2-17.料理と準備
市場で買い物を終えると、皆で屋敷で色々な調理をして楽しんだ。
ユッカちゃんは、タコ丸用の鉄板が無いからお好み焼きみたいなのを作ってた。海鮮が豊富にあったから、海鮮お好み焼きは作れるし、ベーコンとか卵を載せたお好み焼きも作ってた。冷めても焼き直せば良いし。小麦粉は自分のカバンから出してたけどね。
これはこれで異文化交流として良いよね。
リサは、修道院のレシピで野菜が多めで、カロリーを得るための油を多めに使った料理を作ってた。いわゆるサラダっていうか、マリネ。ゴードンさんに作って貰ったみたいな料理が多い。
なんだか、とってもヘルシーだよ。
シオンは乾物類から内臓とか傷んでいる部分を丁寧に取り除いて、南の大陸で使える出汁を丁寧に作ってた。
それだけじゃなくて、何やらエビやカニの腸を瓶に入れて、何やら密封していた。まさか、カニ味噌の醤を作ろうとしてる?ちゃんとエーテルさんに頼まないと、単なる腐った内臓になっちゃうよ……?
まぁ、『失敗は成功の基』っていうし。任せておけば良いかな。
私はクレオと料理長に教わりながら、魚の下ごしらえと香辛料の配合、そして少々のハーブ類でいくつかの料理を作っていった。
魚の鱗とか内臓を綺麗に処理するのは日本の文化みたいで、中くらいの魚は素揚げにしたり、そのまま煮たりするのみたいなのね。ちょっと、日本人ぽくないので、そういうところは、マリア様にも食べて貰えるように、下処理の方法を教えたよ。面倒だけど、そういった細かい作業が貴族に受け入れやすいって説明して、受け入れてもらった。
肉類も北の大陸では、ほとんどが塩と胡椒で焼くぐらいしかなかったけれど、こっちでは香辛料に塗した状態で馴染ませておいて味を付ける。あるいは香辛料とハーブベースの野菜やなんかと一緒にじっくり煮込んだスープを作る。このときにも、肉類の下処理として湯がいて灰汁をとったりといったテクニックを教えておいた。
「ヒカリさん料理は手間が掛かりますね」と、色々な人から感想を貰ったけど仕方ない。それなりの出来栄えが期待できるんだからさ。
あとは、シオンが作っている様な強烈な風味とコクを与えることができる調味料があれば、多少の臭みやえぐみは殺せるんだけど、それにしたって、調味料を作るための手間が掛かってる訳でさ……。
あとは、穀類なんだけど、芋かバナナがメインで、小麦とかは輸入しか無いんだって。そんな高いものは使ってられないから、芋をメインに焼いたり、揚げたりした。
米も作れるらしいけど、手間と採れる量から芋が便利らしい。米は栽培する手間もかかるし、調理する前に籾)もみ)を除かないといけないし、調理するにも、パエリヤとかサフランライスみたいに炊き込むかしないと食べにくいからね。
今日は無理だけど、今度試してみよう。
キャッサバと思われる芋の粉もあったから、プルプル食感のタピオカを仕込んでみたり。あ、先ずは粉を丸めて乾かすところから始めるから、デザートが出来るのは今日は無理だよ?
ーーー
そんな試食を重ねた昼ご飯、おやつ、そしてマリア様と合流しての夕飯。
「ヒカリさん、今日の料理は面白かったわ。ヒカリさんじゃないと作れない物はあるのかしら?」
と、ある意味でお褒めのお言葉をマリア様から貰った。
「食材と調味料は全て市場で手に入る物です。
ただ、食材の下ごしらえの仕方に工夫が必要な物があります。一緒に作業しながら、その処理の必要性を説明してありますので、同様に処理して貰えれば、今日と同様な料理を提供できると思います」
「流石ヒカリさんね。クレオさんはどう感じたのかしら?」
「私は市場で食材を買う手伝いをしただけです。皆様がアレンジしてマリア様の為に料理をされていました。我々が提供できる食材だけではマリア様にご満足いただけなかった可能性が高いです」
「そう。そうだとすると、クレオさんのこれまでの気遣いも素晴らしい物だったと言えるわ。明日からは南の大陸ならではの料理が楽しめるといことで良いのかしら?」
「ヒカリさんの指導を受けた料理人、メイドであれば可能と考えます。一般的な貴族ですとか、レストランで提供できる物ではございません」
わかったわ。皆が協力してくれて嬉しいわ。これまでの半年間を準備に充ててきた甲斐があったわね。
ヒカリさん、リチャードはもう暫く借りるわ。人族でのコネクションを確立したら、ユグドラシルへの登山の権利を得ることも出来る様になるわ。それまで我慢して頂戴ね」
「マリア様分かりました。それでは1週間ほど、観光迷宮を楽しんで来ても宜しいでしょうか?」
「私の方は一週間で片付くか分からないけれど、それぐらいは良いんじゃないかしら。クレオさん、案内できるわね?」
「は、はい……」
「クレオさん?」
「ハイ!」
「心配事があれば言いなさい。今すぐに」
「地図と追加の護衛の準備で金貨100枚ほど掛かります」
「それから?」
「ヒカリさん達を上級迷宮の案内でご満足いただけることが出来ましたら……」
「拾得物の分配かしら?」
「いいえ。護衛に関わる必要経費は戴きますが、拾得物は雇い主が全ての権利を所有します。そちらは一切不要です」
「欲が無いのね」
「ですが、もし可能であれば……」
「言うだけ言ってみなさいよ」
「ユグドラシルの調査メンバーに私を加えて頂けないでしょうか?」
「ヒカリさん、どうかしら?」
「身体能力は人並み以上に優れていると思います。あとは、飛空術と例の会話の方法の2点を習得していれば問題ないと思います」
「クレオさん、ヒカリさんの言う2点目の会話の方は強い思いがあれば突破できると思うわ。
けれど、飛空術の方はどうかしら……。
あなた、飛べるのかしら?」
「マリア様、それを答えれば、調査隊のメンバーに加えて頂けますか?」
「ヒカリさんの要求レベルに達していないのであれば加えられないわ」
「ギルドにも報告しておりませんが、飛空術を身に着けております。村で指導にあたってくれた冒険者から、高位跳躍のスキルを教えて頂き、それの応用として魔術と身体強化を組み合わせて、数百メートルは飛行可能です」
「ヒカリさん、大丈夫かしら?」
「戦力にはならないけれど、自衛して墜落防止が可能であれば、最低限同行して戴いても構わないと思います」
「クレオ、次の条件を満たせたらユグドラシルの調査隊に加わっても構わないわ。
明日からの観光迷宮でヒカリさん達を無事に護衛しきること。
ヒカリさんから観光迷宮の案内において合格点を貰うこと。
特殊な会話スキルを身に着けること。
ヒカリさんの要求レベルに見合う身体能力があること。
自衛できるだけの飛空術を身につけること。
出発までは、各種族との調整が必要だから暫く先だけれど、貴方を雇用しているうちに出発することになるわ。それまでに今言った条件を達成できていると良いわね」
「承知しました。精進したいと思います」
クレオさんもユグドラシルに登りたかったのかぁ~。
スチュワートさんの話を聞くと、人族が簡単に登れるようなものじゃなさそうだし、種族ごとに週替わりだから、まとめて4週間とか貰わないと厳しいんだよね。そういうの知ってたのかな……。
ま、いっか。
登頂の権利を根回しするための準備だけでも暫く時間が掛かるからそれまでに色々身に着けておいてもらえば良いかな。
「よかったわ。
ところでヒカリさん、金貨が不足しそうなのだけど、何かいい手は無いかしら?トレモロ・メディチ卿に頼んでも良いのだけど、調達するまでに時間が掛かると思うの」
「マリア様、どの程度ご入用でしょうか?」
「目先で1000枚。ユグドラシル調査隊の権利を一ヶ月抱えるには、更に2-3000枚は必要になると思うわ。人族以外で幾ら必要になるかは、ステラ様やニーニャ様の推薦状の効力次第かしら」
「手元に6000枚あります。ご自由にお使いください。
ああ、クレオさんが100枚必要でしたので、その分もその中から確保頂けますか?上級迷宮を1週間潜れば、100枚は取り戻せると思います」
北の大陸でトレモロさんとスチュワートさんから貰った金貨の入った革袋を取り出して、マリア様に手渡す」
「ヒカリさん、流石ね。けれど私が欲しいのは南の大陸の金貨なのよ。半年で色々な利権を確保しているのだけど、直ぐに金貨を生むわけでは無いのよ……」
「マリア様、詳細は申し上げませんが、そちらの6000枚は全て南の大陸の金貨で用意させて戴いております。
また、先ほど『観光迷宮で100枚を取り戻す』と、申し上げましたが、未踏破階層での収集品は桁違いに値が上がります。値崩れをさせないように供給させ続ければ、それなりの現金収入を得られるはずです。
ただ、宝探しの様な物ですので、過度に期待戴くわけには行きませんが……」
「そう。有難く貰っておくわ。それと、観光迷宮は楽しんでいらっしゃい。クレオさんがついて行くので無理はしないと思うけれど、十分に気を付けてね」
「ハイ!」
よし、よし!
マリア様からの許可も出たし!
明日から一週間楽しむぞ~!
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