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2-23.訓練(2)

 上級迷宮の最深部は地下30階層まで有った。

 でも、ユッカちゃんやリサの身体能力では何ら問題ない敵の強さ。別にサイクロプス20体だって、ユッカちゃんが本気出せば、私みたいな方法を使わずに倒せるから、リサはそれを見てればいいだけだしね。


 地下30階層のボスも難なく倒せて、この迷宮のリセットが掛かった。

 私たちのパーティーからすれば、リセットしても残っている地下30階層の魔物を掃除して、収集品を集めてくる。そして、ボスが復活するまでの3時間をボス部屋の前で待つだけ。


 つまり、3時間に1回ボスを倒して、地下30階に残ってる魔物を倒したら休憩するっていうループが一週間続くことになった訳ね。


 2つのパーティーに分かれて2回のリセットごとに編成を変えれば、6時間の睡眠も連続して取れる様になるし、食事も交代のタイミングでみんなでワイワイすれば賑やかで良い。ラナちゃんが居たら、『退屈だから、お菓子を作って』とか、言われそうだけど、そういうことを言う人が居なかったのが幸い。何せ、お菓子作りの材料も機材も持ち込んでないからね。


 けどね? そんな無駄な一週間を過ごすのは勿体ない。


 クレオさん、リサ、シオンに、人間の体の仕組みを教えた上で、呼吸器や血流などの循環器系の役目を教える。

 これを教えることで、先ずピュアの意味が理解できる。老廃物を体表面から除去する意味と方法が判るもんね。


 次に、身体強化の第一段目として、呼吸器系による酸素の供給と、循環器系の栄養の配送の両方から生化学反応が起きていることを教えれば、身体強化が何によって起こるかが理解できるようになった。


 そして、次の第二段目の身体強化として、脳内物質の作用を教えた。脳内での物質の運搬や神経の反応速度の仕組みを理解することで、身体強化が単純な肉体面の作用のアップではなくて、脳内の意識によって反応速度そのものが格段に変わるし、意識した身体強化の持続が可能になった。


「お母さん、身体強化を持続ができるようになりました。ありがとうございます」と、リサ。


「ヒカリさん、身体強化がどういったものなのか、初めて理解した気がします」と、クレオさん。


「体は筋トレ以外にも強化する方法があることが判りました」と、シオン。


 三者三様の反応。

 何であれ、新しい考え方を知識として備えて、それを実践して貰って、その効果も体感して貰ったのは良かったよ。こういった、科学的な知識と魔法の連係が判ると、色々なことへの応用が利くからね。


 さて、ここ3日間ほどで身体強化の第二段階まで教えることが出来た訳だけど、残り4日間で何を習得して貰おうかな?


 重力遮断は科学の知識がかなり必要。シオンの場合は、転生前の記憶が戻ってくれば結構簡単に操作できるようになると思うけれど、クレオさんやリサには天文学とか、かなり難しいと思うんだよね。


 光学迷彩に関しても、フウマ達が使ってる隠密行動と私の光学迷彩では同じ仕組みでは無い様子なので、私の科学知識に基づいた光学迷彩を教えるのは相当難しいと思う。


 そしたら、魔石の生成か念話になるのだろうねぇ……。

 さて、どっちにしようか……。

 ユッカちゃんに聞いてみるのが良いかな?


ーーー


「ユッカちゃん、身体強化の2段階目まで3人とも到達できたけど、次は何を学ぶと良いと思う?」

「念話が良いと思います」


「いきなりは、難しくない?」

「身体強化をお姉ちゃんと一緒に勉強して、魔術を使うことが何なのか理解したはずなのです」


「う~ん。じゃ、ユッカちゃんも教えるの手伝ってくれる?」

「いいよ~」


「じゃ、みんなユッカ先生に着いて、<念話>を習得するよ。

 ユッカ先生、お願します」


「ええと、『ぎゅ~~~って、考えて、届け~~』って思うの」


 と、ユッカちゃん。

 それで習得出来るのはごく一部の人だけだね……。

 みんなの反応を確認しようかな?


「みんな、分かった?」

「「「……。」」」


 3人が3人とも同時に首を横に振る。

 そりゃ、難しいよね……。


「リサ、何が判らない?」


「お母さん、<ねんわ>とは何か説明がありましたか?

 そして、お母さんは、<ねんわ>を使えるのですか?

 更には、身体強化よりも素晴らしい能力が得られるのですか?」


「え?説明してなかった?」

「ヒントすらありませんでした」


「クレオさんは、マリア様から何か聞いてませんか?」

「<ねんわ>が何のことか判りません」


「シオン、スマホは?」

「スマホは魔道具です。<ねんわ>とは何でしょうか?」


「じゃ、もう、習得するの止める?折角、ユッカ先生が教えてくれてるのに……」


 と、私が微妙な発言をしていると、リサから建設的な反応があった。


「ユッカお姉ちゃんの教え方が正しいとします。

 ですが、お母さんの知識も重要な気がします。

 身体強化を習得するときもそうですが、実際の訓練をする前に、知識を備えておくと、その訓練の効果と目的がハッキリしていて、効果が現れ易いと思います」


「リサは、<念話>を習得してみる?」

「ユッカお姉ちゃんが大事だと思っていて、お母さんが優先して教えたいのであれば、きっと役に立つのでしょう。なんのことがサッパリ判りませんが」


「わかった。じゃぁ、<念話>が何かを説明するね。

 簡単に言うと、離れたところに居る人と直接お話ができる魔法だね。シオンが言っていた、<離れたところに居る人と通話ができる魔道具>は、この世界では見たことが無いけれど、<念話>は、教わる機会があって、みんなに習得して貰ってるよ」


「お母さんがインチキなのは分かります。

 インチキの詳細は後で説明して頂くとして、『みんな』とは、誰が習得しているのですか?お母さんの知り合い全員がお母さんのインチキに騙されているのですか?」


「リサ……。

 リサの身体強化は、普通の人から見たらインチキだよ?

 今回の訓練で2段階目の身体強化を習得したよね。今のリサなら、以前のクレオさんに勝てたと思う。技術とか力の範囲が桁違いだからね。

 でも、リサが学習や訓練した努力をインチキだとは思わないよ」


「お母さん、私のことは良いです。騙されている人を教えてください」

「ええと、今回南の大陸に空飛ぶ卵で飛んできたでしょ?

 あのメンバーの中で知らないのは、お父さんと、ニーニャに着いてきた二人の助手のドワーフさん達、あとシズクさんぐらいかな?

 領地に戻れば、モリス、アリアとか、レイ、レミさん姉妹。

 ここだと、マリア様とクワトロは使いこなせてるよ」


 と、ここでハッとした反応をするクレオさんから意見が上がった。


「ヒカリさん、私がユグドラシルの調査隊に加わらせて戴くためには、必ず<念話>を習得する必要があると考えます。

 厳しい訓練や知識の習得に努力が必要であっても、何とか耐え抜きますので、教えて頂けないでしょうか?」


「お母さん、何故お父さんは、そのような大事なことを知らないのですか?」

「お父さんは忙しい人で、説明して習得して貰うには時間が掛かるし。

 それに、お父さんには色々な人が直接話しかけてくれるから、今までは困って無かったかな?」


「お母さんは、お父さんのことを愛していないのですね?」

「……え……?」


「結婚の儀をする際に、『全ての事を共有する』と、誓い合ったのでしょう?

 その宣誓に偽りがあったということであれば、愛の誓いに偽りがあるということです」


「ま、待って……。

 ふ、普通に考えて全てのことを共有なんか出来ないよ。あれは『お互いを信じあって、裏切らないという思い』を宣言しているんだと思うよ」


「大事なことを隠すのは、裏切りでは無いのですか?」

「そんなことを言い出したら、リサだって、魂の転生のことを隠してたでしょう?」


「私のことは良いです。あれはユッカお姉ちゃんやクレオさんに迷惑が掛かります」

「信頼できるパーティーのメンバーだったら、共有しても良いでしょ?」


「お母さんは魔族の怖さを知らないのです。安易に人を巻き込むのを止めてください」

「うん。お母さんも<念話>の怖さを知ってるから、安易に人を巻き込むのを止めたかったんだよ。

 私にとって、リチャードはとても大切な人だから、余計なことで煩わしい思いをさせたくなかったの」


「私やシオンはお父さんに比べて、大切では無いということですね?」

「リサ?」


「何ですか?もう一度言いましょうか?」

「ううん。お母さんにとって、家族は全員大切だよ。そこは絶対だよ」


「では、何故、お父さんと私たちで共有されている大事なことが違うのですか?」

「リサとシオンが習得する冒険スキルとして、<念話>がとても大事だと、ユッカちゃんも言ってる。だから、お母さんも教えるべきだと思った。

 お父さんは、冒険をする以上に大切なことが有る。そのために必要な知識やスキルで重要と思われることは、ちゃんと共有しているよ」


「私たちが<ねんわ>を習得して、お父さんに教えて上げられるチャンスが来たら、教えてあげても良いですか?」

「う~ん……」


「ダメなのですか?」

「リサと魔族の関係と同じくらい、場合によってはそれ以上に危険だと思う。

 だから、悩んでる。」


「そんなに危険なのですか?」

「他の人に<念話>の存在が知られると、殺されるか、殺されるギリギリまで拷問されて、<念話>のスキルの秘密を得ようとするね」


「魔族級に危険ですね。分かりました。良く考えます。

 私がお母さんと同じぐらい強くなれるまでは、お母さんの言う通りにします」

「そう……。ありがとうね。

 でも、ユグドラシルに向かう調査隊では<念話>は生存確率を上げるためにとても重要なスキルになると思うよ。場合によっては飛空術よりも重要だろうね」


 リサとの信頼関係を築くのは大変かもしれない。

 けれど、リサが人に言えない大切な物があって、それを皆に言えない理由が大切な人を巻き込みたくないのであれば、私の家族への思いと同じだね。

 ここの軸を共有して一緒に考えていければ良いのかな?



ーーーー


いつもお読みいただきありがとうございます。

暫くは、毎週金曜日22時更新の予定です。


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