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2-15.朝飯前

 今日は一人で起きられた。

 というか、いろいろ考えてみると、朝早くから動き始めないと1日が足りないので、緊張感で目が覚めてしまったという方が正しいかも。

 まだ外は暗いから、子供たちは寝てる時間。

 リチャードが起こしに来てくれるかもしれないけど、昨日1日は体力も魔力も相当使っただろうし、カタコンベの迷宮を冒険したりと、いろいろ大変だったから、今日はお昼ぐらいまで寝てるかも?


 そーっと、静かに扉を開けて部屋をでる。、廊下の端っこで寝間着から普段の狩人の恰好に着替える。


 この屋敷にメイドさん達はいるけど、この客室には朝にならないと世話しにこないし。日本でいうところの民宿の共同洗面コーナーぐらいなイメージで良いよ。それも、全員身内っていう条件でね。


 石造りがほとんどだし、扉の蝶番なんかも綺麗にメンテしてくれているみたいで、軋む音もさせずに静かに建物のの外に出られる。


 屋敷の庭に出ると、今日は3つの月の1つが綺麗に満月で出てる。亜熱帯だからかなり湿度も気温も高くてモヤモヤとしった月になってる。体にもジメジメした熱気がまとわりつくけど、体が慣れてくればそうでもないのかな?


 ちなみに、エアコンとか無いから、お肌サラサラとかならない。隙をみてはピュアの繰り返し。今のところ表皮の保護膜とか、必要な油脂まで除去しちゃってることは無いみたいで、汗特有のベトベト感と臭いは無くせているよ。

 ピュアが無い人は、汗や体臭を香水で隠すものみたい。そして、香水に鼻が慣れてくると、体温で温められて薄っすらと薫る香水ではなくて、ビシャビシャに浴びてるような香水の匂いになってくるって事情があるのも、判らなくはないね。

 

 今更だけど、ファンタジー小説や漫画の設定で、熱帯雨林の様子が無いのは、人族では暮らしていけないか、体臭の描写が凄いことになっちゃうもんで、そういう配慮が行き届いた世界に飛ばされているんじゃなかろうか?


 まぁ、いいや。ハネムーンで南の大陸に来たかったのは私の要望でもあったのだから、そこに不満は言っちゃいけないね。


 さてと。

 先ずは、体力作りとしてクロ先生に教わったナイフを使うときの型の稽古。

 あくまで護身と、小型の魔物が出てきたときのカウンター対応がメインだから、体重を載せて、相手への致死的なダメージを与えるというより、その場で臨機応変に、体の軸を柔軟に切り替えられるような動きで作られている。

 軽い柔軟体操と、型の反復練習と、最後に軽く筋トレ。これで、30分ぐらいの朝のトレーニングが終了。


 って、ピュアして戻ろうとしたら、マリア様とクワトロが建物から出てきたのが見えたので、こちらから声を掛ける。


「マリア様、おはようございます。クワトロも久しぶり」

「ヒカリさんも相変わらず、毎朝の稽古を欠かして無いのかしら。それにしてもクワトロは優秀ね。私に貰えないかしら?」


 と、突然すぎるね。

 っていうか、マリア様と直接話をする機会は殆んどなかった。半年前に南の大陸へ向かうことになったときも、『ヒカリさんは子育てに専念しないさ。後から来れば良いわよ』とか言って、ほとんど音信不通だった。

 ここにある設備なんかを見ると、私以外の人には何らかの方法で連絡を取っていたのだろうし、金貨も相当量を持ち込んだのかもしれない。

 私が協力出来たのは、クワトロをマリア様の護衛として派遣することだけだったね。マリア様ご自身も、『最初から目立つ行動は、不味いわ。少数精鋭で動きたいの』って、言ってたしね。


「クワトロと、私も呼び捨てにしてはいるのですが、クワトロさんはとても優秀な方であるのは私も認識しており、とても頼りにしています。

 橋の建築、その後のリチャードの護岸工事、帝国からの領地占有へのカウンター対応の指揮、私の領地に作って戴いたお城の指揮支援。

 その他にも個人的な戦闘スキルなどについても人族として優秀ですので、リチャードやレナードさんと良い勝負になるのではないでしょうか?」


「あら、ちゃんと部下のことも把握してるのね。ヒカリさんは人間に興味が無いのかと思っていたもの。

 クワトロは、今ヒカリさんが言ったことに加えて、念話と飛空術と重さ軽減を使えるの。とても重宝するわね」


「マリア様も、こちらでクレオさんという優秀な万能メイドさんをお雇いになられて、素晴らしい手腕だと思います」


「ああ、あの子も良い子ね。


 昨日のバナナの件だって、私が『不味いから食べたくない』なんて、全く言って無くて、普通に野営しながらご飯を食べる感覚で居たのよ。そうしたら、翌日から南の大陸で出るような主食が一切食事に出なくなってしまったの。

 彼女なりに、私の気配を察知して、言われる前に先読みして行動を起こしているのよ。


 ヒカリさんとは別の意味で優秀なところがあるわね」


「は、はい……」


「クワトロの件は、半分冗談だけれど、リチャードが来て本格的に貴族や種族との交流が始まるわ。油断するつもりは無いけれど、一瞬の気の緩みを狙われる可能性もあるから、暫くはクワトロを借りたいの。

 良いかしら?」


「あ、はい……。マリア様、承知しました。

 ところで、クワトロはピュアを使えるっけ?」


「ヒカリさん、ピュアですか?昨日のカタコンベで何か浄化すべき事象が生じたのでしょうか?」


「あれ~?フウマとかユッカちゃんから聞いてない?」

「と、申しますと?」


「ほら、南の大陸って、北と違ってジメジメしてるから汗掻き易いでしょ?一々シャワーを浴びてたら大変だし、慣れ無い香水で臭いを抑えることは出来ても、体のベトベトはスッキリしないでしょ?」


「ハイ。

 ですが、北の大陸でも行軍が続けば、当然そうなります。ヒカリ様が橋の建築工事の際に、シャワー室とか娼館を備えて戴きましたので、そういった不快な状態になることは最低限で済みましたが、あれは余りにも特殊な状態です」

「マリア様、そういった感覚でしょうか?」

「ヒカリさん、もう分かったから、早く答えを言いなさいよ」


「それでは、失礼しますね……」


 と、マリア様をターゲットに体表面の汗などを除去するためのピュアを詠唱する。『ピュアの舞』も良いんだけど、クワトロがする訳無いもんね!


 マリア様から一時的に汗は除去できたと思う。

 多分、稽古が終わってからシャワーを浴びるんだろうから、寝汗は掻いてたままだと思うよ?


「ヒカリさん、今のがピュアなのかしら」

「はい」


「クワトロ、今日中に覚えなさい。そして私に教えなさい」

「承知しました」


「ヒカリさん、ピュアの魔法は、いつ考えたのかしら?」

「ユッカちゃんと出会った翌日に習いまたので、2年くらい前でしょうか?」


「分かったわ。クレオさんが理解できそうなら、彼女に教えても問題ないかしら?」

「はい。大丈夫だとおもいますが……。

 ユッカちゃんのお母さんであるトモコさんが考えたと思いますので、その魔法を使うこと自体は問題無いです。

 ですが、トモコさんは魔法を使えることを隠していたようで、ユッカちゃんには『人前で魔法を使うな』と、教えていたようです」


「ユッカちゃんは、上皇陛下のお孫さんで、皇帝派から目を付けたられている両親をお持ちだったのだから、その存在を秘匿する必要があったのだと思うわ。

 当時の身分を隠したご両親だけでは、ユッカちゃんが目立つと、守り抜くにはとても厳しい状況だったと想像できるわ。だから、『魔法が使える』ということで目立つわけには行かなかったと思うの。


 今の貴方の領地ではステラ様が領民の子供たちを教育して、多くの子が魔法を使える様になっているわ。そういった状況であれば、ユッカちゃんが魔法を使っていても目立つことは無かったかもしれないわね。


 この魔法を使うにはユッカちゃんの許可が必要かしら?」


「許可は必要ないと思いますが、念のため、本人に確認した方が宜しいでしょうか?」


「ステラ様、モリスと相談するわ。場合によっては上皇陛下へ了承戴くことになるかもしれないわね。

 もし、権利化したり、利益が上がるような場合には、ユッカちゃんの将来の為に積み立てておくわね」


「分かりました。

 マリア様、私からもご確認させて戴きたいことが有るのですが、宜しいでしょうか?」


「ピュアだって、貴方が私に確認したことでしょう?他にも何かあったのかしら?」

「クレオさんの扱いというか、契約の範囲についてお伺いしたかったのです」


「どうして?」

「ステラ様が作ってくれている容量無制限の不思議なカバンのことですとか、ユッカちゃん達の能力、念話での会話など、結構危うい事柄がクレオさんに知られる状況が今後も続きますので、どの程度共有して良いかと思いまして……」


「今の所、2年契約ね。2年で金貨720枚。ギルドとの契約では72枚だけど、それとは別に支払うことにしているわ。必要経費は追加で支払うし、特命の指示には別途追加報酬を支払う契約よ。

 その代わり、知り得た情報は必ず守るし、2年以内は、どこから圧力が掛かっても、私の専属メイドという扱いね」


「その、秘匿する条件は、2年間の契約が切れた後も有効なのでしょうか?」


「自白の魔法や、家族や恩人などを盾にとられて脅されたらどうなるか判らないわね。『自害してでも秘匿しろ』といった、契約は結んでいないもの。

 そもそも、通訳としてメイドとして仕えて、簡単な護衛をするはずだけの仕事内容なのだから、これまでの人族の常識を覆すような技術や魔法が次から次へと出てくる訳が無いもの」


「そ、そうですね……」


「クワトロは何か意見があるかしら?」

「そうですね。まさか昨日一日でここまでの事が起こるとは想像していませんでした。ヒカリ様には驚かされるばかりです」


「クワトロ、それは私を危険人物扱いしてるよね?」

「いえいえ。私は他の方達と異なり、素直に感心しております。

 成人してない子供3人を抱えたお母さんが、市場で買い物に行くことはございますし、そこで風変わりな食物を食べて、お土産を持ち帰ってくることはあるでしょう。

 ですが、Bランク冒険者が一泊二日で攻略する迷宮を、子連れのお母さまが半日でクリアしてくるとか、想像もつきません」


「だって、ユッカちゃんが『一番難しい観光迷宮に行きたい』、クレオさんが『それは準備が必要で、護衛パーティーを組む必要がある』とか、そういう話になるから、『だったら、クレオさんの心配を取り除こう』って話になっただけだよ。


 クワトロだって、地図を元に最短経路を照らしてくれる妖精さんが居て、容量無制限のカバンがあって、潤沢に水を使える人が居て、壊れず、切れ味の落ちない武器があれば出来るよ」


「それは、言われたクレオさんが可哀想ですよ」

「いや、だから、クレオさんが心配しなくて良い様に、実力を観て貰っただけだって。

 それで、手が空いてそうだったから、ちょっとアイテム拾うのを手伝って貰ったり、拾ったアイテムを売るのを手伝って貰っただけだよ?」


「はい。ヒカリさんの考えは、ヒカリさんならではです。

 クレオさんも、2年の契約が終わったら、貯めたお金で何かしたいことがあるかもしれません。そのとき、我々と一緒に過ごしたことが彼女にとって良い人生と思い返せるように、大事に接してあげてください。


 そうであれば、クレオさんも我々の秘密を公にすることは無いでしょう」


「クワトロ、わかった。そうするよ。

 マリア様、そろそろ子供達が起きる頃合いですので、部屋に戻らせて戴きます」


「ヒカリさん、ピュアの権利は預からせて貰うわね。それと、クレオさんに関しては、貴方が好きに接して良いわ。

 最悪、奴隷契約に切り替えても良いし、事故にでも遭って貰えばいいわ」


「あの、その、マリア様、私はそういう意味で相談した訳では……」

「分かってるわ。冗談よ。

 でも護衛として孫達を守れないなら、その時は責任を取って貰うことになるから、あまり無茶をさせないであげてね」


「分かりました!」


 いや~~~。

 朝だよ?朝ご飯前だよ?

 ちょっと体を動かして、ピュアする朝飯前のお仕事。

 

 なんでこうなった?

 クワトロが言うには、私が原因なのか?

 そうなのかなぁ~~~~?

ーーーー


いつもお読みいただきありがとうございます。

暫くは、毎週金曜日22時更新の予定です。


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