2-22.訓練(1)
「みんな、ただいま。魔石が15個落ちた。後は特になしだったよ」
「お母さんは何を言ってますか?早く中へ入って、ボスを確認してきてください」
「リサ、私は見て来た。もう大丈夫だよ」
「お母さん、扉が開きっぱなしで壊れています。ボスを倒してきてください」
私とリサのやり取りを見かねたクレオさんから声が掛かる。
「リサ様、迷宮のルールとして、ボス部屋の扉は壊れません。開きっぱなしになっているのは、中のボスが倒されてリセット期間中なのです。
きっと、ヒカリさんが中のボスを片付けてきたのでしょう」
「……。」
うん、納得がいってないね。
「リサ、中を自分の目で見てきたら良いよ。危なかったら逃げれば良いし、ユッカちゃんに付き添って貰っても良いよ?」
リサは、ジロッと私を横目で睨むと、一人でボス部屋の中を見に行った。そして中を見て直ぐに帰ってきたよ。
「お母さんは、迷宮の主ですか?」
「……。」
今度は私が黙る番だよ。
奴隷商人や魔族は、想像できる範囲だよ。
迷宮の主ってのは、ゲームマスターとか、ダンジョンマスターっていう類でしょ?
リサは何から生まれたのか?って話よ。
ダンジョンの申し子ってことになっちゃうじゃん?
「お母さん、肯定と受け取って良いですね?」
「いや、リサ。リサの想像力の豊かさに驚いただけだよ。私はリサのお母さんだよ?」
「では、お母さんは何なのですか?」
「ユッカちゃんを師匠として仰ぐ、メイドかな?冒険者の経験もあるけど」
「ユッカお姉ちゃんは素晴らしいです。ですが、もっと冒険者らしく魔物を倒します。お母さんのはインチキです」
「ユッカちゃんは私が安全に進める様に最大限配慮した戦い方を教えてくれたんだと思うよ。リサには、戦うロマンを教えてくれていると思うよ?」
「ユッカお姉ちゃんが素晴らしい人なのは分かってました……。
でも、何故お母さんには普通の戦い方を教えなかったのですか?」
「お母さんは、体も弱いし、運動神経も良くないから、そういう人に合った戦い方をユッカちゃんなりに教えてくれたんだと思う。
最初は身体強化、次に気配察知の方法、姿の隠し方。そして魔法の使い方を教えてもらったんだよ。
短剣での稽古はフウマやクロ先生がおしえてくれたんだし、リサについて行けるような身体能力は飛竜族の方達からお裾分けを貰ったお陰だよ。
リサは最初から飛竜族の加護があるから、元々の体の性能が普通の人族とは違うんだよ。だから、ユッカちゃんはリサに合わせて色々なことを教えてくれたんだと思うよ」
「ユッカお姉ちゃん、そういうことなのですか?」
「リサちゃんは、私より強いよ。だから心配しないで」
「そ、そんなの……。」
リサはユッカちゃんの言うことを信じてるから、ユッカちゃんより強いと言われて、それを否定できないんだろうね。
それに、実際問題、前世の修道女の記憶の範囲からしても、そこいらの聖女では今のリサの身体能力にはとても及ばないことは実感してるのだろうし。 さて、どうしたものだか……。
「リサ、気が済んだら先に進むけど良いかな?
この迷宮の中でも、マリア様のお屋敷に戻った後でも良いから、お母さんが少しずつ教えてあげるよ」
「お母さん、分かりました。お母さんの戦い方を教えてください」
「う、うん……。戦い方というか、何というか。お母さんの知識を教えてあげるね」
「戦い方は教えてもらえないのですか?」
「戦うためのセンスは、私より、フウマやユッカちゃん、クワトロなんかの方が優れてると思う。 身体能力に関しては、ユッカちゃんやリサの方が上だと思うよ?だから、戦い方そのものはお母さんが教えられることは無いと思う。
けど、『どうやって、安全を確保するか』とか、『どうやって魔法を使うのか』とか、そういう知識や考え方を教えてあげられると思うよ」
「それは、戦いを進める上で役に立つのですか?」
「戦いが始まる前に有利な状態になるので、戦い自体が楽になる効果があると思うよ」
「全然わかりません」
「例えばだけど、危ないと分かってる敵とは戦わない。そうすると安全でしょ?」
「敵が襲い掛かってきたら、戦わざるを得ないでしょ?」
「先ず、敵が居ない場所を探すよ。敵に遭わないのが一番だからね」
「この迷宮なんか、敵だらけです。敵と遭遇します」
「うん。だけど、敵が、こっちを認識する前に戦闘能力を奪えば、戦いにならないよね?」
「ユッカお姉ちゃんは、素早く敵の核を突いて倒すことができます」
「それも1つの戦い方だね」
「お母さんはどうやるのですか?」
「目視でこちらを確認する敵には、見えなくなることが効果的でしょ?」
「先ほどのサイクロプスですか?」
「うん」
「気配察知をする敵ならどうするのですか?」
「索敵範囲外から倒すのが一番だね」
「気が付かずに索敵範囲に入ってしまい、襲い掛かってきたらどうするのですか?」
「転ばせれば良いんじゃないかな?」
「どうやってですか?」
「足元に重力遮断の膜を置いて、体のバランスを崩させるんだよ」
「<じゅうりょくしゃだん>が、何を言っているのか判りません。
ですが、お母さんは敵を転ばせることが出来るのですね?」
「安全でしょ?」
「……。」
「うん?」
「お母さんの娘は、お母さんの敵ですか?」
「うん?」
「お母さんは、娘を転ばせるのですか?」
「……。」
いわゆる、墓穴を掘った?
領地で買い物に行くとき、リサと木刀で決闘することになった。あのとき、リサの足元に重力遮断の膜を設けて、ちょっとひくっり返した。
だって、本気でリサの攻撃を受けたら、どっちかが痛い思いするし。そんなことになるなら、勝負自体を有耶無耶にする良い方法だと思ったんだよね。
「お母さんは、私との決闘でインチキをしましたね?」
「リサ、リサ……。インチキかどうかは置いておいて、安全に勝負が終わるようにしたと思ってるよ」
「今度、インチキ無しで私と勝負をしてください」
「リサからしたら、お母さんが勝つたびにインチキになると思うよ?」
「……。もういいです。お母さんのインチキを全て教えてください」
「うん、分かった。基礎知識と考え方を教えられるだけ教えるよ」
一週間もあれば、結構訓練する時間が取れるんじゃないかな?
クレオさんもユグドラシルに行くなら、いろいろ覚えておいて良いと思うし。
あ、あと、シオンのスマホも何とかしてあげないといけないしね!
ーーーー
いつもお読みいただきありがとうございます。
暫くは、毎週金曜日22時更新の予定です。
ブックマーク登録をして頂いたり、感想や★評価をつけて頂くと、作者の励み になります。