一部を売却すれば可能と考えます」


 クレオが熱くなっちゃったね……。

 そもそも、ユッカちゃんは皇位就くか分からないけれど、それまでは猶予期間として世界中を観て周っているだけだし。

 私はリサとシオンが独り立ちして、生きて行けるように見守れば良いだけだから、ユグドラシルは自分の食べたい物を食べるために、植物の品種改良をお願いするだけで、別に交易で手に入れても良いわけで……。

 じゃぁ、この上級迷宮の攻略は何かっていうと、やっぱり、ユグドラシルの調査隊の権利を獲得するまでの暇つぶしなんだよね……。だから、自力で調査隊員になる必要はなくてさ?


「ヒカリさん、どなたかと念話で相談をされているのでしょうか?」


「あ、いや、違う。考え事をしてた。

 『どうしたら、私たちが目立ちたく無いかをクレオに理解して貰えるかな』って、考えていたんだよ」


「ユグドラシルの調査隊に加わることは諦めるのですか?」

「いや、さっきも言ったけど、それは私の役割りじゃないから待ってれば良いんだよ。余計なことをすると、リチャードに怒られる。

 『ヒカリは目立つことをするな。お前の後始末で駆けずり回るのは大変だ』って、言われるよ」


「失礼ですが、リチャードさんとは、どなたですか?」

「私のおっとだね。リサとシオンのお父さんだよ」


「マリア様の息子さんですか?」

「うん」


「この国と、どのようなコネクションがあるのでしょうか?」

「無いんじゃないかな?紹介状は色々持ってきたけど」


「ユグドラシルの調査隊は王家の特命部署により編成されます。王族へのコネクションが必要になります」

「その辺は上手くやってるんじゃないかな?通訳係も連れてきてるし。交渉に使えそうなお土産もあるし。

 もし、足りなかったら、幾つかの交易の権利や技術供与する形で恩を売れば良いんじゃないかな?」


「ヒカリ様の母国から指名手配を受けて、一族郎党処刑されます。危険すぎます」

「クレオが覚えたピュアだって、そのレベルの魔術のはずだよ?」


「ハッ……」

「でしょ?」


「ただ、それだけでは、まだ、一部の上級貴族が利権を求めて、難題を吹っ掛けてくるかと思います……」

「貴族ぐらいなら、クッキーとガラスの器で黙ると思うよ。

 ユッカちゃん、アリアの器に入ったクッキーって、今出せる?」


「お姉ちゃん、ちょっと待ってね~」


 話をちゃんと聞いていたユッカちゃんが直ぐに反応してくれる。

 そして、カバンから切子細工がされて、表面と内部で色が違うガラスの器を取り出して、クレオさんに手渡す。


「クレオさん、それを開けて、中身を食べてみて?」


 ちょっとズッシりとした重さがあるガラスの器を受け取って、蓋のツマミを摘まんで持ち上げてから中にクッキーがあるのを確認した。

 開けた蓋は、ガラス容器を持ってる手首の方へ器用に載せて、自由になった手で中のクッキーを摘まみ上げて、しげしげと眺めながら、こわごわと一口齧る。

 クッキーを初めて見る人が同じ反応なのが面白いね。


「クレオさん、どう?」


 クレオさんは、一口目のクッキーを口の中で丁寧に咀嚼して、良く味わってから飲み込んで、鼻に抜ける香りを楽しんでから返事をした。


「ヒカリさん、これは何でしょうか?甘さだけでいえば、完熟したフルーツには劣りますが、食感や香ばしい香りは、この南の大陸では経験したことがありません。北の大陸で主食とされているカチカチのパンとも全然違います……」


「クッキーだね。

 ついでに言うと、その危うげな手のひらと手首に乗っている器はガラスっていう、とても貴重な素材で出来ているよ。落とすと割れるから注意ね」


 動揺したクレオさんは、一口齧った残りのクッキーを慌てて口に咥えると、そ~っと、蓋を戻して、手のひらに載ているガラスの器をゆっくりと地面に置いた。

 それが終わると、咥えていたクッキーを手に持ち直してから、もう一度私に話しかけ直した。


「ヒカリさん、貴重な物だと思います。ただ、大型の魔石同様に、そうそう簡単に手に入る物では無いのではないでしょうか?」

「今回持って来てる量はそれほどないけど、交易権を獲得したら、自由に販売することが出来るんじゃないかな?」


「つまり、マリア様一族は、このクッキーとガラスの器の製造権と販売権を所有していて、それで莫大な財産を築いたという訳ですね……」

「違うけど、いいや。それがあるから、大体なんとかなると思うよ」


「他にもあるということでしょうか?」

「マリア様が借りてる屋敷で、トイレ、シャワー、冷蔵庫を設置したんでしょ?あれだって、魔石と連携させる魔道具にすれば、十分な利権になるよね」


「つまり、マリア様一族は種々多様な技術開発をされて、その製造権と販売権を南の大陸に売り込みに来たという訳ですね?」

「違うけど、まぁいいよ。

 余計なことで目立つとリチャードの成果と被るし、後で怒られるから嫌なの。分かってくれた?」


「マリア様がクワトロ様の様な優れた護衛を雇っていることや、私を高給で抱えている資金について理解できました。

 これ以上は余計なことを申し上げません」


「うん、じゃ、納得いかないかもしれないけど、目立たずに此処から出る良い方法を一緒に考えてくれる?」

「承知しました!」

いつもお読みいただきありがとうございます。

冬休みモード発動中。

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