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2-21.上級迷宮(3)

「お姉ちゃん、この先は自由に進んで良いの?」


 地下15階層のボス部屋パーティーの救出、治療、そして後片付けまで終えてから、ユッカちゃんが私に話しかける。


「うん。後はクレオさんが確認してくれて、私たちの痕跡が無い様にしてくれるって。大丈夫だよ。

 ところで、リサとシオンは疲れてない?お昼寝とかは?」


「お母様、私は大丈夫です。シオンのことを気にしてあげてください」

「お母さん、僕も大丈夫。みんなが治って良かったです」


「分かった。みんな疲れてきたり、眠くなったら言ってね。交代で休めば良いから。

 あと、ユッカちゃん、この先は売られている地図では情報が無い階層になるから、マップ作製と罠解除を慎重にね。

 クレオさんはこれまで通り、気が付いたことがあればサポートをお願いします」


「分かりました。皆様に遅れぬよう、頑張ります」


ーーーー


 地下16階から下は地図が無いから、地図の作製は私も手伝った。罠の解除は下手に手を出すと罠が発動したり、面倒なことになるから、ユッカちゃんに任せる。

 罠が無いと分かってる安全な場所で遭遇した魔物は倒して、その都度収集品を拾う感じ。


 迷宮自体は石造りの縦、横、高さがそれぞれ3mぐらいの部屋の様な構造が敷き詰められてているので、マップは作りやすい。これが鍾乳洞みたいな自然に形成された地形だと、人によって通れなかったり、水に行く手を阻まれたりと、進行することも地図を作ることも、格段に難易度が上がっていたと思う。

 だから、先行して私の妖精の子を飛ばしておくことで、通路の分岐構成は簡単に作った。階下へ進むための階段の位置が判れば、後は罠の解除だけで最短経路を進むことが出来るからね。

 たまに部屋全体の床が抜けるような落とし穴があったり、辺り一帯が毒ガスのような何かが噴出するトラップがあったから、そういうのは察知できた場合には迂回路を探して、そっちから進むことにしたよ。

 何処の通路にも罠がある場合には、一番被害が少なそうなところとか、罠の解除が簡単に済む道を選んだ。

 今までの所では、テレポートが発動するような地球に居た頃の科学で説明が出来ないようなトラップは見つかってないから、これも地図を作る難易度が上がらずに済んでる要因の1つだね。


 そんな、こんなで地下20階層のボス部屋の前まで到着。最短経路の探索をメインにしてたから敵との遭遇も少なく、ドロップアイテムを拾うための時間が節約できているから、マップ作製しながらでも5時間くらいで到着したよ。


 一旦、ここで夕飯にすることにした。

 今回は他のパーティーが中に居る訳じゃないけど、まだ地下の階層が続くなら、切の良いタイミングでご飯を食べておくことを提案した。

 もし、ボスが厄介な時間の掛かる敵だったら、持久戦も視野に入れて、ご飯を食べながらになるかもしれない。だから、ここでゆっくり食事をするのは今後の全体を予測したら有りだと思うんだよね。


 お昼ご飯と似たメニュー。

 鶏肉をちょっと野菜と一緒に炒めて、市場で買ったブレンドされた香辛料で味を調えてみたり。日本でファンが根強いフライドチキンのお店のスパイスとは方向性が違うね。どちらかと言うと、タンドリーチキンの辛味を少なくしてる感じ。

 あれ?これって、醤油とショウガで味を調えて、衣をつけて揚げたら、日本で食べるから揚げより美味しいんじゃないの?ただ、鶏肉とは思えない程硬いから、パイナップルとかヨーグルトなんかのたんぱく質分解酵素を使わないと、小間切れにして食べる必要があるね。

 野菜も肉も食べた上で、炭水化物としての甘いバナナ。デザートと兼用ね。そのうち飽きてくるけど、そしたら次の手を考えよう。


 でね?

 こう、お母さんとしては頑張って迷宮の狭くて暗い中で良い物食べようと調理してる訳でしょ?

 けど、リサもユッカちゃんもソワソワしてるわけ。チラチラとボス部屋見てる。


 気になるのは分かるけどさ?

 食事中にTVを消して、続きが気になる子供の気持ち?

 

「ユッカちゃん、リサ、ご飯をちゃんと食べ終わったなら、ボス部屋を見て来ても良いよ。後片付けはお母さんがやっておくから。

 その代わり、ちゃんと最後までしっかり食べるんだよ?この前のカタコンベみたいに日帰りでベッドで休める訳じゃないんだから。


 いい?」


「「は~~い」」


 なんか、返事は良いね。

 ユッカちゃんは栄養さえ摂ってれば、身体強化できるし、冒険にも慣れてるから、緊張による疲労も少ないとは思う。

 でも、リサは体が小さいからエネルギーの容量も少ないわけだし、身体強化をしているエーテルの体内循環のさせ方が、一般的な呼吸法みたいなのだと、ユッカちゃんに追いついていけて無いと思うんだよね……。

 ま、クレオさんとリサ二人一緒に教えていけばいっか。


 シオンが水を出してくれて、食器類を洗いながら片付けてると、ユッカちゃんとリサがボス部屋から戻ってきた。


「うん?速かったね?もう倒せたの?」

「ううん。おねえちゃん、サイクロプスの数が増えてる。20体以上いたよ」


「サイクロプスって、確かアクティブリンクだよね?一体に攻撃すると、近くにいる仲間が全員一斉に襲い掛かってくるパターン」


「うん。ボス部屋は戦闘を始めると一気に全員が襲い掛かってくるから、索敵範囲外から釣って、少しずつ倒す方法が使えないの」


「ユッカちゃんなら、20体ぐらいなら、交わしながら順番に倒せるんじゃないの?力負けもしないだろうし。いざとなったらオリハルコンの剣を使って、腕とか足とか刻んじゃえば、相手の攻撃がヒットさせられないでしょ?」


「20体倒しきるまで、リサちゃんの体力が続かないと、一撃で死んじゃうの」

「そっか。それは不味いね……」


「リサ、リサは身体強化したままだと、どれくらいの時間動けるの?」


「お母さんは馬鹿ですね。

 身体強化は呼吸と共に行うのです。息を吸って、そして吐くまでです。呼吸が乱れたら、次の身体強化を行うことは出来ません。当然、呼吸を止めて動き回るので、その反動で息が苦しくなって、呼吸が整うまで時間が掛かります」


「そっか~。じゃぁ、今はユッカちゃんと一緒に倒すのは難しいね。

 20体を一度に倒すような大魔法をお母さんは知らないし、そんな魔法をあの部屋の中で使ったら、自分もダメージ貰っちゃうよ。

 ちゃんと、長く使える身体強化を覚えた方が良いよね」


「お母さんは倒せるとでも言うのですか?」

「う~ん。ユッカちゃんの邪魔にならない程度には手伝えると思うよ?


 サイクロプスは目でこっちの動きを追うから、光学迷彩掛けておけば、こっちの位置を見失うもん。その隙に逃げるなり、倒すなりすれば良いんじゃないかな?

 そもそもアクティブリンクする前に、片っ端から倒し続けても良いし」


「お母さんは、吟遊詩人の語るサーガに出てくる現実離れした主人公にでもなったつもりですか?そんなこと出来る訳無いでしょう?

 それこそ、お母さんが死んじゃいます」


「リサの知ってるサーガが何かは分からないけれど、この迷宮がある街に来るまで、光学迷彩で見えなくして、3時間ぐらい飛空術使いっぱなしだったよね?だから、多分ユッカちゃんと似たようなことがお母さんにも出来るよ」


「……。」


 リサが黙っちゃった。

 全然納得がいってない感じだね。


 でも、仕方ないじゃん?

 私だって1年ぐらいはミッチリと鍛えていたんだしさ。科学の知識とエーテルの融合はかなり場数を踏んで構築して来てるから、その相性の良い部分は理解してるつもり。


 きっと、リサは科学に関する知識が少なければ、『不思議なことは全部魔法』って、思ってるんだろうね。そして、不思議な魔法は吟遊詩人のサーガに出てくる主人公だけが使えるって考えなのも仕方ないよ。

 だって、それ以外に体系化された知識を教わる機会が無かったんだろうし……。


「リサ、そうしたら、ここはユッカちゃんとお母さんで倒してくるよ。倒してこれたら、今度はリサが身体強化の方法を勉強し直してみても良いかな?」


「ユッカお姉ちゃんと、お母さんがサイクロプスを倒すところ見てみたいです」

「リサは、光学迷彩かけた状態の人を認識できるの?」


「お母さんは何を言ってますか?自分で『光学迷彩を掛ければ、サイクロプスが見失う』と、言ったじゃありませんか。私が見える訳がありません」


「リサ、ごめんね。

 リサもシオンもまだ小さいから、こんなに冒険出来ると思って無くて、お母さんが何も教えてなかったんだよ……。二人が色々なことを勉強したいなら、お母さんが判ってる範囲で教えてあげる。

 それで良いかな?」


「お母さんが一人で倒してこれるなら信じます。出来ますか?」


 う~ん。出来なくはないけど……。

 飛竜の血も飲んで素の身体能力が向上してるから、身体強化しなくても、そこそこな能力になってるんだよね。空も飛べるから、敵の範囲外に逃げることとも簡単だし。囲まれても重力遮断を相手に掛けてひっくり返せば、身動き取れなくなると思うんだよね。

 で、見つからない位置から一体ずつエーテルの流れが集まってる核の部分をギュッと握りしめて行けば良いわけだし。


「ユッカちゃん、私が倒してきても良いかな?」

「いいよ~。がんばってね~」


「クレオさん、そういうことで、4人で待ってて貰っても良いですか?」

「ハイ」


「じゃ、リサ、シオンお母さん行ってくるね」

「「ハイ」」


 じゃ、食後の腹ごなしに、ちょっと行ってくるか~。食事の後片づけはシオンやクレオさんがしてくれるだろうし。そもそも、そんなに時間が掛かるもんじゃないし?


ーーー


 光学迷彩を纏ってから、ボス部屋の扉を開く仕掛けを使って扉を開ける。少しずつ両開きの扉が左右にスライドして、隙間が空いて行く。中は灯りが無くて暗いけれど、私のエーテル検知による索敵で、ボス部屋全体のサイクロプスの配置を確認する。

 サイクロプスは扉が開いたことで、こちらを注目する。と言っても、1つ目の視線が集まるだけだけども。


 私は開きつつある扉に隠れる様にして、中を伺いながら、私の体が十分に滑り込ませる幅が広がるのを待って、するりと中へ入る。

 この時点でサイクロプスの視線は変化なし。つまり、私がボス部屋に入ったことを目視による認識では検知されてないってことで良いね。


 扉を潜り抜けたら10mある天井付近まで浮き上がって、ボス部屋の全体像とサイクロプスの配置を確認する。

 サイクロプス達は扉が開ききる動作を確認して、敵と言うか冒険者が侵入するのを待ち構えている。


 私は、一番奥に居るサイクロプスから、エーテルの流れが集中しているコア付近をギュッと握りしめて、握りしめると言っても、思念でそのように思考することで魔法を発動させてるんだけど、一体目を音も無く倒しきる。

 サイクロプス達は扉が開ききるのをまだ待っているし、扉と反対側は見ていないから、最奥の一体が倒されたことに気が付かない。


 扉が開ききると、サイクロプス達は通路の方が無人であり、扉付近をキョロキョロ索敵する。通路には誰も居ないけれども、サイクロプスは持っているこん棒を肩に担ぎ上げて、戦闘態勢に入れる準備を始めた。

 私はその隙に、さっきの要領で7体を倒しきる。


 体感で一分間ぐらいが経つと、扉は自動で閉まる様で、自然に扉が閉まり始めて、通路から漏れてくる明かりが、徐々に減っていく。

 私は目でサイクロプスの位置を捉えて無くて、サイクロプスの体内を流れるエーテルの流れを観ているのだから、網膜へ映る光量には影響されない。この隙に、追加で10体を倒しきる。


 完全に、ボス部屋の扉が閉まり切ったときには、残っているサイクロプスは3体だけ。そしてその3体は扉方向を向いているから、背後で自然に倒されて、消滅している仲間には気が付かない。あくまで、「敵が居ると認識したとき」がアクティブリンクの発動条件なんだろうね。

 私は残りの3体を倒しきって、ボス部屋の約20体のサイクロプスを倒しきる。


 ボス部屋は部屋のリセットが行われるので、自動で扉が開き始める。通路からの明かりも入ってくる。

 私はサイクロプスがドロップしたテニスボールサイズの魔石15個ほどを収集品として回収する。こん棒は1本もドロップしなかった。必ずしも100%ドロップする訳で無いってことから、ボス部屋を周回するレア狙いの冒険者パーティーが居るってのも納得だね。


ーーーー


「みんな、ただいま。魔石が15個落ちた。後は特になしだったよ」

「お母さんは何を言ってますか?早く中へ入って、ボスを確認してきてください」


「リサ、私は見て来た。もう大丈夫だよ」

「お母さん、扉が開きっぱなしで壊れています。ボスを倒してきてください」


 私とリサのやり取りを見かねたクレオから声が掛かる。


「リサ様、迷宮のルールとして、ボス部屋の扉は壊れません。開きっぱなしになっているのは、中のボスが倒されてリセット期間中なのです。

 きっと、ヒカリさんが中のボスを片付けてきたのでしょう」


「……。」


 うん、納得がいってないね。


「リサ、中を自分の目で見てきたら良いよ。危なかったら逃げれば良いし、ユッカちゃんに付き添って貰っても良いよ?」


 リサは、ジロッと私を横目で睨むと、一人でボス部屋の中を見に行った。そして中を見て直ぐに帰ってきたよ。


「お母さんは、迷宮のぬしですか?」

「……。」


 今度は私が黙る番だよ。

 奴隷商人や魔族は、想像できる範囲だよ。

 迷宮の主ってのは、ゲームマスターとか、ダンジョンマスターっていう類でしょ?

 リサは何から生まれたのか?って話よ。

 ダンジョンの申し子ってことになっちゃうじゃん?


「お母さん、肯定と受け取って良いですね?」

「いや、リサ。リサの想像力の豊かさに驚いただけだよ。私はリサのお母さんだよ?」


「では、お母さんは何なのですか?」

「ユッカちゃんを師匠として仰ぐ、メイドかな?冒険者の経験もあるけど」


「ユッカお姉ちゃんは素晴らしいです。ですが、もっと冒険者らしく魔物を倒します。お母さんのはインチキです」

「きっと、ユッカちゃんは私が安全に進める様に最大限配慮してくれてるのだと思うよ。リサには、戦うロマンをおしえてくれてるんだと思うよ」


「ユッカお姉ちゃんが素晴らしい人なのは分かってました……。

 でも、何故お母さんには戦い方を教えなかったのですか?」


「お母さんは、体も弱いし、運動神経も良くないから、そういう人に合った戦い方をユッカちゃんなりに教えてくれたんだと思う。


 最初は身体強化、次に気配察知の方法、姿の隠し方。そして魔法の使い方を教えてもらったんだよ。

 短剣での稽古はフウマやクロ先生がおしえてくれたんだし、リサについて行けるような身体能力は飛竜族の方達からお裾分けを貰ったお陰だよ。


 リサは最初から飛竜族の加護があるから、元々の体の性能が普通の人族とは違うんだよ。だから、ユッカちゃんはリサに合わせて色々なことを教えてくれたんだと思うよ」


「ユッカお姉ちゃん、そういうことなのですか?」

「リサちゃんは、私より強いよ。だから心配しないで」


「そ、そんなの……。」


 リサはユッカちゃんの言うことを信じてるから、ユッカちゃんより強いと言われて、それを否定できないんだろうね。

 それに、実際問題、前世の修道女の記憶の範囲からしても、そこいらの聖女では今のリサの身体能力にはとても及ばないことは実感してるのだろうし。 さて、どうしたものだか……。


「リサ、気が済んだら先に進むけど良いかな?

 この迷宮の中でも、マリア様のお屋敷に戻った後でも良いし、いつでも少しずつ教えてあげるよ」


「お母さん、分かりました。お母さんの戦い方を教えてください」

「う、うん……。戦い方というか、何というか。お母さんの知識を教えてあげるね」


 一週間もあれば、結構訓練する時間が取れるんじゃないかな?

 クレオさんもユグドラシルに行くなら、いろいろ覚えておいて良いと思うし。

 あ、あと、シオンのスマホも何とかしてあげないといけないしね!


ーーーー


いつもお読みいただきありがとうございます。

暫くは、毎週金曜日22時更新の予定です。


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