2-20.上級迷宮(2)
ボロボロの血まみれの男性が崩れるような姿勢でボス部屋の扉から出てきて倒れた……。
喋る気力も無いぐらい、ダメージを受けてるみたいだね。
子供達にとっては、結構ショッキングな絵面なんじゃないの?
「クレオさん、助けて良いの?」と、ユッカちゃん
リサとシオンは確認もせずに走り寄ってる。
リサが開いた扉に挟まるようにして寄りかかってる男性を引っ張って、引きずり出してくる。そこに付き添ったシオンが手のひらから出す水で男の血を洗い流しながら、心配そうに見ている。
「あの、ええと、助かるか判りませんが……。
助けた後の処置については私が交渉を請け負います。皆様のされたいように応急手当てをして頂いて結構です」
と、クレオさんも動揺が隠せない。
それどころか、話を待たずにリサとシオンが救出と処置を始めちゃってる様子を見て、アタフタしちゃってる。
「ユッカちゃん、二人で中を見に行こう。他に生きてる人が居たら運び出そう。ボスは始末しておいた方が安全だね」
「お姉ちゃん、わかった!」
血まみれの男性はリサとシオンとクレオさんに任せて、私たちはボス部屋に二人で入る。入った途端に、背後で扉が閉まってしまった。
まぁ、別にいいんだけども。
ボス部屋は普段の通路とは別の作りになっているみたいで、天井も10mぐらいの高さがあるし、部屋の広さも学校の体育館ぐらいの広さ。
索敵して分かったのはサイクロプスが3体居るってこと。初めてユッカちゃんと一緒に粘土を採取しにいった洞窟の門番がサイクロプスだったよね。
ちゃんと特性を覚えているよ。サイクロプスは索敵範囲に入ると攻撃態勢をとってくるし、魔物同士で連携してアクティブ化するんだよ。
でも、サイクロプスは心臓部分に魔石が1個だけあるタイプだから、簡単に仕留めることが出来るんだよね。心臓と頭で別々の場所に魔石が2こ備わっているタイプは倒し方が面倒だったもん。
「ユッカちゃん、魔石を握りつぶして倒しても良いかな?」
「うん。今はボスを倒して、助けられる人を助ける!」
エーテルで探知して、サイクロプスの中に流れるエーテルが集中する部分をギュッと握りしめてエーテルの流れを遮断する。それだけでサイクロプスは機能を停止して、魔石を残して崩れ落ちる。
私が1体倒している間にユッカちゃんが残りの2体を倒し終わってた。
「おねえちゃん、収集品として、こん棒が1本落ちたよ。
でも、それより先に3人を運び出そう。4人目の人はダメかも……」
「分かった。とにかく、順番にボス部屋の外に運び出そう!」
扉はボスを倒したためか、解放状態で維持されてるね。ボスが復活するまでは扉は出入り自由なんだと思う。
まず、ユッカちゃんの言う、生存の見込みのある3人を二人で抱えて部屋の外に運び出す。そして、生体反応の怪しい1一人を最後に運び出した。
血まみれで出てきた男の人は、ぐったりしてるけど疲れてて起き上がれないだけの様で、五体満足で生きてる。止血も終わってるし、大きな骨折は既に治療してあった。内臓とか外から見てわからないのは、後回しだよ。
先に連れ出した3人はリサの指示でシオンが治療を始めてる。止血、骨折位置の正常化と血流の活性化まで行ってる。痛み止めと思われる鎮静化の魔法も掛けてるみたい。
そんなの私もしらないけど、リサが唱えてるのか、クレオさんが簡易的な治療魔法が使えるのは良くわからない。
「おねえちゃん、この4人目の人、血は出てないみたい。ローブを脱がさないと、良くわからないけど……」
反応が無い4人目は魔術師?杖や荷物はボス部屋に残っているのかもしれないけど、今はそんなの後回し。ローブを脱がすと金髪でエルフ耳の女性が出てきた。
外傷は無い様に見える。
首筋に手を当てて脈を診ると、ちゃんとある。
口に手を当てると、僅かだけど、とても浅い呼吸をしていることが判った。
何らかのショックで気絶をしているのか、内臓にダメージがあるのか、私は素人だから良くわからない。
そして、魔法攻撃への抵抗力を高めた繊維なのか、特殊なコーティングをしているのか、服の上からでは、この人の血流やエーテルの循環の様子が確認できない。きっと、ユッカちゃんも同じ状態だと思う。
「ユッカちゃん、この人が内臓にダメージを負ってるか確認するから、服を脱がすよ」
生死には代えられないから、外傷は無くとも、内臓にダメージを与えたような打ち身や内出血が無いかを確認するために、ワンピースのような服を脱がす。
「ユッカちゃん、この人の服を脱がせば、体の血流をエーテルで確認できる?」
「うん、見えそう」
結果、何かの衝撃で吹き飛ばされたときに、背中や後頭部に内出血しているのが見つかった。
頭の内出血は不味いから、ユッカちゃんと二人で血を止めて、エーテルの力を借りて無理やり、毛細血管に押し込む。この人は普段から魔法をを使っている様で、エーテルの循環が活性化していることも、外部からのエーテル操作の治療を成功させやすくなったんだと思う。
このエルフの女性は大丈夫そうだから、服もローブも戻して、頭を少し上げる様に、ローブのフードを首の下に当てて、通路に寝かしつける。
「クレオさん、リサ、シオン。他の3人の様子はどう?」
「ヒカリさん、無事に生きています。
生きているどころか、街の教会で治療を依頼しても此処まできれいに治ることは無いと思います。
ただ、ボス戦での疲労と、体内の血も失っている様なので、暫く目を覚まさないかもしれません」
「そう……」
「ヒカリさん?何か不味いことがありますか?」
「リサ、シオン、偉いよ。クレオさんが驚いてる。みんな助かったって。良かったね」
「私は良いです。シオンをもっと褒めてあげてください」
「二人とも凄いよ。お母さんは嬉しいよ。後で好きな物を買ってあげるよ。欲しい物があればだけど」
「考えておきます」と、リサ。
「離れたところに居る人と話せる魔道具が欲しいです」と、シオン。
シオンのそれは<スマホ>っていう、魔道具なんじゃないの?
そういうの無いから!
ま、いっか。
「分かった。迷宮を楽しむのが終わったら、みんなで探してみようね」
「「ハイ!」」
「クレオさん、勢い余って、4人を救出しちゃったし、治療までしたけど、これって、相当不味いよね……?」
「こちらの戦闘不能のパーティーのメンバーからすれば、感謝されますし、莫大なお礼を請求できます。
当然、ボス部屋に残っている物は、ドロップ品でも、彼らの所持品でも、好きな物を要求できます。それが迷宮のルールですから」
「ボス部屋で<こん棒>が落ちてるから、それは欲しいかも。それ以外は全部権利を放棄して、とっとと、未踏破の階層を進みたい。それより後続のパーティーに私たちの存在を知られることの方が色々と不味いと思う」
「それでしたら、その<こん棒>を先に回収しましょう。彼らの荷物はボス部屋に残しておくと、彼らでは回収できませんので、扉が閉まらないうちに、通路に並べてあげると親切かもしれませんね」
「その対応で、私たちのことを追いかけてきたり、変な噂を立てられたりしないかな?」
「追いかけられないでしょう。変な噂が広まると思いますが、それをヒカリさん達と結びつけるのは難しいと思います」
「なら、いっか。彼らが無事に地上まで戻れるかどうかは、私たちには関係ないよね?」
「当然です。私も何ら痕跡を残さない様に確認します。その上で、此処を撤収しましょう」
寝ている4人には悪いけど、無事に生還してね。
私たちは先に進むから。
上手く行けば、帰りの途中で迷宮のリセットが掛かって、楽に帰れるかも?
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