2-14.夕食
みんなでシャワーを浴びて、汗を流してスッキリしてから、夕飯の席に着く。
何故かマリア様とクワトロが既に席に着いていて、会食することになった。
いや、別に私は構わないんだけどね?
突然何でだろう?
クレオさんがマリア様に報告しに行ったことと関係があるなら、何かお説教を戴くことを覚悟しないと……。
危険予知は十分にしないとね!
「ヒカリさん、今日は楽しんだのかしら?」
「ハイ!クレオさんのお陰で、色々と観光出来ました!」
「ユッカちゃんは、今日は楽しめた?」
「クレオさんのお陰で全てが上手く行きました。明日からも一緒に行動できると嬉しいです」
「リサちゃんとシオンくんは、どうだったかな~?」
「クレオ様が素晴らしいです。バナナが美味しかったです」
「今日は初めて水を出しました。あと、チェリモヤが初体験でした」
「ヒカリさん、『美味しいバナナ』と『チェリモヤ』って何かしら?」
こ、これか!
べ、別に黙ってたわけじゃないよ!
「明日には果物盛り合わせが届くと思うし!それでいいかな~」って、ちょっと思ってたのはあるけど……。
「露店で買ったバナナを、お昼ごはんに食べたの」と、リサ。
「チェリモヤはね、皮を剥くと白くて、甘くて、アイスみたいなの」と、シオン。
「そう。二人ともよかったわねぇ~。
おばあちゃんも食べてみたかったな~」
く、く、苦しい。
この会話の中で座っているのが辛い……。
「マリア様、少し冷やしてから、食後のデザートに召し上がっていただくのは如何ですか?ユッカちゃんと私とで皆様の分をお土産として持ち帰っています。
明日でしたら、クレオさんが手配してくれた、もう少し綺麗な果物を提供できるかと思うのですが、そちらの方が宜しいでしょうか?」
「ヒカリさん、ちょっと待ってね。
クレオさん、リサちゃんの言う『美味しいバナナ』って、何かしら?
私のバナナのイメージは、『メインに付き合わせで出るネットリとした、茹でたジャガイモの様でいて、少し青臭いアレ』のことなのだけど、何か特別なバナナがあるのかしら?」
「そ、そのですね。
北の大陸の方達は果物を食後のデザートとして召し上がることは少ない様に見受けられましたので、提供しておりませんでした。
完熟した、露店でその日に食べるような黄色くなったバナナもありますが、値段も安く貴族の方達が召し上がる物ではありませんでしたので、敢えて紹介させて戴きませんでした」
え?
マリア様達はマンゴーやチェリモヤはともかく、バナナも食べてないの?
食べてるとしたら、リサ達が難色を示した食事用の蒸したバナナ……。
これは、私が説教されるのに十分な理由になるね!
「マリア様、すみません!
い、い、今お持ちしますので、少々おまちください!」
と、その場でマリア様とクレオさんの会話を遮って、私たちが宿泊してる部屋からカバンを持ってくる。私がカバンを取りに言ってる間に、ユッカちゃんも思うところがあったみたいで、自分のカバンをとってきてた。
「マリア様、皆様が日々懸命に外交施策を検討する中、私たちだけが観光気分を味わい、南の大陸の果物を自分達だけが食べており、配慮不足でした。
こちら、本日の露店で見かけましたバナナとパイナップルになります。ユッカちゃんの持っている黄色いツルツルした方はマンゴーで、緑色のゴツゴツしたものはチェリモヤになります。
今、ここで準備させて戴きます」
バナナは縦に皮を剥いて、両端は皮と一緒に捨てる。皮の一部分を皿のように受けて、その上に残ったバナナ本体を2cmぐらいの幅で輪切りにしたものを皿に盛りつける。
黄色いペリカンマンゴーは皮を剥いてから、種を避けて、これも2cm角ぐらいに刃を入れて、皿に盛る。
パイナップルは縦に6等分。それの皮部分にナイフを入れてから、1.5cmぐらいの厚さで切り分ける。
チェリモヤは1個丸ごと皮を剥いて、種を除けてから、リンゴのように切り分けてる。
これらを果物用と思われる盛り付け皿に並べて、マリア様の目の前に差し出した。
「ヒカリさん、ちゃんと出来るじゃない。とてもいい香りがするわ。
クレオさん、私はここに来て半年近く経つのだけれど、何故これを知らなかったのかしら?」
「私の配慮不足でございます。
市場の視察の際に、交易に不向きな保存の効かない果物は適さないと考え、穀類、砂糖などの加工品を主に案内させて戴きました。
また、普段の食事や会食の場においては、食事用のバナナに良い印象をお持ちでなかったことから、なるべく北の大陸の食材に近い物を料理長や執事達に指示を出し、マリア様に提供させて戴くように心掛けておりました」
「クレオさん、分かったわ。私への気配りありがとう。私も考えを改めるわ。
ヒカリさん、南の大陸で何を食べさせてくれるのかしら?」
え?
何をって、私も聞きたいよ。
何が食べられるの?
確かに、昨日は移動中は簡単なパンとかスープ。屋敷に着いてからの夕飯は北の大陸で出されるような固いパンとメインの肉料理、あと野菜スープが提供された。味付けも塩がメインで、出汁とかスパイスとかほとんど無し。
南の大陸で観光する前に料理を作ることになるとか、考えてなかった……。
「ヒカリさん?頭の中で、誰かとお話してるのかしら?」
「あ、い、いい、いいえ。
来たばかりの土地で、どんな食材があるか判らず、本当に悩んでました」
「果物のことは知っていたのに?」
「知っていたと申しますか、クレオさんに食べたいものがあるかを尋ねられたので、甘くてジューシーな果物を食べたいとお願いしました。
ただ、途中で子供達に『体に良くない』と、止められて……」
「ヒカリさん、これは体に悪い物なの?」
「あ、いや……。
果物ばかりですと、太る可能性もありますが、マリア様は運動も良くされていて、体型もスレンダーな状態が維持できているので、少々であれば全く問題ありません」
「少々?この大皿の盛り付けはどのくらいの量なのかしら?」
「4-5人前でしょうか?」
「曖昧ね……。
クレオさん、この果物の量は多いの?太るのかしら?」
「果物ばかりを召し上がられると、お腹が緩くなる場合もあります。ヒカリさんのご説明のとおり、それだけでは食事の栄養となりませんので、バランス良く召し上がるのが宜しいかと」
「もう、良いわ。一欠けらずつ戴くわ」
と、香りに負けたのか、もう果物の議論を一方的に打ち切られてしまった。
上品に食べるのだけど、その一つ一つを良く味わいつつ、鼻に抜ける香りを楽しんでから次の果物に移っていく。
そして4種類を一通り味わってから、やっと次の発言があった。
「ふぅ……。
素晴らしいわね……。
ため息が出るわ……。
クレオさん、普通の露店で買えるのかしら?」
「普通の露店ですが、箱買いしたものから、完熟で食べごろの物だけをヒカリさんが厳選して集めてあります」
「簡単に手に入ることが判れば良いわ。砂糖みたいに、訳の分からない事に巻き込まれなければ良いのよ。
クレオさん、少しずつで良いから、毎日何か果物を用意して頂戴。
クワトロ、明日から毎日、武術の稽古を再開するわ。
ヒカリさんは、明日、市場で何が食べられるか見てきてくれるわよね?」
「「「ハイ!」」」
うう……。
返事はしたよ。
けど、材料も調味料も全然判らないのに、料理つくるっていうのは……。
リサなら手伝ってくれるかな?
でも、リサは修道女で贅沢な物とか食べてないっぽいし。
シオンの味覚センスは期待できるかも?
でも、シオンは日本を思い出させると目を回しちゃうから注意が必要だし……。
っていうか!
上級迷宮行く話はどこいった?
ユッカちゃんと、クレオさんと相談かな~。
いろいろと準備が必要な雰囲気だったし……。
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